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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部4章 カゲツ編

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第721話 屍の山の頂上に立つ

 このゲームのシステムを考えた時に、ケイオスを主人公とした外伝で書こうかという考えもありました。

 ハルとは違う、王道の成り上がりストーリーになりそうです。

 なので彼(彼女)の道ゆきに関してはけっこう具体的なプランがあったり。


 ケイオスでなくとも、色々な楽しみ方が出来るゲームだと思うので他にもやりたいことは多いです。


 しかし、本作は構造上、視点がハルに固定されていますし作者は一人。

 まずは、しっかりとハル視点に絞って進めていくことにしたのでした。作者もまだまだハルのお話が見たいですしね!

 ハルの友人、『顔☆素(カオス)』こと『魔王ケイオス』がこのゲームを始めたのは、優勝賞金のためだ。

 ルナの母による力強いサポートで、圧倒的な広告周知が行われた本作は初日からかなりの人数が詰めかけることになった。


 プロのプレイヤーでなくとも平等に参加権があり、また平等に優勝賞金を手にする権利もある。

 そんな期待感から、ケイオスと同様に期待に胸を膨らませる者は多かった。いや、別に彼女のようにキャラクターの胸部を大きく作成しているという意味ではない。


「あわよくばワンチャン、って思う奴は多いよな。だが私はかしこいので、あ、『オレ』は賢いのでスタートダッシュから入念に計画を練った」

「別に『私』でもいいよ。アイデンティティが混沌としてきたね」

「ケイオスだけに、ってなぁ! ……すいませんハルの前でこの姿でいるの恥ずかしいんです。なんの罰ゲーム?」

「まあ頑張れ。“場所”、変えるかい?」

「いや、ハルは中で連絡待ちだろー。いいっていいって、ログアウトとか」


 友人の前で、いつもと違う性別でいることにまだ混乱中のようだ。

 かく言うハルも恥ずかしさが無いといえば嘘になる。単に、ハルは普段と喋り方など変更していない為に冷静に見えるだけだ。


 それと、ケイオスとは違い、ハルは普段からセレステやセフィなどに『同時視聴』される羞恥を味わっている慣れのせいもあった。

 ……本当に勘弁してほしい。


「……しかしハルよぉ、お前そうしてると中身が男とは思えんな。なんてーの? 変な『男特有のクセ』みたいなモンが薄い」

「ん? まあ、周りに良いお手本が多いからね。それに、僕の設定は『男勝りの勝ち気なお嬢様』だ。中の人が男でも、さほど違和感がないんだろう」

「いやいや。どうしても出ちゃうんだよなー、そういうのって。数々のネカマからのハニートラップを潜り抜けてきたオレには分かる!」

「分かりたくないわそんなモン……」


 そこは、『自分も女性を演じるのに苦労しているから分かる』、とでも言うべきではないだろうか?

 深読みすれば、ここでケイオスのリアルが女性かと突っ込まれる事にもなりかねない発言だ。

 そういう視点で見れば、今のケイオスこそガサツながら自然な女性らしさが出ているのが観察できた。


 彼女の、いや彼の秘密を守るためにも、ここはハルから話題を変えることにするのだった。


「……僕らのキャラの性別については、語るのはもう止めておこう」

「……だな。そのうち墓穴ぼけつ掘りそうだ」


 ちなみにもう掘っている。とは言わないのがハルの優しさ。

 ユキが一緒に居たら、突っ込みたくて仕方なかったところだろう。


「それで、心機一転、女の子として開始した君はどんな戦略で進めることにしたのさ?」

「ああ! まずは、開始と同時に高らかに魔王の誕生を世に宣言してやったんだぜ!」

「うわぁ……、凄く痛い人じゃん……」

「やめろ! 死ぬほど恥ずかしかったよオレも! でも仕方ないだろ、『魔王ケイオス』は自分が魔王であることに誇りを持ってんだから。ケイオスなら、生まれ変わってももう一度同じことをする」

「……なるほど。キャラ設定、けっこう徹底してるんだ」


 羞恥心など、ロールプレイにおいて足枷あしかせにしかならない。

 他人の目など気にしていては、その時点でもう十把一絡じっぱひとからげの素人参加者と同じだ。

 そこが、ケイオスの取った第一戦略。適当にプレイを開始しない。演じることを、怖がらない。


「そしてソッコーで喧嘩ケンカを売られた!」

「おいおい……、治安悪いなあ……」

「まあ仕方ないね! まだどう進めていいか方針の定まらない中で、魔王を名乗る痛いヤツがいきなり現れたら『いいカモだ』と思うのも分かる。むしろオレも喧嘩売る!」

「売るな売るな」

「そいつらを叩きのめしてなー、ポイント巻き上げて華麗なスタートダッシュを決めたワケよ」


 魔王の覇道の始まりだ。最初から持っているステータスポイントは、自分には使えず他者にしか付与できない。

 自然と最初は持て余している者は多く、返り討ちにした相手にポイントを差し出せと脅しをかけたそうだ。


 流石は魔王、極悪非道である。当然ながら戦闘で負けてもポイントを払う義務はない。死ぬと自分がペナルティを負うだけだ。冷静に思考できれば、開始直後ならデスペナもゼロだと分かる。

 これも初期のあやふや認識のうちに、勢いで押し切ったようだ。


「お前やユキと遊んでると麻痺すっけど、オレも実はつえーじゃん! って自信持てたわ。それで注目されて、視聴者も結構ついたんだぜ?」

「だろうね。なんだかんだカオスは何やらせても上手いし」

「『器用貧乏』って言いたいんか! この器用万能がー!」

「言ってない言ってない」


 元々がハルたちに混じって複雑すぎる操作精度を要求するゲームばかりを遊んでいたケイオスだ、烏合うごうの衆など相手にもならなかっただろう。

 そうして有耶無耶うやむやのうちに最初期にしては多くのポイントを巻き上げた彼女は、それを原資として一気に高難度クエストへの挑戦権を得たようだった。


「どこの国も、首都のNPCにはクエストが大量に設置されてる。そんな中で、『一定以上のステータス』を要件とするクエストは、その時点でオレしか受けられないボーナスになってた」

「先行者有利の最たるものだね。一限いちげんの物も多いんだって?」

「なんで他人事ひとごとなんだよハルゥ! お前が一番、限定クエスト取りまくってる癖にー!」

「いや、僕そういう違い、そもそも分からなくて」

「くっそ……、この存在そのものが<貴族>の奴はホント……」


 恐らくはハルの発生させたイベントのほとんどがその『限定』ものなのだろう。

 ハルはあまりお目にかかったことはないが、このゲームのイベントは全てが一回限りという訳ではなく、条件が揃えば何度でも発生する類のものもあるようだ。


 恐らく、攻略情報を見ながらしかプレイしない初心者への救済だろう。

 ロールプレイが苦手な者だっている。『あなたの演じ方によってイベントが変化する』、と言われたところで、どうすればいいか分からない人にとっては厳しいものだ。


「そこでオレは、困ってる住人の悩みを片っ端から聞き続けた」

「……ん?」

「あ? 変か? RPGの基本だろ」

「いや、そうだけど。魔王だろ、ケイオス。悪いことしないの? 首都を征服しようと企んだり」

「するかってーの! お前じゃねーんだぞハルゥ!」

「失礼な。僕だってしない。たぶん」


 しない、はずだ。ハルもそこまで無茶はしない。困難から逃げないが売りのケイオスも、さすがに初期レベルで首都の防衛力に喧嘩を売ることはしなかったらしい。


 しかし、全てにおいて彼女がその慎重さを発揮した訳ではないようだ。

 発生させられるクエストは、常に最難関を選び続け、ひたすら最初の勢いを維持し続けた。

 そのあたりの方向性は、ハルと似通っているとも言うことができよう。


「それって、やっぱり視聴者を飽きさせないため? 常に無茶して突っ込んで行くキミは、さぞ見ごたえがあったろうね」

「……まあ、それもある。それもあるけど、オレの戦略の一番の目的は配信映えじゃなくってな」

「ふむ?」

「誰よりも大きなリスクを、常に取り続けることだ。目的は最終的に優勝する、ゲームクリアすることなんだ。過程そのもので結果を出しているハルとは、ちっと違うんだな」

「なるほど」


 これまた、ルナの好きそうな話だ。彼女が投資について話していた時のことをハルは思い出す。


 ルナは短期的な取引はあまりしないが、世の中の多くの人が思い浮かべる株などの売買は短期での売り買いだ。

 値段が上がった時に売れれば大儲け、逆に暴落する株を掴んでしまったら大損、そんなイメージだろう。


 彼らはきっちりと常に勝者と敗者に分かれ、敗者の損金を勝者が吸い取り儲けにする。

 いわゆる『ゼロサムゲーム』と呼ばれるもので、多数の敗者のしかばねの上に一握りの勝者が立つ。

 そのリスク率は図り知れず、その取引で億万長者になれる確率は推して知るべしだろう。


「……リスクなくして、リターンなしって奴だね」

「そーゆーこと。全員でコインを投げ続けて、百回連続で表を出した奴だけが優勝できる。そーゆーゲームだこれ。オレは、そう判断した!」


 なんとも一枚の値が張るコインである。たぶん金貨だろう。

 ケイオスの中では、高難度のイベントに挑むことをコインと認識しているようだ。つまりは、身の丈に合った普通のイベントだけをこなしているプレイヤーは存在しないと同じ。

 彼と肩を並べる、土俵にすら立っていないという考えだろう。


 それはきっと正しい。参加者が何千人、何万人といようが、優勝確率は均等割りではない。

 実際にライバルとなる物だけを見据えて攻略を進めていけば、見かけの数に惑わされずに済むだろう。


「だが何でお前が居るんだよぉ! しかもリスク取ってないじゃねーかよーハルはさぁ!」

「失礼な。僕だって、最初からめちゃ強いモンスターに襲われたりした」

「お前にとっては雑魚だったじゃろがい!」

「まあ、それはそう」


 だが悲しいかな。どんな世界にも例外はあるものだ。

 先ほどの株取引の例であっても、ハルにとってはリスクはリスクのうちに入らない。カナリーもまた同じ。

 あらゆるエーテルネットの情報に自由にアクセスできるハルにとって、全ての企業の内部関係者インサイダーであるのと同じようなものなのだ。


 圧倒的な資金力、神が作ったゲームであるという前提情報の活用、持ち前の人外じみたプレイスキル。それらの前に、多少のリスクは意味を成さない。


「オレが全力で退路のないギャンブルにオールインしても、『<貴族>のローズ』とかいうバケモンが涼しい顔でそれを超えていく……」

「悪いねっ、はははっ」

「ホント悪いよ!? 絶望の日々だったんですけど!? いや、今も絶望か。むしろより闇は深まった。ハルとユキちゃんに勝てる気とかしねー……」


 せっかく、街に押し寄せるモンスターの群れをたった一人で防ぎきり、邪悪な実験を企む魔術師の計画を阻止し、戦争一歩手前の小競り合いを止め、火山の噴火を抑え、住処を追われた民のために『魔王領』を建国し、詐欺プレイヤー集団の闇を暴かんと奔走しているのに、一向にハルに追いつけない。


 その焦燥感は、想像するに容易たやすいものだ。


「まあ、安心しなよ。僕、優勝が目的じゃないしさ」

「……そうなの? えっ、なんで」


 だが、ハルとケイオスの目的はそもそも被っていない。そこを、この機会に伝えて安心させてやった方がいいだろう。

※誤字修正を行いました。一部読点の位置を修正しました。(2023/5/27)

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