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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部5章 リコリス編

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第782話 紫水晶の出所

「ところで取引とはいうけど、どういう内容にするの?」

「『取引』ではない。<契約書>を交わした、『契約』だ」

「そうだったね」


 どうやら、『契約』に何か深い思い入れがあるようだ。

 ハルにとっては、両者は言葉の響きの違い以上の違いを持たない。契約書を取り交わそうが法の下に保証されようが、破る者は破る。


 まあ、それくらいの思い入れではないと、ユニークスキルとして<契約書>が発現したりはしないのだろう。

 ……このユニークスキルの習得方法についても気にはなるところだが、今はそのことは後回しにしておこう。ソロモンの話を聞くことを、ハルは優先する。


「それで、その契約って?」

「ああ。オレはお前と行動を共にし、周囲から離れることを自らに禁じる。実質、囚われているのと同じ状態だ。だから、ここから出せ」

「えっ、それって合法的に僕の傍に居たいってこと? それはちょっと、キモいかも……」

「違う!!」


 とはいえ、いやらしい意味ではなくそういう思惑があっただろうとハルは考える。

 ハルのキャラクター、『ローズ』は現状このゲームで最も注目を浴びていると言っても過言ではない。

 そんなハルと常に行動を共にするということは、必然的にゲームの中心的イベントに参加するという事に他ならないのだ。


 罰でありながら、利点でもある。そうしたしたたかな考えが、当然あっただろう。


《ひとまずキモいか》

《ちょーっとキモいか》

《だが分かる、分かるぞ》

《俺だってローズ様の傍にいたい》

《むしろいつも居る》

《四六時中見てる》

《他の人のを一切見ずに来てる》

《流石にキモいか》

《こいつらが一番キモいです》

《でも真面目な話、意味なくない?》

《ローズ様にメリットないよね》

《閉じ込めておくのと同じなら、このままでいい》


「フン、焦るな。当然だが、付帯ふたい条件も付ける」

「それってどんな?」

「ローズ、お前はオレたち組織が作り出していた水晶アイテムを求めて、ここまで来たのだろう」

「そうだね。少なくとも、料理大会に出場する為じゃないのは確かかな」


 紆余曲折うよきょくせつがありはしたが、ハルの外遊の目的は達せられたといえる。

 ハルが国外へと出た理由は大きく二つ。一つがアイリス王都を混乱に陥れた紫水晶モンスター、その出所を探り、王城へと侵入した工作員を追跡すること。

 これが表向きの理由だ。表向きには、理由はこれだけである。


 二つ目が、王都の攻防で華々しい活躍を見せ、権力闘争の中心に一躍いちやく躍り出てしまった自身を、政争の渦中かちゅうより遠ざける為。

 ハルを、『ローズ<侯爵>』を脅威とする古くからの貴族派閥と、逆にハルを担ぎあげようとする神官貴族の派閥。両者の争いに神輿みこしとして担ぎあげられることより逃げてきたのだ。


 その第一の目的を、ハルは大きく近づいた。全貌ぜんぼうは未だ明らかになったとは言い切れないが、少なくともハルの目的の範囲では達成したと言っていいだろう。


「王城襲撃犯として手配されているリメルダはもう捕縛して地獄のトレーニングの真っ最中だし」

「相変わらず意味不明だ……」

「……そうだね。そして、カドモス公爵に紫水晶を売り渡して、あの王都襲撃の原因を作った君も、こうして追い込むことに成功している」

「まさに、お前の完全勝利という訳だ。だが、一つピースが欠けていると思わないか?」

「まあ、そうだね。当の紫水晶が、まだ未解決だ」


 実行犯二人は捕らえたが、まだ問題の本質へと至ったとは言いがたい。

 このイベントの中心は人ではなく、モンスターを生み出す紫水晶。犯人は確保せども凶器が不在、そういった中途半端な状態であると言うことが出来た。


《伯爵様も捕まえたかったね》

《でも、それだとソロモンくんを追い込めなかった》

《どっちにしろ終わりだったのでは?》

《むしろ、伯爵を捕らえれば自動的に二人とも》

《欲張りはいけない》

《二兎を追う者は》

《一歩一歩確実にいこう》

《引き換えにこのお家頂けたのは良かった》

《カゲツの超有力者の仲間入り》

《シルヴァちゃま涙目》

《このままカゲツを拠点とするのも良いのでは》

《どうしようローズ様!》


「まあ、それも面白そうではある。けど、やっぱり一度アイリスに戻るよ僕は。あの小さな王様の様子も気になるし」


 アイリスにおける<貴族>関連のイベントも、確実にもう一波乱なにかあるだろう。

 未熟な少年が王位を持っているというその事実。それはゲーム的に考えて、『そこにイベントがあります』と事前予告しているに等しい。


 それに、六つの国にそれぞれ隠された<役割>が配置されているのが見えてきたこのゲームだ。

 まだその片鱗へんりんが見えぬアイリスには、今後何か起こるに違いなかった。


「それなら余計、手土産てみやげが必要だろう。ついてこいローズ、お前はもう、ファリアを捕らえたと同等の成果を手に入れている。それを見せてやるさ」


 ファリア伯爵が先日まで暮らしていたこの豪邸。そこに何やらハルにとって利のある秘密が眠っているらしい。

 それを取引の材料にするべく、ソロモンは自信たっぷりな顔でハルを先導し始めるのだった。





「ここだ」

「ふむ。ここはあの時の宝物ほうもつ部屋だね。例の装置が安置されている」

「ああ、ここにお前の求める物がある」

「なんと」

「……だから、開けてくれないか? オレでは、どうしようもないんだが」

「カッコつけて先導しておいて、締まらないなあ」


 決め顔で『ついてこい』、と言い放つも、虜囚りょしゅうの身となった今は扉を開ける権利を当然持たない。

 いまいち決めきれないのが、なんだかソロモンらしさになってきている。そんな残念な空気が定着しつつあるのだった。


 ハルは家主としての権限でその扉のロックを解除すると、ソロモンと共に宝物庫の内部へと踏み入ってゆく。

 室内は先日ハルたちが伯爵に案内されたその時と変わらぬ様子で、全く同じ位置にそのまま装置の数々が鎮座ちんざしているのだった。


「おや。伯爵が必要な物は持ち去ったと思っていたが、あの時のままだね」

「当然だ。奴らNPCはプレイヤーと違ってアイテムの輸送に制限がある。それに、ここはもうファリアではなくお前の家だ」

「伯爵本人であっても、この扉は開けられない、か」

「そうだ。それに、奴はああ見えて物に執着がない。この装置類も、お前へのプレゼントくらいに思っているだろうよ」

「それは、なんとも豪儀ごうぎなことで」


 元は貴族でも商人でもなく、ガザニアの国に所属する職人だったらしいファリア伯爵。

 その本質は、物を作る人、であるのだろうか。必要な物は全部作ればいいとでもいうのか、この家にあるかつての私物は、家ごと全てハルに譲渡じょうとしてしまったようだ。


 実に太っ腹である。そこまでされると、ハルとしても『まあ見逃してもいいか』、という気分になってしまうのが計算通りなのかも知れない。


「この装置も全て、奴の手による物らしいからな」

「へえ、流石は高レベルの技術者だね」

「それに、この家にオレらを案内した女が居ただろう? あれも、奴の『作品』だ」

「……なんですと?」


《あの人、ロボットだったの!?》

《大人しいとは思ったけど》

《使用人としての控えめさかと……》

《そういえば、聞いたことがあるな》

《ガザニアのカラクリ兵器ね》

《結局出てこなかったから忘れてた》

《オート制御が上手くいかないんじゃ?》

《それを実用化させたってこと?》

《流石は統括なんちゃら》

《しかも貴族で大富豪》

《すごい男だ》


 しかも、その地位すら目的の為には簡単に手放せる。

 ますます、ファリア伯爵の底知れない深みがその様々なエピソードから見えてくるようだった。


「……その『作品』だけは、彼が唯一手にしたまま旅立ったってことか。なんだか少し、感じ入っちゃうね」

「フッ、ロマンチズムに浸っているところ悪いが、どうせ『自分で歩くから手荷物にならない』、程度の理由だろうさ」

「斜に構えてるなあ、相変わらず」


 そんな皮肉屋のソロモンが案内するのは部屋の奥、坑道から運んできたものではない、元々この家にあった装置のようである。

 それに手を置いて、彼は驚愕の、そして予想されてしかるべき真実を口にするのだった。


「これが、お前が探し求めた紫水晶の生成装置だ」

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