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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第682話 道がないなら

「さて、考えるべきは、ここを通路として誰かが使っているのはまず間違いないこと。しかしながら、ここには拠点となるような広大な空間は無いだろうこと」

「紫モンが居たもんね」


 そう、ユキの言うように、紫水晶によって呼び出されたモンスターが配置されていた以上、ここに何かあるのはほぼ確実だ。

 しかし同時に、鉱山経営のプロたちの見立てによれば、ここに隠れ住むような空間が無いことも確実。


 であるならば考えられるのは、ここにあるのは通路のみであり、拠点があるのは更に先、ということになる。


「あまりぐずぐずはしていられないね。番犬代わりのモンスターを排除してしまったのだから」

「えっ、モンスターをやっつけたから、じっくり調べられるんじゃないの?」

「そうもいかないんだよ、ワラビさん」

「警報装置も兼ねてるってこったな」


 アベルも当然といった顔でそう語るのが少し面白い。ハルの考えにずいぶん慣れてきたのか、それともアベルの居た世界においても、警報装置のような魔法が一般的に使われていたのか。


《急いで見つけないとまた逃げちゃう!》

《ん? 逃げ場があるのか?》

《出口がここ一つとは限らない》

《あ、そっか》

《山の裏側にもあるかも知れない》

《そっちから探すのは?》

《そっちってどっちだよ……》


 確かに、『そっち』が存在するならハルもそちらから忍び込みたいところである。

 しかし、情報がまるでない中では、ここから突入するより他に道はない。さすがに裏側を探す方が何倍も骨だ。その時間を待ってはくれないだろう。


「ただ、裏口の情報を考慮しておくのは無駄ではないね。周辺の地図はあるかい?」

「ございます。どうぞ」

「やるね」


 用意のいい責任者から、この鉱山の地図をハルは受け取る。

 それによれば、開発はまだ山の表側のみで、街から見て裏面はまだ手付かずの未開発状態。つまり自然のままのようだ。


 となると、裏側にある廃坑などに拠点を作り、そことこの坑道が繋がっているという線は消える。

 あくまで、自然のままの地形から潜伏地点を割り出さねばならない。


「……店で<解析>したアイテムの情報は、この山の中を指している。だから、ただの通り道ではないはずなんだ」

「生産施設がこの山にあるってことなの?」

「そのとーりだよワラびー! いや、私はよく知らんけど!」

あるじ様が言うなら在るの(あん)だろうな。知らない(しらねー)が」

「思考放棄やめて?」


 となれば何をまず考慮すべきかといえば、生活する際の必要物資だ。

 このゲームのNPCは、飲まず食わずでも比較的問題ないとはいえ、生活圏の作り方は現実の人間に準拠じゅんきょする。

 つまりは、生活資源の手に入りやすい位置に街を作るということだ。


 もちろん、今ハルたちが居る道からこっそり外に出て、そこから広がる街で買い物をしてアジトに戻る、という方法でも物資は手に入る。

 しかし、その方法ではアイテム欄に物を入れられないNPCには運搬コストが重くのしかかり、何より足が付きやすい。


「目立たないように生活している彼らにとって、大量の物資を店で買い入れるという調達方法はリスクが大きいはずだ」

「つまり、もう一つの出口があるなら町側じゃないってことだねハル君」

「そうなるね」


 ユキが隣に寄ってきて、のぞき込むように地図を確認し、指で街のある方向へと×(ばつ)を描く。


「……となると、そちらになるでしょうか」

「その可能性は高い」


 何かを察した責任者が、通路の右側、地図でいえば北東に当たる方向に体を向けた。街が広がるのは南側であり、山を挟んで完全に逆の方向だ。

 とはいえ対角線の位置ではなく、街もどちらかといえば南東に寄っていることから、歩いて行ける範囲ではある。


「山を挟んで反対の方が良いんじゃないのかな? ちがうの?」

「そっちには(にゃ)川が無い(ねぇ)。川がなければ森も無い(ねぇ)んだろうよ。もう一個の山も近そうだしな」


 ファンタジー世界の地理を肌感覚で理解しているアベルも同じ意見。割と何処に住もうが水道の存在に困らない現代と違い、ファンタジー世界では生活用水の確保は必須だ。

 このゲームにおいても自然とその法則を踏襲とうしゅうするようにマップは形成され、例えるなら砂漠の真ん中に大都市が配置されるようなことは起こらない。


「なーるほど。つまり右側の壁を重点的に調査すればいーわけだ」

「そういうことだねユキ(ユリ)

「ん? 待てよ?」

「どうかしたかい?」


《アジトが右でも、入口が右とは限らないんじゃ?》

《だよな、曲がりくねってるかも知れない》

《この通路と当たるのは左側かも?》

《それとも上かも?》

《正面かもしれない》

《おおっとー痛恨のミスかぁ!?》

《どうする名探偵ローズ!》


 確かに、目的地が右でも、この細い通路と接続するのが必ずしも同じ方向とは限らない。

 特にこの通路は、天然に出来た穴ではなく人工の物。自然な接続の仕方をする保証はないのはその通りだ。


「どーすんハル(ローズ)ちゃん?」

「オレならこのままこちらを調べます。どうあれ、こちらと接続する可能性の方が高いですからね」

「ん? ああ、最初から入口がどの方向と接続してるかは気にしてないよ」

「あっ」

「あー……」

「察しが良くて大変結構」

「??」


 まだハルとの付き合いの浅いワラビのみが、よくわからないという顔をしている。

 しかし、ここで登場するのはそのワラビだ。ハルは彼女に向けて笑顔を向けながら、彼女におあつらえ向きの仕事を依頼するのであった。


「じゃあワラビさん、思いっきりこっちの壁を殴ろうか」





「どんがらがっしゃーん!!」

「いいね。その調子その調子」


《やりおったーー!》

《力技だー!》

《推理とは》

《調査と閃きで入口を発見するものかと》

《推理とはパワー》

《筋肉は頭脳を凌駕する》

《閃き(物理)》


 腕の振りに合わせて輝く視覚効果エフェクトを散らしながらワラビが岩石の壁を打ち砕いていく。

 砕けた石が飛び散り体にぶつかるのも構うことなく、ワラビは自身が切り開いた、いや壊し開いた道をずんずんと進む。

 さほど間を空けることなく、坑道に横道が誕生し、新たな鉱脈が開拓された。


「あ、見て見て! 宝石いっぱい入って来た! ルビーだこれ!」

「良かったねワラビさん。でもよそ見すると危ないよ?」

「!! 上、崩れますよ」

「どっこい!!」

「……問題ないようですね」


 空洞を打ち抜いた特有の衝撃音に、責任者のNPCがいち早く気付く。あわや大惨事かと顔を焦りに歪めるが、当のワラビ本人には何の障害にもならなかった。


 彼女は壁を殴る腕を上へと方向転換し、頭上に落ちてくる巨岩を難なく砕いて割る。

 内部に封入されていた宝石や希少鉱物はそのままワラビのアイテム欄に収納され、後には体積を縮めた岩石の成れの果てがぱらぱらと散らばるのみだった。


「危なかったの!」

「ぜんっぜん危なげ感じねぇ……」


 もはや呆れ顔をするしかないアベルと、終始ヒヤヒヤ顔を苦笑いに変えるしかない強面こわもてのNPC。元の顔が怖いだけに逆にチャーミングさが出てすらいる。

 そんな男性陣とは真逆の満面の笑みで、ワラビはやり切った満足感溢れる足取りでハルの方へと戻ってきた。


「どうかな、ローズちゃん! いい仕事だったと思うの!」

「うん。よくやってくれたね、偉い偉い」

「えへ~。ぶいっ!」


 両手でピースサインを作り、ワラビはご満悦まんえつだ。

 まあただ、その両手には今もダンベルじみた重りを抱えているのと、こちらに向かう足は転がる石を(石というよりまだ岩だが)踏みしめて粉砕しているのが単純に『可愛らしい』と評するには難しいところであるが。


「けっこーおっきな穴に出たよ、調査してみよう」

「そうだね」


 ハルもまた自らの<神聖魔法>によって岩石の散らばる足場を破砕し整地しながらその空いた横道を進む。

 崩落ほうらくし口を広げた空洞をのぞき込むと、その中は小屋一軒ぶんくらいの広さはあるようだった。


「よっ、と。おー、広い広い。良いマス引いたねワラびん」

「どうかなーユリちゃんー! 道ありそー!?」

「叫ぶな叫ぶなー。反響するー」

「あ、ごめー……」

「ぱっとみなさそうー。ハル(ローズ)ちゃんー、魔法で照らして?」


 ハルが<神聖魔法>の光球を松明たいまつ代わりに空洞に放り込むと、その小柄な身を活かして内部に潜り込んだユキが行き止まりを報告してくる。

 広い空間は引き当てたが、ここはお目当ての隠し通路ではなかったようだ。


 入口を広く崩してハルたちも内部へ入って確認するが、確かに道はどこにも開いていないようだった。


「上の方に隙間は見えるけどねー。いや、ただの影かなありゃ?」

ユキ(ユリ)の言う通り、隙間はあるみたいだね。ただ、僕らが通れるほど広くはない」


 単に、岩と岩が噛み合いきらないだけの隙間のようだ。道と呼べるようなものではない。

 そういった隙間はいくつか存在するも、どこかに続いている通路のようなものは確認できなかった。


「よし! じゃあまた進もう!」

「……お待ちを、ここから先はもう少し慎重にいかねば、お嬢さんの怪力でこの部屋そのものが崩れかねません」

「がーん!! どうしよっかローズちゃん!」

「んー、まあ、別に部屋崩れてもいいけど。そうだね。先にこの隙間をくまなく調査してみるか」

「もしかしたら、どっかに通じてるかもね! ……でも、どうやるの?」

「こうする」


 そこでハルは、再び<召喚魔法>を発動する。ただ、今回呼び出すのはカナリアの使い魔ではない。

 坑道のカナリアを模すには良い機会だが、鳥を羽ばたかせるにはいささか狭いように思う。


「みー」

「ん、良い子だ。行っておいで」

「みー」

「うわ、なにこの子かわいー」


 どこからともなく現れたのは子猫の使い魔。ふとした拍子にアイテムを咥えて来ては去っていく、ハルのもう一方の使い魔である。

 器用に頭を隙間に潜り込ませると、猫は空洞の奥へと消えて行くのだった。

※誤字修正を行いました。(2023/1/14)

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