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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第3章 アルベルト編

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第71話 対抗戦の開催

 ハルが<物質化>を覚えてから数日、予告されていた対抗戦が開始された。

 期間は約二日、休日の間に行われる。土曜の昼に開始され、日曜の夜まで続く。長丁場の戦いだ。

 とはいえ、ずっと参加していなければいけない、という訳ではない。その期間中に好きな時に参加すればいい、という事らしい。

 復活可能数を早々に七回消費して、『自分の仕事は終わった』とばかりに抜けるのも自由だ。


「とは言っても、これじゃフルで参加しなきゃいけない気分になるよね。強迫観念というか。神様はもっとプレイヤー心理を勉強すべきだと思う」


 ユキがやれやれといった感じで語る。言っている事は最もだった。

 いかにも、『プレイヤーに優しい仕様にしました』、という感じで説明しているが、この仕様を見てやる気のある人間が感じるのは『徹夜で参加しなくちゃ』、といった感想だ。


「ハルが言うには、これは神々の勢力争いをゲーム仕立てに飾り付けたものだ、という話だから。これでも緩くしたのでしょうね」

「僕らにとってはメリットもあるよ。日本時間で固定されると、参加できない日もある」


 例えば開催時間が夜十九時から二十四時の間、と固定で決まっていたりすると、こちらの時間が深夜の時などはアイリが寝ているので、ハルは参加出来ない。

 アイリはきっと無理にでも起きて参加する、と言ってくれるのであろうが、気が引けるというものだ。


「ハルさん、ここは何処なのでしょうか? 神界、に似ているとは思うのですが」

「それで合ってると思うよ。神界の一角に新しく用意されたスペースだと思えばいいかな」


 ハルたちは既に会場に来て、バトルフィールドの確認をしている。イベント開始まではまだ三十分ほどの猶予があった。


 会場へ入るとまずスタジアム状の観客席があり、その内にはミニチュアサイズの大陸模型が置かれていた。ミニチュアと言ってもグラウンド一杯の巨大サイズだ。

 今回の試合会場を、そしてこの世界の国の形を模したものだ。

 その模型の上には何枚ものウィンドウモニターが浮かび上がり、現地の様子を映し出していた。また、土地に意識を向けると、自分の好きな場所の様子も観戦出来るようだ。

 イベントに参加しない者、もしくは復活可能回数を使い切った者は、そこで観戦して楽しむのだろう。


 そしてハル達のような参加者は、対抗戦が開催される現地へと入場して行く。

 事前に何かをする事は出来ないが、メンバーとの顔合わせや、作戦の相談などやる事は多いだろう。


「うちらは特にやる事無いよねー。ハル君何かズル出来る?」

「上空から地形を確認するくらいかね」

「他のプレイヤーは見えていて?」

「残念ながら。試合開始まで自分の陣地以外の人間は、見えないようになってるんじゃない?」

「無駄に高機能だこと」


 当然ながら、ハル達の陣地、『黄色』の陣地にはカナリーの支配したエーテルが充満している。

 つまり、カナリーの目を借りて、自陣内ならどこでも自由に視線が通るという事だ。それを使って空から見下ろしてみるが、人影の確認は成らなかった。


「あ、そうだハル君。セレちゃんの陣地はどうなってるの?」

「魔力の支配権はセレステだね。この試合の成立が優先されてるようだ」

「当然と言えば当然かしらね。ハルが覗き放題だったら一方的になるわ」

「セレステへの支配は変わらないですのでー。実は命令出来ちゃうんですけどねー」

「まあ、本人が来ない限り使わないでおこう」


 プレイヤーの祭典だ。あまり露骨な真似は止そう。関係がバレても面倒だ。


「ハルさん、セレステのとこの魔力の質は読めますかー?」

「……んー? “青い黄色”って感じなのかな? カナリーちゃんの魔力を、臨時で権利をもらって上から支配してる?」

「おー、良くできましたー。ハルさんも日に日に成長してますねー」

「お褒めに預かり正に恐悦至極きょうえつしごく

「あはは、棒読みだ」

「成長出来てる実感が無いからね」


 カナリーの視界、そして<神眼>は情報量があまりに多い。未だに何が何を指しているのか分からないものも多くある。


 結局、この対抗戦までに<物質化>を自在に操れるまでに修める事は敵わなかった。

 今は元素の周期表を埋めるように、物質ごとに対応する法則を探っている段階だ。それが終わっても、それを組み合わせて複雑な形状を再現する工程が残っている。なんとも頭の痛くなる話であった。





「おまたせしました!」

「ソフィーさん、いらっしゃい」

「おじゃまします! 皆さん、よろしくです!」

「よろしくお願いいたします」


 準備と言う名の雑談をしていると、チーム最後の一人、ソフィーが転送されてきた。

 ハル以外に参加出来るプレイヤーの数は三人、ルナ、ユキ、そしてソフィー、これで全員が揃った形だ。

 物好きな事で、こんな超ハードモードの土地をわざわざ彼女は選んでくれたようだ。他にも希望者はちらほら居たが、交流のある彼女をハルの方から選ばせてもらった。彼女なら、チームの女性陣に近づきたいという下心も無い。


「良く来たソフィーちゃん。まあ気楽に行こうぜー」

「ユキちゃん、頑張ろうね!」

「気楽にと言っておろうに」

「仲良しだね」


 ユキとソフィーはよく遊んでいるようだ。ハル達よりも気軽な対応が感じられた。

 どうしても身内で閉じるようになってしまうハル達だ。ユキのそうした部分は心強かった。


「ルナさんは初めまして! 服、いつも着させてもらってます! 今日の服もゴスロリー的なかっこよさですね!」

「初めまして。これはハルの作ね。魔女ルックだそうよ? ……ユキに対するように話しても構わないのよ?」

「わたくしも構いませんよ」

「ありがとうございます! あ、違った! ありがと!」


 物怖じしないソフィーの気質もあって、すぐに皆と打ち解けていく。

 今日もルナの服を着て来たソフィーに、ルナがソフィーの体に合わせた調整をしてやったり。その流れで色々な服に着替えてみたり。何となくハルには入りにくい空気になっていったので、その場は女性陣に任せる事にする。

 ハルは開戦に向けての準備をする事にした。


「カナリーちゃん、ここって今、観客席から監視されてる?」

「見ようと思えば見れますねー。あ、ハルさん以外はスカートの中は潜れませんよー」

「……つまり<闇魔法>で覆った中も、見えないって事でいいんだよね」

「いいですよー」

「神代語は難しいね……」


 カナリーの妙な言い回しから意図を読み取り、ハルは暗闇で遮断した内部で分身を作り出す。

今は目だけだ。

 その目を銀の装飾で包み込み、アクセサリー状に加工して暗闇から取り出した。


「ハル君なにやってんの?」

「ユキ、ちょうどいい。これ持ってって」

「何だろこれ。……あっ」

「うん」


 形状から察したようだ。ユキは苦笑いしてそれを収納する。

 ぴっちりとしたパンツスタイルのユキは、ポケットに入れると違和感が大きいようで、わざわざポーチを取り付けてくれていた。


「ソフィーさんもこれ持ってって」

「何でしょうか! あ、何かな、ハルくん!」

「話しやすいようにしていいよ。……うちのギルドのアイテム。お守りのようなもの」

「ありがとう! つけておきますね!」


 ソフィーは首からかけるようだ。跳ねないようにシャツの中へとしまう。


「ハル?」

「なにかなルナ」

「女の子に自分の一部を持たせる趣味は、随分マニアックが過ぎるのではなくて?」

「ルナ、いじめないで。戦略上必要なだけだから。趣味とかじゃないから」

「ソフィーさんの温もりを感じる?」

「感じないし何も見えないよ。そういう作りにした」

「私にもよこしなさい?」

「わたくしも欲しいです!」

「君らこの陣地から出ないでしょ……」


 気持ち悪さを感じないようにアクセサリー状にしたが、ルナは見逃してはくれなかったようだった。

 とはいえ、これで準備は整った。あとは開戦を待つばかりである。





「ハルくん、作戦はどうするんですか!」

「ソフィーさんはやりたいようにやって良いよ。多分、陣地の外に出て戦うんだよね?」

「うん! そうします! あ、ピンチになったらチャットですぐ呼んでください! 駆けつけます!」

「助かるよ」

「ハル君がピンチとか想像がつかないけどねー。私も外で暴れる?」

「ユキは中立地帯みたいのが無いか探して欲しい」

「うん、いいよ」


 この試合、柱となる要素は主に三つあるようだ。一つはもちろん“戦闘”。相手と戦い、倒し、本拠地を破壊すれば勝利。

 本拠地は建物などではなく、それぞれの神の色をした巨大なクリスタルのようだった。持ち運び可能。

 その前段階でも、敵チームのプレイヤーを倒すと専用のポイントが手に入る。


 二つ目は“建築”。そのための採取作業もここに分類する。

 建築、拠点の作成は様々な効果がある。まず単純に防御力の高い拠点が用意できる。クリスタルを保管し、また人間も内部に入って防御を固める事が可能。

 本拠地を落とされないために有効な手段だ。

 そしてプレイヤーの強化。建築物を増やすと種類に応じて常時パッシブ強化バフがかかる。“景観”と“効率”で悩む部分だ。

 これも作るごとに専用のポイントが手に入る。


 そして、三つ目は“国境”。先の二つの集大成とも言える部分だ。

 それぞれの神の支配する“色付きの魔力”の満ちた範囲が国土であり、それがぶつかる部分が国境となる。

 敵国の陣地にプレイヤーが長時間滞在すると、そこを侵食していき、色を塗り替える事が出来る。武力制圧だ。

 また、建築を進めると国威が上がり、国境を外に向けて押し広げる力が働く。文化侵略と言えるだろう。セレステ戦でカナリーがやった事に近い。

 国土を増やせば、やはりポイント入手。


 それらの行動によって手に入ったポイントを使い。それぞれの力を強化していく。

 『プレイヤー強化』、『建築強化』、『侵食力強化』、そして『神の強化』。


「ハルさん。強化ポイントはどう使用するのでしょうか?」

「ハルは国取りゲーム、得意ですものね。策はあるのでしょう?」

「これは戦略ゲームというより、戦術のゲームだけどね。まあ方針は、『侵食力強化』の一本に絞ろうかね」

「『プレイヤー強化』でハル君に全部つぎ込んで魔王にしないの?」

「しないよ?」


 ユキも変な所でハルを神格化している部分がある。ハルはそこまで自分を万能だとも無敵だとも思っていない。敵を増やすのは避けたいところだ。


「まず国土が狭いですものね。我が国を模した形なので、自虐になりそうですが」

「うん。採取ポイントの数も少ないからね。スタートダッシュで広げておきたいね」

「採取はハルくんとアイリちゃんだけでやるんですか? 私も手伝います?」

「大丈夫だよソフィーちゃん。ハル君は国内なら、比類無きぶっ壊れキャラだから。私たちは外でポイントを稼ごう!」

「うん! 新スキルが火を吹くよ!」


 ソフィーもどうやら特殊なスキルを習得したようだ。ハル以外では初の例だろうか。

 興味はあるが、味方なのは今回だけだ。探るのはマナー違反かもしれない。


「あ、私の新スキルは<次元斬撃>です! この子の、ハルさんの刀のおかげで覚えられました!」


 杞憂きゆうだったようだ。ソフィーの方から教えてくれた。


「凄そうな名前だねソフィーさん。空間ごと切り裂くの?」

「うん! 凄いんですよ!」

「教えてしまって良いのかしら?」

「駄目だったかな? あ、でもどうせすぐバレちゃうよ!」


 派手そうなスキルだ、前線で戦う以上、すぐ目についてしまうだろう。

 しかし効果によっては、この試合で有効になりそうだ。是非遠慮せず使ってもらいたい。


「じゃあハル君。私の残機を全部ポイント化しちゃうから。スタダに使って」

「ハル、私のも入れておくわ」

「思い切りが良いね、二人とも」


 復活可能回数は、ポイントに変わる。これは自分が死んだ時の救済要素に近いが、任意で使う事も出来た。

 参加する時間が全く無いけどチームに貢献したい。本来はそうした時に使うのだろう。


「アイリちゃんは、残機なんか無いからね」

「ええ、私たちもそのつもりで臨むわ」

「お二人とも……」


 あくまで形式上はゲームだが、それはプレイヤーだけだ。アイリにとっては本当の戦場と変わらない。

 その事実が顔を出してくる。


「じゃあ私も!」

「ソフィーさんはいいよ、自由に遊んできて。僕も使わないからね」

「ハルが七回死ねるなんて悪夢ね?」

「ラスボスが七回復活するようなものだねぇ」


 だがハルは使わない。ゲームのように作られている以上、これはゲームだ。何時も通りゲームのように戦い、ゲームのように勝利しよう。

 アイリにとっても、緊張させすぎない方が良いだろう。


 二人はためらい無くポイントを使い、『侵食力強化』につぎ込んでいく。


「他の国のプレイヤーが全員これやったら笑えないねぇ」

「考えたくも無い。人数が違いすぎる」

「その時はハルさんが一回倒すだけで勝利ですよ。問題ありません!」

「アイリちゃんの言うとおりだね! ハルさんなら瞬殺だよ!」


 ハルたちと他のチームでは、人数の差に絶対的な開きがある。もし全員が一斉に自己犠牲でポイントを『侵食力強化』に使ったら、成すすべなく国境に押しつぶされてしまいそうだ。


「でもハルさん、そういった事は実際にあるのでしょうか?」

「無いだろうね。統率された軍隊じゃない。個人の集まりだ。自分の目的が第一だよ」


 しかも多くはランダムで振り分けられたプレイヤーだ。チームへの帰属意識は無い。

 そして神への熱狂的なファンが居たとしても、自分が出来るだけ長く役立つために、自己犠牲の選択を取るものは稀だ。


 そんな、それぞれの思惑が交錯する戦場の火蓋が、そろそろ切られようとしていた。


「ところでハル。服は大丈夫?」

「……<魔力化>してスペアを用意したよ。でも、あまりダメージを受ける訳にはいかないね」

「裸になってしまうものね」


 装備枠は相変わらずカナリーの体に持って行かれたままだった。ハルの服は今、破壊が可能だ。

 戦闘の様子が観戦されているとなれば、あられもない姿を晒してしまう訳にはいかない。この部分も注意が必要だ。


「ドキドキしますね!」

「そうだね」


 アイリが何にドキドキしているか少し気になるハルだった。開戦に、だと思っておこう。

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