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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第3章 アルベルト編

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第63話 闘技場

 さて、どうしたものだろうか。ユキはどうやら、あまり他のユーザーと交わろうとしないハルに強引に接点を与えたい考えのようだ。

 その気持ちはありがたいが、事は対戦だ。相手あっての事で、勝ち負けあっての事になる。いい影響だけを及ぼすとは限らない。

 傲慢な考え方になるが、ハルは他のユーザーと比較して強くなりすぎた。『差が開きすぎて萎えた』、とやる気を失わせてしまう事も考えられる。


──いけないな。これじゃ何処かの王子と同じだ。慢心しすぎ。未知のスキルが突然飛んでくる事だって考えられるのに。


「ハルさん! わたくし、応援していますね!」

「ありがとう、アイリ」


 結局、その言葉が決め手となる。単純なハルだった。


「ソフィーさん、構わない?」

「もちろんです! いつかお手合わせしたいと思ってました!」

「何度も言ってたもんね。良かったねソフィーちゃん」

「ユキさんのおかげですね!」


《ハル様、ソフィー様から決闘の申請がありました》


 言うが早いか、試合が申し込まれて来た。よほど楽しみなのだろう。この様子を見せられては断れまい。

 決闘には色々とルールがあるようだ。決着方式やスキルの制限、ハンデの設定。セレステがやったような魔法禁止にしたりも出来るのだろう。

 申請側がそれを決め、受領側もバトルポイントの倍率レート舞台ステージなど、相手がロックしていない部分を決められるようだ。


「制限は無しで、決着はHPがゼロになるまでか。やる気まんまんだね」

「手加減なんてしないでくださいねー!」


 そう言われては仕方ない。全力で行かせてもらおう、とハルは精神的スイッチを切り替える。

 ポイントのレートは最低値に、ステージも基本の所にして、ハルは決闘を受諾した。

 すぐに二人の体が転送され、視界にはコロッセオめいた円形の闘技場が映し出される。一段高い所に観客席があり、そこにアイリとユキが転移してくるのが見えた。試合の成立を知った他プレイヤーも続々とやってくる。


──アイリが僕の付属扱いで、一緒に決闘に来たりしなくて良かった……。


《本当なら来ちゃうんですけど、私の方で抵抗しておきましたー》


──助かるよカナリーちゃん。ありがとうね。……危ない所だったんだね。


《いえいえー。出来る女神ですのでー。まあ、万一にも危険は無いでしょうけどー》


 それでもハルとしては精神に悪い。気が気ではなくなるだろう。当のアイリは、ハルと共に戦える事を喜ぶのだろうが。

 アイリの戦っている所は見たことが無いが、魔法の腕は一流だ。きっとかなりの戦力になる。


《開始10秒前! 8! 7!》


「よろしくお願いします!」

「ああ、対戦よろしく」


 カウントダウンが響き渡り、乱雑に散っていた思考も冷えていく。

 試合は試合、ソフィーに言われるまでも無く手加減の余地は無い。常にハルは全力で行く。慢心を除いても、見応えの無い決闘になるだろう。

 ソフィーは例の、ハルの作った刀を正眼に構えた。残念ながら使う機会は与えない。


《2! 1! 決闘開始!》


「だぎゃあ!」


 乙女の上げていい声ではない部類の悲鳴が、闘技場内に響き渡る。


《決闘終了! ハルの勝利!》


「最短試合の記録があったら更新だね」


 開始直後、ハルは<魔力操作>によってソフィーの居る空間そのものを爆発させた。セレステ相手に使った物から、指向性を抜いて更に単純にしたものだ。魔法と言うより技術に近い。

 高効率に、そして非常に素早く、エーテルをダメージに変換できる上に、射程は視界の範囲内全て。正直反則だ。

 別のゲームでは最上位の、<空間>スキルの空間振動による衝撃波に近い。同じスキルを持って対策しなければ防御不能、というバランス破壊スキルだった。


──これも似たような物だよね。エーテルの支配権を確保しないと防御不能。


《ハルさんと試合する時は、フィールドの魔力値をゼロに設定しないとお話にならなそうですねー》


──というか禁止するべきでは? ルール変えるとか。


《使えるのハルさんだけですからねー》


 あまりにも一方的すぎた。普通ならバグを疑うレベルだ。観客の皆様も呆気に取られている。

 ユキも苦笑しており、アイリだけが無邪気に喜んでハルの勝利を祝福してくれていた。ハルは転移でそこへと戻る。


「お疲れ様でしたハルさん! やっぱりハルさんは最強ですね!」

「ありがとうアイリ。流石に神様と戦ったら勝てないと思うよ?」

「チート乙。比較対象が神の時点でおかしい」

「そのチートとソフィーさんをぶつけた張本人が何言ってんの」


 三人で観客席からロビーへと戻る。ソフィーも復活してそこへ戻ってきていたようだ。

 闘技場では消滅してもすぐ戻って来られるようだ。存分に次の戦いを楽しんで欲しい、というセレステ氏の粋な計らいである。戦闘狂である。


「もう一戦お願いします! 今の魔法は無しで!」


 こちらも戦闘狂であった。





 バトルフィールドのエーテルを抜いて、二回戦が開始される。この事で勘の良い者には、先ほどの現象が<魔力操作>によるものだとバレてしまうが仕方が無い。

 むしろ魔力さえ抜いておけば安心、と納得してくれればハルとしてもやりやすいだろう。


──そういえば試してみたい事があった。良い機会だ。


《高揚してきてますねー。頭痛は大丈夫ですかー?》


──もうだいぶ平気。


 戦闘による高揚によって、休眠していた脳の領域が二つ三つと起動しだして並列回路を形作る。

 <降臨>によって得たものは多い。ハルはせっかくの機会、とそれを試してみる事にした。


「今度は勝たせてもらいます!」

「いい気迫だ。勝つのは僕だけど」


《決闘開始!》


 自然体で待ち構えるハルに、ソフィーは突きの型で突進してくる。

 ソフィーの構えは、常に両手持ちを基本とするようだ。剣で切り付けるにあたって、基本に忠実だ。片手で振る場合に比べて、切っ先の速度が何倍にもなるためだ。


 また、視線はまっすぐにハルを直視している。一見、悪手。

 ハルは相手の視線から身を外し、狙いを失わせるすべに長けている。こうも実直に見つめてくる相手は、普通ならその良い的だった。

 しかし、彼女のそれは、そう単純な物ではなさそうだ。ハルを見ながら、しかしハルを見ず、その目は視界全体を把握している。

 ロビーで見つめて来た時のその瞳と比較すれば、眼光は別物だった。


──距離感の把握が人間離れしてるな。テニスとか上手そう。


《テニスコート要りますー?》


 そんなカナリーの、のんきな反応がおかしかった。スキル有りの魔法スポーツだろうか。それも面白そうだ。


 そんな事を悠長に考えながら、ハルはソフィーの突きを紙一重かみひとえで横方向へ回避する。

 普通なら剣の射程内。その勢いのまま切り払われる所だが、ソフィーの刀は耐久力を全て投げ捨てた攻撃特化だ。しっかりと刃筋をコントロールしなければ、その身が折れる。


「もらうよ」

「きゃあっ! ……あげませんよ! 例え製作者でも!」


 刃の角度を調整する、その一瞬の隙を突き、ハルは薄刃を折り取ろうとしたが、ものすごい勢いで飛び去られてしまった。

 涙目で剣を構え、『うーっ』、とうなる姿に、とても悪いことをしてしまった気分になる。実際悪いのだが。


「でも、おかげで距離が開いた。こっちも武器を用意させてもらう」


 周囲の魔力が無い分、少しやり難いが、<魔力操作>でハルも武器を構築していく。常の亜神剣ではない。今の体は装備が出来ないのだ、装備メニューで瞬間的に剣を出し入れする事が出来ない。


「その剣は、新作ですか?」

「残念ながら僕の作じゃない。『神剣カナリア』、……うん、問題なく使えるようだ」

「神剣……!」


 カナリーの持つ神剣、そのコピー。あの時記憶しておいた。

 まるで理解は出来なかったので、複製は出来ないか、出来てもハルには振るえないか、その可能性も考えていた。だが、ハルはカナリーの使徒であるためか、問題は無く、その手になじむようだ。

 二、三度その場で振るうと、空気が切り裂かれていく感覚が伝わってくる。


「じゃあ、行くよ」

「っ! うっ、こ、来い!」


 全開の<加速魔法>で地を蹴り、<飛行>で更に速度を乗せ、反応の間も無くハルはソフィーに肉薄した。いや、反応は出来たようだ。この状態でも剣を構えようとするのは流石の一言に尽きる。


「あっ……、ぁあぁ!」


 その構えた剣ごと、神剣は真っ二つに彼女を断ち切った。

 かつてのハルの剣は、神剣の前に脆くも折れて飛び、その先のソフィーの体も同時に同じ末路を辿る。

 体の大半を失った影響で、すぐにHPがゼロになった。


《決闘終了!》


──流石の威力、しかも傷ひとつ無い。僕の作った剣が負けたのは複雑な気分だけど。


《ところでハルさんー。それ、どうするんです?》


──ああしまった。エーテルボムで爆破して消すかな?


《やーめーてー、やめてくださいー。もー、倉庫経由でこっち送ってください。私の方で処理しておきますんでー》


──ありがとねカナリーちゃん。助かるよ。


《ハルさんも消し方をお勉強しなきゃですかねー……》


 出したはいいが消せないハルだった。神剣を爆破して消すなどバチあたりすぎた。それに、もしかしたら大爆発して周囲一帯がまた更地になるかも知れない。


 ハルの活躍に興奮してきゃいきゃいとはしゃぐアイリと共に、またロビーへと戻る。

 ソフィーはどうしているだろう。鍛えた技も、苦労して手に入れた剣も通じなかったとあれば、普通なら落ち込む所だろう。

 だが彼女なら大丈夫ではないだろうか。ユキと同じように、強い相手が居れば、それを目指して一層燃えるタイプだろうとハルは感じる。


「ハルさん! 対戦ありがとうございました!」

「こちらこそありがとう、ソフィーさん」

「凄い剣でしたね! この子も形無しです」

「神剣だからね。ちょっと反則だったかな」


 とはいえ決闘だ、手加減する訳にもいかない。相手もそれを求めている。


「確かに反則級でしたね……、では、次はその剣無しでお願いします!」


 ハルが思った以上に、彼女はタフなようだった。





 もうどうせなら、とハルは次の試合は徒手空拳としゅくうけんで行った。ソフィーは魔法を使わないようだ。ハルもそれに合わせる。

 こちらもソフィーと同じ単分子ブレードの刀を生成して、同武器試合ミラーマッチも面白いかと思ったが、また消せない武器を増やしてカナリーの手を煩わせるのもなんだ。

 それにそろそろ良い時間なので、これを最後にしたかった。削る部分の無い状態で勝利する。


「ありがとうございました! 今のままでは勝てそうにないですね……!」

「ありがとうソフィーさん。なかなか緊張感があったよ。あの剣を相手にすると、ああいう気分になるんだね」

「そうだよーハル君。もっと私をねぎらって」

「偉いぞユキ。次も斬る」


 切られたら終わり、一度でも当たれば即死、という緊張感はなかなかのものだ。

 特に今のハルはレベルが低い。積極的に上げていない事を除いても、なぜか上昇が鈍く、まだ12レベルしかなかった。

 カナリーを<降臨>した影響だろうか。彼女に持っていかれている事が考えられる。


 今のところ<HP拡張>系のスキルは秘匿ひとくしている。耐えられるレベルまでHPを増やす訳にもいかなかった。


「じゃあ僕らはそろそろ行くよ」

「お忙しい中ありがとうございました!」

「わたくし、まだ大丈夫ですよ? ハルさんのかっこいい所、もっと見たいです!」

「だめだよーアイリ、寝る時間とらないと」

「むー……」


 かわいくむくれるアイリの頬をつついて機嫌をとっていると、その様子を見たソフィーからも助けの手が入った。


「ほ、ほら、私もポイントすっからかんになっちゃいましたしー」

「そうなの? ごめんね」

「ランク差補正です! ハルさんは初めてなので、一気に持って行かれちゃいました!」

「ならソフィーちゃん、次はその体で払ごはぁっ!」

「ユキ、そういうのは身内だけにね」

「見えなかった……、まだ手の内を隠していたのかハル君」


 ユキもだんだん発言が危なくなってきている。誰の影響だろうか。認識外からの一撃でカットをかける。

 身内のノリでソフィーも巻き込むのは失礼だろう。……いや、もしかしたら何時もそんなノリで会話しているのだろうか。ソフィーを見ても、特に気にした様子は見られない。

 女子同士の会話だと案外普通だったりする、のだろうか? ハルの知識では分からなかった。


「ハルさん」

「うん」


 アイリから手が差し出され、ハルもそれを取る。ユキの冗談で、体の接触を意識したのかもしれない。そのまま歩き出す雰囲気になる。

 そこまで考えていたのなら、ユキも大したものだ。


「ではハルさん、アイリさんも! またお会いしましょうね!」

「はい! ソフィーさん、また!」

「ありがとうソフィーさん。じゃあね」


 もう片方の手を振り、ソフィーと別れる。彼女はすぐにユキとの試合に挑むようだ。ポイントは平気なのだろうか。


「そうだ、ポイントといえば」

「お買い物ですか?」

「スキルを覚えようかな」


 まだ敷地内に居るうちに、すばやくウィンドウを操作して購入を済ます。アイリも慣れたものだった。瞬時にハルの行動を理解する。

 <衣服作成>を交換出来るだけのポイントは得られていたようだ。


「でもハルさん、ハルさんはもう服を作れるのでは?」

「わざわざ分かれてる理由も知りたいしね。一応さ」

「検証というやつですね!」

「そうなるね」


 購入を済ませると、今度こそハルとアイリは闘技場を後にして、噴水広場へと戻っていった。

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― 新着の感想 ―
アイリがガチでハルの付属品扱いになってる!?ゲーム内のNPCなのに… ついでに敵だけじゃなく味方の神剣までコピっておったわ…油断も隙もないなぁ
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