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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部4章 カゲツ編

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第724話 魔王二人

「さて、ハーゲン。気持ちよくなってるところ悪いけど、キミには今から死んでもらう」

「はははは! ……は? え、えーっと、騙された八つ当たりですか? 私を殺しても、ステータスは戻りませんよ。苦情はソロモンさんにどうぞ」

「いやいや。騙されてもいないし、八つ当たりでもない。最初から予定していたことで、ここからが僕らの『契約』の本番だ」


 ハルは<契約書>を通して、目の前の男ハーゲンにあるアイテムを送り付ける。

 彼もそれに気付いたようで、自動で使用されたその効果を確かめるべく、メニューウィンドウを呼び出して自身のステータスを確認していった。


「これは……、生命、保険……?」

「そう。何かいい使い道がないかと思っていたところに、ちょうど君たちが現れてくれた。感謝するよ、本当に」

「こ、こんなものを使っていったい何を……」

「にぶいな貴様。強制的に生命保険を掛けられたんだ。殺されるに決まっておろう? どうやら、我が手を下すまでもないようだ。せいぜい死に様で我を楽しまよ」

「趣味が悪いね。流石は魔王様」


 この先の展開に思い至ったのか、ケイオスは豪華なソファーにゆったりと身を投げ出し、余裕の観劇ムードに入った。

 その力を抜いてクッションに身を預けた豊満ほうまん肢体したいは、なんとなくなまめかしい。ケイオスのくせに。

 チロリと舌なめずりをする様子も、王者の風格を感じさせている。ケイオスのくせに。


「君はもともと<冒険者>として鍛えてたから、最初から実入りが多そうだ」

「ま、待ってください……、私を殺せば、今後のポイント集めが……」

「ふふっ、このに及んでかい? この先、冒険などする気はないくせに」


《お姉さまこっっっわ!》

《捕食者の目だ!》

《ぞくぞくしちゃう》

《魔王様もえっろ》

《二人の女帝》

《それと生贄の子羊》

《俺もお二人の生贄になりてー》

《嗜虐的な目で見られてー》

《ヘンタイもいます》

《いつもいます》


 この先、まともにこのゲームを続ける気があるとは思えないが、それでも鍛えたステータスは惜しいらしい。ハーゲンは何やら必至に言い訳をしている。

 ハルの放送にて大々的に詐欺師として知れ渡ってしまった以上、もう普通のプレイなど出来ようはずもないが、まだ予定でもあったのだろうか。

 もしかしたら、開き直って騙された者を馬鹿にして回るつもりだったのかも知れない。


「それはよくないね。僕が世界のために阻止してあげなければ。ほら、これをお飲み」

「待って! 話を……、聞い……、」


 命乞いをわめき散らすハーゲンにハルは一切の容赦なく、流れるような操作で再びアイテムを送り付ける。

 それは、得意の<調合>で作り出した致死性ちしせいの毒薬。

 間違って使用したら意味もなく死ぬだけの、ある種の罠アイテムだ。


 それを<契約書>の効力により強制的に使用されてしまったハーゲンは、一切の抵抗も許されず即座にHPがゼロになり、その場に崩れ落ちた。


「さて、“まずは一回”」

「どの程度回収できたのだ、ハル(ローズ)よ」

「まあ、大した量じゃないね。強いとはいえ、中堅クラスのプレイヤーのデスペナ、更にその七割だ」

「……そりゃ、お前からしたら『大した量じゃない』んだろうがな」

「それにねケイオス。まずは詐欺被害者への返済が先になる。最後のポイント出資者である僕には、返済されるのはまた最後さ」


 ステータスポイントを根こそぎ『投資』し、最強から初期状態まで弱体化したハル。

 そこに、投資の配当金リターンとしてのポイントが多少戻ってきた。


 そのポイントを生み出したのは、もちろん目の前のハーゲン。レメゲトンのメンバーである彼が死ぬことによって、<契約書>の効果によって強制的にポイントは返済にてられるのだ。

 いわば、給料の天引きや、資産の差し押さえのようなものである。


《えっ、でもポイントどっから出た?》

《だよね。死んだだけだから……》

《むしろ減ったはずじゃ》

《そこで『生命保険』ですよ》

《『生命保険』はデスペナの一部を軽減する》

《なるほど!》

《つまり、デスペナで削って回収できるんだ!》

《ローズ様あたまいい!》

《流石はお姉さま》


 そう、本来なら死亡時のペナルティとして、削られてしまうはずのステータスポイント。それを『生命保険』は軽減できる。

 ただし軽減といっても、システム上の処理は『デスペナ70%カット』、といった計算ではなく、『デスペナ減少分の70%を後から付与しなおす』、といった処理となっていた。


 つまり、“新しくポイントを稼いでいる”という判定になる。そこに付け込んだのが<契約書>の追加効果だ。


「つまり彼らは、死ぬことで出資者の為にポイントを吐き出してくれるのさ」

「ハハハハハ! よいではないか、ゴミ虫どもの取るに足らぬ命も、その死によって初めて我らのかてとなるのだな!」

「いやケイオス、キミの糧にはならないでしょ。キミ、投資しなかったんだから」

「ふむ、惜しいことをしたな。しかし、我にはやはり、我が覇道に立ちはだかる敵を滅して成長する方が合っておるわ」

「キミらしいね」


 自己のブランド化ということだろう。ポイントさえ得られれば何でもいいという方針ではなく、あくまで『魔王ケイオスならこうする』という方向性を確立する。

 それに魅せられた視聴者たちが、将来的にそれ以上のポイントをもたらしてくれるだろう。


 これは、ケイオスと、いや『顔☆素』と共に遊んでいる中で、ハルが彼女かれに教えたことだ。『初速を追及するのもいいが、時には最終的な成果値から逆算して考えるべし』。

 要は、ある未来の時点において最適となる行動は、必ずしも現在の最適解とは重ならないということだ。


 現実リアルでは読みにくいそれも、『クリア』のあるゲームなら考えやすい。

 お調子者の脳筋のうきんに見えて、しっかりと成長しているケイオスだった。あとはリアルの自分の生活も考えてくれればいいのだが。


「……という訳だ。理解できたかな、ハーゲン?」

「くっ……」


 ハルがケイオスと共に視聴者に向けて説明をしている間に、(強制)服毒ふくどく自殺したハーゲンの体が起き上がっていた。

 その身はきっちりステータスが減少しており、心なしか自慢の筋肉もしぼんだように見える。


 もちろんキャラの造形は変わらないのだが、ハルの計画を知り、先ほどまでの気概がすっかりがれ意気消沈いきしょうちんしているが故だ。


「ん? ハル(ローズ)よ、何故こ奴が生きている? 死ねば、リスポーン登録した宿に戻るはずだろう」

「ああ、ハーゲンには、彼のために特別に高級な『生命保険』を保険屋に頼んで用意していてね。死んでも、一定時間でその場復活することが出来る」

「なんだそれは、我も欲しいぞ!」

「いや、キミも死ぬ気ないじゃん、僕と同じでさ……」


 ケイオスと雑談しつつ、再びハルはハーゲンに致死毒を送り付ける。

 それを<契約書>の効果で強制使用されたハーゲンは、再びあえなくデスペナルティを強制された。


 その姿を愉悦ゆえつの瞳で鑑賞する二人の美女は、まさに『魔王』の悪辣あくらつな趣味を演出しているようだった。





「くっ、くそう……、まだ、私の方がステータスは上……」

「ほう、来るかい? 確かに今の僕なら、キミでも手が届くかもねえ」

「死ね、ローズ! 覚悟、」

「ハハハハ! 惜しかったね、もう一歩だった」

「ハハハハハハ! 愉快、愉快。もっと無様な散り際で我を楽しませるがいい! 我が部下も、地獄の底で喜んでおろう!」

「いや、キミの部下、今も元気でしょ。詐欺られたポイントも今ごろ戻って来てるはずだよ」

「おっと、そうであった。ハル(ローズ)にはアイツの分まで礼をせねばな」


《楽しそう(笑)》

《やっぱ仲良しじゃん(笑)》

《上位者同士で気が合うのかな》

《笑い方そっくり》

《最悪の邂逅だよ!》

《世界オワタ》

《いや、ローズ様は良い領主様だから!》

《魔王様もこう見えて良い人だけどな》

《なんだ、なら問題ないな》

《そ、そうかぁ……?》


 二人の目の前で繰り返される、終わることのない暗黒の儀式サバト

 死んでは復活し、再び死に続けるハーゲンは徐々に弱体化し、もはやステータスの差は逆転しようとしていた。

 これを繰り返していけば、遠からず彼も先ほどのハルのように強さは完全に初期値まで落ちてしまうだろう。


彼我ひがの差は逆転したな。もはや貴様の剣が、ハル(ローズ)に届くことはなかろう」

「いやまあ無理なんだけどね最初から。僕のスキルと装備は、生半可なまはんかなそれじゃないし」

「ははは、性格の悪いやつよ」


 例えドラゴンのブレスが直撃しようと無傷で散らしてしまうミスリル銀糸のドレスに、例えそれを突破しHPをゼロに出来ても死亡まで回復猶予のある<復活者>スキル。

 通常の武器攻撃で、ハルを打倒できる可能性は皆無だ。

 その気になれば<支配者>でステータスを他者から吸収しての底上げも出来る。


 そのステータス差さえも逆転され、絶望を悟ったハーゲンはついに剣を取り落とし抵抗を止めた。


「…………」

「つまらぬ。余興もこれまでか。まあ潮時か、じきにこ奴のステータスも最低値まで落ちるであろう」

「……確かに、その通りです。しかし残念でしたね、貴女はもう、それ以上のポイントを回収できない」

「むっ。確かにそうだぞハル(ローズ)。『生命保険』の軽減率が七割なら、お前は最大で投資額の七割しか回収できないではないか」

「実際は、もっと低いですよ。投資の瞬間、『手数料』としてソロモンさんに巻き上げられた分もありますからね」


 そうらしい。<契約書>作成の手数料という名目で、ポイントを預けたその瞬間に一部がソロモンへと渡る取り決めとなっている。

 そここそが、この詐欺の本質部分。クラン『レメゲトン』がどうなろうと、ポイント移動が行われた瞬間にソロモンの一人勝ちが確定しているのだ。


「残念でしたね。ローズさん、貴女のしていることは、自身を犠牲にして、他の詐欺被害者を救ったにすぎない。ふっ、ふふふっ、流石は慈悲深いご領主様だ」

「おっ、確かに。ハル(ローズ)よ、我の部下からも、失ったポイントに熨斗のしついて戻ってきたと連絡があったぞ」

「……それは良かった。結局は貴女の一人負け、ソロモンさんの一人勝ちです! 我々をどれだけ殺したところで、もうその結末は動くことはない!」


 多少は頭が冷えたのか、それともやけっぱちなのか、ハーゲンは高らかに吐き捨てる。

 だが、その誰もが動かしようのなく、ハルの敗北かと感じてくるだろう事実を聞かされても、ハルの態度は一切揺るがなかった。


「いや、そんな単純なことを僕が見落としてる訳ないだろう?」

「……は?」

「貴様、詐欺師などやっている割に、頭が回らんな。こいつの配信、きちんと見ていたか」

「ケイオスは見てたんだ。ファンになったかい?」

「やかましい」


 ハルはまだこの先起こることに思い至らないハーゲンに向けて、よく理解できるようにあるアイテムを取り出して見せる。


 それは、シルヴァの屋敷でハルたちに供された三種の高級果実、『生命の果実』を始めとするステータスアップのアイテムだった。

 それを見て、さすがに彼も察したようだ。ハルはケイオスの目の前のテーブルにそれを並べると、今度はそれを材料に作り上げた『生命の秘薬』たちを取り出して見せた。


「その顔、理解したようだね。このまま君らを殺し続けて、そのステータスが初期値まで落ちた時、今度はこの秘薬を君らに送り付ける」

「ハハハハハ! 良かったな貴様ら! 失ったステータスをお優しいローズ様が上げてくれるそうだぞ!」


《そして、また殺すと(笑)》

《上げたポイントはしっかり回収》

《それが無限に繰り返される》

《まさに無限ループ!》

《生きたポイント生成装置の完成だぁ……》

《まさに外道!》

《レメゲトンは、ローズ様の下部組織に……》

《いとあはれ(とても哀れ)》

《詐欺師の末路よのぉ》

《インガオホー》


 実に外道だとハルも思う。しかし目には目を、外道には外道を、敵対者には決して容赦しない。


「いや、ソロモン氏には感謝しているよ。本当に、良い<契約書>を用意してくれた。多少の手数料など、何も惜しくないね」

winwin(ウィンウィン)という奴だな。どう見ても一方的にハルが利用しているが、そういうことにしておくか、フハハ!」

「…………」


 今度こそ完全に敗北を悟ったようだ、ハーゲンは、もはや何も語ることなく絶望のままログアウトしていった。

 そんな彼にまた一切の容赦なく、ハルは生命保険と毒薬を送り付ける。例え対象がログアウトしていようと、<契約書>の効果は強制的だ。


 こうしてゲーム全体を密かに騒がしていた詐欺集団は、ハルの手によって完全に壊滅するに至った。

 ハルはどこかで見ているであろう黒幕のソロモンにもこの絶望が伝わるように、徹底的に容赦のない、まさに『魔王』の如く回収を続けるのだった。

 今年も一年、本当にありがとうございました! また来年の更新で、お会いしましょう。よいお年を!


※誤字修正を行いました。(2023/1/14)


 スキル名の調整を行いました。(2023/5/27)

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