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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部4章 カゲツ編

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第751話 理想と現実と理想の体現者

 自身に向けて飛来する光の弾の群れを、ソロモンは強引に突破せんと駆け抜ける。

 美しいその顔に見合った線の細い体、そして潜伏を得意とするプレイスタイルからのイメージではそんなパワープレイは得意そうには見えないが、彼にはその高ステータスがある。


 以前の時点でユキをも上回るほどに強化されていたその<体力>は強靭な肉体、つまりHPを築き上げ、<魔力>はハルの<神聖魔法>の威力を容易たやす軽減レジストしてしまうのだった。


 ソロモンはそのステータス頼りで強引に、まるで急に振り出した雨を鬱陶うっとうしがるくらいの感覚で、魔法の豪雨の中を突っ切っていった。

 雨に当たって、死ぬことを恐れる人間は居ない。まあ、中には居るかもしれないが、ほぼ居ない。


「おっと、でも雨の日は視界不良に注意だよ?」


 そんな<神聖魔法>の『雨』を振り払って、ハルという軒先に入らんとするソロモンを、唐突な衝撃が襲った。今度はHPにもダメージが入っている。

 確かに急な大雨に打たれようが不快なだけで痛くはない。しかし、一刻も早く豪雨を逃れようと進行方向や足元への注意を怠れば、結果はこうだ。


「……チッ! なんだ、新たな魔法? しかしこんな威力が出せるなら、何故」


 その身を揺るがす思わぬ衝撃に、反射的に彼は詰めた距離を再び空けてしまう。

 軽快な動きで光弾の雨を振り切って後ろへ下がると、その更に背後から来る物を注意深く警戒していた。


「爆弾剣か!」

「その通り。キミ自身も馴染みが深いだろう。流石に気付くのが早い」

小癪こしゃく。消費アイテム程度で……」


 強引に体で受けさえしなければ、もうダメージは受けない。とでも言いたげに、彼はその鋭い切れ長の瞳を真剣に研ぎ澄まし、飛来する剣を見定める。

 その身を魔法の雨が打とうがその集中は揺らぐことなく、正確に、そして力強い短剣(さば)きで、爆発する剣のミサイルを迎撃していった。


「へえ、やるじゃあないか」

「当然だ。目くらましで脅威の優先度を見失うほど、オレは未熟でも愚かではない……」

「ハハハハハ! いや、未熟だな。貴様はあの程度の弾幕でも、足を止めて集中せねば『剣』の迎撃が出来ん。底が知れたな、なあ色男?」

「黙れ。貴様なら、出来るというのか魔王」

「語るに及ばん! 我だけではない。当然ハル(ローズ)も可能であるし、そこのユキ(おちび)でも可能だろう」

「あー? なんだぁケイオス、上から目線で。チミ体幹たいかんがどう崩れてたか、具体的に指摘するよ?」

「スミマセン難しい話は勘弁してください」


 相変わらず押しに弱いケイオスだった。魔王の威厳、形無しである。

 熟練者を気取ってみたものの、こと格闘センスにおいては更に明確に上位であるユキに言われて、何の反論も出来ないようだ。哀れ。


「ともかくよ! ステータス頼りなのは貴様の方だと結果が出たな? 貴様は『剣』と『魔法』のどちらかを、受けねばその身も守れない」

「チッ……」


 普通、『剣と魔法』と言えば近接攻撃と遠隔攻撃の二択であるが、この場合はどちらも飛び道具だ。

 光の弾となって飛来する魔法、それに紛れて飛来する爆弾剣。タチの悪いことに、そのどちらも自動追尾ホーミング性能を有している。


《いや、撃ち落とせるだけでも凄いけどね》

《自分なら両方食らって死んでる》

《上級者にとっては、明らかな差なんだなぁ》

《魔王様って反射神経いいもんね》

《意外にもね》

《運動苦手そうなのに(笑)》

《むちむち体系だし》

《序盤は回避だけで成り上がったもん》

《でも足元はお留守》

《大きすぎて足元が見えない》


「ふふん!」


 視聴者たちのコメントに、ケイオスもご満悦まんえつだ。腕を組んで持ち上げるように、その大きな胸を持ち上げる。

 どうやら、その大きさによって足元の視界が一部不良となっているようだ。


 そんな彼女かれ得意ドヤ顔を、ユキがまた冷ややかな目で呆れるように睨んでいた。調子に乗っている友人にひとこと言ってやりたいようだ。

 ケイオスとは正反対に普段は胸の大きなユキにとって、自分の胸で足元の注意がお留守になるような者はやはり未熟なのだろうか?


「確かに、剣と魔法の両方を防ぎきるのは難しい。認めよう」

「おや。意外に素直」


 ひとまず<神聖魔法>の連打を止めて、ソロモンの反応を待つハルと向き合いながら、彼は素直に自身の未熟を認めた。

 未熟とは言っても、相当に上級のゲームセンスがある。常人ならば、訳も分からず両方をもろに食らってしまう事は避けられない。

 ケイオスやユキなどはその中でも更に一握りの熟練者だ。まず練習量が、知識が、積み上げてきた物が違う。


 彼はゆっくりと、手にしていた短剣をアイテム欄に収納する。

 ただし、それは降参のサインではないようだった。


「確かに防ぎきれない。今のままではな? そもそも、この装備は暗殺用だ」

「フハハ! また負け惜しみを吠えおるわ」

「フッ、負け惜しみかどうか、そこで見ているがいい……」


 今度はケイオスの挑発も冷静に受け流せることを見ると、その自信には明確な根拠があるようだ。

 ソロモンは短剣の代わりとして今度は非常に長く肉厚な大剣を取り出すと、そちらに装備を変更した。


「そういえば、キミは前回は大剣を使っていたっけ。そっちがメインウェポンかい?」

「フッ。メインとかサブとか、そうしたくくりは持っていない。オレは何であろうと、使いこなしてみせる」

「なるほど、すごいね」

「……すぐにその小馬鹿にした口をきけなくしてやろう」


 別に小馬鹿にしてはいないハルだ。やはり、心のどこかで自分を信じ切れていない所があるのだろう、ソロモンは。

 その自分への不信が、『他人から馬鹿にされている』、という意識を作り上げてしまう。他人の言動一つ一つに、何か裏があるように思えてしまうのだ。


 ハルは、別に心のうちで『凄くない』と馬鹿にしてなどはいない。事実として、複数の武器を極めようという姿勢は賞賛している。

 実際、ひとつの武器に絞った方が効率はよく、それが当然とされているのは確かだ。ハルもまたその有効性は大いに認める。


 しかし、その『正論』に思考停止で従うだけでなく、時には疑問を投げかけてみることもまた必要。

 本当に一点特化は効率が良いのか? 本当に複数武器は極められないのか? 何故効率がよく、何故極められないのか?

 ただ正解をなぞるだけでは得られない経験値が、その道にはある。


「とはいえ、やっぱりまだまだ構えからして未熟だね。前途有望ではあるけどね」

「黙れ。その上から目線、すぐに地に落としてやる」


 もはや我慢ならないとばかりに、ソロモンは大剣を振りかざすとハルに向けて突進してきた。





「おっと」

「チッ、そんな杖で……ッ」

「こう見えて超一級品さ。物質としての、格が違う」


 高ステータスから来る恐ろしいスピードと、その大剣の重み。それらが乗算されたソロモンの斬撃を、ハルは手に持つ豪奢ごうしゃな装飾の施された宝杖ほうじょうにて受け流す。


 さすがに、受け止められはしない。今のハルの<体力>では、正面から受けてしまえば例え完璧に防御に成功しても、ステータス差で吹き飛ばされてしまうだろう。

 ハルはまともに打ち合うのは避け、自慢の装備の耐久力を頼りにして流れるように剣の軌道を避けていった。


「刃こぼれが酷そうだね。そろそろ、研ぎ直した方がいいんじゃないかい?」

「どんな硬さだ、儀式用みたいな見た目をしておいて……」


 その剣と杖で、数度打ち合いを続けると、すぐにソロモンの剣は刃がボロボロと刃こぼれし、一気に攻撃力が落ちていった。

 武器や防具には耐久値があり、それは使用した素材や<鍛冶>スキルの腕によって向上する。


 ソロモンは恐らくこう見えてレベルの高い<鍛冶>使いだ。それは、ルナの爆弾剣を見ただけで真似できていたことからもうかがえる。

 ユニークスキルが<契約書>であることからも読み取れるように、ハルと同様に専門は生産スキルなのだろう。


 しかし、両者の武器には大きな差がある。

 ハルの杖はハルの異常なレベルの<錬金>によって生まれたレア鉱石を使っており、その打ち手は<鍛冶>に特化したルナだ。

 ソロプレイであり、全てを自分でこなさねばならないソロモンの武器との差は歴然だった。


「だが、剣のスペアなどいくらでもある。コストを掛けて一点ものを作り上げるより、量産品を使いこなせばいい」

「なるほど、玄人くろうと好みな渋い意見だ」


 彼は刃こぼれした剣を放り捨てると、同じような大剣を再び装備する。

 全く同じ物ではないことから見るに、恐らく<鍛冶>のスキルアップの為に生まれた練習品を使い捨てているのだろう。


 確かに効率的であり、無駄がない。作った武器を壊れるまで使い、壊れたらまた作る。無駄がない、のだが。


「体が武器に追いついていないね。さっきの剣と今の剣、重心や総重量が、微妙に違うよ」

「なっ……! えっ……?」


 ……いったい何が起きたのか、理解できないのは自身を主観で見ているソロモンだけだろう。


 彼は再びハルを大剣で両断しようと切り付けて、再びハルの杖に防御された。

 そして、何故かそのまま、その勢いに任せて自分から地面に向けて突っ込んだのだ。


「剣に振り回されたね。マルチに武器を使いこなすには、武器を持ち換えた際に一瞬で体を適応させないと」

「相変わらずえげつないねぇ、ハル(ローズ)ちゃんは」

「だな。本人ですら対応できてない重心のズレとか、何故一瞬で見抜けるのだ……」


 以前に、ハルと遊んでいた時に同様のことをやられた憶えのあるユキとケイオスがしみじみ語る。ハルにとっても思い出深いことだ。

 ……ことなのだが、ケイオスはユキに同意しないで欲しい。三人が古くからの知り合いだとバレてしまうではないだろうか。心配なハルだ。


 そんな会話も耳に入っていないかのように、美しい顔を驚愕きょうがくに固めて、目を見開いたままソロモンは再び距離を取ってしまう。

 まるで、理解できない異常な怪物を見たかのように、圧倒的にステータスの劣るはずのハルに攻撃が仕掛けられなくなってしまったようだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 金髪幼女のTASさんがハルのスタンドとしてうっすらと見えるようだ
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