第834話 力を食らう土地
爆風が晴れ視界が鮮明になると、既に足元からは戦闘の痕跡が消え去っていた。
破壊し倒した証である機工兵達の体は爆散し、その姿を消失させている。
その爆風に焼かれたはずの地面も、ここではシステム保護により傷一つ、焦げ痕一つない。
ところどころに、兵達のパーツの一部が寂しく転がるのみだ。
「自爆を止めるのはこれで何度目かね。よくよく縁がある」
なんとも嫌な縁もあったものである。困ったら軽々しく自爆しようとするのは止めていただきたい。
「まあ、なにはともあれ、完品ひとつ確保だね」
《おおおおおおお!》
《捕獲完了!》
《これで<解析>できちゃうな》
《やっぱりローズ様は最強!》
《お姉さまにとっては遊びでしかなかった》
《終盤の敵っぽかったのになー》
《武王祭の参加者でも厳しいぞ奴ら》
《群れで出てきたしなー》
《ファンタジー世界に銃は卑怯》
《しかも超連射のマシンガンだし!》
《魔法でなんとかするしかない》
《それをさせない包囲攻撃だぞ》
《室内だとやっかいだなぁ……》
装甲の硬さには苦労させられたが、ハルたちにとっては機工兵団は敵ではなかった。
しかしながら、この場に来たのが他のプレイヤーであれば、このように上手くはいかなかっただろう。
近づくにも最低でも壁の高さをものともしないステータスが必要となる。後衛から攻撃しようにも弾幕の防御が出来ねば話にならない。
極めつけは厄介すぎる装甲の防御力だ。あの装甲に手こずっている間に、銃弾の雨に撃たれて戦列が崩壊するだろう。
「嫌がらせの塊みたいな敵だ! こいつらが雑魚として登場するダンジョンがあったら、きっと評価は死ぬほど悪いよ」
「確かに遠慮したいねユキ」
強い敵の出るダンジョンは終盤なら避けて通れないのがRPGの宿命なれど、その強さが『面倒さ』に偏りすぎている場合そのダンジョンや時にはゲームその物の評判は低くなる。
逆に言えばプレイヤーを倒す為、苦しめる為には合理的ではあれど、そんな事をする意味はあまりない。
ゲームはプレイヤーに楽しんでもらい、気持ちよくなってもらう方が互いに利がある。
「……それを差し置いても、この面倒なロボットを送り込むイベントを起こす必要性がどこかにあった。つまりはそういうことね?」
「ルナの言う通りだね」
《そうなの? そうかも?》
《運営のひとそこまで考えてないと思う》
《いや、バランス感覚はめっちゃいいよ》
《確かに。手順を踏めばきちんと突破できるよね》
《無茶をする奴は死ぬけど。それは仕方ない》
《死が重いゲームだからな》
《あまり理不尽なことやられるとストレスだね》
《それでもやってきたってことは》
《かなりの後半イベント?》
《それかめっちゃ重要イベント》
《引き当ててしまったか……》
「どうだろうね。単に、僕専用のイベントだったからその分レベルが高かっただけ、ってことも考えられる」
「そうですねー。ハルさんは最初から、意味不明な強さの敵が出てましたからねー」
「紫水晶の、“くらーけん”ですね! では、今回ももしや……」
「うん。そうだねアイリ。その可能性は高いと思うよ。例の組織の連中だ」
「なぞの! そしき!」
なにせ自爆が大好きだ。同一犯である可能性が高い。
……いやそれは冗談だが、とはいえあながちズレた推察ともいえない。
この彼らの自爆というのは、要はエネルギーを溜めこむ性質の魔石を過負荷暴走させて起こす攻撃だ。
今回発動されたそれも、実際その方法で行われている。
更には、ハルたちにはこの機工兵を生み出せる人間について心当たりが存在するのだった。
「伯爵だろう。これを作ったのはどうせ」
ハルは心臓部を抜き取られ、<支配者>の力で魔石の魔力を掌握された機工兵を持ち上げつつ語る。
先述の通り、この自動人形、カラクリ兵などと語られる存在についてはガザニアにて既に存在が確認されている。
一部の上級職人だけが作り出せるが、身体制御や状況判断に難があり、実戦に耐える性能は得られないという話だった。
もちろん、国力を偽る為の誤情報もあるだろうが、実際のプレイヤーから見たガザニアの状況を照らし合わせても、それほど実情と乖離はないだろう。
そんなごく一握りだけの天才技師。ハルたちは、その者と面識があった。いや、因縁があった。
その者は更に、この人形の腹に収まった魔石にも精通しているのは確実だ。
「ファリアの奴か。あの男、ローズには手出ししないんじゃなかったのか?」
「まあ、道が交わったのなら仕方ないって事でしょ」
「そうだな。しかも、あんな意味深な去り方をしたんだ。続きのイベントが無いわけがない」
「まあ、身も蓋もない言い方をすればそうだねえ……」
《おじさまか!》
《イケオジ再び!?》
《復活早かったな(笑)》
《死んでねーし!》
《財産家ごとローズ様に渡しちゃったのに》
《外にも資産があったって事でしょ》
《謎の組織のトップ? 幹部? だしな》
《家を取られたけど会社は無事ってか》
ハルがカゲツの国で<天人>を得るきっかけとなった『ファリア伯爵』。彼はカゲツの塔の最上層に身を隠し、そこを拠点に紫水晶の製造を行っていた。
今は配下となったソロモンも彼と共に暗躍し、世界に紫水晶をバラ撒いていたのだ。
「さてソロモンくん。今回の件、何か心当たりはあるかい?」
「無いな。いや、本当だ。隠してはいない。奴は確かに<人形遣い>ではあるが、オレの前で量産していたことはなかった」
「ふむ? 確かに塔の自宅にも、そんな設備は無かったね」
「オレが目にしたのはあの世話係の人形のみだ。だから、ただの趣味だと思ったさ」
「メイド人形か。良い趣味をしている」
ハルもメイドさんの皆は大好きなので、気持ちは分かる。実によく分かる。
いや、そういうことではない。
「……問題は目的だ。伯爵が僕らと敵対する気がないのは嘘ではなさそうだった。なら、用があるのはこの遺跡ということだが」
問題は、何を目的としているのか。この、今のところ『ただの観光名所』でしかない遺跡へ来た目的が不明だ。
姿を消して侵入してきたかと思えば、あちらから先制攻撃を行ってきた。戦闘そのものが目的ならば分かるのだが、さて?
「ひとまず、この鹵獲した機工兵を調べてみるか。そこから、何か分かるかも知れない」
「よぉ、そんならよ。船に戻らねぇか、一旦よ? ここでのんびりしていたら、二度目の襲撃を受けかねんぞ」
「ああ、確かにね。僕としては、それも良いんだけど」
「良かねーだろ……」
サンプルが多いほど、予測の精度も上がりやすい。
とはいえ、飛空艇に置いてきたシルフィードたちが心配なのも確かだ。襲撃が、こちら側だけとは限らない。
ハルたちは遺跡を後にし、探索を切り上げ船へと戻る。
全員が外へと出ると、遺跡は再び瓦礫に埋もれるようにして荒れた山肌へと沈んでいった。
もう既に、ここに寺院があったようにはまるで見えなくなっている。そんな封印の地から、飛空艇に乗り再び空へと一行は飛び立つ。
その封印内部へと、こっそりと使い魔の小鳥を残して来るのは忘れないハルなのだった。
*
「おぉ、無事だったかクソチビ。こっちは問題なかったか?」
「……シルフィードが船を上空へと退避させるよう迅速に指示したからな。……今考えれば、襲撃されて貴様の責任問題にしてやればよかったか」
「やめろっ! マジ冗談じゃ済まんだろそれは!」
「……テレサも居るからな。まあ私もそんな事は出来ない。……貴様こそ、問題なかったのか?」
「だっはっは! 当然だろう。心配には及ばん、オレを誰だと、」
「……まあ、当然か。……ローズが共に居るんだ。ガルマなど居ても居なくても変わらんか」
「そうだよ畜生!!」
《かわいい(笑)》
《心配されたと思ったらこれである》
《心配キャンセル》
《でも本心では実は心配してたり》
《お互い素直になれなかったり》
《ローズ様を信頼してるの尊い》
《シルフィーさんやっぱ優秀だね》
《いくらあのロボットでも空は無理だ》
《飛んで逃げてなければ危なかった》
《来なさそうだとは思うけどね》
《万一来てたら、透明を見破れる人いなかった》
「お帰りなさい、クラマス。ご無事でなによりです」
「シルフィー、君もね。良い判断だったよ、上空に退避しているというのは」
「光栄です。この場を、クラマスにお任せいただきましたから」
クランの幹部となったシルフィードが、ハルたちの襲撃を見て船を飛ばし避難を指揮してくれていた。いい判断だ。
彼女やミナミも残っているとはいえ、船を守りながらの戦いは少々荷が重いだろう。
しかし上空に避難していれば、あの機工兵の機体性能では船体に到達できない。あとはハルたちを待てばいいだけである。
「……それで、これが先ほどの」
「おおっ! ロボットだロボット! すげーっ! ぶっちゃけゲーム違いなのにそれを感じさせないファンタジー感! そっそるぅ~」
「男子かミナミ……、メカフィギュア好きの……」
「男子だよっ! 決まってんだろぉローズちゃん?」
なにやらロマンの匂いを嗅ぎつけたのか、『プラモデル好き男子代表』とでもいうように、ミナミも取り出した機工兵のボディに詰めてきた。
ハルも彼の気持ちはよく分かるので、無理に止めたりは特にしない。
ミントの国のテレサや、コスモスの国のシャールも、興味深いという表情を隠すことなくその周囲へと集まってきた。
「へぇ、これがそうなんですね? 噂には聞いたことがありましたが、私も実物を見るのは初めてです」
「……私は以前に一度見たことがある。……しかし、その型よりも明らかに高性能のようだな」
国の重鎮として、ガザニアの誇る高等技術をその目で確認しておきたいということだろう。
既にただの人形なので、ハルも彼女らにしばし好きに触らせておく。
「それでー? これを調べたら、敵の目的が分かるんですかー?」
「どうかな。保証は出来ないよカナリーちゃん。現代のロボット兵士を調べるのとは訳が違うからね」
仮にこれが、現代日本のロボット警備兵だとしたら、鹵獲したその身は重要情報の塊だ。
まあ、現代ではそもそも、機械駆動のロボットなど殆ど配備されていないという実情は置いておくとする。
完全自動制御の場合、その制御プログラムを解析することで、その身に課せられた目的の全てを把握することが出来る。
遠隔操縦の場合も、通信記録を解析することで、敵の行動の推移やパターンが明らかとなる。
そこから相手が目指した物、相手の性格、理念、そういったものを洞察し、計画そのものを詳らかに出来るのだ。
「……でも、こっちの場合は<解析>するとは言っても出てくるのは、材料とかそういうのだしねえ」
「このぶち切れた心臓部を<解析>してもー、分かるのは中のデータじゃなくて『作りかた』になっちゃいそうですねー」
「ままならないねカナリーちゃん」
「ですねー?」
それでも、機体に搭載された兵装が詳細に分かれば、目的が見えてくることもあるかも知れない。
例えば遺跡で何か装置を動かす為の、専用の工具を積んでいるだったり。そういった何かが。
《あのー、ハル様? ちょーっといいすか?》
《エメ。そういえば、戦闘中に何か気にしてたね》
《うぃっす! そこに関して、なんとなく答え出た感じするんで、お知らせするっす!》
《よろしい》
ハルが機体を分解し<解析>をかけようと思っていると、エメからまた報告が入る。
どうやら、先ほどの戦闘中にカナリーの<攻撃魔法>を止めさせた時の考えについて語ってくれるようだ。
《エメは、カナリーの魔法を引きとめてたね。あの時は、何を考えてたんだい?》
《はいハル様! ハル様もそうかと思いますが、わたしもあの遺跡でずっと魔力の流れを目で追ってたっす。主に潜伏した敵兵の捜索と、遺跡の機能の解明の為ですね。そこで、少し気になる感覚があったっす!》
《なるほど。僕の方はまだまだ慣れなくてね。細かいところまでは分からないよ》
《いずれハル様ならよゆーっすよ! まあ、その前にこのゲーム終わるかも知れないっすけど。にひっ。あっ、そんなことは今いいすね。気になったのは遺跡の方っすよ。なんか微妙に、あそこ魔力吸ってるんすよ》
《ふむ?》
敵兵について何か分かったのかと思いきや、エメの報告は意外にも遺跡その物の事であったようだ。
あの遺跡が、魔力を吸っている。それは、例のよく自爆する魔石のようにだろうか?
だから、魔力を余計に与えないように、カナリーの大規模な魔法発動をキャンセルしたと。
《一回戦で王子の相手に、<冥王陣>とかいうスキル使う方がいらっしゃったじゃないすか。力の流れが、あれに酷似してるっす。むしろ、規模はあのスキルよりもずっと広範囲で強力っすね。自爆のエネルギーも、まんまと吸われちゃったっす》
《……なるほど。そう考えると、機工兵の全てが合理的か》
堅固すぎる装甲で、敵の高威力な攻撃法を引き出し、最後は自爆して周囲に魔力をばら撒いて散る。
長引く戦闘とその最期がそのまま、全てあの遺跡への『餌』となるのだ。
つまりは、あの遺跡へとエネルギーを供給すれば何かが起こる。
ファリア伯爵は、恐らくはその結果がなんであるのか知ってると考えられた。
※誤字修正を行いました。(2023/4/21)




