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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部5章 リコリス編

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第810話 続々集結する有力者たち

「それで、君も来るんだ、ミナミ」

「うぃーっす。当然とぉぜんだろ? <貴族>用の重要イベントだ。むしろ、俺が手配した!」

「またミナミの差し金か……」

「感謝しろよぉ? 安心しなって、今回は海外産のイベントだ。俺はなーんも企んでねーよ」

「どうだか」


 ハルがリコリス行きの準備を整えていると、そこに唐突に南観ミナミが尋ねてきた。

 どうやら、彼もリコリスからの招待メンバーに入っているらしい。<貴族>としての人脈コネを活かして動き回り、今回のイベントチケットを勝ち取ったらしい。

 彼も、この見栄えのするイベントの匂いに敏感なところは変わっていない。


「そんなに出たいなら、選手として出ればいいのに」

「俺が出たら、悪役ヒールとして会場をブーイングの嵐で染めちまいそうだしなぁ……」

「汚い戦い大好きだもんねミナミ」

「褒めるな。照れる」


 彼のユニークスキルである放送の記録水晶は、NPCへの証拠品としてだけでなく、プレイヤーへの攻撃にも使える。

 その効力は、『相手の失敗した録画を見せつけると弱体効果が掛かる』という凶悪なもの。

 弱体その物の効き目はもちろん、精神的なダメージも凶悪だ。正々堂々と戦うことが好きなリコリス民にとっては、ブーイング待ったなし。


「そんで、コイツが例の」

「……ソロモンだ」

「よっろしくぅ! 色男ぉ!」

「チッ……、ソリが合わん奴だ……」


 そんなミナミが、初対面となるソロモンを見つけ何時ものように軽薄に挨拶を交わす。

 二人とも人気の男性プレイヤーだが、確かに性質は真逆。ハル同様に隙あらば生放送を行っているミナミと、一切放送をしないソロモン。

 二人はミナミが一方的に絡む形で、揃ってハルの飛空艇に乗り込んでいった。ハルも、一歩遅れてそれに続く。


「そもそも、何故罪人のオレまで連れて行く。リメルダともども、王宮に引き渡したりしないのか?」

「えっ、ローズちゃん何この子。囚われ願望でもあるの……?」

「違う! こいつの監視下を離れれば、脱出の機会もあるというだけだ!」

「言っちゃうんだよねぇ。ついねぇ」

「チッ……」

「生舌打ち、頂きましたぁ!」


 二人は相性的にはソロモンが押されぎみ、ミナミ有利か。

 両者とも裏工作と暗躍を得意とするプレイヤーだが、対人コミュニケーションの分野ではミナミに一日いちじつちょうがあるらしい。


《二人並ぶと見栄えも二倍》

《タイプの違う男子二人いいね》

《そこにローズ様が加わると?》

《むしろ男がかすむ》

《おてんばであられるからな》

《ここに魔王陛下もひとつまみ》

《インスタント世界の危機》

《おてんば力が限界突破》

《おっぱいのついたイケメン》

《男子ー、しっかりー》

《もっと男子力高めていこー》


「……チッ、無茶を言う。オレはステータスを全て失ってるんだ。何の戦力にもならん」

「そういえば魔王ちゃんも大会には出るんだろうなきっと。男は肩身の狭い大会になりそーだねぇ。ローズちゃんが出ない分、まだマシか」

「フッ……、こいつの出ない大会で最強を名乗るなど、笑わせるといったところか……」

「俺たちその最強に挑んで、二人とも返り討ちにあった負け組だけどなー」

「…………」


 特にソロモンなどもう再起不能レベルだ。ここから、どう巻き返していく計画を立てるつもりなのか。少し楽しみなハルだった。


「しかし、確かに注目選手には女の子が多いね。ケイオスの奴が本当に出るかはともかく」

「おっ、ローズちゃんも詳しいの? 誰に賭ける?」

「賭けないが……」


 ただ、身内に少々参加予定の者が居るだけである。その他の事情は、あまり積極的に収集はしていない。

 なのでハルも、どんな強豪が参加してくるのか結構楽しみにしているのだった。


「まず、なんといってもソフィーさんだね。リコリス式の真っ向勝負は、彼女の得意とするところだ」

「まあ、大本命だな」

「俺らの苦手なタイプだよなーソロモン。罠も陰謀も筋力で食い破って来る相手は、相性が悪い」

「肩を組んでくるな……! オレなら上手くやってみせる……」


 ハルがこの『ローズ』ではなく、『ハル』そのものとして支援している女の子、ソフィー。

 彼女はリコリスを中心に活動しており、この大会も実に楽しみにしていた。純粋な戦闘技術においては、ケイオスをもしのぐ最有力候補。

 今日も元気に、大会に向けてのモンスター狩りに明け暮れ、その牙を研いでいた。


「他には?」

「なんでも、ミントの<召喚士>、コマチさんも出るらしいよ。というか実は手続きは僕がした」

「あっ、今世界中から、『余計なことしやがって』の声が聞こえてきた聞こえてきたぁ!」

「例のお前が接触した相手か。しかし、奴らはペットとして愛でているだけではないのか?」

「あまり侮らない方が良い。ゲームにかける情熱という意味では、そこらの廃プレイヤーを軽く凌駕りょうがするよ」

「ひえ~」


 愛情をもって育てた<召喚魔法>は、強大な力となって主人に報いる。その力は、大会でも存分に発揮されることだろう。

 まあ、本人は力が示したいというよりは、賞品で何か欲しい物があるだけらしいのだが。


「他にも、ウチからはワラビさんと、彼女に誘われてリメルダさんも出るみたいだね」

「リメルダって誰だっけ?」

「オレの元同僚。ある意味で、現、同僚でもある女だ。よくそんな奴を出す……」

「つーと?」

「組織の諜報員ちょうほういん。要は罪人だ、囚われのな」

「嫌な同僚ぅ!」

「ワラビさんのトレーニング仲間でね。どうしてもって頼まれた」

「哀れな……」


 トレーニング少女のワラビ。彼女はよく、ハルの虜囚りょしゅうとなったリメルダの相手をしてくれている。

 囚われの身は退屈だろうと、二人で仲良く体を動かしている。運動は気晴らしになるだろう。


 ……まあ、問題点を挙げるとしたら、その『トレーニング』は常人には過酷すぎるということだろうか。

 罪人の動きを封じる重い拘束具。それを身に着けたままの激しい訓練は、もはや拷問であった。

 捕虜虐待では決してない。あくまで、トレーニング。トレーニングなのである。


「……拘束具に、ワラビさんが可能性を見出しちゃったんだよね」

「まあ、リメルダも命があるだけマシだろう……」

「そのうち拘束具を引きちぎったりしてな! ははっ!」

「笑えないよミナミ……」


 そうなったらハルの監督責任になるのだろうか?

 リメルダもソロモンも、王城への投獄ではなく、『そのままハルが拘束しておくように』、という国の判断となった。

 一度、リメルダには簡単に脱獄だつごくを許している。またその責を負いたくはないということだろう。


「まあ、リメルダさんは良い子だし、罪人として引き渡すのは忍びなかったから良いんだけどね」

「お前の前では猫を被ってるだけだ。ローズの力に魅せられていたようだからな」

「コイツは? ローズちゃんコイツは?」

「ソロモンくんは一回地下牢で反省した方がいいんじゃない?」

「チッ……、死んでもごめんだ……」


 そうして立場の異なる三者は表面上は和気あいあいと、これから招かれる大会の注目選手の情報を交換して行くのであった。





「とはいえ別に、男も注目選手が居ないわけじゃないぜ? 堅実に強い奴は普通に多い」

「堅実に普通だから、目立たないんだろう……」

「お前が出てればなー。注目選手として話もちきりだったろーに」

「ソロモンくんは、僕にステータス奪われたもんね」

「……それ以前に、闇に潜み暗躍するオレがそんな大会にエントリーする訳がないだろう」


 確かにソロモンの実力と頭脳であれば、武術大会に参加しても十分に好成績を狙えるだろう。

 しかし、そんな光の当たる場所は自分には無縁とばかりに、大会には一切の興味がなさそうなソロモンだった。

 参加できずに残念、といった悔しさも特に見られない。


「……いや、そうだな。なあローズ? もしこの大会に参加したいと言ったら、その間だけでもオレのステータスを戻してはくれるか?」

「えっ、くれる訳ないじゃん。立場わきまえなよソロモン」

「ぷははっ! なんだ今のおねだりボイスは! 俺とローズちゃんの放送に、コンテンツ提供してくれたのか?」

「チッ……! やはり言わなければよかった……!」

「まあ、そういう君の脱出の為の取っ掛かりを、気軽に許す僕じゃあないよソロモンくん」


 まあ、参加を許した際に彼がどう暗躍するかの興味はあるが、そんな遊び心で周囲を危険にさらすことは出来ない。監督責任のあるハルだ。


 彼の企みを潰しつつ、かつ彼の<契約書>を有効に使う。ハルのバランス感覚の見せ所であった。


「まあ、ソロモンではないけどね。うちのクランからも、大会への参加者は出る。アベルがそうだ」

「あー。例の王子様。強かったよなぁ」

「お前は身を持って知っているもんなミナミ。いい切られっぷりだった」

「るっせ! コソコソ俺の配信見てんじゃねーぞ陰険だな!」

「どの口が言う。それに、オレが見ていたのはローズの放送だ。自意識過剰な勘違いをするなよ」

「こいつぅ……」


《仲いいね(笑)》

《アベルさんも揃ってトリオ組んで欲しい》

《アイドルユニットだ》

《アイ、ドル……? ミナミが……?》

《ソロモンきゅん、アベル様はいいけど……》

《ミナミじゃなぁ》

《いつもミナミに厳しいなお前ら(笑)》

《実際にアイドル活動最もやってんのはミナミっていうね》

《恐ろしいことにね》

《これで売れてるっていうね》


 そのアベルであるが、実は参加は自らの意思というよりも、彼の姉君あねぎみからの要請であった。


 アベルの姉、つまりは異世界の国『瑠璃るり』の王女様であるが、彼女は迷わず所属国をリコリスでスタートしたようだ。

 リコリスは戦士の国、いわば瑠璃と同じ性質の国だ。そこを選ばなかった弟アベルを嘆いているとかなんとか。

 ひいては今回の大会において、姉妹対決で『教育』したいのだとか。アベルは実に胃の痛そうな顔をしていた。


「あっ、そうだ。王子様といやさ、コラボキャラだったよな。別ゲーの」

「……そうだね。扱いとしてはプレイヤーだけど、アベルは別のゲームのNPCがコラボ参加してるって形だ」

「興味深いよな。しかし、それがどうかしたかミナミ?」

「いやね、注目選手にもう一人、コラボキャラが居たなって思って」

「アベルの姉君かな?」

「ああ違う違う。今は男選手の話だろぉローズちゃん? 居るじゃん、『自称勇者』の有力プレイヤーが」

「クライス皇帝のほうか」

「そそっ」


 ヴァーミリオンの皇帝クライスも、こちらのゲームにゲストとしてコラボ参加中だ。

 彼もアベル同様、こちらでの演技を満喫しており、元の<王>様としての立場をかなぐり捨てて『勇者』としての旅路を楽しんでいる。


 強きをくじき弱きを助ける。お手本のような善人プレイに、惹きつけられるファンも多い。

 ハルとはこれまで接点がなかったが、クライスともリコリスで関りが持てるようだった。


 そんな、ハルの関係者も大集合なこの大会。面白そうな展開に期待が出来る一方、また不安も大きくなるハルだ。

 確実に起きるであろうトラブルを事前に予測し、その対策をする。開催前から、忙しくなってきた。


「なあローズちゃん? このままこの船にアイリスの精鋭積めるだけ積んでさ、リコリスに急襲掛けるってどうよ!?」

「……なかなかいいな。リコリスの国王を決めるなどとまどろっこしいことは言わず、アイリスの下に併合へいごうしてしまえばいい」

「やめないか君たち……、隙あらば暗躍しようとするの……」


 本当に、頭の痛い話である。身内から国際問題を起こす者が出ないようにも、どうやらハルは見張っていなければならないようなのだった。

※誤字修正を行いました。「商品」→「賞品」。意味は通ってしまうからか、書いた時は全く違和感を持っていなかったようです。(2023/3/29)

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