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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第696話 神の心臓

「心当たりは、一応ある。ただ、これはちょっと部外秘でね。いったん放送を落とさせてもらおうかな」


《えーー!!》

《そんなー》

《見せて見せてー》

《仕方ないね》

《よっぽど重要なんだな》

《見たいよー》

《むしろよく今まで全部見せてくれたんだ》

《それな、感謝しなきゃ》

《残念だなぁ》

《よっっぽど戦略的に重要なんだね》


「悪いね君たち。組み込み終わったら、すぐに再開するからさ」


 ことゲーム攻略に関わる内容ならば、どれだけ重要な要素であろうとも隠さず生放送にて公開してきたハル。

 ただ、それがゲームの裏側、運営の神様たちに関わるものであれば話は別だ。最悪、見えてはいけないもの、知られてはいけない内容が明るみに出る可能性がある。


「あ、では私も、席を外しましょうか?」

「いや、放送だけ切ってくれればそれでいい。シルフィードとアベルも残ってくれ。もちろん、他の人には喋っちゃ駄目だよ」

「はいっ、分かってます! 書面で残しましょうか?」

「いいよ別に。信用してる」


 学生の間から秘密保持契約の話がさらっと出てくるあたり、シルフィードもやはりお嬢様だ。既に何らかのビジネスに関わっているのかも知れない。


 ちなみにハルはそういった契約のたぐいはあまり信用していないタイプだ。むしろある種の危うさも感じている。

 これは、罰則による抑止ではなく、発言そのものを根本から禁止する<誓約>などという反則じみた力を操るハルだからこそだろうか?

 シルフィードの隣のアベルはこの<誓約>により、確認するまでもなくハルの不利になる発言は禁じられている。うっかり発言にも安心。


「さて、それじゃあなるべくすぐに再開するよ。またね君たち」


《はーい》

《待ってまーす》

《今のうちに休憩しよ》

《実はいいタイミングだった》

《お手洗いいく》

《ごはん食べる》

《ローズ様、ぶっ通しになりがちだもんね》

《こっちの体力が持たないことある(笑)》

《おつかれさまー》


 そうしてハルは生放送を一時中断し、この黄金の船を飛空艇化する<建築>作業に取り掛かっていくのであった。





「さて、待たせたね親方さん。飛空艇の<建築>、始めようか。他には何か必要な物はあるのかい?」

「おう。相談は終わったか? 一番重要なのは、核の部分だな。まずそれが無けりゃ始まらねぇ。そいつはどうにかなるんだな?」

「たぶんね。なる、として話を進めて欲しい」

合点ガッテンだ。核を組み込んだら、そこから流れる魔力エネルギーを浮力に変換する装置を取り付けラインを通す。その装置に、更に制御装置を接続する。これの繰り返しだな」

「割と単純だね」

「ところがそう簡単には……、いくかもな、嬢ちゃんなら……」


 要は、複雑な回路を組み上げるのが知識も経験もない者にとっては難関となる、ということだろう。

 勿論、ハルには何ら問題はない。制御システムの設計などは当然お手の物だし、現代ではあまり見なくなった機械制御についても趣味で長年、たしなんでいる。


「んじゃまずは、核の候補を見せてくれねぇか?」


 まずはそれが無ければ始まらないらしい。ハルは勿体ぶるのをやめて、ただし十分に警戒しながらそれを取り出す。


 ハルがエメに目線で確認すると、無言で頷く。当然のように近くに<隠密>している小さな三人も、怪しい気配は察知していないようだ。

 自然と円陣を組むように距離を詰めた面々の中心に、『神核石・ガザニア』は初めてこの世界に姿を現した。


「おお、思ったよりも大きい。迫力があるね」

「……うおっ、なんだぁ、こりゃあ。こんな魔石、見たことねぇぞ。明らかに規格外だ、今まで扱った最上位二つですら、まるで物差しになりゃあしねぇ」


 そのハルの細い腕の中には収まりきらない巨大な魔石に、造船所の所長は興奮を隠せない様子で目を見開いている。

 他の面々、特にプレイヤー組はその希少性を正しく理解は出来ていないようだが、この石が非常にレアなアイテムだということは直感で感じ取っているようだ。


「明らかにエグい見た目していますね、クラマス。これ、『賢者の石』よりレア度高いんじゃありません? えと、根拠はないですが、見た目が」

「あー、確かに派手だな。“えふぇくと”? みたいのがよ。確か派手なほど、つええんだよな?」

「そうですねアベル様。例外はありますが、基本的にそうやって分かりやすく出来てます」


 茶色の『地属性』を現す色を基調きちょうとしつつも、その石は七色に輝くオーラを休むことなく内部から放射し続けている。

 その輝きの美しさは、まさに一目で『レアアイテム!』と分かる豪華さを演出していた。

 貴重なアイテムは、このようにしてその見た目でも、入手した際の興奮を担保してくれる作りのものが多くなっている。


「これでいけそうかな、親方さん」

「行けるも行ける、十分すぎらぁ! ……逆に、魔力が強すぎて装置がぶっ壊れちまわねぇか、心配なくらいだわ」

「そこまでなんですね。クラマス、こんなもの、いつの間に手に入れていたんでしょうか? あ、秘密ですかね?」

「いや? あの『太陽』だね。もちろん他言無用ね」

「あっ、はい、分かってます。なるほど……、また『賢者の石』のようにふとした拍子に出来たのかと……」


 そんな偶然に神様に繋がるアイテムが生み出されても困る。あまり運営にユーザーを接近させたくないハルにとっては、そんなランダム性など気が気ではない。


 とはいえ今のところ、あの太陽のような特殊なボス敵は通常のプレイでは出会いようがなく、心配する要素は少なそうなのが救いだった。


「それで、これを何処に組み込むのかな?」

「おぅ! ちっと待ってろ!」


 職人NPCたちが慌ただしく作業に入り、ドックの装置がうなりを上げると、ハルの手元のメニューウィンドウが更新される。

 メニューは『船舶建築』から『飛空艇建築』にバージョンアップし、目の前の船をベースの素体そたいとし、それを空飛ぶ船へと改装するための内容が表示されるのだった。


「よっし! いいぞ、まず核の積載せきさい位置を決めるんだ。変更は骨だからよ、よーく考えて決めな」

「ふむ? 中央、船主、後部。何処がいいのかな?」

「どれどれ。えーと……、中央は防御力重視、後方が速度重視、前方が攻撃力重視、って感じなんでしょうかね……」

「エネルギーの供給効率ってワケだな」


 ハルがメニュー画面を大きく広げると、両脇からシルフィードとアベルが興味深そうにのぞき込んで来る。


 核を搭載できる位置は複数あるようで、その位置によってメリットデメリットが存在するようだ。

 中央部は核を狙い撃ちされて一撃で航行不能になることを防ぐ防御力。後ろは魔法のエンジンにエネルギーを供給しやすくなってスピードアップ。逆に前は主砲のエネルギーチャージが高効率のようだ。


「へえ、飛空艇になると積める武装もグレードアップするんだね。換装しちゃお」

「おいおいやりすぎてバランス崩すなよ! てか核を先に積めって言ってんだろうが!」

「いや、悪いね、所長。つい楽しくなっちゃって」

「ローズさんって、大きな砲台好きですよね。ご自身でも、極太ビーム出しますし」

「うん。まあ」


 お嬢様のお手本のようにファンシーな物好きのシルフィードに、言外に女の子らしくないと突っ込まれてしまった。気を付けよう。

 だが仕方ないのである。中身のハルは、男の子なのである。


「んじゃあ、嬢ちゃんは船主核にすんのかい?」

「いいや、中央だね。バランスは重要だ。器用貧乏と言われようと、どんな場面にも対応したい」

「そういうところ、主様らしいですね」

「クラマスはご自身のステもご家族も、バランス型ですしね」


 攻撃力に全振りで勝つことよりも、負けないことを重視しがちなのがハルのやり方だ。危なくなったら逃げ切るために速度でもいいのだが、操縦者はハル以外になる予定だ、あまり極端ピーキーでない方がいい。


 ハルは核石を船の中心部に設置すると、そこで配置を確定した。


 すると即座に、船体の隅々にまで核から魔力が浸み込むように行き渡る。

 ゆるく柔らかな波紋を生じさせていたオリハルコンの表面は、一転して先鋭シャープなエネルギーの流れをその身に映し出していた。


「こいつぁスゲェ。流石は魔法金属だな。エネルギーラインの回路を通す前に、船体そのものが魔力を貯め込みやがった! こりゃ防御力にも期待できるぞ」

「さっき付けた武器にも、もう魔力が供給されてますね。しかも最高効率のようです。流石はクラマス、船でも器用万能ですね」

「また何でもありか主様……」


 感心しつつ呆れる、という器用な顔をして、シルフィードとアベルがメニュー内の数値を確認している。


 核を搭載したその瞬間、船体を構成しているオリハルコンが蓄積装置コンデンサとして機能しているように魔力を通し溜め込んで行く。

 その伝導率は並みの回路を敷くよりもずっと高効率で、中央設置であるにも関わらず、前方設置と同等の攻撃性能を発揮できるようであった。反則である。


「こりゃ、推進機の制御回路もそんなに要らねぇな。普通なら、一基に一つ、専用で付けるんだが。嬢ちゃん、これを作って積んでみろ!」

「おお、隠し機能」


 所長が何やらドックを操作すると、何やら今までメニューに存在しなかった巨大な『中央制御装置』が<建築>可能になった。

 本来なら、一つのエンジンにつき一つの制御装置を接続しなければならない所、船体そのものが伝導回路を成しているこの船は、この中央制御一つで済むらしい。効率的で実にハル好みだ。


「よし、せっかくだ、エンジンも一番強いのを何基も積んでしまおう」

「よっしゃ、いけいけ! 最強の船を作っちまえ!」


 ハルに感化されたか、乗り気になってしまった所長も含め、もう止める者が居なくなった『飛空艇建築』はやりすぎなモンスターマシンの一途を辿って行く。

 もはやすっかり、操縦者がまだ未定であることについてはハルたちの頭から抜け落ちているのだった。

 この暴れ馬の騎手を、いったい誰が務めるというのであろうか?





「よし、これで完成かな。あとは微調整だ」

「気ぃ抜くな嬢ちゃん! 細かな調整こそが、船の完成度を決める。そこには今までの何倍も時間を掛けるべきだぜ!」

「確かに。含蓄がんちくのある意見だ。それに関しては同意するよ」


 どんな作業においても、最も重要で最も楽しく、そして最も面倒な部分だろう。


「とはいえ、それは追い追い使いながらやっていきゃあいい。ひとまずここで完成を祝おうや!」


 しかし、ひとまずハルの飛空艇は起動可能な状態になった。システム的には、もうこの船は飛び立てる。


 感慨深さを覚えつつ、ハルはその船体をさらりと撫でる。

 ここに、大空を征くためのハルたちの船は完成を迎えたのであった。あとは、実際に飛ばしてみるだけである。

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