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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部5章 リコリス編

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第822話 現実世界に及ぶ懸念

《データ採取です。がんばるです! 白銀の活躍、見てるですマスター!》

《視覚情報を、マスターにリンクします。マスター経由で、セフィさんにお送りください》

《……にゃ!》


 姿を隠して付いてきている、白銀、空木うつぎ、メタの三人組。ちいさな彼女らの少し低い視点からの映像が、ハルにリンクし送られてくる。

 ハルはそれを自分の視界も合わせて、セフィの元に提出して分かりやすい形に変換してもらう。


 今回、ミナミの策略から始まったこのリコリスからの招待を、ハルが受け入れた理由の一つがこれである。

 大勢の、多種多様なプレイヤー達が一堂に会して戦う様、それを現地で直に目にしてみたかった。


 それはアイリスに居ながらの映像越しでは決して叶わぬこと。

 臨場感の話ではない。放送を経由してしまうと、この場に流れる魔力情報は切除オミットされて、単なる光学情報になってしまうからだった。


《……大漁、大漁、にゃ!》

《そうですねメタちゃん。なんだか普段よりデータの流れも、たかぶって激しい気がします。土地の影響でしょうか?》

《結論を急ぐのはよくねーです空木。白銀たちは黙って、データ取りに専念すりゃいーです》

《……思考停止も、よくないにゃ~》


 まだまだこの世界の魔力視が未熟なハルには判断が付かないが、息をするように魔力データの流れを目にしている彼女らが言うにはその流れは普段よりも激しいらしい。

 それは、大規模な大会における高揚感こうようかんからだろうか。それとも、リコリスの治めるこの国特有の何かがあるのだろうか。


《確か、セフィが言うにはリコリスの担当はスキルらしいね。そのせいだろうか?》

《かも知れねーです!》

《お姉ちゃん、言ったそばから自分で結論を急いでます……》

《……調子、いいにゃー》

《マ、マスターが言うんだからきっとそれが正しいです!》

《こーら白銀。思考停止はだめってメタちゃんが言っただろ》

《……にゃー》


 完全に<隠密>で他者から気配を隠したまま、わたわた、と慌てる小さな姿がかわいらしい。

 多少は魔力視にも慣れてきたハルには、その様子がこの場の魔力の乱れとしてなんとなく感じられるのだった。


《……しかし、このゲームでは魔力視のたぐいはスキルとして発現しないんだね。“向こう”ではけっこうすぐに、<精霊眼>として出てきたものだけど》

《きっと、実装されてないです! あるなら既に、白銀たちに出てるはずです!》

《……だにゃー》

《何でもありだったあちらと違い、反則防止の意識が高いのでしょう》


 確かに、スキルに関してはかなり運営による手が入れられているとハルも感じる。

 カナリーたちの作ったゲームでは、もっと頻繁にゲームのバランスを崩すようなスキルが生まれていた。その派手さが売りでもあった。

 対してこちらは競技性を売り出しているので、そうしたスキル格差をあまり生まないような調整がされているのだろう。


《あとは、違う所といえば『超能力系』だね》

《……にゃ!》

《そうですねマスター。<飛行>が隠しスキルであることを筆頭に、あちらのレアスキルはほぼ未実装となっています》

《超の付く課金ゲーなのに、おかしな話です!》

《……にゃう!》


 メタも元気いっぱいに肯定しているように、このゲームでは<透視>、<念動>といった超能力をイメージするスキルが未実装だ。これは、何となく不思議な話でもあった。


 別にゲームが違うのだから、スキルが違うことに何の不思議もないと片付けることも可能だが、ここで思い浮かぶのは超能力スキルの入手法。

 あちらでは基本的に、『スキル課金』で大金を払っての入手が主な方法となっていた。

 なかなか当たらない低出現枠に設定されているから、レアスキル。初期から所持している者は、問答無用でお金持ち扱いされたものだ。懐かしい話である。


 何でもかんでも課金を要求し、お金で解決させようとしてくるこのゲーム。

 そんなこちら側に唯一無いのが、その『スキル課金』だ。あちらは逆に、そこ以外にほとんど課金する場所が無い。

 その、取れる所で取って来ない不気味さは、確かに気になるといえば気になるところだ。


《これはやはり、スキルくらいは平等感を演出しようという企みに違いないです!》

《それもあると思いますけどー。単純にー、未実装なんでしょうねー》

《わ、カナリーです! びっくりしたです!》


 ちびっ子三人衆との会話の中に、唐突にカナリーが割り込んできた。

 外部に公開していないはずの通信なので慌てて白銀がセキュリティをチェックし始めるが、やがて『カナリーなら仕方ない』とばかりに考えるのをやめたようだ。

 思い切りの良さが、白銀の長所であり短所。


《確か、超能力系スキルは外注だったんだよねカナリーちゃん》

《はいー。あれは『使用料』が発生するのでー》

《だからレアスキルで高いです! 大人の事情です、ひでー話です》

《ですよー?》

《……メタと同じ邪神、にゃ!》


 カナリーたちゲームを運営する七色の神様の他にも、あちらには何人かの運営協力者が居た。

 その中でもゲームのプレイ可能範囲を定義する魔力の外に居る神様は、『邪神』と呼ばれ区別されている。

 なお、単にゲーム上の呼び名の問題であり、別に邪悪でも何でもない。


《なるほど。こちらのゲームでは、外からの協力者は極力排除する方針なので、そうした外部制作のスキルは実装できなかったんですね》

《ですよー空木ちゃんー。『スキルシステム』そのものは神界ネットに無料配布されてますんで良かったんですけどねー》

《太っ腹なことだね》

《研究した魔法をー、片っ端から公開しまくったウィストのおかげかも知れませんねー?》


 紫の色を冠する、魔法の国『ふじ』の神様ウィスト。彼は魔法の研究が生きがいであり、研究さえ出来ればあとはどうでも良いという筋金入りだ。

 そんな彼が公開し続けた魔法の数々は外部の神様にとっても非常に役立つものであり、その見返りとしてカナリーたちも多くのメリットを得たようである。

 報酬として、ウィストはあの荒廃した星においても周囲を気にすることなく研究できる環境を提供されている。


《……そうなると、スキルに関しては、もうそれなりに君たちの間で研究は進んでるってことになるのかな?》

《まあー、そうなりますねー?》

《それは困ったです! つまり、リコリスはただスキルの制御を担当しているだけで、こいつの目的はスキル関係ない可能性が出てきたです!》

《決めつけるのは早いですよー白銀ちゃんー》

《そうですね。システムが完成していたとはいえ、それを現行人類に当てはめて実用したのはここ最近のことですから》

《……なんか、知ってるにゃー?》

《はい、メタちゃん。空木の製作者も、スキルに関しては隠れて実験しやがってました》

《しやがってたですか!》


 ……白銀に釣られ空木もだんだんお口が悪くなっていくのは今は不問としておくとして、彼女が言っているこれはエメのことだ。


 かつて、エメが『瑠璃るり』の国に潜み日本に対する干渉を繰り返していたとき。彼女の計画のうちの一つには超能力に関するものがあった。

 超能力といっても、スキルのことではない。現実の、日本人の体において発現する本物の力のこと。


《エメのおいたは僕らが阻止したけど、スキルシステムを通じて『そういうこと』も出来るんだよね》

《……危ない、にゃー》

《そうだねメタちゃん。リコリスの目的によっては、そうした危険な計画を再び企ててるってこともあり得るね》

《断固阻止するです!》

《おねーちゃん、冷静になりましょう。まだそうと決まった訳ではありません。それを見極めるのが、空木たちのお仕事です》

《その通りです! 流石は自慢の妹です!》


 最初はこうした白銀からの妹扱いに抵抗感を示していた空木だが、最近はもう、まんざらでもないようだ。

 直接顔が見えない今でも、彼女がはにかんで照れている様子がありありと想像できる。


 そう、ハルが懸念しているのはその部分だった。かつてのエメのように、リコリスが日本人に超能力を発現させる計画を進めていたら、非常に大きな混乱を引き起こす結果となりかねない。

 リコリスの担当がスキルと聞いて、ハルの頭によぎったのはそれだった。アイリスでの予定を差し置いて、今回のリコリス行きを決めたのもそれが大きい。


《まあ、ジェードが許可している以上そんな大きな混乱が起こる内容を通しはしないと思うけど……》

《わかりませんよー? なんたってアイツはー、ミントの望みを通しやがった張本人ですからねー》

《そうなんだよねえ……》


 神様たちの感覚は、人間とは微妙にズレている。常識的に考えてダメだろうとハルたちが思うことも、彼らの常識では問題にならなかったり。

 ジェードのことは信頼しているが、そんな懸念もあった。


《奥様ちゃんは何て言ってるんですー? 最初に日本での違和感を見つけたのは、奥様ちゃんでしょー?》

《ああ、今のところ問題が起こってる様子はないね。最初の数名以外に、超能力に目覚めた人は今のところ居なそうだ》

《連絡取れたんですかー?》

《いや、直接は会えてない。上がって来るデータを僕が勝手に読んでるだけ》

《んー、奥様ちゃんも相変わらず怪しいですねー》


 かつてのエメの計画をいち早く察知し、彼女の潜伏場所を掴むきっかけとなったのもルナの母からの情報提供だった。

 その情報網には、今のところその時のような怪しい兆候ちょうこうは引っかかって来てはいない。


 ハルとカナリーも、そのエーテルネットにおける万能性を駆使して目を光らせているが、今のところ世はべて事もなし。

 最初の犠牲者、いや幸運な覚醒者も、騒ぎを起こさずひっそりと生活している。


《いずれにせよ、この大会でリコリスの尻尾を掴みたい。みんな、データによく目を光らせておくように》

《わかったです! マスターのお役に立つです!》

《空木も、がんばります》

《……にゃん!》

《私はセフィさんから送られてきたデータと、対象プレイヤーのリアルを紐づけて反応をチェックしておきますねー》

《頼んだね、カナリーちゃん》


 リコリスがプレイヤーの体そのものに干渉しようとしていれば、そこでカナリーの監視に引っかかるはずだ。

 杞憂きゆうであれば完全な無駄骨になるが、それならそれでいい。頑張ってくれたカナリーには後で、おやつを沢山プレゼントしよう。


 そうしてハルも、怪しいデータを決して見逃さぬよう、更に魔力視に意識を集中するのであった。

※誤字修正を行いました。(2023/5/30)

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