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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第649話 何度目かになる王への謁見

ハル(ローズ)、どうかしたのかしら?」

「いや、我が身をかえりみていた。偉そうなことを言ったものだなと」

「気にすることはないわ? お説教なんてそんなものよ?」

「いや、お説教したつもはないんだけど」


 ただ、少し自分のことを棚に上げて、この国の問題点について指摘しすぎた気もするハルだ。

 先ほど指摘した問題は、そのままハル自身にも帰って来る部分がある。


 例えば、権力構造のトップである王族を、更に上位から見下ろす立場であったりだとか。


「えっ、リアルじゃアンタら、そんな立場高いの? 俺、大丈夫、消されない?」

「大丈夫だよミナミ。君など眼中に無いから」

「ひっどぉ! ぶっちゃけその通りだと自分でも思う訳ですけどぉ、ええ!」

「そもそも、そんな心配をするなら付いて来なきゃ良かったのに」

「せっかくの新居ぶっ壊しちゃったのアンタでしょーがぁ!」


 そう、ミナミのようやく手に入れたセーフハウスならぬセーブハウスは、この度の撤収に伴い破壊されて瓦礫ガレキと化してしまった。

 そうなってはもう、家のていを成していない施設は復活地点として使えない。

 ミナミは再び、宿を探す家なき民へと戻ってしまったのだ。


「次は王城かぁ……」

「やったねミナミ。最高に豪華なホテルじゃあないか」

「敵のうじゃうじゃ居る所でもあるけどな! とはいえ、ついて行くしかないのが俺の立場の弱さよ……」

「まあ、悪いようにはしないさ」


《ミナミ、弱い》

《ミナミ、なさけない》

《軟弱男》

《ローズ様たちと相乗り出来るだけでも幸運》

《立ち位置だけ見れば主人公ポジなのに》

《まったくそうは見えない》

《男としてNPCに負けてる》


「いいんだよ! このうるわしい車内の絵を配信に収められただけでも収穫なんだから!」

「それでいいのか君は……」


 まあ、ある意味、配信者のかがみとも言える。自分の身を犠牲にしてでも、放送映えする内容を追い求める。


 さて、そんな美少女たちの揃った麗しの馬車は、異物一人を乗せつつも快適に王城への道を進んで行った。

 内部の造りは非常に豪勢であり、また快適。少しの揺れも感じない優雅な空間となっている。

 ドレス姿のお姫様たちを集めて、お城の舞踏会へと向かう馬車は、白馬の代わりに白竜がく。

 前後には神官騎士と聖騎士が固め、内部の貴人たちの重要度を物語っていた。


 そんな、王族もかくやというパレードじみた行進を一目見ようと、大通りの脇には首都の住人たちが詰めかけてきている。


「……派手だなぁ。アンタ、いつもこうやってパフォーマンスしてるワケ?」

「そうだね。パフォーマンスは重要だ。特にこのゲームではね。己の立場を周囲からも承認されることで、その<役割>はより強固なものになる」

「つってもなぁ。俺なんか、顔出して街歩いたところで、『えっ、誰?』って反応だしなぁ」

「プレイヤーには人気だろう、君は?」


 とはいえそこも、考えものなのかも知れない。確かにミナミを以前から知るファンたちは、彼を一目見ようと、またあわよくば近づこうと、彼へと寄って来ることだろう。

 それにより、ミナミもステータスポイントを得ることは出来る。


 しかし、それはこの世界でのロールプレイとは結びつかない。むしろ、現実リアルの立場が色濃く出てしまうので、ロールプレイとは対極に居ると言ってもいい。

 ファンの手前それをあまり大きな声で言えないことが、ミナミがいまいち<貴族>として大成していない理由でもあるのかも知れない。


 そんな群衆の歓声に見送られながら、ハルたちは街の中心部、首都全体を見下ろす丘に建てられた、王城へと乗り付けて行くのであった。





「ローズ卿、到着いたしました。扉をお開けしてもよろしいですか?」

「ああ、構わないよ。というかこちらで開ける」


 ハルたちと一緒に乗り込んだメイドさんが、馬車の大きな扉をうやうやしく開いてくれる。

 流石にこうした所作しょさには通じた彼女たちであり、ハルのような『なんちゃって貴族』であっても、メイドさんが付いてくれるだけでそれらしく見えるものだった。


「お嬢様、お手をどうぞ」

「すまないね、助かるよ」

「いえ、差し出がましい事だとは存じますが」


 馬車の客車は少し高い位置にあり、そこから降りるハルに手を差し伸べてくれたのは騎士、ではなく、これもメイドさんだった。

 本来のハルが男性だと知っている彼女らにこうしてお嬢様扱いしてもらうのは何だか気恥ずかしいが、断るのも外聞が悪い。

 そんなハルの気分を理解しているだろうメイドさんたちも、心なしか楽しそうな悪戯イタズラめいたお茶目な表情だ。


 そうして順に階段を降りて行くも、ユキとエメの二人はハル以上にお嬢様扱いにあたふたとしている様子がなんだか可笑おかしいものだった。


「さて、謁見えっけんには手続きがございます。その間、お部屋でお待ちいただきたく思うのですが」

「部屋、部屋だ! それを待っていたんだともぉ!」

「はしゃぐなミナミ。静かに」

「……あの、ローズ卿。こちらは?」

「ああ、僕とカドモス公爵の争いに巻き込んでしまった一般貴族さ。家の無い可哀そうな子でね、保護してやってほしい」

「なるほど。では、このまま我々のエリアの方が都合が良さそうですね」

「捨てられた可哀そうな子犬扱いは止めてくれないかねぇ!?」


 別に犬とは言っていないが、案外自覚があるのかも知れない。

 大物貴族の子飼いのことを、『犬』と言ったりもするものでもあるし。


 そんなミナミと、ハルたち一行は騎士エリアルの案内で王城の内部を進んで行く。

 どうやら馬車を格納したのは、ハルの入ったことのない場所のようだ。最初の城内見学では、全ての場所を見て回った訳ではない。

 入城も、ハルの入った正門ではなく、専用の通用門から侵入したのを確認している。


「してエリアル、ここは? 僕は初めて来る場所だね」

「そうですね、こういう言い方は好まないのですが、我々神官騎士を中心とする『派閥』の使用している区域ですよ」

「なるほど。城の区画によって、使っている勢力自体が違うのか」

「そうなんだぜぇ、俺もこっちには来たことがないねぇ。ローズちゃんは、領地に掛かりきりだしやっぱないか」

「当然だね。城自体に馴染みがない」

「我らの間では、それもレアケースですね」


 先ほどからエリアルが『我々』と語るのは、『真の貴族』たちの派閥のことだろう。

 彼らは通常の貴族とはあまり交わらずに、今居る城のこの区画を中心に仕事をしているようである。

 別にあからさまに敵対する気はないのだろうけれど、通常貴族、代々家督かとくを継いで栄えてきた歴史ある貴族たちが彼らを避けるので、自然とこうなったものと思われた。


「ここは城の裏側かな? 本城とは、通じていない位置か」

「ええ、少し離れのようになっています。我々としては、いさかいなくやっていきたいのですけどね」

「あちら様があからさまに嫌な顔をするので、物理的に場所ごとこうして少し離したと聞いていますよ」

「前任の、更に先達せんだつの頃の話と聞いてます」

「根が深そうだね」


 エリアルの仲間の騎士隊も、口々に不満混じりで説明してくれる。

 まあ、妥当な判断だろう。顔を合わせる度に衝突しているよりは良さそうだ。


 そんな彼らの領域ともいうべき、本城から離れたこのエリア。確かハルが神国へと渡る切っ掛けとなった神殿のあったのもこの周辺だろう。

 それに連なる建物も地味めな造りとなっており、きらびやかな貴族生活というよりも、修行僧じみた風情ふぜいが漂っている。


 その一室にミナミを押し込むようにして保護し、ハルたちも手続きが終わるまで待機する。

 本来ならば王への謁見、そんなにすぐに手続きが終わる訳もないのだが、そこはゲーム。数分の間に処理は終わったようで、ハルたちはこの離れの神官区画から本城へと移動し、ついにこの国の王との面会に臨むのであった。





「あれ、ミナミも来たんだ?」

「きちゃ悪いのかってのぉ! なんだ、あれだ、何か証人らしいぜぇ? たぶん公爵絡みだろ。奴の悪行について、聞きたいんと違うかねぇ」

「だろうね。そんな公爵絡みの君だから、警備の関係上、国王には近づけない方が良いんだけど……」

「そこはゲームだしなぁ。言ってっと話がすすまねぇ」


 関係が切れたとは言うが、裏ではまだ繋がっているという可能性も普通なら考えるものだ。

 そんなスパイかもしれないミナミを、国のトップへと不用意に近づけるのは不用心が過ぎるはずだが、まあ、彼の言う通りこれはゲームだ。

 言ってしまえば、ハルだって別に本来なら信頼するべき相手ではない。


「信頼を得るのに数か月かかっていたら、イベント進まないからね」

「だなぁ。それにだ、言ってしまえばここで俺らが仮にナニかしたとして、それはそれでイベントとして都合が良いってもんさねぇ……」

「……何かするなよミナミ?」

「当然! 彫像のように目立たず大人しくしてるっての! でしゃばるメリットなんもないしなぁ」


 仮に、ここで王へとやいばを向けるような選択をハルやミナミが取ったとして、ゲームとしてはそれはそれで美味しい展開だ。

 状況が大きく動くなら、例え王であろうと扱いはそこらのNPCと変わらないのが運営の考えだろう。

 いや、もしかしたら、キャラクターとしてまだ誰も認識していない王よりも、案内するこの騎士エリアルの方がキャラクターとして扱いは上かも知れなかった。


「……なんだか不安になってきた。変な王様じゃなければいいけど」

「緊張感ねぇなぁ。ゲームとは言え、王様との面会だってのに。お嬢様って慣れてんの? 謁見」

「まあね。……いや、他のゲームでね?」


 あらかじめ膝をついて、案内された小さめの部屋にて待機するハルとミナミ。

 予想と違い、『謁見の間』のような大広間での対面ではないようだ。内々のもの、ということか。


 本来なら黙って待つべきところ、こうして構わずお喋りするミナミも実際相当なものだ。彼も、その不敵な態度がブレることはない。

 そんなハルたちの元に、ついに国王がその姿を現した。

※誤字修正を行いました。(2023/1/14)


 追加の修正を行いました。また、一部表現の修正を行いました。大筋に変更はありません(2023/5/23)

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