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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第681話 爆弾娘

 ハルの少し前で戦うワラビを中心に轟音が巻き起こる。

 彼女を中心に一つの塊となったモンスターの群れは、その塊ごと大きく持ち上げられたかと思えば、次の瞬間には思いきり地面に叩きつけられた。


 その衝撃たるや、発破用のダイナマイトが爆発した様子を連想するくらい。

 衝撃と振動は山を伝い、ハルが遠隔操作で監視中である他の通路の作業員が『どこのだ?』と反応するくらいだった。


「見たかー!!」


 ぐっ、と(もちろん重りを持ったまま)腕を高々と振り上げたワラビの前には、既にモンスターの姿は一匹も残っていない。

 後に残ったのは多量の紫色の光のみであり、やはりこのモンスター達は紫水晶から生まれたあのモンスターだということを裏付けていた。


「よし、次……、って、あっ、やばいの……」

「うん。ワラビさん、ちょーっと動かないでいてね?」

「ご、ごめんなさい~~」


 モンスターを固めた大槌おおづちを振り下ろしたその跡は、叩き割られた地盤がぽっかりと穴になり、口を開けていた。

 崩落ほうらくの危険があるというのは事実であったようで、それは何も天上から石が落ちてくるというだけではない。

 足元もまた、もろく崩れやすくなっていたようだった。


ユキ(ユリ)! あとは任せられるかい?」

「いいよー! よゆーよゆー」


 既に道の先に向かいハルからでは角度で見えなくなっているユキに大きく声を掛けると、本当に余裕そうな返事が返って来る。

 金属で金属を切断するような、鋭く硬質な音が何度か続いたかと思うと、すぐにユキが軽快にその身軽な姿を現した。


「とうっ! おお、こりゃまた派手にやったね! ワラびーすげー」

「お、お恥ずかしい。<怪力>が制御できなかったのだ……」


 明らかになったワラビの<修行>に続くスキル、<怪力>。その単純な呼び名が、日々基礎を鍛え続ける彼女に似合っているようだ。

 しかし単純だからといって誰もが辿り着けるかというとそうでもなく、現にハルもユキも、そして他の多くのプレイヤーもこのスキルを所持しているのを見たことがない。


エメ(イチゴ)

「《りょっ! 説明するっす! <怪力>はユニークスキルじゃあないですね。他にも数名、所持が確認されてます。ただ、名前の割に習得条件はかなり厳しいようで、本当に怪力特化のプレイヤーしか覚えらんないようっすね》」

「ふむ、なるほど? ステータスよりも、ロールプレイが重要って訳か」

「《そうだと思うっすよ! もし<体力>のステ依存で生えてくるんだとしたら、ハル(ローズ)様が持ってない訳がないですからね。ステの高さはぶっちぎりですもの。あとは、特化型か否かってあたりも関係してる気がしまっす》」

「なるほど、ありがとう、エメ(イチゴ)

「《うぃっす! では任務に戻るっす、オーバー!》」

「了解、任務に戻れ、オーバー」


 港で情報収集中のエメに、他のプレイヤーの情報について教えてもらう。

 生放送していたり、活動記録を動画や文章で投稿していればそれは全てエメの観測対象となる。

 そんなエメのセンサーにも、<怪力>の情報はほとんど無いようだった。名前のシンプルさに似ずに、難関のようだ。


 エメの言っていたステータスのバランスというのは、<体力><魔力><幸運>の三つのステータスの高低の差である。

 例えば、ハルは<幸運>が少し高くなっているが<体力><魔力>も負けず劣らぬ万能型。ハルの仲間たちも、それぞれ得意分野を持ちつつも万能型だ。


 一方、大抵のプレイヤーはそうした平均をとらず何か一つを集中して伸ばしている。

 ハルたちと違うからこれは失敗なのかというと、そんなことは全くなく、むしろ本来はそれが一般的だ。

 平均的に上げるとただの器用貧乏になりやすく、ハルたちはハルたちであるからやっていけるだけなのだ。


《ワラビーは分かりやすい<体力>特化だよな》

《特化型しか覚えられないスキルかー》

《そうした方が盛り上がるよな》

《<幸運>特化って居るの?》

《案外居るよ。<商人>とかほぼそう》

《なるほど。戦闘系しか見てなかった》

《バランスタイプは難しいよなぁ》

《どうしても最大火力が劣る》

《これからかもよ》

《大器晩成だ》


 まだまだ世界は大航海時代、大開拓時代。次のダンジョン、次の街へと、己の活動範囲を広げていくことを至上命題しじょうめいだいとしている。

 その攻略背景の中で、どうしても必要になってくるのは強敵に通用するだけの攻撃力の高さだ。


 先へ先へと進まんとするプレイヤー達を妨害する強力なモンスターたち。それを蹴散らすには、他のステータスを下げるリスクを取ってダメージ上限を伸ばす思い切りが必要になってくる。

 ただしやりすぎれば、相性の悪い敵に当たった時に手も足も出ないいばらの道。

 開拓が終わり、世界各地に飛び回って適宜てきぎ必要な場所で活動する段階になると、今度は苦労してくるだろう。


 バランス型はそこまで行くと何処でも通用するメリットがあるが、最前線には参加できないのがデメリットだ。


「<体力>特化のソロともなると、ワラビさんは大変だっただろうに」

「んなー、んあー、そうなんですけどー……」

「ここまでぶっ飛んでれば問題ない?」

「ユリちゃん、言い方っ! あとそれと、ガザニアは傾向的に物理系ばっかり、ってのも大きいかも?」


 地面に空いた大穴を調べると言って、鉱山責任者のNPCが降りていったのを話をしながらハルたちは待つ。

 一応、何かあったとき用に使い魔を一匹付けているが、特にモンスターが地面から奇襲してくるということは無いようだった。


 その責任者NPCが戻ってきて、ハルたちに調査内容を伝えてくれる。


「ちょうどこの真下に、空洞が空いていたようです。とはいえ天然洞穴に続くような大穴ではなく、これだけの大きさの空気溜まりだったようですね。よくあることです」

「ご、ごめんなさいぃ……」

「構いません。閉鎖凍結したエリアです。それにもし運営中であったとしても、既に侯爵様から保証はいただいておりますので」

「ローズちゃん、いくら渡したのだ……」

「さてね。むしろ掘る手間が省けてよかったんじゃない?」

「鉱山で働こうぜ、ワラびん?」


《その発想はなかった》

《いや、その発想してはいけなかった》

《山がぶっ壊れちゃう!》

《爆弾娘》

《爆弾(物理)》

《天職か?》

《もっと制御を練習しないとな》


「やらないよお! いや、実入りが良ければやるかも……」


 己の<怪力>に恥じらうワラビを横目に、ハルと鉱山責任者はこの空いた大穴を睨むように考えこむ。

 この穴自体はこれだけの物だが、この一帯が“そういった”エリアだということだ。


 先ほどのモンスターの件も含めて、そうした穴に何者かが潜んでいる可能性は非常に高いと思われるのだった。





「責任者さん。仮に僕が追う組織がここに拠点を作ったとして、生活を維持できるほどの大きな空洞はこのエリアにあると思う?」

「……さて、私は専門家ではありませんから。しかし、調査報告によれば無いとは言えません。先ほどのように、この近辺は空洞が多いため開発を取りやめました」

「あれが下ではなく上だったら、確かに怖ろしいね」

「はい。ただ、生活拠点となる大空洞が存在する可能性は、低いと思われます」


 それだけの空洞が口を開けていれば、さすがに調査の段階で気付くとのことだ。

 エーテル技術も、機械設備すら無いこのファンタジー世界だが、この世界には逆に魔法がある。

 そして、この国は職人と鉱山の国。そうした独自の地質調査は、非常に高度な技術を持っているのであろう。


「逆に、侯爵様にお聞きしてもよろしいか」

「なんなりと」

「仮にそうした大空洞があったとして、そこに居を構える不逞ふていやからはどのように出入りをしていると考えられますか?」

「ん? ああ、ここで仕事をしている人間が、その組織の一員じゃないかと心配しているんだね」

「……従業員を信じられない私をお笑いください」

「当然のリスク管理だよ」


 責任者の言いたいことは分かる。いかに闇に隠れ潜もうと、いかにこのエリアが無人であろうと、外に出る時にはかならず営業中のエリアを通る。

 そこで誰一人として怪しまれないというのは常識的に考えてありえないことであり、もしそれがまかり通っているのであれば、それは内部の犯行に他ならない。


「もちろん、潜入工作員がゼロとは断言しないが、少なくとも今内部で仕事をしている鉱員の中には怪しげな者は居ないね」

「……根拠は?」

「全員を目視で監視している。僕の飛ばしたカナリアがね。もし工作員が居たとすれば、僕らが番人のモンスターを駆逐くちくし、アジトの周囲に近づいているのは必ず察知しているはずだ」


 そして、その警報に際して一切なんのアクションも起こさないというのはあり得ない。

 いかに熟練の工作員といえど、人間であることに変わりはない。無意識に出してしまうサインを、しかも人の目が無い状態でも隠し続けられるなど考えにくい。


「まあ、勿論そういった人外の諜報員ちょうほういんも居ないとは言わないが、そんな逸材いつざいを配置はしないだろう」

「確かに」


 そんな優秀な者を単なる隠れ家の一つの監視に置くなど、とんだ無駄遣いだ。無視していい可能性である。

 もし組織全員がそうした熟練エージェントだとしたら、もうどんな国家も組織も対抗のしようがないだろう。その時は諦めよう。


「彼ら、彼女らは、透明化というか、気配を完全に遮断できるスキルが使えるんだ。それでこっそり、外部へと忍び出ているんだろうね」

「なんと」


 王城にまで忍び込んだ実績を持つ、強力なスキルだ。

 それを使って作業員たちの横を潜り抜け、ここまで移動してきたと考えれば自然である。


 さて、もしそうであるならば、どこかに入口が隠れているはずだ。

 ここからはハルの仕事。持ち前の推理と<解析>を使って、その入口を見事見つけてみせるとしよう。

※誤字修正を行いました。(2023/5/25)

 追加の修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/26)

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