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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部5章 リコリス編

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第809話 闘争の国よりの誘い

 通常のフィールドへと帰還したハルの転移した位置は、元のクリスタの街の領主館だった。

 これで行き先がまた王城だったらどうしよう、という不安があったので一安心のハルである。


「ただいま、みんな。無事に終わったよ」

「おかえりなさいませ、ハル(ローズ)お姉さま! ご無事でなによりです!」

「おかえりなさい、ハル(ローズ)。こうなるとは思ったわ?」

「流石はルナ(ボタン)だね。ただいま」


 ルナには<王>位を辞退するということが、はっきりと見えていたようだ。ハルの性格上、そうすると読めていたようである。

 流石、ある意味ハルのことを、ハル以上によく分かっている。


「そいで、これからどーすんのハル(ローズ)ちゃん? <王>様にならなかったってことは、ずっと<貴族>でやってく感じ? <公爵>いってゴール?」

「それなんだけどねユキ(ユリ)。とある情報筋によると、僕の<公爵>就任はもう確定してるらしい」

「おお。内定だ。社長さん情報?」

社長アイリスからじゃないよ。さすがに運営はネタバレしない」


《じゃあどこだろ?》

《他の<貴族>プレイヤーじゃ?》

《じゃあミナミか》

《便利なヤツめ》

《えっ、なになに、オレ知らないんだけど!》

《本人おる(笑)》

《ミナミもすっかり常連だな》

《お前見てる暇あるんか》

《自分のプレイは大丈夫か》

《まあ、ミナミは人の配信見るのも仕事だから》

《弱み集め止めてください》


「やあミナミ。なんだ、君も知らなかったの? 神官派閥とは仲良くなったんだろ」

「《そりゃそーだけどよぉ。言うてこちとら、下っ端も下っ端よ。機密情報ぺらぺら漏らしてくれるほど、信頼なんかねーワケよ! 小物ムーブなめんな!》」

「まあ確かに。ミナミは、元はカドモス公爵の子飼いだったもんね。スパイ疑惑も消しきれないか」

「《子飼いとか言うな! 誰が犬だ誰が! キャン、キャン!》」

「犬じゃん……」


 ハルの放送とその動向を真面目にチェックしていたミナミに回線をつなぎ、直接会話に参加してもらう。

 彼もアイリスの国の<貴族>として活動するプレイヤーであり、国の行く末を大きく左右する<王>に関するイベントの動向をしっかり見守っていたようだった。


 ハルはその情報の出どころである現公爵の神官貴族の元から<召喚魔法>の使い魔を消して、彼に別れを告げておく。

 既に、自分は試練を終えてクリスタの街へと帰還したと報告済みだ。あとは彼が上手くやってくれるだろう。


「《しかし、アンタ<公爵>になんのか。まっ、当然功績はほっとかないか。アンタの国外での活躍は、このオレ様が逐一ちくいちスキルで報告上げてたからな! 褒めて? ねえ褒めて??》」

「……なにをしてるんだお前は。まあ、僕の目的には沿ってるから一応お礼は言っておく」

「《王様ちゃん大興奮で見入ってたぜ? その無邪気な評価もあるだろーけど、他国での地位を得たって点もあんのかもな》」

「アイリスに居るうまみを作ってやらないと、僕が他国へ移るかも知れないってことか」


 ミナミの持つユニークスキルは、他のプレイヤーの放送内容を水晶玉のようなアイテムとして映像に残すことが出来る。

 これにより、NPCにもその放送が視聴可能となり、それは確かな『事実』、『証拠』として認識されるのだった。


 ハルが国外に居る間の活躍は、そのミナミのスキルによって王宮へと提出されていたようだ。

 それによりハルの評価が上がったのは当然のことながら、ミナミもその功績により労せずして地位を上げたとのこと。ちゃっかりしている。


「《それにしても、既に<公爵>の叙爵じょしゃくが決まってるとは知らなかったな。どこで知ったんだ? 城内にスパイ居る?》」

「……知り合いの神官貴族に聞いたんだよ。使い魔を飛ばしただけさ」


《やはりスパイ鳥》

《便利すぎる》

《街中に小鳥が飛んでたら注意せよ》

《見慣れぬカナリアにご用心!》

《ごめん、見分けつかねーわ》

《ただの小鳥とどう違うん?》

《カナリアはかわいい》

《ただの小鳥もかわいいだろ》

《人相書き作るか》

《この小鳥にピンときたら自警団》

《自警団に対処できるの?》

《出来ない。返り討ち》

《こんど護身用に小鳥買ってこよ》

《なんのブラフだ(笑)》


 ハルの『目』となるカナリアの使い魔。ある意味ユニークスキル以上に万能な<召喚魔法>だ。

 そんな小鳥たちに対する高評価に、なぜかカナリーが得意げに胸を反らしていた。まあ、カナリーが嬉しそうでなによりである。


「《しかしそれじゃ、もう次のリコリス行きのことも知ってんのか。ちぇー。驚かせられるいい機会だと思ったんだがなぁ》」

「……はい? リコリス? それについては、何も知らないんだけど僕」

「《ほほぉう?》」


 画面越しのミナミの顔がにやりと歪む。どうやら、まだ彼しか知らない城内の極秘情報が、ハルの認知せぬ水面下で動いているようなのだった。





 ミナミの話によれば、近々リコリスで行われる予定の武術大会、それにハルが国賓こくひんとして招待されているとのこと。

 それを聞いて、またハルを国から遠ざけようとする一部貴族の目論見もくろみかと警戒したハルであるが、どうやらそうではないらしい。


 なんでも、正式なリコリスからの招待状が届いたとのこと。確かに、あの国の有力者ともハルは神国で、六花りっかの塔で知り合っている。

 アイリスの改革を前にしてまた国を離れるのは少し痛いが、リコリスへと飛べるのもそれはそれで良い機会だ。

 今はゲーム攻略よりも、神様たちとの接触を優先すべき段階に入っている。リコリスとも早めに邂逅かいこうしておきたい。


「……よって、ローズ閣下はこの度、国王陛下より<公爵>の地位にほうぜられました。謹んでおよろこび申し上げます」

「拝命いたします。これからも、国の為に尽くしたいと思います」


 不意打ち気味にクリスタの街にやってきた国からの使者によって、ハルは迅速に<公爵>へランクアップを果たした。

 こちらから首都へと出向こうと思っていたところに、なんだか先手を打たれた気分だ。


 まあ、実際は悪意ではなく、早くハルを昇進させてやろうという神官貴族の善意なのだろうが。

 恐らくは、あの王城で出会った公爵NPCが切っ掛けとなってしまったのだろう。つくづく、予定の崩れる転移現象であった。


 そうして使者による簡易的な儀式と、お祝いの言葉がひとしきり終了すると、続いてハルのリコリス行きの話へと移っていった。

 これで貴族の出世街道はラストとなるが、最後まで演出面では地味だった。<公爵>くらいは、と少し期待していたのだが、まあ仕方ないだろう。所詮しょせんゲーム内の称号だ。


「そして、こちらが招待状となっています」

「なるほど。確認しても?」

「はい。もちろんですとも」


 使者から渡されたリコリスからの招待状。それは、来たる武術大会の招待客として、ハルに参加して欲しいという正式なお招きであった。

 一瞬、『選手として』の参加ではなかろうかと警戒したハルであるが、そうではなく普通に観戦のお誘いだ。まあ、当たり前だろう。


 どこの世界に国賓として参加選手を募集する国があるのかという話だが、リコリスの国は戦闘狂の国なので、やりかねないという不安が存在してしまっていた。


「かの国の大会は、勝者を国のおさとする重要なものです。その規模は恐るべきものとなると聞いております」

「ふーん。なるほど。つまりはアイリスに対する、示威行為じいこういという訳だ」

「はい。恐らくはその通りであるかと。ローズ閣下のご高名は、遠くリコリスにまで鳴り響いているということでしょう」


《『ウチの方が強いぞ!』ってことか》

《かわいい》

《規模は可愛くないんだよなぁ》

《じいこうい》

《……威を示す、な?》

《良かったな、選手として呼んでたら終わってたぞ》

《リコリス国王ローズ陛下の爆誕》

《武王ローズ》

《ステータスも取り戻したしな!》

《勝利確定》

《実際、どんな立場で招かれたの?》

《VIP席に座って観戦するひと》

《いや、実況だね》

《解説かも》


「……国賓として招かれて実況解説とか嫌だよ僕」


 想像するだにシュールな光景だ。国の大切なお客様としてもてなされ、通されたVIP席には何故か実況席が設置されている。

 そこで、いきなり大会の実況解説を求められるのだ。どんな状況だ。


 その武術大会、以前話に出た通りに、優勝者は次なるリコリスの王として君臨することとなる。

 これは、アイリスの試練のような隠しイベントではなく、前々から公表されていた表のイベント。


 ちまたの噂では、優勝すれば先ほどのハルのように、神界に招かれて<王>のような特殊な<役割>を与えられるのだとまことしやかに囁かれている。


「……ここは、選手として参加した方が都合が良かったのではなくって、ハル(ローズ)?」

「そうかも知れないんだけどねルナ(ボタン)。でも、なんとなくそうではなくってね」


 放送中のため、歯切れの悪い答えでハルは返す。それでも、彼女には言わんとすることが全て伝わったようだ。


 ルナの言っているのは、つまりはこういう事だ。本格的に運営の神様たちの目的を探っていくことにしたのだから、その目的のためには優勝してリコリスに会うのが都合が良いのではないかと。

 確かにそうなのだが、ここで一つ疑問が残る。本当に大会での優勝が、リコリスにおける隠しイベントの条件なのだろうか?


 確かに規模としては十分、難易度の高さも申し分ない。

 しかしながら、少しばかりオープンすぎる感は否めない。これまでのイベントはどれも唐突なものばかり。こんなに、分かりやすい条件なのだろうか?


「それに、僕が出てしまっては優勝間違いなしだ。優勝しては、リコリスの王になってしまう。それは避けないとね」

「凄い自信だこと。足元をすくわれないようになさいな?」


 当然、細心の注意を払うとハルは約束する。これは大会だけではない、その背後で、どんな陰謀がうごめいていないとも限らない。


 そんな、唐突に降って沸いたリコリスの国への招待。

 まあ、実のところ、武術大会には興味があったハルだ。自身のプロデュースする、ソフィーの参加するイベントということもある。

 加えて、残る未接触の神様であるリコリスその人と接触する機会でもあった。


 ハルは再び、黄金の飛空艇に火を入れ、リコリス行きの準備を開始する。

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