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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部4章 カゲツ編

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第716話 成金達の社交会

「いい物件がありますよ。このダンジョンの経営権、30億ゴールドで買いませんか? 私なら、利率5%で融資を取り付けられます!」

「いや別に借りなくても即金で出せるし、そもそもダンジョン要らない」


「私に投資して貰えれば、ガザニアのとある街に薬品工場を作れますよ。そうすれば、ローズさんの生産力もさらにアップ間違いなしです」

「それ、別に君を通さずとも僕が直接作ればよくない?」


「傭兵団の雇い入れ、いかがです? ローズ様の飛空艇を担保に入れれば、一個大隊でも雇用できますよ!」

「ふーん。で、その傭兵、僕より強いの?」


 シルヴァの用意してくれた上級の<商人>専用の商談ルーム。そこには、すぐに何人もの<商人>系プレイヤーが詰めかけてきた。

 駆け出しの<商人>のコメントによれば、いったどこから話を聞きつけてきたのか全く分からないとのこと。

 どこの世界でも、美味しい話は下流にまで下りてはこないようである。


《<商人>ギルドの裏メニューで依頼が出てる》

《裏メニュー、だと……》

《一定以上のランク限定》

《<豪商>以上しか入れない部屋》

《基本的に店持ち限定かな》

《『緊急依頼! 上級貴族の要望に応えろ!』》

《受けた時点で金取られる系の依頼》

《それなのにこんなに来てるのか……》

《しかもほぼ爆死してるのに》

《VIPルームの入場料としては破格だからな》


 このお金持ち専用の特別室には、依頼に応じて現れたプレイヤーだけでなく元々配置されていた富裕層NPCも数多く居る。

 彼らと知己ちきを得られれば、例えハルとの取引が失敗しようが受諾料は痛くないということなのだろう。

 ハルに振られたプレイヤーたちは、めげずに彼らのパーティーへと参加していった。


「どうでしょう、ローズ様。私をクランで雇いませんか? 必要な素材の収集、引き受けさせてもらいます」

「良さそうだね。主に薬草系になると思うけど、平気?」

「はい! ちょうどミントにも支部を作ろうと思っていましたので」


《ようやく一つ契約締結か》

《地味だなー》

《普通の素材集めの依頼?》

《だね。規模は大きいんだろうけど》

《堅実な商売こそ正解ってことか》

《それは分からんが、他がぼったくりすぎる》

《あれが詐欺?》

《いや合法だけど。ほぼ詐欺みたいなもん》


 これまで多くの<商人>がハルとの『面接』に訪れたが、結局ハルと最初に契約を結んだプレイヤーは、ただのアイテム売買を行う地道な商人だった。

 これは、別にわざわざ商業の本場カゲツに来て行う取引ではないともいえる。


 もちろんこれほど規模の大きな収集部隊と契約を結べたのは僥倖ぎょうこうではあるが、『カゲツ』らしさという面では、先ほど居た薬品工場への投資を勧めてきたプレイヤーのほうが『らしい』と言えた。


 それを断った一方で、ハルは<調合>を営む職人系プレイヤーを纏めたクランとの契約を結んだりもしていった。


「地味な取引ばかりじゃの。おカタいのじゃ!」

「不満かいシルヴァは?」

「いいや。手堅くていいと思うのじゃ。だが、お主はもっと派手な取引を好むのかと思っておった」

「実際、借金は好きだけどね。でも中抜きは嫌いだ」


 もしハルがカゲツでゲーム開始していたら、迷うことなく初手借金からスタートしていただろう。

 単純化した話だが、5%の利子が付こうが、10%の利益が出れば借り得だ。

 シミュレーションゲームの攻略法で必ず考える必要が出てくる、『初動の加速力』と同じ考え方である。街づくりゲームや工場経営ゲームでは容赦なく借りよう。


 しかし、この場にハルに商売を提案してきた歴戦の<商人>達のほとんどは、“他人から借金をさせる業者”であるのが不採用の理由であった。

 借りる側のハルと、貸す側のNPCを仲介するプレイヤー。

 その図式では、絶対に彼らの懐は痛まない。


 もちろん、そうしたプレイヤーが居た方が助かる者もきちんと居るので一概いちがいに悪だとは言えない。

 しかし自前で十分な資金と立場を持っているハルには、単にコストが増えるだけだった。


「でもやっぱり、よく考えるものだね。考え方が、ゲーム的じゃない」

「リアル寄りの思考ですねー。やっぱり、プレイ層の違いを感じますー」


《どゆこと?》

《難しい話はさっぱりだ》

《みんなお金儲けしてる、じゃダメなの?》

《いいけど、プレイしたらカモられるぞ》

《存在するデータを、いかに上手く扱うかが普通》

《それ以外なんもなくね? 存在してないだし》

《存在しないデータにも価値を付けてるってこと》

《それがここの<商人>》


「需要のあるところに適切に供給を行う、その際に出来るだけ高値を付ける、ってのが普通の考えだね。要はレアアイテムを欲しがってる人に、プレ値で売りつける」

「対してここではー、自分が供給したい物に、強引に需要を発生させてる人が多いですねー」


 本来誰も需要を感じていない、つまり欲しがっていない物に、『これは価値がありますよ!』、と言葉巧みに営業を掛ける。

 そしてその相手に、『実は僕はこれを欲しいのでは?』、と思わせれば<商人>の勝ちである。


 金融に関わる者が『無から有を生み出す天才』と言われたり、逆に『無価値なものを売り捌く悪魔』と言われたりするのはこの辺が理由だ。


「ただ、やっぱりまだまだ中途半端だね。本物は、もっとヤバいんだけど」

「まあー、ゲームである以上、本当に不要なものはどうあがいても売れませんからねー。システム上、有効なデータは決まり切ってますからー」

「ヤバいものを求めてどうするのじゃ! お主、割と目的を忘れがちじゃのう……」

「確かに」


 もっと詐欺じみた商売を持ちかけるプレイヤーが来ないものかと、無意識のうちに期待していたハルだ。本来の目的から逸れているとシルヴァに注意される。

 確かに、ハルはそうした性質が強い。つい脇道に逸れがちだ。


 なんなら、この場に来た目的である“珍しいユニークスキルを持つプレイヤー”を求める行為も、本来の目的からズレているともいえる。

 カゲツに来た目的は、ガザニアの鉱山へとちょっかいを掛けてきたプレイヤーをどうにかする為だった。


「……シルヴァこそ、本題の方はどうなってるんだい? 僕とこうして遊んでて平気なの?」

「あなどるでないわ。きっちりと進行中じゃ。部下が!」

「部下がか……」

「当然なのじゃ。任せるべきところは、全て部下に任せい。ワシは寝ながら稼ぐのじゃ」

「正しいトップの在り方ですねー」

「気が合うのじゃ!」


 怠け者、と言っては悪いか、自分が居なくても国が回ることをずっと追及し続けて来たカナリーもシルヴァの考えには賛成のようだった。

 ハルは管理者という生まれ故か、どうしても絶え間なく処理タスクを入れがちである。

 こういうのも、職業病というのだろうか?


《お客さん減ってきたね》

《雑談が多くなた》

《仕方ないね。要求高いし》

《ダメな理由も放送してるしね》

《今の見て、当てはまった人諦めただろうし》

《優雅な会話すきよ?》

《でもローズ様の目的は達せられないな》

《居ないんなら仕方ない》

《ユニーク持ちならそれアピールするっしょ》


 そう、今までハルの元に挨拶に来たプレイヤーは、どれもゴールドやアイテムを基準に取引を持ち掛けてきた。

 そこに有用なもの不要なものの差はあれど、保険屋のようにスキル自体が特殊な例は皆無である。その意味では、どちらの場合も目的には合わない。


 まあ、そう簡単に見つかりはしないものだろう。ハルが気長に探すことを改めて決意していると、ずっとこちらをうかがっていたプレイヤーの一人がおもむろに席を立って近寄ってきた。

 どうやら、商談の途切れるタイミングを見計らっていたようだ。満を持して、という演出だろうか。


「失礼。どうやらユニークなお取引を、お探しでおいでのようで」


 丁寧で礼儀正しい、それでいてこの場の誰とも異なる異質な空気感。

 およそ<商人>らしからぬ大柄な男は、全身をスーツの代わりにレアな鎧装備で固めている。


 一風変わったその商人。それもそのはず、彼の<役割>その実体は、<冒険者>であるようなのだった。





「お初にお目にかかります。<B級冒険者>の、ハーゲンと申します」

「<侯爵>のハル(ローズ)だ。よろしく」

「お会い出来て光栄です」


 戦場にあったならば敵を威圧するに役立つだろう、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)のそのキャラクターは、この優雅なVIPパーティー会場では逆風だ。

 そんなある種場違いの見た目なキャラ造形をものともせず、ハーゲンと名乗った大男は他の<商人>に負けぬ優雅な挨拶を披露してみせた。


「君は、<商人>ではないんだね?」

「場違いなのは自覚しています。確かに、私は<冒険者>ではありますが、きちんとギルドには登録し、条件は満たしてございます」

「それはそれで、凄いですねー」

「じゃが、格好はもうちと、どうにかならんかったのか? めちゃくちゃ浮きまくってるのじゃ!」


 この場は一級の資産家の集まりであり、名指しでひそひそ話をするような無作法をするNPCは存在しないが、やはりそれでも目立つものは目立つ。

 多くの<商人>は服装もロールプレイの一環として商談に影響することを知っており、皆一様に高級なスーツやドレス、それに類する装備を身に着けて参加していた。


 そんな中で、戦場に出向く為の通常装備のままで来るということは、ある種の初心者丸出しの行為として、その『商品価値』を低く見積もられるNG行為として目立ってしまうのだった。


「失礼ながら、私の立場も、装備も、今回の商談を進めるにあたって欠かせないもの。きっと、ご納得いただけることでしょう」

「ほおー。言いよったの。お手並み拝見なのじゃ」


 なんだかシルヴァが話を進めてしまっているが、ハルとしてもその内容は気になってきた。

 自身の<冒険者>としての戦闘力が見せふだとなる商談。ごく単純に考えれば、それは傭兵としての戦力の売り込みだろうか。

 彼の『B級』としてのランクは、最上位ではあらずも十分に一線で活躍できる信頼感がある。現在『A級』は数えるほどしか存在しない。


 しかし、ハーゲンは最初に『ユニークな取引』と語った。その内容が、単純な傭兵団の営業とは思えない。


「まあ、別に君の格好は特に気にしないさ。それよりも聞かせてくれるかな、君の言うユニークな商売を」

「もちろんですとも」

「つまらん話だったら、承知せんのじゃ!」

「なんでシルヴァが仕切ってるのさ……」


 何か琴線きんせんに触れるものがあったのだろうか?

 そんな、大物NPCの態度に多少の緊張を見せつつも、ハーゲンは己の持ち込んだ『商品』について語っていく。

 その内容は、ハルもシルヴァも予想外のものだった。


「“我々”にご投資いただければ、貴女のステータスポイントを短期間で増やしてご覧に入れましょう」

※誤字修正を行いました。(2023/5/27)

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