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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部4章 カゲツ編

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第763話 仲間割れを誘う誘惑

「<飛行>だと!? 欲しいぞ、我が!」


 そのスキル名に反応したのはケイオスだった。落ち着き払った余裕の態度を振り払い、カゲツに向けて一歩踏み出す。

 今までは、『どうせハルが何か覚えるんだろ』、といった半ば興味なさそうな雰囲気だったが、こと<飛行>となると話が違ってくるようだ。


「おやおやぁ~。魔王まおさんはお空を飛びたいんですかぁ」

「飛びたいさ! 実にな!」

「フッ、やはり、馬鹿と煙のたぐいだったか……」

「言っているがいい! 貴様のようなやからは、地べたを這いつくばっているのがお似合いだ!」

「ソロモンさんはぁ、お望みではないと」

「……いや、くれるのならば貰っておく。空を飛べれば、塔の上層だろうとなんだろうと、窓から抜け出せるからな」

「ハハハハハ! なんだ、その<飛行>を得るのにみみっちい動機は! 切実だな……」

「やめろ! 急に冷静にオレを憐れむな!」


《おー、<飛行>かー》

《来たね、重要スキル》

《飛べると一気に世界が広がるね》

《でも必要? 飛空艇があるのに》

《個人で飛べるとまた違うでしょ》

《罠スキルだったりして(笑)》

《<飛行>が罠とかありえるの?》

《このメーカーならありえる》

《姉妹ゲーだとレア死にスキルだった》

《使いこなしてた人いたじゃん》

《ハルさんは天才だから……》

《こっちでいうローズ様だよ。常人には無理》


 申し訳ないが同一人物である。感づいている人はいないようでハルとしては一安心。


 カナリーのゲームにおける<飛行>スキルは、ハルの愛用していた非常に便利なスキルでありながらも、一方で非常に使いにくいスキルでもあった。

 消費MPが馬鹿みたいに高く、喜び勇んで取りに行っても使い物にならない。

 数秒宙に浮いて、それだけで魔力が枯渇こかつしてしまうほどの燃費の悪さだ。


 スキルを鍛えて燃費を向上させ、レベルを上げてキャラクターを鍛える。そしてMPを回復する各種スキルと組み合わせて、初めて自由に空を飛ぶことが叶うのだ。

 未だに、その自由な<飛行>を達成したプレイヤーは数えるほどしかいない。それゆえに、<飛行>といえばハルの代名詞のような扱いにもなっていた。


「ケイオスもソロモンも、飛びたいんだ」

「……当然であろう。我は、魔王だからな! 空から虫ケラを見下ろして当然!」

「落ち着きのない魔王だな。魔王ラスボスならば、魔王城の玉座でじっと倒されるのを待っていろよ」

「フハハハハハ! 障害になる勇者を、放置しておく必要はない! 空から見つけ出し、早々に脅威の芽を摘み取ってやればいいのだ!」

「……一理ある」


 それをやってはゲームが成り立たない。旅立ったばかりのレベル1、『はじまりのまち』で急に空から魔王が襲い掛かってきたら勝てる要素がない。


 まあ、知略を駆使してそれを撃退するゲームだとか、襲い来る魔王の手からいかに逃げるかを楽しむゲームなら、面白そうではある。

 なんにせよ王道のRPGには成りえないだろう。お約束違反だ。


「貴様こそ、遮蔽物しゃへいぶつの無い空になど出て大丈夫か、<忍者>のくせに。晴れ渡った空に黒い服のシミがあるのは、目立つだろうなぁ?」

「フッ、潜伏できるオレの能力を忘れたか馬鹿め。透明化して、<飛行>で自在に監視可能になる、まさにオレの為のスキルよ」

「……うわぁ。コイツに渡したくはなくなってきたぞ我」


《凶悪なコンボだ……》

《だが、本当の目的は脱走である》

《これから監禁が決まっているからな(笑)》

《ソロモン『逃げなきゃ、逃げなきゃ』》

《お姉さまが逃がすと思うな!》

《そう考えると動機がかわいいな》


「チッ……、黙っていろ……」

「えらい特殊な状況ですねぇ? この世界、進むことも戻ることも出来ない状況にはそうそうならないように作られてるんですけどぉ~」

「……そうだ、お前、運営なんだったな。なら、『詰み』状況はどうにかする義務があるはずだ」

「残念ですが個別対応には応じかねますぅ。ここは『演技』の世界ですからに。ご自分の演技力で、その場のNPCを説得して抜け出してくれたらと思いますぅ」

「監禁場所の権利がプレイヤーに移ったんだが!?」

「おやおやまあまあ……」


 そう、ソロモンは伯爵邸を復活地点としてセーブしてしまい、その状態のまま家の権利がハルへと移ってしまった。

 よって世にも珍しい『詰み』の状況が発生してしまい、ハルが許可しない限り屋敷の出口は開かない。


 そうした状況を避ける為に、ハルたちは伯爵の『泊まっていかないか』という誘いを断ったのだ。

 ミナミが恥も外聞もなくカドモス公爵邸から逃げ出したのも同じ理由である。


 ただ、カゲツが言うにはそうした状況においても演技の力で乗り切れるようにはなっているらしい。

 家主と取引するとか、使用人や兵士を言葉巧みに味方に引き込んで、脱出の手引きをさせるとか、来宅した商人の荷に紛れて脱出するとか。

 そうした脱出ミッションを華麗にこなすことで、それもまた一つの放送映えするコンテンツになるだろう。


 問題なのは、NPCではないプレイヤーにはどんな『演技』も通用しない場合があるということなのだが。


「ん~、まあ~、この場合もきっと本質はおなじですぅ。新しく家主になったハル(ローズ)さんときちんと交渉して、門を開けてもらってくらはいな」

「くらはいって、お前な……」

「きっと世界の本質は現実リアルも変わりません~。『この世は舞台』とも言いますってぇ」

「……チッ」


 意外にも、そこへの反論はないソロモン。カゲツの言葉に、何か思う所があるのだろうか?

 現実リアルでは逆に猫を被って演技する生活を強いられているのか、それとも言葉巧みに『演技』し人間プレイヤーを罠にはめる戦略をとっていたからか。


 あるいは、その両方か。前者という原因があったが故の、導き出された後者のプレイスタイル。そうハルは推察した。


「もういいではないか、神とやら、そ奴の話は! それよりも<飛行>だ! 我らに<飛行>はくれるのか、否か、それが問題よ!」

「……そうだ。<飛行>さえ覚えてしまえば、こんなことで悩む必要はなくなる。ローズの魔の手から、飛んで逃げられる」

「逃がさないけどね?」


 ハルが少々の威圧を込めてにっこりと笑いかけると、三歩ほど後ずさってしまうソロモン。どうやら、かなりの苦手意識を植え付けてしまったようだ。

 まあそれも仕方ない。例え<飛行>を手に入れたとしても、彼にはこのゲームの開催期間のうちは大人しくしていてもらおう。


 そうして一行は揃って、その可否がどうなるのか、カゲツの言葉を待つのであった。





「結論から言えば、可能ではありますぅ」

「おお! ならばく我に授けるのだ!」

「落ち着いてくらはいな。可能ではあるものの、対象は一名のみ。この場の全員には差し上げかねますぅ」

「まあ、もともと私たちは貰えるとは思ってないわ? ならば、何の為に呼ばれたのかという話なのだけれど……」


 盛り上がるケイオスとソロモンの影に隠れて、放っておかれた感の強くなってきたルナが不満をこぼす。

 確かに、<天人>やその代替だいたいスキルである<飛行>を授ける為というのなら、コスモスの時と同様にハルだけを転移させれば良かった。

 これで全員が対象というならば話は別だが、そんなことはないらしい。


 少し、雲行きが怪しくなってきたようにハルは思う。


「ならば我に!」

「どうか落ち着いてなぁ魔王まおさん。<天人>も<飛行>も、家の権利者、つまりハル(ローズ)さんにまずは権利がありますぅ」

「……まあ、それは分かるが」


 その後に続く、『ならばなぜ我らを呼んだのだ』、といった言葉をケイオスは飲み込む。

 様々なゲームで場慣れしている彼女かれだ。続く展開を、ケイオスもまた察したのだろう。その身がにわかに硬く緊張感を増してゆく。


「よってですなぁ? スキルが欲しいのなら、まずは権利者であるハル(ローズ)さんから、家の権利を奪い取ってもらわないといけません~」

「……穏やかじゃないね。せめて、『交渉して譲ってもらえ』と言ってよね」

「それでもいいですよぉ」

「やはりか。趣味の悪いやつだ。最初からその為に、我ら全員を集めたのだろう」


 状況を整理するとそうなる。対象者は一人のくせに、わざわざあの場の全員を集めた。

 それは、『わざわざ仲間内であい争わせる為』、と取られても文句は言えないだろう。


 例えばクランで協力し、やっとのことで最上層に居を構えられた。しかし、神からの特別報酬を受け取れるのは代表者一人のみ。

 そうした状況になって、おとなしくそれを受け入れる者ばかりだろうか? 受け入れたとして、その後に仲間内で確執かくしつは残らないだろうか?


 そういった、ある意味で絆の強さを問われる、嫌らしいイベントだと言える。


「……チッ、これだから多人数ゲーは嫌なんだ。ゲームのくせに協力を強要され、かと思ったら突然(うと)まれる」

「ソロこじらせているな、ソロモンよ! だが今回は同感よ! 顔に似合わず、趣味が悪いなカゲツ!」

「おやおやぁ? それって、ウチのお顔は好み~ってことですのぉ?」

「嫌いではないぞ!」


 おっとりしたお姉さんの姿で、やることがえげつない。そうケイオスは言っている。


 だがこのゲームは最終的に勝者は一人。つまりは、いずれ仲間であろうと、その中から優勝賞金へと手を伸ばす一人を決めねばならない。

 そうした意味では、ソロモンのやり方、最初から金で雇うというやり方は割り切っていてあと腐れがなかった。人見知りもあるだろうが、本質を捉えてもいたのだろう。


「まぁ~、ハルさんのご家族がたはぁ、争奪戦にはご参加なさらないのでしょうけどぉ」

「当然ね?」

「当然なのです! わたくしたちは、みんなで一つのチーム、なのですから!」

「ですねー。まあー、ぶっちゃけ興味ないってのもありますけどー」

「えっ、わたしも入ってるんすか? あ、嫌とかそういうんじゃなくて、おこがましくないかなーとかなんとか思っちゃったり……」


 まだまだ負い目のあるエメは置いておいて、ルナたちの言う通りハルたち家族の絆が揺らぐことはありえない。


 しかし、一方でケイオスが諦めるとは思えない。ハルを前にして、余計に引けないだろう。

 ここで、ケイオスと争うことになるのだろうか? もしそうならば、ハルもまた覚悟を決めねばならないかも知れないのだった。

※誤字修正を行いました。カゲツのセリフで一部、ケイオスとソロモンを間違えておりました。完全に気付いておらず申し訳ありません。報告ありがとうございました。

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