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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部4章 カゲツ編

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第734話 空に対峙するは闇と闇

「ハハハハハ! どこかで見たことがあるぞコイツめ! ニンスパだったか。製作会社が同じだけはある、使い回しは基本だな!」

「……まあ、そういうこともあるよね」


《ニンスパにこんなの居た?》

《普通のプレイじゃ出ないよ》

《ハルさんの動画見てないの?》

《熱心なニンジャじゃなきゃ無理ない》

《そういえば同じ会社だった》

《全然ジャンル違うからね》

《そう考えるとすげーなこの会社》


 コメント欄にてハル(ローズ)ではなくハルとしての名が出てくると、少しドキリとする。

 以前アイリたちと遊んだニンスパ、これは外注であるこのゲームと違い、ハルやルナ自身で開発に携わったアクションゲームだ。


 そこである条件を満たすと隠し要素的に(実質は遅延行為への懲罰ペナルティだが)登場する怨霊おんりょうの集合体に、なんとなく今目の前に現れようとしている巨大なモンスターは似通っていた。

 単に良くあるデザインとしての類似か、はたまた同じ会社の先達せんだつとしてのニンスパへの敬意の現れ(リスペクト)だろうか。


「これがニンスパならば絶望していたところだが、残念だったな。この魔王ケイオスが、最大級の魔法で駆逐くちくしてくれよう! 我の魔導の前にはその巨体もただのマト、」

「主砲、発射用意」

「っっって、待てえええええええぇぇい! 何をしようとしているかハル(ローズ)ゥ!」

「いや何って、キミの言う通りただのマトだからね、あんなに大きいと。せっかくなので主砲の威力を試そうかと」

「『試そうかと』、ではなぁい! 我の出番が無くなってしまうではないか!」


 大きな胸をゆさゆさと揺らしながら、全身を使って魔王様が抗議している。

 まあ確かに、『後で活躍させてやる』と言ってケイオスを引き上げさせたのはハルだ。ここで飛空艇の武装でもってボスを撃退してしまったら、いいとこ取りが過ぎるというものだろう。


「分かった、行ってきなよ魔王様。キミのやり方、僕に見せてくれ」

「フハハハハハ、ハハ! そうこなくてはな! いいだろう、我が魔導の真髄しんずい、そこでとくと見ておくがいいぞ!」


 そうして高笑いを響かせながら、ケイオスは颯爽さっそうとマント代わりにドレスのスカートをひるがえし、甲板へと一直線に飛び出して行く。

 吹きすさぶ風にスカートをはためかせるに任せ、胸を持ち上げるように腕組みして巨大ボスをにらみつける様は、なんだかとても男らしい。


 なおこのゲームは、どれだけ派手にスカートが暴れても下着が丸見えになる無様ぶざまは起こり得ない。

 布が翻る格好良さだけが画面に映える親切設計だ。一部の視聴者にとっては、残念な設計といえる。


「《ハハハハハ! 迫りくる強敵、対するは黄金の戦艦、その上に立つはカッコいい我! まさに魔王の活躍に相応ふさわしい最高の舞台よ!》」

「うんうん。カッコいいカッコいい。それで、どうやって戦うのケイオスは?」

「《決まっていよう、このまま我が最強の魔法を撃ち込んでやるのだ! 故にもっと飛空艇を奴に近づけよ!》」

「えー、仲間を危険に晒すのはちょっとなー」

「《今はほぼ乗っていないではないかぁ!》」


 乗っている。特に、NPCであり保護対象であるミントの要人テレサ。同じくNPCであり、謎の組織へと迫るための鍵として拘束している工作員リメルダ。

 彼女らの身に万一でも危険が及ばないようにするのが、ハルの責任であり役割なのだ。


「飛びながら戦えないの?」

「《戦えないこともなくもない》」

「つまり戦えないのか」

「《べ、別に戦えない訳ではないのだからな! ただ、飛行に魔力を使うのが効率悪いだけなのだからな!》」

「戦えないのか」


《お前じゃないんだ、そんな器用な真似ができるかハルゥ! いつも簡単に曲芸を要求してくれるよなーハルはさぁ!》

《でも何だかんだ出来そうじゃない? いつも、最後は文句言いながらこなしちゃうしケイオスは》

《やらなきゃ死ぬからじゃーいっ!》


 つい普段遊んでいるノリで無茶ぶりをしてしまうハルに、たまらずケイオスから個別メッセージが飛んでくる。

 実際、彼女かれなら出来るとハルは判断しているが、今のハルたちは別陣営。そしてケイオスのプレイには彼女かれの生活費が掛かっている。あまり、無茶を言うのはやめておこう。


《……実際、現状ではどうすりゃいいんだハルよぉ? 飛べるとは言っても、ありゃ正直ただ一直線にカッ飛んでるだけだぜ? 推進力自体も魔法だから、マジで攻撃の出力は落ちる》

《いい方法がある。噴射の為の爆発を大規模な一回じゃなくて、小規模爆発の連打にするんだ》

《ふんふん》

《そしてその余波それ自体を攻撃力とする》

《出来るかぁ! お前以外にぃ!》


 これはハルが『神剣』の空間を切り裂くエネルギーを推進力として高速飛行した際の手法である。

 剣光を飛ばしての遠隔斬撃ではなく、その力を後方に噴射して空を飛ぶ。そして、すれ違いざまに敵にその噴射を直撃させて破壊するのだ。


 何だかんだ言って乗り気だったらしいケイオスも、さすがにこれは頭から却下されてしまった。

 だが、『飛びながら戦う』こと自体は選択肢に入れているようである。文句を言いつつも、向上心のある魔王様だ。

 取りうる限りのリスクを取り続け、かつ生き残り続けることが、最大のリターンを生むという信念は継続中である。


「まあ、僕も弱腰になってリスクを回避してばかりはいられない。メイド隊、ボスに接近して」

「《そうこなくてはなぁ!》」


 メイドさんたちの巧みな操縦により、船は巨大な怨霊モンスターに対して腹を向けるようにして、高速に接近していく。

 そして敵正面でぴたりと空中静止ホバリングすると、表情のおぼろげな、それでいて怨嗟えんさの感情を表しているのがよく分かる顔と、自信満々なケイオスの目ががっちり合った。


「《見たな、我を? 汝を滅する最悪の敵を! 刮目かつもくするがいい、そして焼き付けよ! 貴様がこの世で見る、最後にして絶世の美貌びぼうであるぞ!》」

「刮目する目がないみたいだけどね。あと、この世の者じゃあないと思うよ」

「《いちいち的確で無粋ぶすいなツッコミを入れるでないわぁー!》」


 そんな風にして常に騒がしく、船上の魔王による戦いが幕を開けたのだった。





「《『魔王暗黒濁流波ケイオスタイド』!》」


 大仰おおぎょうに突き出されたケイオスの右手から、暗黒の<攻撃魔法>が放たれる。

 技のネーミングはケイオスの自前で付けたネーミングのようだが、そのスキル内容自体はどうやらオリジナルのもののようだ。


 ケイオスの<役割>となっている<魔王>同様に、彼女かれ専用のユニークスキルであるのかも知れない。

 魔法の属性は恐らく『暗黒』。黒紫のにごったエネルギーの濁流だくりゅうは複雑に絡み合いつつ直進し、怨霊の体に直撃してその巨体を取り込んで行った。


「《混沌に飲まれよ! ハハハハハ! どうだ、手も足も出なかろう。おおっと? そもそも足は最初から無かったか、ハハハハハ!》」


 ケイオスが魔法の直撃した手ごたえに、にやり、と勝利の予感を感じさせるがごとく顔を歪める。

 しかしその一瞬後に、そんなケイオスをあざ笑うかのようにして、ゆっくりと闇の力の奔流ほんりゅう内部から姿を現す物があった。

 闇よりもなお不気味なその身は、当然ボスモンスターのもの。どうやら、渦巻く魔法の圧力を物ともしていないようだった。


《ん? 『手も足も出ない』だっけ?》

《出て来ちゃったねぇ、手が》

《うける(笑)》

《魔法が効いてない!》

《見るからにね。敵も闇っぽいしね》

《『闇無効』、『暗黒無効』とか付いてそう》

《このゲーム無効はないけど》

《かなりの軽減はされてそうだ》


 ボスはゆっくりと身にまとわりつく暗黒の渦を振り払うと、その邪悪な魔力はあっけなく宙に霧散むさんしてゆく。

 なんだか、幽霊が闇の力を浄化しているようで、見ていて微妙に不条理シュールな光景だ。


「だめじゃんケイオス。効いてないみたいだよ」

「《あわあわあわあわ慌てるな! まだまだ余興、前座の部類よ! 魔王の力は、この程度ではないのだ!》」

「そっか。変わろうか? 僕の<神聖魔法>なら、たぶん効果覿面こうかてきめんだし」

「《ええいしつこい! 引っ込んでおるがいい! 弱体化した今のお前に、出る幕などない!》」


《めっちゃ慌ててる(笑)》

《魔王節でてきたな》

《割と毎回のこと》

《最初は苦戦する宿命》

《そこから巻き返す!》

《でも最近は余裕だったよね》

《さすがに強くなったからなー》


 絶望的な状況下から、それでも知恵と勇気で挽回ばんかいする。例え99%のプレイヤーが諦める状況でも、ケイオスは残りの1%を諦めない。

 そんな彼女かれの勇気に魅せられて、視聴者たちは己の持つ支援ポイントをケイオスに投じていく。

 それにより1%は、戦いの中でどんどん100%へと近づいて行くのだった。


「《我が魔法が闇に類するものだけだと思ったか。我は魔王、『魔』を司る『王』であるぞ! あらゆる属性の<攻撃魔法>を、使いこなせて当然の、》」

「演説中だけどさ、敵の攻撃が来そうだよ?」

「《分かっておるわー! 我が口上こうじょうを遮るのをやめろー!》」


 ぷんぷん、と可愛く怒る魔王様に向けて、お返しとばかりに今度はボスから攻撃が飛んでくる。

 顔のないかおから吐き出されるのは、漆黒の光線。『絹を裂いたような』と評されそうな、悲鳴のような不気味な効果音を響かせながら、その暗黒のビームが甲板上のケイオスに突き刺さった。

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