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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部4章 カゲツ編

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第762話 天人

「ローズさんがたはプレイヤーとしてぇ、初めてこの塔の最上層の家を手に入れました~。いえぇ~」

「い、いえーい!」

「あら~、かわいらしい子ですねぇ~」

アイリ(サクラ)ちゃーん。こんな奴に合わせてやる必要ないですからねー? スルーしましょー、スルー」

「わ、わたくしは、どうすれば……!?」

「とりあえずこっちおいで……」


 二柱の神様の間で板挟みになってしまったアイリをハルは引き寄せる。

 ハルの腰に抱き着くようにして狼狽うろたえるアイリをなだめながら、ハルはカゲツに向かって『続きを早く』と目でうながす。


 語尾を高く上げる特徴的な喋り方の彼女。ただ、商売の国の神様という割には、その性格は特にせっかちでなくおっとりとしているようだった。


「こほん。ではでは! 皆々さまがたが手に入れなさったあのおうち! あれがなんと、ここカゲツにおける神の住居への通行手形だったんですぅ!」

「まあ、そうだろうね」

「フッ、だと思ったぞ。ローズがかつて、賢者の石を手に入れた時と同じだ」

「我もそう思っていたわ。ところで貴様、やっぱりハル(ローズ)のファン、」

「黙れ」


《おお、あの<連続魔法>の時の》

《あの神殿は凄かったよね》

《人魂がいっぱい居た》

《あれは神界特有のものじゃなかったんだ》

《ここはなんだか普通だよね》

《あっちと比べればな(笑)》

《ここだけ冷静に見れば普通じゃない》

《結局ここって何なんだろ》


 そんな視聴者たちの疑問に答えるように、カゲツはこの場についての話を進めていく。

 どうやら、その内容もまた、ハルたちの予想通りのようであるらしかった。


「ここはぁ、あの塔の最上階となっておりますぅ~。聞いたことありません? カゲツの塔のてっぺんにはぁ、神様が住んでて、お空から国を見守ってくれてる~うのはぁ」

「いや、知らないね」

「……確か、ファリアが言ってた気もするな、何かの折に。『この塔の上層に住む者であっても、最上階のことは誰も知らない』、と。『恐らくそこは神の住居なのだろう』とな」

「へえ。伯爵がそんなことを。そういえば、彼は信心深いんだっけ。彼の誓った神様ってのがカゲツ?」

「知らん。そうなんじゃないか?」

「違いますぅ。ウチじゃあなさそうですねぇ」

「ふむ? じゃあガザニアかな? もともとはあっちの職人だったらしいし」


 まあ、どちらにせよ興味はない。謎の組織のメンバーなので、もしかしたら信仰している神が邪神かも知れない。

 どうあれ、必要になったら調べればいいことだ。今は考えても、仕方のないことである。


 そんな、神の住まう最上階への通行手形が、最上層の超高級住宅を所有することらしい。

 伯爵からその身と引き換えにするように譲り受けたハルだが、逆に言えばそうした手段くらいでしか手に入れる方法は無かったのかも知れない。


 噂によれば、いくら金を積んだところで手に入れられる見込みはないらしい。

 特別な地位も兼ね備えていないといけない、ということのように取れるが、外交官のシルヴァですら一歩及ばないのだ。常人では、まず無理だろう。


「……案外、外道のように見えてこれが王道なのかも知れないな。前オーナーから、譲り受けること」


 ソロモンがぽつりとこぼしたその言葉は、あながち間違っていない可能性はある。

 手に入れる方法は実は金でも地位でもなく、当代の所有者から譲り受けること。


 本来の正攻法に感じられる、お金を稼いで地位を上げていくという方法は、いくらとっても徒労に終わるだけだったのかも知れない。

 塔が神の所有物だとすれば、お金で買えないもの納得できる話ではあった。


「ククク、そう思い悩むことか? 力で、奪い取ればいいだけのことではないか!」

「……それは本当に外道だな魔王。流石は野蛮人だ」

「詐欺師のお前に言われたくはないわぁ!」


《うーむ、だとしたら罠だなぁ》

《商業の国で、お金稼ぐのが無駄なんて》

《無駄ではないだろ、決定打にならんだけ》

《それって無駄なんじゃ?》

《無駄じゃないよ。金持ちじゃないと近づけない》

《ローズ様が伯爵家に行ったときを思い出せ》

《そっか! シルヴァちゃまの紹介がなければ》

《まず入れすらしない》

《そこはゴールじゃないってのがなー》

《そこから別ゲー》


「確かにね。途中まではゴールドが必要で、途中からはゴールドじゃ解決できない。意地の悪い話だ」

「そういうモンじゃないですかぁ?」

「まあ、そうかも」


 お金さえあれば大抵のことは出来るのは日本も異世界でも共通だが、お金があれば何でも出来る訳ではないのも共通だ。

 そういうものだと言われてしまえば、そういうものなのかも知れない。


「そういえば、ソロモンはどうやって入ったの? それほどお金持ちには見えないけど」

「チッ……、お前と比べれば、大抵のプレイヤーは貧乏だろうさ……」

「いや、そういう嫌味じゃなくてね……」

「フン、まあ確かにオレは、組織を通じての繋がりが大きかった。だが、これでもオレは<契約書>の所有者だからな」

「なるほど。商売のセンスの無い者に、そんなユニークスキルは生まれないか」


 影に潜む暗殺者として、そして様々武器を操る武芸者としての側面が目立つが、ソロモンの本質は<契約書>を発現させた商売人だ。

 彼はきっとリアルでも、そうした才能に溢れた人物なのだろう。

 そうでなければ、クランメンバーを『雇用』して立ち回ろうなどとは考えない。


「お話、進めさせていただきますねぇ。こうしてウチが皆々さまの前に出てきたのは、なにも偉業を褒めたたえるためだけではありません~」


 確かに、この最上階もまた、『辿り着いてそこがゴール』、ではない。

 ここからが本題。偉業を成し遂げたご褒美として、何が用意されているか。その部分をカゲツから聞き出さねばならなかった。





「はてさて、前置きはナシにしときましょ。ぱぱっとイベント内容を伝えちゃいますぅ」


 カゲツはハルたちの方へ一歩踏み出すと、ぱんぱんっ、と手を叩いて注目を集める。

 そうしていると、出来る経営者に見えてこなくもない。


「さて、こたびの国家イベント達成のご褒美はぁ~? なんと先着一名で、<天人てんにん>の<役割>へと変更が出来ちゃうんでしたぁ! 実におめでたいことですねぇ~」


 ぱちぱちぱち、とカゲツは嬉しそうに手を叩くが、ハルたち観衆ギャラリーの反応は控えめだ。

 恐らくは非常にレアで、凄い<役割>なのは確かなのだろうが、その内情がどうにも謎に包まれている。


 そもそもが、ハルたちのように上位のプレイヤーとなると、それぞれが既に自分の演じる自分の為の<役割>を持っている。

 それを捨てて<天人>なり<賢者>なりに成れる、と言われても、どうにも反応に困る者が多いだろう。


「良かったではないかハル(ローズ)。これで、名実ともに天上人だな。フハハ」

「雑な笑いやめてケイオス? 分かってて言ってるでしょ、僕が<天人>に成ろうとしないの」

「そうだな」

「二回目だ。誰にでも分かる。コスモスの時もお前は<賢者>を断っていた」


《確かになー》

《つまり、今回もスキル?》

《ローズ様がまた強くなっておられるぞ!》

《バランス考えろ!》

《これで二国》

《裏でもう一国ぐらいこなしてても驚かない》

《<精霊魔法>とか怪しくね?》

《うんうん。放送切ってたし》

《あれ以降、謎の声も聞こえるし》

《俺はガザニアの飛空艇が怪しいと思う》

《あれも分かりやすく『偉業』だもんな》

《ただリコリスだけはない》

《最後の希望リコリス》

《ただし踏み込まれたらおしまい》

《お姉さまにバトルで勝てる人いねぇ!》


 確かに、本来ならば他のプレイヤーが手に入れるべき隠し<役割>を、ハルが一人で独占していることになるのかも知れない。

 ガザニアは違うが、ミントの<精霊魔法>は言われてみればこれらイベントに類する可能性もある。


 ただ、そう考えると独占しておいた方がいいのかも知れないとも思うハルだ。

 特にミントは、一般のユーザーと接触させたくはない。絶対に。


「……その<天人>ってのは、成るといったいどうなるのかなカゲツ? 出来れば、就任前に説明してくれると助かるんだけど」

「そらもう、すっごいんですぅ。この世界にとって特別な、代えの効かない<役割>ですよぅ~」

「まるで分からん。こういうのは確か、ミナミが詳しかったね。ミナミ、説明!」


《オレぇ!? イチ視聴者をアゴで使うなってーのーっ!》

《ミナミ(笑)》

《コメント欄でもミナミはミナミ(笑)》

《『ミナミ(笑)』でセットみたいにするな(笑)》

《ここで答えちゃうのがミナミ》

《黙ってればやり過ごせるのに……》

《聞かれたら反射で答えちゃう》

《芸人魂のなせるわざ》

《うるせぇやかましぃ。あー、手短に言うぞ?》


 流れの非常に加速してしまった視聴者コメントの中で、どうにか簡潔に分かりやすくミナミが教えてくれたところによれば、<天人>もまた<賢者>と同じ、この世界にとって重要な存在のようだ。

 彼が例えるところによれば、それは『勇者パーティ』のようなものであり、恐らく各国から一人ずつ、六人揃うことで何かが起こるのだとか。


 それが何かは、詳しくは彼も知らないようだ。カドモス公爵からの伝聞らしいので、詳細が気になるなら後は彼に聞けとのこと。


「ありがとうミナミ。参考になった。参考にした結果、今回もお断りさせていただくんだけど」


《ですよねぇ! だと思いましたぁ! 何故聞いたぁ!》


 盛り上がると思ったからである。彼にとっても、美味しい展開だっただろう。だからこそ乗ってきたのだ。


「んんん~、お買い得だとウチは思うんですけどねぇ」

「ロールプレイというものを軽んじた、貴様らの落ち度よ。我は<魔王>であり、こ奴は<貴族>。今更<天人>だなんだと言われて、『はいそうですか』、とはいかぬわ!」

「では、ウチも代わりのスキルでも用意いたしましょ」

「ハハハハハ! もう定番なのだな、この流れは!」


 彼女らからの<役割>を断れば、レアなスキルが貰える。これもコスモスからの流れで、お約束になりつつあった。


 そんな定番の流れ作業で進むと思われたカゲツとの対話だが、飛び出てきたその言葉で状況は一変する。

 そのスキルが、どうにも特殊でありすぎた。


「それじゃあ、<飛行>なんてどうですぅ?」

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