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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部4章 カゲツ編

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第766話 料理対決

「ルールは簡単、ここにある食材の山を好きに使って、ウチの舌を満足させるおりょーりを作ってくださいなぁ~」

「単純だが、簡単ではないな。採点基準はどうなっている? もっと詳細に教えぬか。出来れば我にだけ有利になるようにな!」

「そういわれましてもなぁ。皆皆さま、作る。ウチ、食べる。おいしい。それ以外に言いようがありませんよぉ?」

「一番厄介な奴ではないか……」


《採点は審査員の気分次第!》

《確かに味なんて主観だけどさ》

《買収し放題のルール》

《まさか、それが正解!?》

《商売の国だしなぁ》

《確かに『買収禁止』ともルール化されてない》

《でもどうやって?》

《アイテムもスキルもロックされてる》

《あ、そっか》

《じゃあ交渉?》

《相手が何を求めてるか分からないのに?》

《あ、そっか》

《いずれにしろ、私らがなに言っても無駄か》

《全ては参加者次第だね》

《レシピなら何でも調べるよ!》


 確かに、一応このコメント欄を通じて、視聴者の力を借りることは出来るだろう。

 ただ、それはどちらかといえばケイオス有利の仕様だ。ハルは別に、コメント欄で視聴者に聞くという手順プロセスを踏むまでもなく、並列思考をもって直接エーテルネットから好きな情報を検索できる。


 なお、ソロモンはといえば生放送を一切しないソロプレイなので、その手は一切使えない。

 ハルやケイオスのコメント欄を覗き見するくらいしか出来ないだろう。


「……愚痴っても仕方ないが、ローズ有利じゃないのか? オレも魔王も一人、対してローズはフルメンバーだ」

「ハハハハハ! いいハンデよ! 包丁も握ったこともないであろうお嬢様など、束になってかかって来るくらいで丁度いいわ!」

「フッ、また強がって逆境に挑もうとしているようだが、声が震えているぞ魔王? 貴様こそ、王が料理などするのか?」

「まままままま魔王たるもの、例え料理であろうと何であろうと、こなせてこなせて、とと当然のこと!」

「……ククッ、確かに、王は大変だな。毒殺を警戒しなければならないもんな?」

「わ、分かっておるではないか!」

「おや? 魔王ともあろうものが毒で死ぬのか?」

はかったなソロモンんんんっ!!」


 なんだか楽しそうだが、要はケイオスも料理は出来るらしい。意外と家庭的だ。

 ハルやユキの前では、『ずぼらで適当。ゲーム廃人は合成栄養食しか食べない』と言っていたのだが、人は見かけによらないようだ。

 まあ、その『見かけ』そのものが、電脳世界の作り物であるので当然か。


《なあハル? なあハル? お前ら料理なんかしないよな? お嬢様にお姫様にユキちゃんだもんな!》

《前二つはともかく、君はユキをなんだと思ってるんだ……》

《えっ、ジャンクフードマニア……》

《あ、うん。それはそう》


 否定のできないハルだった。大味なゲーム食をこよなく愛するユキは、まともな料理のイメージとは縁遠い。


《でもあの子、リアルの味覚はかなりえてるよ? 行きつけのお店は高級店ばかりだし》

《くっ、流石は賞金稼ぎのユキちゃんだ……、財力の差が憎い……》

《それにここ一年は、僕と一緒にアイリのお屋敷でお世話になってたからね》

《あー、美味いよなぁ、あの世界の食べ物はさ。アレ、なんでこっちでも流用しないんだ?》

《……システム的な都合があってね》


 カナリーのゲームと今のこのゲーム。運営会社は同じルナの会社ということになっているので、よくその事が議題に上がる。

 姉妹ゲームなのに、あちらで出来ていたことが出来ないのは何故かと。

 そこは、『開発元が違う』で結局は有耶無耶うやむやになっているが、それだけ求めているものは多いようだ。


 ……ケイオスにも、二つの世界の事情を伝えてしまえば済む話だが、まだその踏ん切りのつかないでいるハルだった。

 彼女かれを信用していない訳ではないが、今ケイオスはこのゲームの優勝に向けて精神容量キャパシティを振り切っている。

 そこに、余計な雑念となる情報を入れて混乱させたくはない。やはり今はまだ待って、終わったらいずれ、伝えるとしよう。


《ちなみに全員料理は出来る。よく家族みんなでご飯を作ってるからね》

《げえっ!? じゃあ六対一!?》

《どうかな。そこは僕も気がかりなことがあるし、僕から助け舟を出してあげようか》


「ねえカゲツ。もし僕らが全員で料理を作って、それが最も優れていたとしよう」

「はいなぁ」

「その場合<天人>や<飛行>を得られるのは誰になるの?」

「その時はその中で最も貢献度の高いと思われる人になりますぅ」


 語尾を上ずらせたおっとりとした喋り方でありながら、きっぱりとカゲツは断言する。代表してハルに栄誉を渡すといった、依怙贔屓えこひいきは断じてしないと。

 つまり六人でハルたちが協力して戦うというのは、ともすれば逆効果になりかねないということだ。


「なら、あなた一人で戦いなさいなハル(ローズ)。私が協力しては、あなたに恥をかかせてしまうことになるもの」

「うわ、凄い自信だねルナ(ボタン)。どこから来ているのか」

ルナ(ボタン)ちゃ、とっても器用だもんねぇ。あ、私は足手まといだろうし、そういう意味でパスかなぁ」

「わたくしも、頑張ってハル(ローズ)お姉さまを応援するのです!」


 そうして女の子たちに見守られながら、ハルは料理対決の場へとおもむくことになる。

 ちなみにハルも料理の腕について自信がある訳ではないが、まあ相手は神様だ。その求めるところは参加者の中で最もよく知るところ。

 純粋に、彼女が料理の腕前だけを求めているなんてことはないだろう。そこを見極めればいい。


「……ところで、この場限定の特殊な<料理>スキルなんてものは?」

「ありません~」


 そんな傍らで、ソロモンのすがるような要求はあえなく撃沈しているのであった。





 神殿の奥、先ほどいた場所から見れば地下へと進むと、そこは広々とした厨房になっていた。

 厨房というよりもステージか。ただし、ステージの周囲を観客席が取り囲むように作られている闘技場コロシアム状のものだ。


 そんな戦いの舞台に用意されたキッチンエリアは三つ。ハル、ケイオス、ソロモンの三人が厨房リングに上がる。


 対して広々とした観客席は寂しいものだ。ルナたち四人が居る以外は、がらりと空席が続く。

 ……そもそも人がそんなに来るはずもないこのマップに、なにゆえこんなに観客席を用意したのか。きっとカゲツの趣味である。


「はてさて皆皆さま。ご準備、よろしゅうございますぅ?」

「いいよ、始めて」「ああ、構わん」「うむ! これ以上我を待たせるでないぞ!」


 そんなカゲツは、リングの中に一番奥まった、恐らく審査員席に陣取っている。

 出来上がった料理は、そこに居る彼女の元に運ぶのだろう。


「それではではでは、おりょーり、はじめ!」


 そのカゲツの号令によって、三者が一斉に動き出す。目指すは厨房と観客席の中間地点を埋めつくす、食材の数々。

 上階の神殿と同様に、カラフルに色とりどりの輝きを放つ見目麗みめうるわしいその食べ物たちは、好きな物を好きなだけ使って構わないとのこと。

 その美しさは、まさに神々の食材。流石は出自に色の名を持つだけあるということか、どれを手に取っても美味しそうだ。


「とはいえ、これだけ数があると流石に迷っちゃうね。何でもかんでも取ればいいって訳でもなし」

「ハハハハハ! 食の細い考えだなぁハル(ローズ)ゥ、貧弱! なんでもかんでも、取って行けばいいのだぁ!」

「フン、やはり魔王なぞ辺境へんきょうの野蛮人か……、雑草との区別もついていなそうだな……」

「魔王差別!? 恐るべき暴言飛んできたんだがぁ!?」

「いいか? 貴様に目利きのなんたるかを見せてやる、よく見ておけよ」


 一抱え以上あるカゴいっぱいに、目についた食材を手当たり次第に詰め込むケイオスに対し、ソロモンは慎重に、いや睨みつけるように食材を一つ一つ吟味ぎんみしていく。

 料理には自信なさげだった彼であるが、食材の厳選はお手の物のようだ。素早く比較を終え、必要な物だけを自分の領域キッチンへと持ち帰って行った。


 そんな中、ハルだけはまだ食材の山の中で、どれを使うか決めかねている。

 右往左往うおうさおうしている訳ではないが、既に持ち帰った食材の山で料理を始めている二者とはもう大きく差が付いた感がある。


 その様子に、ハルの勝利を信じる視聴者たちもさすがに困惑ぎみだ。


《お、お姉さま……?》

《やはり、お料理が……》

《お嬢様だしなぁ》

《もしや完成品しか、見たことがない?》

《『雑事は全てメイドに任せていますの』》

《ローズ様はそんなこといわない》

《言わないが、言いそうではある(笑)》

《手ずからお料理をするお立場ではない》

《結果しか知らないから、原因が分からない!?》


「失礼な。僕だって別に、調理済みの料理や下処理済みの食材がそこらに自生しているとは思わないさ」


 このご時世、実際に完成品の料理しか目にしたことがない、という人だって一定数居るだろう。

 まあ、そうであっても食材の知識はある。まるでその手の情報にアクセスした試しがない、ということはあり得ない。


 ハルが佇んでいるのは、当然そんな理由ではない。ないのだが、何を使えばいいか悩んでいるのはその通りなのだった。


「……まあ、悩んでいても仕方ない。ここは、実際に食べてみるか」


 そして、視聴者たちが次々に驚愕の声を上げるのも構わず、ハルはその場の食材たちを次々と『味見』し始めるのだった。

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