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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第644話 造船業者への道

「これはもしや、スキルの実行による経験値稼ぎにおける、最高効率なのではないだろうか?」

「発動待ち時間が無いものね? 理屈の上では、一日に稼げる経験値上限を無視できるわ?」

ハル(ローズ)ちゃん、ルナ(ボタン)ちゃ。落ち着こう落ち着こう。そんなんお金がどれだけあっても足りやしない」


 家の<建築>と、その完成までの時間を課金で時短じたんし続けてスキップを繰り返し、ハルは一気に最大級の個人宅を<建築>できるレベルにまで駆け上がった。


 その際にキャラクター本体のレベルアップに必要な経験値も、当然だが加算される。

 普通の生産スキルならば、生産完了まで待たねば入ってこない経験値が、家を作るごとに即、しかも大量に入って来る。

 今までに無い速度でレベルも上昇しつづけるのを見ると、今後はレベル上げもこの<建築>で行えばいいのではないか? そんな気がしてくる。


《さすがにお嬢様とはいえど……》

《現実的ではないな》

《一日続けたら企業規模》

《ゲーム終了まで続けたら国家規模》

《無理、無理、無理、無理》

《無理ィ!》

《やめよ、ローズ様》

《破産しちゃうよぉ……》


「ふむ。まあ、君たちを不安がらせるのは本意じゃない。キリが良いし、この豪邸を<建築>してフィニッシュにしようかね」


 ハルがそう宣言すると、視聴者はあからさまに、ほっ、とした雰囲気がコメント欄から伝わってきた。

 派手な課金芸は見て楽しみたいが、理解を超える額になると脳が情報処理を拒んでくる。それは無視できないストレスとなり、放送を見るのを止めてしまうだろう。


 そうなったら本末転倒だ。ハルが派手な課金をしているのは人を集められるからであり、課金そのものが目的ではない。

 そのバランスの閾値しきいちのようなものが見えた気がする。

 成金ハウスのぎらぎらした見た目と同様、やりすぎは『派手』ではなく『下品』と取られてしまうのが難しいところだ。


「しかし、ここまで一気にレベルを上げて分かったことがある。<建築>は、家以外にも案外作れるものが多い」

「そっすね、そこ、新情報として独占スクープすべきだと思うっす。当然ながらハル(ローズ)様は、<建築>持ちの誰よりも今スキルレベルが高くなりました。まあ、これは<建築>自体がゲーム全体で見れば新鋭のスキルだってことも勿論ありますが」


《私たちがルート見つけたのも最近ですから》

《追い抜かれちゃったなー》

《やはり課金者絶対有利》

《そこは当然》

《それより新情報知りたい!》

《ですね。このまま行くと何ができるのか》


「知りたいですかー? 知りたいですよねー? ハル(ローズ)さん、どーしましょーかー?」

「ぐへへへへ! 集金のチャンスっすよハル(ローズ)様! ここで、今使った課金を回収するっす。極秘情報として、先着者限定で高値で売りさばく、あいたぁ! 死ぬ! ハル(ローズ)様のステで殴られたら死んじゃうっす!」

「意地の悪いこと言わないのエメ(イチゴ)

「うううぅ、酷いっすよぉ。カナリー(ルピナス)はお咎めなしなのにわたしだけえ~」

「巻き込むんじゃないですよー?」

「まあ、カナリー(ルピナス)も確信犯でフリを出してただろうし、後でおしおきね?」

「優しくお願いしますねー?」


《お仕置き、だと……!?》

《いったい何を!?》

《お嬢様が、女王様に!?》

《むしろそっちを教えてくれ!》

《いくらでも払う!》

《やめろ馬鹿ども》

《いくらでも払うって?》

《破産したわこいつ》


 お仕置きに反応して騒がしくなる視聴者たちを軽くいなしつつ、ハルは新情報を自身でも細かくチェックしていく。

 ちなみに、視聴者に妄想されているような内容はあながち間違っていない。

 カナリーも、なんとなくそれを目当てにして要らぬことを口走っているフシがあった。


 それはさておき、<建築>のレベルアップにより新たに制限解除アンロックされたメニューの中には、なかなか面白いものがある。

 その内容を、完成したばかりの豪邸へとアイリたちと共に入って、ハルは視聴者に向けて説明していくのだった。





「まず、<建築>スキルで作れるのはなにも個人宅ばかりではないのは既に知っての通り」

「今も外でやってる、簡易な宿舎とかだね?」

「その通りだねユキ(ユリ)。これはもし大きな戦いなんかあれば、工作兵として重宝されるんだろう」

「それ以外は?」

「まずは家に付属のアタッチメントパーツ。花壇から始まり、大きなものになると池や噴水なんかも作れる」

「お金持ち向けだ」

「だろうね。こうした依頼が来ると、実入りがいいんじゃないかな?」


 それらを自由に組み合わせて、好みの家を作れるというわけだ。

 ただし、広い庭を、つまりは自分の自由にできる土地を広く所有している者に限る。


「更に、ここからは家からは多分離れることになると思うんだけど、メニューの中には『橋』等の、公共事業に分類されるカテゴリも入ってる」


《おお! 大規模工事だ!》

《国からの依頼か!》

《でもどんな時だ?》

《新しい町作ったりすんの?》

《もうマップは完成されてるだろ》

《作るとこなくね?》

《そこは今後、壊れたりするんじゃ?》


「かも知れないね。災害や戦いのイベントで町の機能が失われたりしたら、その時は<建築>所持ユーザーの出番となるのかも知れない」

「あとは、ハル(ローズ)のように自分の好みに領地を作り替える貴族が現れたら必要かも知れないわ?」

「……自分でやってて何だけど、その可能性って限りなく低い気がするね」

「もし仮に現れても、ハル(ローズ)お姉さまのように『領主コマンド』で自力建設してしまいそうですね!」

「だろうね。あれ、楽だから」


 ハルが領地で行っている『領主コマンド』は、通常、ギルドから依頼を出し、それをプレイヤーが請け負ってという流れを簡略化して一括で行うコマンドと言える。

 待ち時間なく全ては進行し、資金と資材さえあれば高速で完成するので、ハルは残念ながらあえて<建築>ギルドに依頼を出すことは無さそうだった。


「ただ、まあ、僕はともかくレベルが上がればそういう仕事も受けられる。受けられるってことは、必ずそういう依頼も出てくるってことだ」

「ゲーム語ですね!」

「そうだねアイリ(サクラ)。不要なコマンドを、運営は用意はしない。普通ならだけど……」

「あるもんねー、普通じゃないゲーム。サービス終了まで、存在意義が一切分からないスキルがあったりとかさー」


 もしくは、開発が完了したオフラインのゲームであっても、一切の用途が存在しないコマンドがあったりもする。

 きっと、開発当初はそれが活躍する場面を想定していたのだろうが、ついぞ実装することなく完成を迎えてしまったのだろう。

 そういった見逃しも、ままある事だった。


 ただ、その点はこのゲームは信用して良いはずだ。なにせ、運営は元AIの現神様だ。仮に使途不明のスキルが発生してしまっても、それに合わせたイベントを臨機応変フレキシブルに生成してくれるだろう。


「更に、船が作れる」


《おお!》

《造船業!》

《スケールがデカくなってきた!》

《そこまでいったら会社持ってるレベルだな》

《ギルドから独立?》

《確かに個人で依頼取って来れそう》

《今度は商人ギルドに入ったりしてな(笑)》

《行きたいですねーそこまで》


「船、馬車、その他もろもろの移動手段だね。さすがに船は僕もまだスキルレベルが足りないみたいだけど」


 それでも、『あと何レベルで実行可能』、と、先ほどの家のアップグレードの時のように暗く見えにくくはなっているが表示されている。

 こうして段階的に内容が解禁されていっており、そこまでレベルを上げようというやる気に繋げる作りらしい。


「そして、まだ僕にも見えないけれど、ここまで来たら期待する物があるよね?」


《飛空艇!》

《海の船が作れるんだし、そりゃあ次はね?》

《手に入らないなら、自分で作ればいい!》

《うおお、夢が広がる!》

《やっぱりRPGは空を自由に飛べてこそだよね》

《やはり制空権は確保しないとな》

《それは何か違う……》


 まあ、実際ハルのような領主の立場としては、制空権は重要ではある。

 先日のミナミ率いる軍との戦い、飛空艇が兵員輸送とセーブポイントだけの役割でなく、そのものを戦力として領空まで直接侵攻してきたら、また少し話は変わっていた。


 今後も、そうした事態が無いとは言い切れない。その時の為に、こちらも迎撃のための戦力として、自前の飛空艇を確保しておくに越したことはないだろう。


「やはり、お姉さまは、うちゅうを目指すのでしょうか!」

「いや、さすがにこのゲームでは行けないんじゃないかな……」


 アイリの世界では、少々規模を大きくし過ぎたため、それがハルの通常営業とアイリにはとられてしまっているようだが、さすがにこのゲームでは宇宙要素は無いのではなかろうか。

 もっとプレイヤーの選択によって、一気に歴史が進むタイプの対戦であったら可能性はなくもないが、これは時間の流れはにち単位。


 時代の遷移せんいするような長期間ちょうスパンの戦略ゲームではないのだ。宇宙移民も衛星兵器も無い。


「ただ、今は普通の船ですら<建築>に必要な資材も機材も足りないようだ。まずはそこからだね」

「私の出番というわけね? 取っておいてよかったわ、<鍛冶>」

「頼りにしてるよルナ(ボタン)


 スキルコマンドも後半にいくにつれ、実行にあたり専用の装備アイテムの所持が求められるようになっていっている。

 まあ、当然だ。<物質化>ではないのだ、製作にあたり特別な機材が必要とされるのは当たり前のこと。


 そのための機材作成は、<鍛冶>持ちのルナに一任することになった。

 これは武器防具だけではなく、幅広い金属製品を作成可能な便利なスキルであった。これを選択した、ルナのスキル目利きには感謝しかない。


 ハルはそのために必要となる金属素材を<錬金>で生成し、ルナへと渡す。

 あとは、彼女の作業を待って次の段階へと進むとしよう。


「……よし、この辺で一段落かな? 少し休憩にしようか」

「はい! おうちも豪華になりました、ゆっくりと、くつろげそうですね!」

「そうですねー。流石は最上級の豪邸です。領主屋敷と、遜色そんしょくない造りのようですねー」

カナちゃん(ルピにゃん)、高そうなお茶あったよ。お菓子たべよっか」

「どーしましょっかねー。お茶もお菓子も味が微妙ですからねー」


《よしよし、これで次の目標は決まったな》

《飛空艇を作って、大空へ!》

《今日はひとまず終わりかな?》

《めでたしめでたし》

《今回も楽しかった!》

《おつろーず》

《……なーんか、忘れてないかな?》

《なんだっけ?》

《み、みな、うっ、頭が……》

《みな皆さま……?》


「そういえば、ミナミを外で待機させたままだったね」


 いつも通り男子禁制のこの家だ、ミナミを外で放置したままである。

 ハルは豪邸の玄関を開けると、ひとまずミナミと外の作業の様子を見るために足を延ばすのだった。





「ひどくね!?」

「いやすまない。存外、中の居心地が良くってね」

「はいはいお約束お約束ぅ。だがあと五分遅れたら、家の外から叫んでたところだなぁ。『ローズちゃーん、あーそーぼー!』ってなぁ?」

「それは勘弁してほしいところだね、<貴族>としては。しかし、お約束って君、いつもそんな扱いなのか……」

「これが意外とクセになる!」


 まあ、本人が納得しているのならば良いだろう。不遇ふぐうキャラ、というやつだ。


「という訳で君の家を作ろうか」

「おお、待ってましたぁ! ってぇ!? すとっぷすとっぷ! 最大強化しなくていいからぁ!」

「そうかい? せっかくだし、君のとこも豪邸にしようかと」

「建築スキップに現金使ってんだろぉ!? 気軽にやられると心臓に悪いわ!」


《ミナミ、小市民》

《それでも貴族か》

《まあ貴族としても気が引ける展開》

《上司が家おごってくれた》

《家おごるって何だよ(笑)》

《あとで会社に請求してやれ(笑)》

《そっか、ミナミのとこなら経費で落ちるんだ》


「なんでもかんでも経費は無理だなぁ。ただこのゲームはぁ? 宣伝費として計上できる部分もあるだろーけど」

「その辺り、どこか組織に所属しているプレイヤーは有利だよね」

「良いことばっかじゃないぜぇ? 今もほら、上から発言にNGが入りましたぁ!」


 経費の扱いについて気軽に口にするなということだろう。

 そうした行動の自由と引き換えに、彼らは力強い後ろ盾を得ているのだろう。

 ハル以外に課金を戦略としているプレイヤーは、大抵がこのパターンだろうとミナミは裏でこっそりと教えてくれた。


「それを抜きにしたとしてもだ! 俺んはアンタんトコより一段小さくなくちゃならない。貴族としての格が下だからなぁ」

「なるほど? そのあたり律儀だね君は」

「ローズちゃんが気にしなさすぎなんだよなぁ。その辺のセンサーしっかりさせてないと、この<貴族>社会乗り切れないぜ?」

「ふむ?」


 相変わらず色々と面倒が多いようだ。貴族というものは。

 思えばアイリの世界でも、圧倒的な力を背景にその辺りの微妙な機微きびを全て無視して突っ走って来たのがハルだった。


 さて、そんなハルの本来の目的は飛空艇を作ること、ではなく、その貴族社会の闇に生きる黒幕との対決である。

 そのための第一段階が、問題なく終了するようだ。

 王都の空が赤く夕日に染まる頃には、兵士たちを休ませるための仮設の宿舎が、あらかた完成を迎えるのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/24)

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