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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部5章 リコリス編

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第787話 首都を食う勢いの

「あー、久々に戻ってきたねー。ここは変わってないんだ」

「政庁にあたる部分は弄ると少し面倒でね。もともと無駄に豪華に作ってたのもあって、周囲に合わせたアップデートの必要も特になかったし」

「確かにそうだ! 周囲が合わせた感じになるのか」


 ユキが、『久々の我が家』、などと評すクリスタの街の執務室へ、ハルたちは戻ってきた。

 機能的にも精神的にも、確かにここがこのゲームにおけるハルたちの拠点ホームである。


 この領主館は豪華さでいえばそれこそ直近まで居た『成金の塔』、最上層の住居や、シルヴァの家とも比肩ひけんするレベルだ。

 建設当時から無意味に有り余っていたハルの財力と、『領主コマンド』の実験でやりたい放題にオプションを盛り込んでみたこと、そして、領民の忠誠度の高さによる出来栄えへの補正。

 それらが合わさり、十分すぎるほどの豪華さをもってここは完成している。


 総床面積でいえば、先の天空の家を超える。まあ、あちらは床面積に苦労する立場なので当然ではあるが。


「あっちが高級マンションの最上階だとすれば、こっちは土地の広い平屋の豪邸って感じだね」

「確か、日本では平屋の方が高級なのでしたっけ? お姉さま」

「そうだねアイリ(サクラ)。その傾向はある、土地の所有が関わって来るからね。ただ、そこは個人の選択にもよるから、一概いちがいにはいえないかな」


 なにせ、今の日本は土地の所有と維持にそれほど苦労しない。

 前時代の感覚を引き継いで、土地持ちこそお金持ちの証という風潮は一応強くはあるが、実際のところは様々だ。


 結局のところ、エーテルネット全盛の現代においては、そこに、いわば『電脳世界の土地』においていかに利権を持っているか。資産の多寡たかはそこに完結する。

 そのため、極端な話、寝て起きるのが精一杯の狭苦しい個室。その中だけでも億万長者になるのは可能である。


 まあ、実際のところはセキュリティの観点の問題などもあって、そう極論だけでは成り立たないのではあるが。


《ローズ様のおうちはどんなもん?》

《やっぱり、豪邸なんですか!》

《首都住み?》

《それは当然じゃない?》

《ここみたいに、地方に大豪邸だったりして!》

《見てみたいなぁ》

《きっと優雅な生活をなされている》

《それは、当然》

《いや分からんぞ》

《使用人まで揃ってゲーム廃人だからな!》

《やめてそういう表現するの(笑)》


「本当に止めよう。僕はともかく、メイドさんたちの仕事ぶりはあっちでも本物だ。彼女たちを揶揄やゆすることは許さないよ?」

「メイドちゃんたちは、本当に働き者ですねー。ちゃんと寝てるか、心配になりますー」

「お二人さんが言っても、説得力ないんよ」


 まあ、ハルとカナリーは寝ない、寝ることがそもそも出来ないので除外して考えるべきだ。

 そして、二人に突っ込むユキこそ発言に説得力がない。純人間でありながら、ハルに並ぶレベルのプレイを苦としない時点で立派なゲーム廃人である。


「まあ、僕のリアルの家のことは伏せさせてもらうよ。ひょんなことから、特定につながりかねないからね」


《まあ、当然》

《レベチのお金持ちだもんな》

《その時点で対象が絞られる》

《住んでる地域が分かっただけで危ないかも》

《対象が地域に一軒しかヒットしなかったりね》

《平屋の日本家屋、とかだと更にね》

《いや、最近はそういうの逆に増えてるぞ》

《ブームだ、ブーム》

《歴史のありそうな家を、新しく作る》

《エーテル技術のたまものだね》


 どんなデザインの家に住むか、現代はそれを家主がほぼ自由に決められる時代となった。物理的特性に左右されず、エーテルにて自在に家を建てられる。

 その結果、『最新技術満載の、古そうな家』、といった住宅も多くあり、お金持ちの間で人気となっている。


 カナリーのゲームで知り合った、ミレイユとセリスの姉妹が住んでいる家などがそれだ。彼女らは元気にしているだろうか?


「まあ、僕の家のことはいい。それよりも、この街の住宅事情の話でもしようか」

「街の広さそれ自体も、かなり広がっているわよね? すごいわ?」

「だね、ルナ(ボタン)。決められた範囲内でやるくりする、って制限がない」


 ここで仮に、『ハルの住居は天空の城である』、などと暴露しても信じる者はほとんど居ないだろうが、何かの拍子に情報が漏れてもなんだ。ハルは話題を逸らすことにした。

 それとも実家に当たるのは日本のユキの家か。それとも奥様、ルナの母の家だろうか。


 そういえば、彼女はどうしているだろうかと、このゲームのスポンサーの立場でもあるルナの母のことをぼんやり考えつつ、ハルは久々の自領からの放送を続けていくのだった。





「以前、僕が<建築>スキルを覚えた時に、<建築家>はスキル上げに苦労してるって話をしてたよね。憶えてるかな?」

「あー、してたしてた。確か、『仕事がないから許可が下りない』、そして『許可が無ければ<建築>は出来ない』で鍛えれないんだったね」

「そして、『スキルが育たないから仕事も来ない』、の負のループなのね?」

「だね、ユキ(ユリ)ルナ(ボタン)。その修業期間の初動が遅いから、<建築>は茨の道だ」


 育てばそれこそ、ハルのように自分で飛空艇を作り出したりもできる夢のスキルなのだが、<建築>スキルはとにかく初動が遅い。

 本人の人気がものを言うこのゲームにおいてその遅さは致命的であり、いくら後半の大規模建築で巻き返せるといっても厳しものがある。

 最初に開いたユーザー獲得量の差は如何いかんともしがたく、そのままゲームセットとなりかねない。


「このゲームは、開催期間が定まっているからね。そうでなくとも、芽の出ない作業を続けるのには精神力が居る」

「そだねー。いくら将来的に大規模建築が待ってると言っても、今すぐ目立てるモンスター退治が目の前にあれば、そりゃグラつく」

「……ユキ(ユリ)は、<建築>関係なくモンスター退治に行くでしょ?」

「それは、そう」


 だが彼女の言うことは正しい。地味すぎる下積み作業が延々と続くことに嫌気がさして、<建築>の道を諦めてしまうプレイヤーも多い。

 そこに救いの手を差し伸べたのが、何を隠そうこの領地におけるハルの裏での活動なのだった。


《ローズ様はここの土地を使わせてくれたんです》

《自由に<建築>していいって許可をくれて》

《資材まで提供してくれました》

《流石は領主様だ》

《土地持ちは強い》

《あれ……? それ国の土地……》

《しーっ!!》

《国の物は神の物》

《神の物はオレの物》

《ローズ様はそんなこと言わな……っ! いっ……?》

《揺らぐな(笑)》


「いいや、言うね。僕のことをよく、分かっているじゃあないか」

「まあ実際のとこ、やってることヤバイっすよね。ハル(ローズ)様は首都外壁の時と同様に、国の許可なく土地をご自分の好きに使って<建築>しまくって、いえ、させまくってます。クランの依頼を通してハル(ローズ)様の許可があれば、誰でも好きに<建築>できますから」

「あれはいい実験になった。僕に与えられた真の<貴族>としての権限は、法を超越して好き勝手に土地を使える」


 本来、土地の用途は国からの許可を取る面倒な手順が必要となる。それをハルは、許可もなく好き勝手に使えるのだ。

 これは、首都の壁外にて実験した時のことを思い出してもらえばいい。当然、法にケンカを売る行為だ。


 更に、『領主コマンド』を通してクランに依頼の張り紙を出すことで、ハル以外の他人であっても自由に土地を使えてしまう。当然、法にケンカを売る行為である。


「まあ、ゲームシステムって言わば運営かみの許可証ですからね。そこで可能となってることは、神から許可が出てるってことに他なりません。最初から彼らに、理屈で勝ち目なんかなかったんですよねー」

「だけど、理屈が全てじゃない。人間は感情の生き物だ。感情的に反する行為は、例え合法であっても反発を招くものさ」

「そもそも今回は違法っすけどね。にししっ! 悪いハル(ローズ)様っ!」


 そう、エメの言う通り。ハルは法的に問題があると知っていながら、<建築家>支援の名目でこの街をどんどん拡張していっていた。

 ここが首都から遠く離れた辺境の地であること、更には文句を言おうにも当の本人が国外に居ることから、王宮の対応は後手に回った。


 結果、あの時のような素早い牽制けんせいも出来ず、ここまで街の拡張を許してしまっているのだ。


 ハルは使い魔を窓から飛ばし、発展したこの街の風景をその視点にて空撮くうさつで楽しむ。

 その様子は放送に乗って視聴者に共有され、彼らの感嘆の声を呼び起こすのだった。


《おおおおおおおおおーー》

《めっちゃ発展したなぁ》

《こうして見ると、しみじみ感慨》

《あ、あそこ俺の作った家! あっちも!》

《どこだよ(笑)》

《色んなデザインの家があるね》

《空から見るとカラフルー》

《カオスなのに、何故か纏まりが感じられる》

《モザイクアートみたい》

《空から見る機会なんて無いからなぁ》

《感動だ!》


 普段は地上から見上げるその風景を、そして自分の携わった仕事の数々を、こうして俯瞰ふかんする光景に住民や職人たちは感激している。

 自分好みの建築様式を許可した街の拡張は、不規則なカラフルさをもって街の外周を彩っていた。


 アイリス様式で統一された中心街をくるむ外皮として、多国籍様式の新地区が取り囲む。

 そんな一風変わった都市の発展具合を、小鳥はゆっくりと画面に収めていくのだった。


「でも、文句出ないんハル(ローズ)ちゃん? こんだけやって」

「当然、出る。というか文句を言わせる為にやった」

「だよね」


 ユキの懸念するように、これだけ好き放題やればいかに王宮より遠方の都市とはいえ、さすがにバレる。

 再び既存の貴族勢力を中心に、ハルへの反発が起こるのは必至であろう。それを想定しないハルではない。


「もちろん計画のうち、なんだけど、今は少し時間稼ぎしたいね。だからここまでしておきながらも王城に殴り込みには行かずに、こうして自宅に逃げ帰った訳だが」

「ありゃ。らしくないというか、珍しいね。どったんハル(ローズ)ちゃん?」

「……まあ、なんというかね。まずはこの、下がったステータスを元に戻しておきたくて」

「あー」


 そう、ソロモンの<契約書>に根こそぎつぎ込んだハルのステータスの回収。それを念のため、終わらせてから事に臨みたいハルなのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/29)

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば、レメゲトンのメンバーとソロモンから吸い取ったステータスがどれほどか明言されてなかったですね……。 ぼんやりと、現状でも他プレイヤーを圧倒できる程度ではあるのかなとは思ってましたが…
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