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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第627話 内向きに収束する世界

「思うのだが、その指輪とやらは、望まれた通りに動き、望まれた通りに奴らの邪魔をしているだけではないのかな?」

「というと、セレステ?」

「つまりだね? AIは六人の調停のために作られた。誰か一人が抜け駆けしないようにね。つまり、裏を返せばどうなるかなハル?」

「指輪によって不利益をこうむった神様たちは、裏で何か企んでいたってことか」

「そういうことさ」


 さも当然のように、神々の暗躍を予見するセレステ。自らもまたそうであったように、神は必ず仕組みの裏を突いてくると語る。

 確かに、神は嘘をつかないが、語る内容が全てともまた限らない。


「……確かに、いくらでも覚えがあるわね?」

「そうだね。セレステちゃんだけじゃなくて、大抵みんな隠し事してた。それこそエメちゃんも、カナちゃんだって」

「ぎくぅっ!!」

「そうですよー? ルールにあることは『禁止事項』。なら禁止されてないことは、やり放題ですからねー」

「そっすね、ぶっちゃけ、それがわたしら神に共通の考え方なんでしょう。元がAIすからね。人間ならここに、マナーやモラルが入ってくるんでしょうけれど、わたしらにそれは薄いっす。無くはないですけどね? わたしたちは、倫理を定義するほど数が多くありません」


 倫理観、マナーやモラルといったルールほどきっちりと制定されていない、しかし確実に社会を取り巻いている概念は、円滑にその集団組織コミュニティを回らせるためのもの。

 ただ、それが必要不可欠となるのは、ある程度の頻繁な接触のあるコミュニティからになる。


 神様たちの数は少ない。影響力こそ甚大となるが、人数自体はこの星全体に数十人のみ。

 過疎もいいところだ。コミュニティどころか、個人同士の接触すら普通ならままならない。


「その上明確に味方でもないですからねー。自分のことが第一ですよー。まあ、明確に敵でもないのですけどー」

「なるほど! つまりはアイリス様とガザニア様は、こっそりとルールに抵触するレベルの計画を進めていたのですね!」

「そうですよーきっとー。そして自分たちの定めたルールにおしおきされたんですー。自業自得ですねー?」

「びっくりです! あんなに優しそうな方々なのに!」

「こわいですねーアイリちゃんー」


 まるで怖そうには見えない、のほほんとした何時もの語りでカナリーはアイリとじゃれ合っている。

 実際カナリーはあまり興味が無いのだろう。ハルが関わっているから付き合っているだけで、アイリスたちの誰が勝とうが構わないはずだ。


「カナリーは余裕だね、相変わらず。そこは私も見習いたいところだ」

「セレステは真面目ですからねー。そこが良いところなんでしょーけどー」

「ははは、君に褒められるというのも、意外に悪くない気分だな」


 思えばセレステも丸くなったのではないか。かつては随分と苛烈かれつに攻めてきたものだ。

 そんな彼女も、今はほぼカナリーと同じ立ち位置。願いに向かって邁進まいしんする段階は越え、半ば隠居の、のんびりとした生活を送っている。


 ただ、その性質自体は大きく変わることはなく、ゲーム参加者であるカナリーよりもむしろ真剣にこの会議に取り組んでくれている。


「となるとだハル。今の仮定が正しいとする。すると、共通項は二つ見つかったことになる」

「アイリスとガザニア、指輪に邪魔された二人だね」

「うむっ。まだ材料不足とはいえ、そこから推理を掘り下げることも出来るだろう」

「……少し、難しいね。まだ、彼女たちの目的が全て割れた訳でもないんだ。二人の計画の全貌ぜんぼうが見えているなら、それに共通するNGポイントもまた見えるんだけど」


 要は、指輪が動くための条件を探ろうというものだ。

 指輪が意思をもった反乱ならともかく、最初の仕様通りに調停を行っているというならば、アイリスとガザニアは共通して何かルールを逸脱したことになる。

 その共通する何かが明らかになれば、それを起点に色々な物が見えてくるはず。


「それならばー、『動かなかった』例も加えて考えればより分かりやすいんじゃないですかねー」

「そうともっ。許された例は二つ。さてこれで要素は四になったねハル」

「ミント様と、コスモス様ですね!」

「……正直、ミントが何故許されているのかしら? どう考えても、あれはアウトでしょうに」

「コスモスちゃんも、結構あやしいよね? ハル君が言うには、あの子も法律違反なんでしょ?」

「ふむ……」


 そこを踏まえて考えるに、指輪のルールは、人間のルール、法律などとはまるで異なる基準であるということだ。

 人間の意識を閉じ込めて(本人に閉じ込めるという自覚はないが)、電脳世界の住人にしてしまおうと考えているミント。人間たちの意識を読み取り、その解析を行っている疑惑のあるコスモス。

 それや法や倫理に反した行いは、別に咎めるに値しない行いということになる。


「良いと悪いの基準はともかく、こうして並べてみると、みんな“内側”に向かった目的だよね」

「内側というと、ゲームの中ということでしょうか?」

「そうだねアイリ。ゲームというよりは、電脳世界の内部に目的があるって感じかな」

「確かにそうです! ミント様は誘拐ですし!」

「誘拐て。まあ、そうだよね。ガザニアちゃんは、ワールドシミュかなぁ」


 アイリとユキの出した二例の他は未確定ではあるが、残る二つもその可能性が高いとハルは考えている。

 アイリスは内部の何らかのリソースを収集しており、またお金も同時に収集している。コスモスは電脳世界における意識データを収集しており、これも内部に関する目的だ。


「ちょっと待って? そのミントと、ガザニアの目的は別の物なの?」

「ん? どしたのルナちゃん。ぜんぜん別物でしょ?」

「いえ……、電脳空間に居住区を作ることと、現実そっくりにシミュレートされた空間を作ることは、共通するのでなくて?」

「しないよ。ぜんぜんしない。ゲームに住むのは、理想世界の実現。現実をシミュるのは、不便なだけの世界の再現。この両者は共通どころか、互いに相容れないものだよ?」

「そ、そう……」

「うん」


 この姿の、生身の大人しいユキにしては早口で断言した。普段からユキの言っている、『現実はクソゲー』を当てはめた考え方をするとそうなる。

 ゲームの中で暮らすなら現実的な要素など持ち込むだけ無駄なものばかり、わざわざクソゲー化する必要はないとユキは考える。

 一方ルナの言っていることは、現実と見まがうほど完璧に再現された電脳世界を作れば、自然とそこで暮らせるのではないか、ということだ。


 両者の言い分は互いに一理ある考えだが、今回に限ってはミントはユキと同様の考え方なのだろう。


「うむっ、少し見えてきた気がするね! 要は、『内向き』なら何をしても良いということではない、ってことだ! それとも、その二人は外に向けて何かアクションを起こしていたのかな?」

「それは無さそうっすよ。あ、いやそこはわたしの管轄かんかつじゃあないっすけど。彼女らの『神界ネット』を内包する魔力範囲は、ずっとメタちゃんとモノの監視下にあります。こちら向きに何かアクションがあれば、見逃しませんよ」

「にゃう!」


 ここで、床の方で気ままにくつろいでいた猫のメタも、元気にベッドの上に飛び乗って主張してくる。

 ガザニアたちがその魔力を『外向きに』使って何かしようとすれば、即座にメタたちの監視網に引っかかるのだ。

 今のところ、その兆候ちょうこうは見られていない。


「……しかし、何で現実空間に展開しているんだろうね? エメのように、次元の狭間でやればいいものを」

「んー、別にそこは良いんじゃないっすかねえ。わたしがあっちで初代神界ネットを作ったのは、ぶっちゃけ計画がバレないようにですし。こっちに置いても、動作条件は変わらんです。むしろ、星の魔力が増えていいんじゃないすかね?」

「むむ、ではもしや、こちらで魔力を増やしに増やして、この星自体を支配するつもりでは!」

「出来るとお思いですかーセレステー? 私たち、この土地の魔力増やすのにどんだけ苦労したと思ってるんですー?」

「……だね。むしろやれるものなら、やって欲しいくらいだ」


 いくら参加者が桁違いに増え、こちらよりもずっと魔力の増加ペースが上がったといっても、それはこの星を埋めつくすまでには至らない。

 それに契約により、あのゲームによって増えた魔力の半分はこちらの運営の所有となる。増えれば増えるだけこちらの利にもなるのだ。


 そんな、中々見えてこないガザニアたちの計画について、ああでもないこうでもないと議論を重ねつつ夜は更けていくのであった。





「結論です! まだ分かりません!」

「そですねー。まあそんなこと、最初からわかりきってた話なんですがー」

「とはいえ、有意義な時間になったじゃあないか。私も進行役として、鼻が高いよ」

「セレステは話に入れて嬉しいだけでしょー? そんなに興味あるなら、あなたも始めればいいじゃないですかー」

「……む、そうしたい気持ちもあるが、私には仕事があるし」

「人間のゲーム程度、対してリソース使わないでしょー。めんどくさいやつですねー。あと、私が仕事無いひとみたいじゃないですかー」

「えっ、あるのかいカナリー? 仕事」

「ないですよー?」


 仕事は別にないが無職扱いはされたくない。複雑な乙女心だった。


 それはともかく、情報の整理が出来たのは確かだ。セレステも労ってやらねばならないだろう。

 ハルが褒めてやると、得意顔を更に得意げに反らせて、終始ご機嫌な様子だった。


「ふふん! これからも私に頼ってくれたまえよハル」

「うん。頼りにしてる」

「うむっ! ……しかし、今後はどうするんだい、君は。本格的に彼女らの調査に乗り出すならば、君こそゲームどころではないのでは?」

「まあ、そうかもね……、そこは少し、悩みどころではあるんだけど……」

「わたくしは、続けたいです! せっかくハルさんが、新たな力も手に入れましたし、どこまで行くのか見てみたいです!」

「そうですねー。それに、ゲームを止めたところで、他に有効な手段の当てがあるある訳でもないですしねー」


 確かに、その気持ちはハルにもある。<精霊魔法>と<支配者>、強力であり、互いに相乗効果シナジーを大きく発揮する二つのスキルを得たハルだ。

 これを使って、更なる高みを目指してみたい気持ちもある。


「すごいよねーあれ。もう、どんな相手でもやっつけられるんじゃない? ゲームの規模感から考えても、あれで倒せない敵っているのかな?」


 ユキはヘリオスとの戦いの映像をこの場で再生しつつ、ハルの<支配者>の力をかえりみる。

 仲間の力を一つに集め、ハルが強大な個として君臨するための力。ハルの演じる『ローズ』というキャラクターの人気も相まって、手の付けられない強さを発揮していた。

 人気が高まれば高まるほど仲間になるプレイヤーは増え、仲間が増えるほどまた強さも上がる。

 誰もが、もはやハルの勝利を疑わない状況だ。これは、ゲーム全体のことを考えればマイナス面でもある。


「僕が強すぎて、優勝を諦めちゃう人が出始めてもおかしくはない。ここで盛り下がると、興行的にもあまり良くないけれど、さて」

「いいんじゃないかな。優勝しちゃえば、ハル君がさ」

「そうはしないのよね? だとすると、やっぱり少し距離を置く?」

「ハルさんは、いえ、ローズお姉さまはお嬢様なのですもの! ご家庭の事情が厳しくなったと言えば納得してくれますよ!」


 それも一つの手か、とハルが思っていると、意外にもカナリーから待ったが掛かった。

 同様に、セレステもこの勝利宣言には一言もの申したいようだ。二人のゲーム運営神による意見だ、ここはしっかり聞いた方がいいだろう。


「勝った気になるのは、すこーし早いんじゃないでしょうかー? あのゲーム、そんな優しい作りだとは思いませんよー? 賞金の額が額ですしー」

「私も同意見だね。賞金は知らないが、我々が作るゲームだ、そんな性根のまっすぐなはずはない」

「うわあ、嫌な信頼感だね。心当たりはかなりあるけど」

「そうとも。神がそんな楽なゲームを作るものかね。人気でステータスが上がるというなら、どうせステータスの高さだけではクリア出来ないようになっているに決まっている」

「このゲームみたいに?」

「うむっ! このゲームみたいにだね」


 確かに、意地の悪い仕掛けが満載だった。

 ただ、その理屈で言うとカナリーたちの作ったこのゲームも、実質クリアしたのはハルである。今度もまたハルがクリアするということになってしまうが、それは大丈夫なのだろうか?


「……まあ、確かに今投げ出すのも中途半端だ。指輪のことだって、ログインしないと分からないんだし、まだこのまま『ローズ』を少し続けようか」

「やりました! 楽しみなのです!」

「そうですねえ。それに、ハルさんが中で遊んでれば彼女らは安心するでしょうしね。こっちはこっちで、ヤバくなったら指輪もバグも即座にデリートできるんですし、もしもの際も安心っす! わたしも、今以上に気合入れて探るっすよー」

「気を付けてくださいよーエメー。そうやってあなたに、あの指輪消させようとしてるのかも知れないですからねー。特にあのガザニアなんかはー」

「確かにっす!」


 様々な神の思惑が交錯こうさくし、複雑に絡み合うあのゲームの事情は、未だ全貌が見えてこない。

 しかし、確実に一歩一歩近づいていっている気がする。

 ハルとしても、ローズとしても、もう少し彼女らのその物語を見守ってみよう、そうハルは思うのだった。

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