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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部4章 カゲツ編

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第750話 余興の出し物は決闘

「よし、潰そう」


 ハルの決断は早かった。というよりも、結論は最初から出ていた。

 ソロモンの話を大人しく聞いていたのは、『それを聞いてどう判断するか決めるため』、ではない。ていよく彼の目論見を聞き出すために過ぎないのだ。


 彼に対する対応は初めから決まっている。ソロモンは敵であり、敵にはハルは容赦しない。

 そもそも背後から首を切りつけられておきながら、『面白そうだから応援してあげる』、などと言い出す者が何処にいるというのか。


「ククッ、潰せるのか? 今の貴様に。オレのクランを崩壊させたとはいえ、その為に支払った代償だいしょうは大きい。貴様のステータスは減り、代わりにオレはその分増えた」

「ああ、潰せるさ。何故なら、キミがそんな取るに足らないはずの僕に対して、不意打ちにこだわったからね」

「…………」


《あ、そっか》

《正面から打倒できないからだ》

《不意打ちするってことは倒せないってこと!》

《倒せるなら不意打ちの必要ないもんね》

《また論破されちゃった》

《そもそも何で正体明かしたんだろ》

《勝利を確信したからじゃない?》

《それでも黙ってるだろ普通》

《プレイヤーは死んでも死なないもんね》

《情報アド与えるのは悪手》

《勝利宣言したかったんでしょ》

《しておかないと気が済まなかった》

《さんざん煮え湯を飲まされたからな(笑)》


 彼がハルに対して奇襲を決めて、ハルのHPをゼロにしたと思い込んだ際、その背後からの襲撃者がプレイヤーであるとわざわざ彼は宣言した。

 それは、本来ならば言わなければ良いことのはずだ。

 ハルが生きているか否かに関わらず、顔を見られずに相手を倒し切ったのだから教えてやる義理はない。


 だがソロモンはハルにあえて宣言した。これは、視聴者の言う通り『勝利宣言』をしないと気が済まなかったのだろう。

 油断しきって隙を見せた(ように彼からは見えた)ハルに、読みをたがえた後悔と絶望をどうしても与えたかったのだ。


「その失敗をフォローするかのように、僕の放送を使って商売の宣伝を始めたようだけど。苦肉の策だね。ずっと影からやってた方がいいに決まってる」

「……別に、リカバリーじゃない。一番人気のお前の配信を使って宣伝してやることは、理にかなっている」

「加えて、嫌がらせにもなるしな。やはり精神がガキだな! フハハハハハ!」

「オレ達の会話に割り込んで来るな魔王! 貴様こそガキか……」


 ……まあ、ケイオスもケイオスで結構その辺は幼稚だ。そこは、否定できないハルである。


 本来、人気の放送にあやかって自分のコンテンツを一方的に宣伝するのはマナー違反として嫌われる。ケイオスが言っているのはそのことだ。

 ハル本人は、誰もが皆一律に生放送を点けながらプレイしているゲームなのだから、そこは気にする必要はないと思うのだが。


 とはいえ、そのプレイヤーの視聴者ファンからすれば、『見たくもないコンテンツが入り込んでいる』、という事になるのは事実なので、それを許容することは確かにマイナスでもある。

 自分の価値形成ブランディングは、自分の行動だけではなく他者との関り方からも生まれるのだ。


 そんなハルの『ブランドイメージ』は、敵対者に容赦をしないこと。

 無料の広告を打たれたことは別にどうでもいいが、切り付けられたのは明確な敵対行為だ。


「……もう今は仲間が居るから勝てる、とでも言いたげだな」

「えっ、そうだよ? みんな、とっても強いからね」

「肯定するな! プライドは無いのか貴様!」

「<貴族>としては、とても正しい姿だと思うけどね」

「まことにございますな。自らの武を誇るのは、騎士や傭兵に任せておけばよろしい。我々は彼らに、強さを委託し商売に励めばいいのです」

「伯爵! 貴様もどちらの味方だ……!」

「私は、ことわりのある者の味方でございます」


 ここでソロモンは、ハルの周囲を固める為に集まってきた女の子たちと、対照的に未だ余裕の態度でくつろぐ魔王ケイオスに視線を走らせる。

 彼女ら、特にケイオスの存在が、この場においてソロモンが強気に出られぬ理由のうち大きな割合を占めるのだろう。


 ハルを除けば全プレイヤー中でも随一ずいいちの戦闘力を誇るケイオスだ。正面切って、相手にしたくはないはず。


「……チッ、魔王に自分を守らせる為に、あえてこの場に同行させたか。小賢こざかしい」

「フンッ。我は貴様らの小競り合いになど、何の興味もないわ。そもそも、我はハル(ローズ)の部下ではない! そこを勘違いするでないわ、不愉快だ」

「えっ? 違うの?」

「なぜそこで不思議そうな顔をするんだお前はっ! 違うに決まっておろう! ……ええい、ハル(ローズ)ハル(ローズ)だ。当然のような顔で女の子の後ろに隠れているでないわ!」

「僕も女の子だけど……」


 ついでに言えば今はケイオスも女の子だ。ついハルと話しているとその辺の感覚を忘れそうになるようで、口が『あっ』、の形になるのを悟られぬよう、必死に抑えるケイオスだった。

 ……当然、そんな感情はハルには筒抜けである。大丈夫だろうか、魔王様。


「……ともかく! ワンサイドゲームを見るのもつまらぬ。ここは一対一の決闘を余興とし、我を楽しませるがいい」

「えー。僕はキミの部下じゃないんだけど……」

「やかましい! たまには我に提案させるのだ!」

「……フッ、全員で来ようと同じこと。地下空洞の時点で、オレのステータスはそいつらを大きく上回っていた」


 どうやらケイオスは相手にしなくていいと察したのか、急に落ち着きの出てきたソロモンだ。現金である。

 そんな彼と対峙するために、ハルは女の子たちの護衛の壁を抜け、一歩前へと出るのであった。





「お気をつけください! いざという時は、わたくしがお姉さまをお守りするのです!」

「そうね? 今のあなたはか弱いんだから。負けそうになったら泣いて逃げ帰ってきていいのよ?」

「泣かないが……」


 泣いて帰ったらルナはどうするつもりなのだろうか? 両手の動きが怪しいのであまり考えたくない。


「頑張るっすよハル(ローズ)様! ファイトっす!」

「ファイトなのです!」


 拳を握って、元気いっぱいに応援してくれるエメとアイリ。ユキとカナリーはもう、ケイオス同様に余裕の観戦ムードだった。


 そんな彼女らに見送られつつ、ハルはテーブルから離れ、この広い部屋を闘場リングに見立ててソロモンと向かい合う。


「……まさか、本当に仲間の手を借りないつもりか? 思い上がったものだな」

「まあ、やってみれば分かるさ。勝負は、ステータスの多寡たかでは決まらない」

「いや、やらずとも決まっている。瞬殺だ」


 彼は奇襲時に使っていた短剣から装備を変えずに、それを逆手に構えて体の正面に向ける。

 どうやら、先手は取らせてくれるらしい。自分から仕掛けたら本気で瞬殺だと思っているのか、攻撃を待ち構える姿勢。


《くっそ、格下に見やがってー》

《観客は大ブーイングです》

《あ、観客いないんだったあの子》

《ファンからの苦言とか何もない!》

《こーれ無敵です》

《卑怯も外道もやりほうだい!》

《それでも人気出ると思うけどね》

《顔で?》

《顔で》

《でも、お姉さまどうするんだろ……》

《それな》

《実際、戦闘向きじゃないのに》

《生産職なんだよな。冗談かと思ったが》

《ステータスが冗談だったからな》


 本業が生産系スキルだと言うと冗談扱いされてしまうほどの、圧倒的ステータスが今は無い。<契約書>の効果で徐々に回収中だが、まだまだユキたちにも及ばぬハルだった。


 気分は、シリーズの続編で謎の弱体化を果たした『前作キャラ』だ。

 ゲームバランスの関係で、前作で世界を救った圧倒的なレベルも再び1からスタートか、次作キャラと同等に落ちていることがほどんど。

 そこには何かしらの理由付けがあったり、単にシステム的な問題だけで特に描写はなかったりと様々。


「……なんにせよ、ラスボスをねじ伏せたはずのキャラが雑魚モンスターの処理に苦労してるのは、なかなか感じ入るものがあるよね」

「仕方がないだろ。まさか雑魚敵を前作ラスボス並みの強さにする訳にいかない。いや、待て……、その雑魚ってのはオレのことか……?」


 通じたようで何よりだ。やはり、彼は普段から一人用ゲームを遊ぶのが好きらしい。


 そんな『雑魚モンスター』に対し、ハルは攻撃を開始した。初手はくれるというのだ、いつまでも喋っていても仕方ない。

 自分も杖を取り出して装備すると、いつものように<神聖魔法>の光弾を無数に発射する。

 魔法の弾は視界を埋めつくす弾幕だんまくとなってソロモンに向けて放射されると、その全てが軌道の途中で進行方向を彼の体にロックオンした。


「ハッ! 弱い弱い、見る影もない! 数だけは多いが、これが山をも砕いたあのローズの魔法か!」


 ソロモンは飛来するその魔法弾の全てを、手に持った短剣でうち落とす。

 ハルに『アイテム使用禁止』などというレアな弱体デバフを入れてきたことからも察していたが、なかなかハイレベルな装備のようだ。

 魔法の威力に傷つくこともなく、切り付けるだけで逆に<神聖魔法>のエネルギーを霧散むさんさせていく。


「弱い弱い弱い!」

「おっと、後ろ。撃ち漏らし注意だ」

「チッ! ……だが、やはり弱い。直撃したところでこれか。この程度、まるでダメージにもならない」


《あー! やっぱ駄目かー!》

《ステータス差が歴然》

《あの無敵の<神聖魔法>が……》

《お姉さまの必殺技が!》

《どうしよう!》

《でも、当たればダメージがあるってことは?》

《死ぬまで殴ればいい!》

《死ぬまで殴られると人は死ぬ》

《当たり前やんか!!》


「なるほど、いい考えだね君たち。さっそく実行しよう」

「どこが良いんだ物騒すぎる!」


 得意の<神聖魔法>がほぼ無効化されても、ハルは特に焦らない。多少であろうとも、当たればダメージはあるということは大きい。

 これまでもあえて低威力の<神聖魔法>をつるべ打ちにして、対象を瀕死ひんしにおいやって捕縛するという使い方は何度もしてきた。


 ……改めて言葉にすると、少しハルの精神性が疑われそうである。


「まあいいや、効率が良いことには違いないんだし」

「…………ッ!!」


 ソロモンが目を見開いたのも無理はない。ハルが発生させた<神聖魔法>の光弾は、先ほどの十倍。

 この広い部屋の天井までを埋めつくす量の光の魔法が、一気にハルの周囲に噴出した。


 その全てが、一斉にソロモンへ向かい発射される。到底、かわしきれるものではない。


「……チッ! だが、この程度、例え当たろうが、」

「そうかい? ならばおかわりだ」

「!!」


 どうやら量に不満があるようなので、ハルは追加の光弾を用意してやる。更に倍の量があれば、満足してくれるだろうか?


 もはや寄り集まってハルとソロモンの間を覆う壁のようになった<神聖魔法>の群れは、もはや回避を考えることすら馬鹿らしい。

 ソロモンも無駄口を止めて真剣極まる形相ぎょうそうにて短剣を振り続けるが、到底、人間の体の動きではカバーしきれない。次々と、彼の体に魔法が降り注いだ。


「だから、この程度無駄だといっている。かすり傷にもならん」

「なるほど、まだ食べ足りないか」

「……フッ、確かにオレが死ぬまで続ければ、ハメ殺して貴様の勝ちだな。だが、オレは馬鹿なルーチンしか持たない雑魚CPUではない」


 自分が、いつまでも同じ位置で動かずにいると思ったら大間違いとでも言うように、彼は光弾の嵐を突っ切るように走りだした。

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