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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第667話 花火大会の終わりには

 立ち上がり、再び足元に向けてビームを放とうとチャージを始めた巨大モンスターに対し、カナリーとエメは再びバランスと崩さんと攻撃を仕掛ける。

 ただし、今度は上半身に向けてだ。


 無防備な背中側から次々と体当たりするように、強力な召喚獣や<攻撃魔法>が突き刺さる。


「《いけーカナリー(ルピナス)、そこっす! 今度は『風属性』でふーふー押し込むっすよ! まるで嵐で強風の日に頑張って傘を差してる人みたいなポーズにさせてやるといいですよ! あ、分かります? この例え? 傘を盾にして前かがみのポーズっ!》」

「《わかりますからー、やんなくていいですよー。エメ(イチゴ)はもー》」


 己の背後から、容赦なくぶつけてくる強力な衝撃の数々に、怪獣はまるで体を縮こまらせて耐えるようなポーズで身を丸めていく。

 なかなかシュールな光景だが、本人にとってはこれも問題のない状況であるらしく、対処しようとする様子がない。


「口が地面を向いてるからね。そこさえ守れていれば、他のあらゆる障害は些事さじとして無視してしまう」

「ほー、『自爆』で命令が止まってる弊害へいがいだなぁ。そこを上手く突かれちまった、ってことか」


 そう、命令を与えるべき指揮者がメタの攻撃により行動不能になった。そのため、状況に変化が起きても新たな対処が出来なくなっている。そこを逆に利用した。

 今は足元に向けて火炎が吐ければ何でもよく、押し込まれた上体を起こそうとすらしていない。


 そんな折れ曲がった巨体の下から、打ちあげるようにハルの<神聖魔法ビーム>が突き刺さった。


「あー、嘘つきですこの人ぉ! さっきは下から反射出来ないって言っていたのに、これは問題ですねぇ!」

「やかましい。嘘は言ってないよ。あれはビーム同士で撃ちあう場合のことだ。こちらから一方的に撃ち込むならば、その限りではない」

「そーだなぁ。今は怪獣の体も馬鹿みたいに折れ曲がってるし、下から行きやすいよな」

「分かってるなら言うなと……、さて、『浮いた』ね」


《始動入った!》

《空中コンボの開始だ!》

《浮かねぇ!》

《そりゃ重いだろう》

《少し浮き上がっただけでも凄い》

《やっぱあのビームも威力ヤバイ》

《どーなるこっから!》


 怪獣の巨体はビームの威力に押され、ぐわりと宙へ浮く。

 だがその重さは見た目通りで、そのままではすぐに地面に落下してしまうだろう。


 それだけでも通常の戦闘なら十分なチャンスだが、今はダウンを取って無防備なところを袋叩きにするのが目的ではない。

 目的は落とさず浮かせ続けること。『空中コンボ』の開始である。


カナリー(ルピナス)、姿勢が悪いね、足側を持ち上げてくれる?」

「《はいはーい。えいやー》」


 気の抜ける掛け声と共に、再び地面がくいのように打ち上がり、怪獣の足側を持ち上げる。

 それにより全身が均等に持ち上げられ、言うなれば地面に対しうつ伏せになる姿で宙へと浮かんでいることになる。

 ただし、もう二度と地面に寝かせてやるつもりはない。


「よし、ブースター点火だ。振り切れ引力!」


 ハルはぽっかりと空いて隙間になった怪獣と地面の間に、すかさず使い魔たちを潜り込ませる。

 そうして入り込んだ大量の小鳥たちから、ミサイルと化した刀装備を一切の惜しみなく発射し続けた。


「ハハハッ! いいぞ! 重力なんてこの世界では弱い力、本当のエネルギーって奴を見せてやろう!」

「ご機嫌のとこ悪いけどさぁローズちゃんんっ! 地面! 地面がその本当のエネルギー様で削れてるし何なら小鳥ちゃんも吹っ飛んでるぅ!」

「ん? ああ、このくらいの破壊は仕方ない。必要な犠牲だ。使い魔もすぐに補充できる」

「コラテラルダメージいただきましたぁ!」


《必要な犠牲です》

《ご理解ください》

《まあ、確かにビームが直撃よりは軽い》

《使い魔全滅したけど!?》

《あ、本当にすぐ追加された》

《すごいなー》

《<召喚魔法>のコマンド面倒なのに》

《よくあんな連打できるね》

《プリセット登録してるんだろ》

《また刀ミサイル!》


 製作費用をまるで考慮しない爆弾剣の連打で、巨大なその身体が徐々に高度を増して行く。

 既に爆風は地面には届かず、その身の下へと悠々と潜り込める高度が稼げていた。


「《いまですよー? いけー、魔法を撃ち込むんですよ~》」


 のほほんとしながらも、しかし一切の躊躇なく、カナリーが先陣を切ってその空いた懐へ潜り込む。

 そして真下から強力な<攻撃魔法>を発射すると、その勢いによって巨体は更に少し宙を舞った。


 その姿を見て、自らが何をすべきか悟ったのだろう。この場に集ったプレイヤー、その中でも<魔法使い>タイプの者たちはカナリーに続く。

 次々と怪獣の下へと『入場』していき、思い思いに得意とする<攻撃魔法>を放ち始めた。


「ひゅう! 確かにこりゃ花火だなぁ! 全力の魔法がこれだけ一斉に発射されっと壮観だぁ。近くで撮りてぇ~~!」

「それは、参加者の特権って奴だね。僕らは、遠くからの景色で我慢しよう」

「いやいやローズちゃん! やっぱ花火は、遠くから見てなんぼってモンよ! しかもお城の屋根の上からとか特等席じゃね?」


《物騒な花火だな(笑)》

《しかし綺麗だなー》

《各属性混じってカラフルだしね》

《おー、どんどん浮いてる》

《こんなに一方的に浮かせられるのか》

《この人数で連携するの普通無理だけどな》

《アイリスプレイヤーが無差別に集まってるもんな》

《国の対抗戦とか、これが自分目がけて飛んでくる》

《怖いこと言うなって》


 実際、それがこの世界の戦争風景になるのだろう。その時は綺麗だなどと言っていられない。

 まあさすがに、こんな密度での絨毯じゅうたん爆撃などそうそう実現しないだろうが。


 そんな、主義も主張も問わない、『レイド報酬』の為だけに集い結束したプレイヤー連合。その容赦のない魔法攻撃によりモンスターの高度はどんどん上がっていく。

 近接部隊もハルのばら撒いた爆弾武器を拾い、それを投げつけると次々に炸裂させている。

 もう、ハルが自分でアイテムを放つ必要はなく、投げたいプレイヤーにむけて供給するのみだ。


「大盤振る舞いすぎねぇ? ローズちゃん、今ばら撒いてるの総額いくらになるよ」

「さて? まあ、問題ないさ。どうせ僕らじゃ、そんなに使う場面なんてないんだ。死蔵するより、武器は使ってなんぼだよ」

「自分で使っちゃえばいいのになー。普通ならここ、近接は指くわえて見てるだけよ?」

「せっかくの祭りだしね。参加しないと」


《お優しいなぁ》

《またファンが増えるな》

《つまり広告費?》

《そう考えると惜しくない?》

《いやそれでも高すぎ》

《実際、レベル上げの副産物だしね》

《在庫整理》

《低級は溜まっていく一方だし》


 実のところ、ハル一人が活躍し報酬を総取りするのが短期的に見れば最も得ではあるのだろう。こんなに武器を消費する必要もない。

 ただ長期的に見れば、『またあの人が報酬をさらって行った』、という不満が出るのは避けられない。

 あの太陽を含めれば、ハルが無双するのは二度目だ。


 そのリスク管理のため、このお祭り感を演出しているところは大きい。

 あまりハルに敵愾心ヘイトが集まってしまうと、ハルの力の根幹である『人気』にも影響が出る。


 そんな全員参加型のお祭り騒ぎ。もはやプレイヤーだけではなく、魔法の腕に覚えがあるNPCも加わって盛り上がりは最高潮だ。

 そのまま空中で怪獣が撃破されて終わりかと誰もが思い始めた頃、その巨体の下に集った彼らの表情を固まらせる事態が勃発ぼっぱつした。





《あっまずい》

《ビームチャージが終わった》

《これ直撃です》

《真下の虫共をやきはらえー》

《全滅か?》

《ローズ様、これを狙って……》

《ライバルは一掃だー》


「狙ってない狙ってない。人聞きの悪いこと言うの止めようね君たち」

「いいぞぉ、こうやって偏向報道と風評被害は生まれていくんですねぇ……」


 何もよくなかった。勘弁して欲しい。

 それはともかく、当然だがこの事態は織り込み済みだ。怪獣は浮き上がる前から、その口にエネルギーをチャージしている。発射前に撃破できるとは思っていない。


 ならばハルの方も当然、次の<神聖魔法>をチャージ中である。


「自分からジェット噴射もしてくれる。話の分かるロケットじゃないか」

「いや、ロケットは普通自分で噴射するんよね。地上からの爆撃頼りにはしないんよね」


 もっともなツッコミである。あのミナミも真顔になるレベルの常識。

 そもそも、この敵をロケットに例えたのはこれがやりたかったから、というのが大きい。自らの火炎の威力で、空に打ち上がらせてみたいという遊び心。


 誰しもあるだろう。何か開発者が想定していない遊び方を思いついてしまったら、手間やコストを度外視にしてもそれを達成したいという欲求が。

 ……誰しも、は無いだろうか? ハルだけかも知れない。


「……まあいいか。第一段燃焼停止。第二段の点火だ」

「ローズちゃんって、宇宙好きだな?」


 だいぶ好きである。自分で宇宙船を作ってしまう程度には。

 逆に言うと、この宇宙が遠くなったこの時代、ハルが宇宙が好きだと察するミナミもそれなりに同様な趣味を持っていると言っていいだろう。


点火イグニッション


 今はそこには突っ込まないまま、ハルは点火スイッチとなる<神聖魔法>を発射した。


 放たれた光のビームは例によって空中で反射し、炎のビームと真正面から衝突する。

 技の威力はハルが勝り、炎ごとモンスターの体を押し上げて行く。踏ん張りのきく地面がない空中、自分の吐く炎によって怪獣は空を飛ぶ。

 まずいと分かっていても、『地面に向けて撃て』という命令が与えられているままなので、止める選択肢がないのだ。


《いっけーー!!》

《このまま宇宙へ!》

《第一宇宙速度突破!》

《いけいけかいじゅーじぇっと》

《……あっ》

《燃料切れた(笑)》

《落ちるー!!》

《下の人逃げてー!》


 ただ、その放射はもちろん無限には続かない。安全な位置から見る敵のビームは驚くほど短い時間で『燃料切れ』となり、最後にはハルの<神聖魔法>が突き刺さる。

 その直撃を受けても、まだ撃破には至らなかったようで、推進力を全て失ったロケットはあわや墜落の大惨事だ。


 下のプレイヤーたちも完全に観戦モードに入っており、とっさに再び迎撃の魔法をコマンド出来る者はほとんど居なかった。

 ハルも当然、二射目は間に合わない。


「……仕方ない。今回こそ、これに頼りたくはなかったんだけど」


《おっ、来た? ついに来た? まあ、アイツもうHPほどんど残ってねーから、今回はこんぐれーかな? お安くしとくぜぇ、お兄ちゃん!》


「国としては綺麗な終わり方なんだろうけど、なんだか負けた気分だ。……『神罰』、起動」


《本日もご利用いただき、まことにありがとうございまぁすっ!》


 ハルが<信仰>に現金エネルギー課金チャージすると、待ち時間ゼロですぐさま神の怒りが発動する。

 今度は天から落ちる神聖な輝きに焼かれ、敵モンスターは大爆発で首都の空を染めながら消滅していったのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/25)

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