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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第672話 新しもの好きな彼ら

 船を降りたハルたちを待っていたのは、予想外のガザニアの洗礼せんれいであった。

 ただ、それは悪い意味ではない。成金なりきんと白い目で見られ、あまつさえ石を投げつけられてしまう、などという事態は全くの杞憂きゆうに終わった。


 むしろ、大歓迎である。ただその歓迎の仕方が、予想とは少し異なった。


「すげぇ! アンタらの鎧、これ全部ミスリルか?」

「しかも非常に高品質な硬化合金処理してある。相当な腕の<錬金術師>が居るな?」

「同一の工匠こうしょうの手による作品か。ぜひお会いしたい」

「後ろのアンタらの服もすげぇな! こっちもミスリル銀糸たぁ! なぁ、触ってもいいか!」

「いいわきゃねーだろ、がはは! 気を付けろよ、そいつらお貴族様だぜ」

「あーあ、お前んとこへの発注はもうねーな」

「元々ねーだろ! お前んとこだってな。明らかに腕が格下の工房に誰が頼むってんだ、くははっ!」

「あんだぁ?」

「お、やるってか?」


《モテモテだ》

《ローズ様案件ないなった……》

《いや元から無いよね実際》

《餌に群がるコイ状態》

《金や地位より装備に注目(笑)》

《流石は職人の国だな》

《ガザニア語で『素敵なドレスですね』の意》

《港は社交場だった……?》

《品のない貴族だな(笑)》


 確かに、ある意味ハルたちの着るドレスの価値を、アイリスの貴族以上に正確に評価はしてくれている。

 向こうではせいぜい美しいドレスという評価の域を出なかったが、ここガザニアに着いた途端、本来の『装備』としての価値を正確に見抜いてきた。


「なるほど、確かに職人の国だ。今までミスリル銀糸に言及してくる人なんか居なかったよ。ああ、ちなみにお触りは厳禁で頼むよ君たち。依頼どうこう以前に、君らの首が飛びかねない」

「おお、こわやこわや。騎士さんたち、悪かったからそんな恐い顔で睨みなさんな」


 ハルたちお嬢様組に詰め寄って来ようとする職人NPC連中を、アベルたち騎士組がかばうようにしてガードする。

 アイリスにおける<貴族>の威光が通じないのは確かなようで、それでも彼らは対して怖気おじけづかなかった。

 引き離されたら引き離されたで、今度は騎士プレイヤーたちの装備をぺたぺたと触っている。


「……おい、確かにオレらの鎧を触るなとは言わなかったけどよ」

「悪い悪い、つい、な?」

「ついじゃない(ねぇ)が……」


 ゲーム外では王子様であり、基本的にこんなに気安くされることの少ないだろうアベルも困惑気味だ。


 もっと陰気な者たちを予想していたと言うと失礼だが、こんなに積極的アグレッシブだとはハルも思っていなかった。

 事前調査でエメにいくつか分かりやすいガザニアプレイヤーの放送を抽出ピックして貰い見ていたハルだが、その中ではもっと落ち着いた印象であった。

 それは中央の映像だからだろうか?


エメ(イチゴ)、この辺りは普段からこうなのかい? 事前に知っておくべきだったかな?」

「いやー、基本的な国風って街が変わってもそう変わらないはずっすよ? アイリスでもそうだったじゃないですか。ほら、どの街のNPCであろうと、ハル(ローズ)様がちょっと奇跡見せれば簡単に崇拝しまくってくるチョロさでしたし。にひっ」

「その共通点で理解できてしまうのが嫌だ……」

「まあ、裏を返せば、このまま首都に行ったとしても“こう”なんでしょーね」


 確かにそうなる。まるで、金持ちを見つけた時の商業の国のような反応。それを避けてこちらガザニアを選んだというのに、ガザニアでも結局そうなったというのは皮肉である。

 ただ、ガザニアNPCのそうしたスイッチを押してしまったのはお金ではなく、この装備のようである。

 高級品という意味では同じだが、見ている所は違うようだった。


「……君たち、装備品を見ると毎回そうなるの? 身が持たないだろ、そんなんじゃ」

「そうですねー? ショップに並ぶレア装備や高レベルNPCの専用装備の多くはガザニア産だと聞きましたー」

「そうした装備をつけた方々と会うたびに興奮していては、確かに疲れてしまうのです!」


 それに、それが理由であれば今までもこの反応は確認されているはずだ。

 ハルたちだけが特別こうしてトリガーを引いてしまったのには、何かしら訳があるはずである。


「そうだな、つい興奮しちまった」

「当然、俺達も装備なら何でも良いって見境みさかいなしじゃあねぇぞ」

「むしろ見飽きとる」

「違いない」

「見れば何処の工房のモンかだいたい分かるしな」

「『ちっ、またガンツのトコか』、ってかぁ?」

「うっせーな、そーだよ」


《なんだか俺らみたいな人たちだ》

《一緒にしないでください》

《いいえ、一緒です》

《俺らもやるか、煽り合い》

《やめろ、ローズ様の配信だぞ》

《申し訳ございませんわ》

《お上品にいきますの》


「楽しそうだね君たち……」


 ハルとしては少々困惑気味だ。仲間の女の子たちも、基本的に人混みに慣れてはいない。

 お姫様であり、ずっと静かな生活をしていたアイリはハルに後ろから抱き着くように隠れてしまった。

 お嬢様のルナは人を寄せ付けない天性のカリスマで威圧しており、カナリーは我関せずのマイペース。

 大人数に慣れているユキも、乱戦は好きだが体の接触は好きではない。


 物怖じせず一歩前に踏み込んでいるのはエメくらいなものだ。


「んじゃ、つまるところ、わたしらの装備に食いついて来たのは、どーゆーことなんすか? 珍しいっすか、珍しかったっすか? いやー、分かってますねえ。これはそんじょそこらの店には出回ってない、完全な一品ものっすよ」

「だろうな、見たことねぇ。だから気になっちまってよ」

「お、装備のことなら何でも知ってますって顔ですねえ。その傲慢ごうまん、身を滅ぼさないっすかねえ~」

エメ(イチゴ)、お前までケンカ売るな……、むしろ無知を素直に認める謙虚さでしょ、これは」

「ははっ! そんな上等なもんじゃねぇさ! 変わったモンに目がねぇだけよ、俺らはな」


 つまり、自作のオリジナル装備、それらの質や方向性、もしくはこの人数で固めた量が原因であろうか? それらを着てガザニアに来ることが、このイベントを発生させる条件だったということだ。


《流石はお姉さま。持ってる》

《今回はイベント発生させる気はなかったのにね》

《それでもイベントの方から寄ってきてしまう》

《目立つ気はなかったのに(笑)》

《カゲツ行ったら金持ちが評価されてるし》

《どっち選んでも詰んでる》

《贅沢な詰みだな(笑)》


 確かに、どちらを選ぼうが穏便に調査を進めるという目論見はご破算に終わっていた。

 ただ、放送が盛り上がるという意味ではこうしたイベントも悪くない。むしろ有り難い。


 さて、どうせ発生してしまったイベントならば、有効活用するべきだろう。

 ハルは謎の組織調査の起点を、彼ら職人たちから始めることに狙いを定めるのだった。





「ほぉー、つまり、嬢ちゃんは見る目がない国から追い出されるようにして、この国まで来たってことか」

「止めちまえ辞めちまえ、そんな国! そしてうちに来い!」

「いいのか、そんな安請け合いして? そう見せかけたスパイかも知れんぞ!」

「だいじょぶじゃろ。装備を見れば、製作者の人となりは分かる」

「お嬢ちゃんが作者とは限らんだろ」

「未熟じゃの。これらの装備、素材を組み上げたのは全てお嬢さんの手によるものじゃろう?」

「その通りですよ、ご老人。流石にお目が高い」


 ハルたちは大勢の職人に連行されるように、港町にある職人ギルドにて話をすることになった。

 どうやら寄ってきた彼らの中にここの責任者がいたようで、問答無用で会議スペースを占拠してしまった。横暴である。


 ……というか、良いのだろうか、責任者がそんな風に遊んでいて。

 港に居たのも、積み荷に関わる仕事の為だと推測できるのだが。


「……まあいいか。ともかく、確かに素材の<錬金>は僕の手によるものだよ。仕立ててくれたのは僕じゃなくて、このルナ(ボタン)の仕事だね」

「私は言われた通りに材料を組むだけよ?」


 ハルはスキルの実演(デモンストレーション)に、アイテム欄から何の変哲もない『鉄鉱石』を取り出すと、手の中に包むように覆い隠す。

 そのしなやかで小さな手に包み込まれた鉄は光を発し輝きはじめ、その輝きが収まるとその手の中には小さな『ミスリル』へと入れ替わっていた。


「どうかな。中々の手品だろう?」


 種も仕掛けもない、<錬金>によるマジックショーである。

 もう普段から幾度となく繰り返してきた生産工程。こうして安い鉄から生み出されたミスリル素材は、そのまま売却するだけで、コストを差し引いたとしてもかなりの儲けが出る。

 まさに、『錬金術』と言って差し支えない。


「こりゃすげぇ手品だな! 鉄を圧縮してミスリルにしちまうとは! がははっ!」

「ぷっははっ! どんな握力だっての!」

「嬢ちゃん、細腕なのに俺らより筋肉あるな?」

「し、失礼ですよ皆さんっ」

「僕の握力が気になるかい?」


《あっ……》

《終わったな》

《レディーに筋肉とか言うから》

《だ、誰か手出せよ……》

《ローズ様と手を繋げるチャンスだぞ》

《お、俺は遠慮しとこうかなぁ》

《こ、今回はお前らに譲ってやるよ》

《どうぞどうぞ》


 視聴者の方が余計に失礼だった。まるでハルが人の腕を握りつぶす乱暴者であるかのようだ。

 淑女しゅくじょたるもの、そんな野蛮なことは行わない。代わりに、再び鉄鉱石を取り出して、今度はスキルを使わずそのまま握りつぶした。


「ひぃ!?」

「砕き割りおった!」

「い、今のこそ何かの手品だろ……?」

「……いや、スキルを使った反応は一切見られておらぬ」

「つまり、純粋な筋力ってこと!?」

「まじかよ……」


 美しい女性の見た目ではあるが、そのステータスはもはや人外のもの。

 膨大な<体力>値からくる握力も、素手で容易に鉄を握りつぶすレベルであった。男の子ドン引きである。


「申し訳ない。たわむれが過ぎた。っと、おや? 素手で握りつぶすだけでも、別のアイテムに代わるんだね? 『ダマスク神鋼』、ダマスカスの一種かな?」

「……何から何まで、非常識な娘さんじゃわい」


 ただの遊びのつもりだったのだが、新たなアイテム生成ルートを見つけてしまった。

 さて、遊んでばかりでまるで話が進んでいない。そろそろ彼らに、この地に来たそもそもの理由について尋ねてみるとしよう。

※誤字修正を行いました。(2023/1/14)


 追加の修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/25)

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