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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部5章 リコリス編

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第819話 自画自賛と、自虐自罰

「おお。もう第一試合終わっちまった。ここが最速だったんじゃねぇ?」


 ソフィーの活躍を映した大画面の操作をするミナミが、実に感心したといった感じで声を上げる。

 画面の中のソフィーは飛び跳ねて体全体で勝利の喜びを表現し、その様子からも現地ではもう試合が終了している事がありありとうかがえる。


 色々と他の有名プレイヤーの放送をチェックしているミナミだったが、どうやらやはり、ソフィーの勝利が最速での一回戦突破であったようだ。


「フッ、なかなかやるな、『ハル』とやら。この勝利にはソフィーの実力よりも、そいつの指示が大きく影響していたんじゃないか?」

「ほぉほぉ。それじゃあ~ソロモンくんは、『ハル』さんが居なければソフィーさんには実力では負けてないって言いたいのかなぁ~?」

「……今はステータスを失った。どう足掻あがいても勝てん」

「へえぇ~。それじゃあ、ローズちゃんと戦う前の段階だったらぁ~?」

「チッ……、分かったよ、正面からでは、オレでもキツかっただろうな……」

「おっ、さすがにそこは認めんだねぇ」


 彼自身も相当な剣術の腕前を有しているソロモンだ。ソフィーの達人級の剣技は、そのプライドの高い彼であっても認めざるを得ないといったところか。

 ハル目線で第三者として見ても、かつてのソロモンでもソフィーに勝つ光景ビジョンはなかなか想定しづらい。


「……ローズ、もしお前が協力してくれれば、オレはソフィーに勝てる道があるか?」

「んー……、どうかなぁ……、なんだかからめ手も、通用しなそうだし……」

「後ろに『ハル』さんが付いてるからなぁ。コイツの詐欺さぎにも。乗ってはくれなそーだ」

「『剣』と『頭脳』か。厄介なコンビだ」

「…………」


 見る者が見れば、先ほどの戦いにおけるハルのサポートの重要性は伝わってしまう。

 そんな“あちらのハル”が評価される様子を、こちらのハルこと『ローズ』は複雑な内心をどうにか表に出さないように必死に表情を取りつくろっていた。


 もしこれがハルでなければ、表情筋がぴくぴくと歪み、苦々しい笑顔を浮かべることになっていただろう。

 ハルも内心ではそんな顔だ。そんな表情をしている自分の顔が、ありありと脳裏のうりに思い描ける。


「……そうね? 流石は『ハルさん』だわ? 敵情報の分析能力、それを利用した心理誘導は驚愕に値するわ?」

「だねー。流石『ハル君』! 誰がどのパーティか、事前に頭に入ってたんだね!」

「ですねー。流石ですねー『ハルさん』。例え放送を切っていようと、その情報を握られている時点で無意味ですねー」

「そっすね! 『ハル様』ならそこから個々の心理分析など余裕でしょう! あの方が見えない位置の敵の隠れ場所や攻撃行動を読んでいたのも、そうやって事前にプロファイリングされてたからに違いないっす!」

「『ハルさん』すごいですー!」

「…………そう、だね。流石は『ハルさん』だ」


 女の子たちが面白がっている。非常に、非常に面白がっている。

 自分だけ意地を張って『ハルさん』を否定するのも『ローズお嬢様』としては狭量きょうりょうなので、ハルは再び自分で自分を褒めることへと追い込まれた。


 自画自賛じがじさんの恥ずかしさに顔から火が出そうなハルを、彼女たちは聖母の笑みで愛でてくる。

 そんな反応が更に輪をかけて、ハルの羞恥しゅうちを加速するのであった。


 ハルはとりあえず、その中のエメに抗議の視線と、個別通話を送ることにした。


《……エメ。あとでおしおきね?》

《ひーんっ! なんでっすかーハル様ー!! おしおきならカナリーにやって欲しいっす! ほら、あの子、求めてますし!》

《君が一番調子に乗ってたからだ! 僕の事前プロファイリングは、君から提供されたデータが使われてるだろ!》

《うぐぅっ! で、でもぉ……、わたし、嘘をつく訳にもいかないですしぃ。ノリに合わせるには事実ベースで語るしかなくってぇ……》

《合わせなくっていいだろ、ノリに……》


 仲間たちと出来るだけ同調したい、寂しがりやのエメだ。

 そんな彼女の、上目遣いで不安げに見つめてくるような表情がまた脳裏に幻視されるハルである。


 それに免じて、今回は許してやろうという気になってしまった。甘やかしすぎだろうか?


《……まあ、これ以上は責めるまい。今回の主犯は、どう見てもルナだし》

《そうっす! ルナ様いじめっこっす! いやこれはわたしが思うに、逆にハル様にいじめて欲しいっていうメッセージっすよ! 構って欲しいっていうサインです! だからおしおきは、ルナ様にしてあげるべきっすね!》

《そうかもね》

《ほっ……》

《まあ、それはそれとして、エメにもおしおきするけどね?》

《そんなぁーっ!!》


 ……エメもエメで、わざとやっているように感じるのはハルの気のせいだろうか?

 過去の罪悪感から自罰的な傾向のあるエメだが、最近はそれ以外にも『罰』を求める傾向が増しているように思う。


 そういった変な癖が『趣味』として出てこないか若干の危惧きぐも抱きつつ、ハルはどうにかこの話題から離れる方法はないかと考えを巡らせるのだった。





「……そういえばソロモン。売れ行きは順調かい?」

「ああ、中々だ。既に第一試合が終わり、『収益』がオレに入ってきた」

「よろしい。後で『上納金』を僕へ支払うように」

「チッ……、いい商売をしている……」

「君もやってることは大概だけどね」


 なんとか話題を逸らそうと、ハルは今はクランメンバーとなっているソロモンへと話を投げることとした。

 彼は<契約書>を使いこの大会でとある商売をしたいとハルへ持ち掛けてきており、彼の監督責任者、言い方を悪くすれば『飼い主』であるハルはそれを許可したのだった。

 その商売の結果が、ソフィーの勝利によって出たようである。


「Dブロック第九地区の『賭け』は成立だ。とはいえここは大本命の一つだからな。対してオレの儲けにはならない」


 そう、その商売は当然『賭博』だ。この武術大会においては当然のように勝利者予測の賭博が公式に開催されており、皆そこにこぞってゴールドを賭けている。

 その話を聞いたソロモンが、<契約書>を用いて自分も胴元どうもととして参加したいと、ハルに向けて打診してきた。

 彼は今、ハルの許可なくしては自由に自分のスキルも使えない。


「相変わらず、ソロモンくんの<契約書>は手数料ビジネスに向いてるよね」

ハル(ローズ)? あまり賭け事はよくないわ? 賭ける方でも、胴元であってもよ?」

「ごめんねルナ(ボタン)。どんなものか試しに、やってみたくてね」

「まあ、経験は必要でしょうけれど……」

「いけないのですか、ルナ(ボタン)さん? 絶対に利益の出る、いい商売かと思われますが」

「構造に問題があるのよアイリ(サクラ)ちゃん。確かに自分は一切の金銭的リスクは負わないけれど、それによって別のリスクが生まれるの」

「そうなのですね!」


 通常の経営では、会社なり組織のトップはその活動における全ての責任を負う立場にある。

 その責任の重さがあることによって、自身は最大の利益を享受きょうじゅすることもまた許されるのだ。


 責任と言うと何を指しているか曖昧あいまいで分かりにくいが、要は利益を得る順番の話だ。

 全ての経費、必要な支払いが済んだ後で、初めてトップは利益に手を付けることが許される。報酬の高さは、そのリスクの見返り。

 リスクの無い商売はその健全性がなく、健全性のない所には別の見えないリスクが発生する恐怖があると。


 そんな議論をルナはアイリと交わしているが、とりあえずここでは割愛かつあいするとするハル。

 今はもう商売の国カゲツではない。視聴者もあまり求めていないだろう。


「まあ、要はソロモンくんの商売はどうあがいても手数料ビジネス。他者からのヘイトを買うってことさ」

「チッ……、今回はオレも、リスクを取っている……」

「そーなんか? 胴元の利益って参加費だろ? 100%(ひゃくぱー)儲かるんじゃね?」

「甘いなミナミ。特に今回は、内容を詰める時間が無かった。不測の事態があれば利益が出ないことがあり得る」

「不測の事態だぁ?」


 勝者を予測する単純な賭けだ。そんなことあり得ないとミナミはいぶかしむ。

 しかし、決してないとは言い切れないのが実際のところ。例えば『勝者なし』で終わった場合は賭けは無効となり全額払い戻しになる。


「ところでさハル(ローズ)ちゃん。わざわざ公式で賭けやってるのに別で賭けやるってことは」

「うん。賭けるのはゴールドじゃなくってステータスだね」

「あはは。やっぱりまたそれなんだ」


 ユキが『懲りないな』とばかりに乾いた笑いを漏らしてくる。

 そう、今回の賭けに使われるチップは当然また『ステータス』。そして何かあった時の運営費を保証するのは、『親』であるハルのステータスだった。


 そんな一方的にリスクを負った状態であるハルだ。ここはひとつ、それに見合うリターンを期待したいところであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。「sて」→「して」。またえげつないミス申し訳ないです。(2023/4/5)

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