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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第668話 証拠品の押収を行います

「また課金に頼ってしまった……」

「決めゼリフみたいにすんの止めてくれん?」


 打ちあげたモンスターの巨大な体は、最後は『神罰』による天からの打ち下ろしでその生に幕を閉じた。

 全て打ち上げ技で決められなかったのは残念だが、空中コンボ(エリアル)から叩きつけ(ダウン)に繋げ締める流れもまた王道だ。そういうことにしておく。


 それに、この『神罰』のもたらす効果はダメージだけではない。

 神の奇跡を目の当たりにしたNPCが、<信仰>の術者に対して抱く感情値が非常に良くなる傾向がある。

 特に今回は、首都中の住人がほとんどその戦闘の一部始終を観戦していた。効力は絶大だろう。


 そんな首都防衛の仕事も終わり、ハルは城の頂上部から中庭へと華麗に降り立つ。

 本来なら風圧でキャラクターのスカートが大変になるところだが、このゲームでは厳重に保護されているので安心だ。

 普段の見る側としては残念かもしれないが、今は我が身のことなハルである。その仕様に感謝であった。


「さて、これでやっとひと息つけるかな。まだ街の混乱の収拾があるけど、それは騎士団に任せていいだろうし」


 さすがにひと息つきたいハルだ。唐突なモンスターの大軍の襲撃から始まり、カドモス公爵の捕縛、超巨大モンスターの撃破と、処理能力をフル回転させすぎた。

 そもそも襲撃の前、裁判イベントから事は始まっているのだ。


「見てる君たちも疲れただろう。お疲れ様。長くなったけれど、今日はこのあたりで締めくくりにしようか」


《うおー、完走したぁ……》

《完全勝利おめでとう!》

《ローズ様お疲れ様!》

《長くなったのは全部ミナミが悪い》

《途中見逃した! 後で見返そう》

《終わるかー》


「ちょーっと待ったぁ! 一つ忘れてることなーいぃ?」


 ハルとその視聴者が解散ムードになっていると、今回のイベントの企画者とも言えるミナミが大声で待ったをかける。

 なにか、やり残しがあっただろうか。壁外のモンスターは全滅し、ボスも倒した。

 街のNPCの混乱状態も、じきに終息していくだろう。報酬の配分などは、それぞれの参加パーティごとにすればいい。


「どうしたんだいミナミ。まさか、まだモンスターが湧いてくるとか言わないよね」

「さすがにそりゃーダルすぎでしょ。そーじゃなくってさぁ、その子、どーすんの?」


 ミナミが指さしたのは、メタが捕縛しその足元に倒れ伏す小柄な少女。

 そう、少女のようだ。顔を覆い隠していたフードはメタによってめくり上げられ、幼さを残しながらも美しい顔があらわになっている。


 麻痺させられ拘束され転がされている状況においても、その鋭い視線は力を失っていなかった。


「ふむ? 生意気そうな子だ」


《生意気だと、どうしちゃうんです!?》

《屈服させたくなる?》

《ローズお姉さまによる尋問ショー》

《名調教師ローズ様のわからせ配信》

《素晴らしいな》

《黒髪ボブ暗殺者とか運営も分かってる》

《番組はこのあとすぐ》

《すぐはもう体力もたん(笑)》


「確かに、処遇を考えないといけないけど。でも、すぐにどうこう、という予定はないね。公爵と一緒に引き渡して、それで終わりだ」

「えー、大丈夫かぁローズちゃんそれさぁ? 闇の組織のエージェントなんだろこの子。通常の警備じゃ脱獄しちゃうかも!」

「かもね」

「かもねっておいおい。あー……、ローズちゃん的には逃げても問題ないのか……」


 実のところ、問題ないと思っている。本音を語っていいなら、逃げた方が次の展開に繋がるとすら思っていた。

 どうせ、彼女が口を割って謎の組織に関する新情報が得られた、などというイベント展開は起こるまい。そんなに甘くはない。


「僕らが直々に尋問することも出来ないだろうしね。視聴者が妄想しているような内容はもとより、過激な尋問そのものがゲーム的にNGだ」

「ま、そりゃそうだ。つーかもしOKでも、そんなん配信で流せるわきゃないっしょオメーら!」


《えー》

《残念だ》

《ミナミの配信者生命と引き換えに流して》

《伝説になろ?》

《歴史の一ページになれミナミ》

《お前のことは忘れないよ……》

《YOU BAN》


「しねーっての! ……でもローズちゃん? ようやく掴んだ情報源から、何も得られなくっていいのかぁ?」

「まあ、僕なりの方法でなるべく迫ってみるさ。メタちゃん?」

「……にゃ!」


 ハルが諜報ちょうほう少女の傍らにて待機しているメタへと声を掛けると、ぴこぴこ、と猫耳を揺らしながらメタがその意を汲む。

 横たわった少女に覆いかぶさるように、その瞳を怪しく爛爛らんらんと輝かせて詰め寄っていった。





「ひっ……」

「……ふみゃ~~っ?」


 そのメタから発せられるある種の不気味さに、気丈を決め込んでいた少女もさすがに声を漏らしてしまった。

 普段は猫として生活しているメタなので、獲物を前にすると割と容赦がない。そんな捕食者の迫力が、知らず知らずのうちに表出しているのだろう。


「……く、にゃ! 剥くにゃ!」

「なっ、ちょっと、やめろ……」


《なんかえっちだ……》

《これがキャットファイトってやつか》

《ちがいます》

《何で脱がせられるの!?》

《NPCの服に手を掛けるの禁止じゃなかった?》

《ちょっと触るくらいはオーケー》

《俺がやったら衛兵呼ばれるけどな……》

《かわいそう(笑)》

《女の子を脱がせられるスキルがあるんですか!?》


「言い方に気を付けようね君たち。最近特にね? まあ、今の状況が気になるのは仕方ないけどね」

「フツーに気になる。装備強奪スキルなんかあんの?」

「そうだね。本来は<盗賊>系統のスキルなんだろう。メタちゃんの<隠密>から派生して習得したものだ」


 プレイヤー、NPC問わず、その身に着けている装備を盗むスキルをメタは習得していた。

 これは今ハルが口にしたように本来<盗賊>などの<役割>を演じているプレイヤーの覚えるだろうスキル。

 言い方が曖昧あいまいなのは、盗賊ギルドなどに属するアウトロープレイヤーは現状あまり情報を放送に乗せていないからだ。


「とはいえ戦闘中に敵の装備を奪い取り無効化できるほどの強力なスキルではない」

「だが逆に、拘束し無力化した敵が相手ならご覧の通り、って事かぁ」

「その通り」

「……剥く、にゃ!」

「くっ……!」


 少女は装備を全てはぎ取られ、諜報員からありふれた町娘へと様変わりした。これが基本の服なのだろう。

 装備を奪うとは言っても、さすがに服を全て奪う訳ではない。『これ以上奪えない』、というラインは、徹底されている。


《盗賊になれば女の子の服を奪えるんですか!?》

《俺も<盗賊>でゲームスタートする!》

《そこだ、その服も奪うのだ!》

《そろそろBANされるよ?》

《はい。すみません》

《やっぱり面倒なんで見てるだけにします》

《意思弱すぎだろ(笑)》

《多分これ以上奪えないよ》

《厳しいからね、このゲーム》


 とはいえ潜入の為の装備を根こそぎ奪われて、拘束され涙目で横たわる美少女には妙ななまめかしさがある。

 あまり彼女を放送に乗せたままにするのはよろしくなさそうだ。

 用は済んだし、早めに騎士団に引き渡してしまうのが良いかもしれない。


「よし、メタちゃんおいで。その子は後は城の人に任せよう」

「……ふみゃー」


 一仕事終えた満足げな顔で駆け寄って来るメタと、全てを奪われ悔しそうな瞳でこちらを睨む少女が対照的だ。

 彼女はこの後、騎士団に捕縛され厳重な監視のもと隔離かくりされることになるだろう。

 その後の調査がどうなるかは分からないが、もとよりハルはその結果に期待していない。


「用事があるのは彼女のこの服だねむしろ。ありがとうメタちゃん」

「……へんたいさん、にゃー?」

「違うよメタちゃん? 愛らしい声でそんなこと言わないの」

「……ごめん、にゃー?」


 別に服に用があると言っても倒錯趣味フェチズムめいた何かではない。

 嘘か誠か分からぬ彼女からの証言よりも、物的証拠から得られる情報の方が何倍も雄弁ゆうべんだからだ。

 現実でも同じである。科学調査の発展は凄まじく向上し、物理的犯罪が発覚すればその犯人は基本的に証拠の隠滅いんめつは不可能になったと言い切って構わない。


「この装備品に、<解析>を使う。それによって、色々と明らかになるはずさ」

「なるほどなぁ。確かにローズちゃんには、それがあるか。産地とか見えんの?」

「ああ、何処で作られたか、誰が作ったか、素材は何を使用したか、全部見えるよ」

「うわえげつなっ」


 騎士団に引っ立てられていく少女を見送りながら、ハルはミナミと視聴者に装備を奪った理由を説明していく。

 それらの情報が明らかになっていけば、彼女の属する組織の本隊のような部隊の隠れ潜む場所も見えてくるかも知れない。


 いくら闇に潜む謎の組織といえど、物資の全てを自給自足することなど不可能。必ず外部と接触する場面が出てくる。

 そのルートを逆に辿れば、いずれは大元に辿り着く。

 メタたちが『装備強奪』スキルを覚えたことによって、そうした調査法が新たに可能となった。


「とはいえ、それはまた次回の放送でやることにしよう。今日のところはこれまでだね」

「うぃーっす、お疲れローズちゃん! んじゃ俺も、閉じてくっかなぁ」


 ひとまずの後始末も終わり、本当にイベント終了の空気感になる。

 街はまだまだ祭りの後のプレイヤーで賑わっているが、ハルたちの放送はここまで。後は彼らに任せよう。


「あっ、ところでさ。その子のスキルって装備以外のアイテムとかも奪えんの? 例えば、紫水晶を所持してたりとかしたら!」

「それはまだ無理だね。現状は、装備だけだ」

「ほーん。万能じゃあないんだなぁ」


 ミナミが予想していたのかどうかは定かではないが、諜報員の少女は、その後すぐ隠し持っていたアイテムにより逃走を図ったそうである。

 本当に、抜け目のないことだ。

※誤字修正を行いました。「収束」→「終息」。普段は収束を専ら使っているからか、何の違和感も持っていませんでした。普通は逆かも知れませんね。(2023/1/14)


 追加の修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/25)

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