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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第623話 地の神の庭園

「……見つけた、かにゃー?」


 そんな風にがやがやと通信越しに賑やかに、この暗がりの平原を歩いていると、急にメタが何もない地点で立ち止まる。

 もちろん本当に何もない訳はなく、その場所にも当然のように空間の歪みが存在した。


「何個目だっけ? 今回は確かに一際大きいねメタちゃん」

「ハル、分かるようになったのかしら?」

「なんとなく。ルナはどう?」

「いいえ、全然。また都合よく、こちらでも第六感が利かないか期待もしたけれど」


 何故か、魔力の感知にかけては高い親和性を示すルナであったが、さすがにこのゲームではその力は発揮できないようだ。

 まあ当たり前か。あちらは本物の異世界をゲーム仕立てにしたもの。対してこちらはただのゲームだ。


「では、いっそゲームならではな事をやってみるか?」

「<目利き>以外のスキル使うん? なにすんハル君」

「《やっぱ、ここは<信仰>がいいと思うぜぇお兄ちゃんさぁ!》」

「アイリスは少し黙ってようね。あとでお小遣いあげるから」

「《やたーー!》」

「ここは<解析>が良いと思うのです!」

「そうだねアイリ。そうしようか」


 隙あらば課金を要求する小さな女神さまを放置して、ハルは目の前の空間に向けて<解析>を試みる。

 アイテムと同様に<目利き>が効くならば、その後の<解析>もまた有効であってもおかしくない。

 そんなノリでもって、ハルたちは空間の歪みを<解析>に掛ける。すると、予想通りと言うべきか<解析>もまた効果を発揮するのであった。


「ビンゴだね。当たりだよアイリ」

「やりました! ……どうなったのでしょうか!?」

「待ってね。説明文が出てる。『地の神ガザニアによって作られた空間の歪み。隔離空間へと通じている』、だってさ」

「<解析>すごいですー!」

「……本当にね? 絶対にユーザーが知って良い情報じゃないでしょう、これ」

「デバッグモードかな? だめだよーリリースまでに削除しておかないとー」


 ユキの言う『デバッグモード』とは、ゲームの製作者が最終テスト用に、ユーザーと同等の環境でチェックをするための機能として存在することが多い。

 同等とは言っても、本当にまるきり同じではテストに時間が掛かり過ぎる。

 なので、『公式の仕様として』、レベルや装備を最強にしたりワープでマップ移動時間を省略したりと、チートのようにテスト時間を短縮するのだ。


 異世界の方でアイリと一緒に遊んでいるような古いゲームには、そうした開発者用の機能が削除されず残ったまま販売されてしまったゲームもあった。


「《だいじょぶじゃないかなぁ。その<解析>なんて、ハル様以外に取れないよぶっちゃけ。取れたとしても、その人が同じようにこれらを見つける可能性なんてどんなもん? って感じっしょ!》」

「甘いのですミント様!」

「《ひゃあ! ……そ、そうかなアイリちゃん? どうしてかなぁ?》」

「どんなに複雑にコマンドを隠して、知らないプレイヤーには起動できないようにしておいても、何故かデバッグモードは発見されてしまうのです!」

「《確かに、ゲーマーの探求心は時に目を見張るものがありますよねー。私の方でも、何度かありましたー》」

「ですよねカナリー様!」


 まあ、実際にそうして発見されたからこそ、今日こんにちに話が残っているのだ。

 とはいえ、全てが全てゲーマーの熱意によって炙り出されたかといえばそうではなく。それこそ逆算的解析作業リバースエンジニアリングによって初めて見つかったもの、開発者からの情報提供によって明らかになったものもある。


 そういう意味では、ハルたちの今行っているのも、そうした解析作業に近い。

 メモリ内部のデータ配列を覗き見るように、この世界に流れる魔力のデータを読み解く。

 そうしなければ<解析>スキルが得られないというのであれば、確かに習得できるのはハルだけだ。


「《んでよぅ、コレ、見つけたはいいけど、どーする? アイリスちゃんからは、なんも言えねーんだけど》」

「《そだねー。禁則処理とかじゃなくって、ぶっちゃけあたしらも、なんも知らないんだよねー》」


 同じ運営であるアイリスとミントも、<解析>によって現れたこの入口の先がどうなっているのか知らないらしい。

 運営の神様同士であっても、自分の目的に関わる情報は伏せているようだ。


 まあ、そうして情報共有が出来ない作りだからこそ、こうして付け入られる隙が生まれたのだと言いたい気もするハルだが、今は口に出さない。

 自分に有利な状況だ。そこは大いに活用していくべきだろう。


「まあ、入るしかないよね。見つけておいてここで帰るなんてありえない」

「だよね! さっすがハル君。よっし、突撃だー」

「……突撃、にゃ!」


 方針を決めると、ユキとメタ、小さな二人が子供のように先を争って歪みに飛び込んで行く。

 行くことは変わらないとはいえ、もう少し警戒はしたいハルではあった。まあ、もう入ってしまったものは仕方ない、ハルたちも急いで後を追う。

 こうした即決の行動力も、優柔不断なハルにはありがたいことは間違いない。


 さて、果たしてこの先には、何が待っているのだろうか?





 飛び込んだその先には、ある種、見慣れた風景が広がっていた。

 整えられた玉砂利たまじゃりが敷き詰められ、池と緑が華を添える。日本風の庭園、といったおもむきだろう。


 形式は違うがルナの実家と雰囲気が似ている。ハルにも、馴染みの深い風景だ。

 さすがに、実家に戻ってきたような安心感を覚えるとまでは言わないが。


「おお、ルナちーのおうちと似てるね」

「そうかしら? うちはこんな正統派ではないわ? むしろ、形だけ似せた邪道極まりない家よ?」

「難しいですー……、わたくしには、どこが違ってどこが駄目なのかわかりません……」

「ルナちーのおうちはお花が多いよね!」

「《私は好きですよー、ルナさんの家もー》」


 伝統をベースに、近代的にアレンジしたのがルナの家だ。むしろ形式として近いのは、いつか行ったミレイユとセリスの住む日本家屋だろう。

 ただ、何故か雰囲気はルナの実家の方をここに居る皆はイメージする。何か、似通った要素があるのだろう。

 伝統に忠実なことへの良し悪しについては、特にここでは語らない。


「でも狭いね! ぶった切られてる!」

「また直球ねユキは……、ぶった切られているのではなくて、ヴィネット風とお言いなさいな?」

「つまり、わざとぶった切っているのですね!」

「まあ、そうなのだけれど……」


 その庭と、奥に建つ日本家屋の軒先は、視界にすんなり全てが収まる程度の範囲で、途中からすっぱりと断絶していた。

 とはいえ削り取ったかのような直線の断面という訳ではなく、あくまで先の想像できるような自然な切り取り方だ。

 これは、ハルたちもギルドホームを作る際に行ったことのある、ジオラマ的な見せ方である。


 切り取られた先の地面には何もなく、暗黒の空間が広がっている。ここも、先ほどと同じく神の領域なのだろう。

 ただ、空を見上げるとそこには闇夜ではなく青空が広がっており、狭いながらも同じように調整された世界であると分かる。


「……ということは、さっきの世界も作者はガザニアってことか。あの太陽を作ったのも」

「わたくしたちや、“くらん”の皆様を呼んだのも、ガザニア様ということでしょうか!」

「そこは、どうだろうねアイリ」


 その答えを探すように、ハルたちは周囲を見渡してみる。

 こちらの世界にもまた空気が存在し、草木は自然に風にそよぎ、耳を澄ませばその葉擦はずれの音に交じって、水のせせらぎが聞こえてくる。

 狭いながらも、丁寧に心地よく仕上げられた空間だ。


 ここと比較すれば、先ほどの世界は広さはありながらも未完成であると断じずにはいられない。

 この完成度に仕上げることの出来る製作者が、果たしてあの何もない空間に大勢の人間を招くだろうか?


 例えるなら、ジオラマ作りが趣味の人間が土台だけの状態で、『見て見て!』、と得意げに発表するようなものである。


「お二人の疑問は、半分は正であり、また半分は否であります」


 そんなハルとアイリの疑問に、応える声が唐突に聞こえてきた。

 声の主は軒先にいつの間にか現れており、家の中に正座にて控えている。

 雰囲気に合わせてか着物姿で、落ち着いた大人の女性といった外見だ。長い髪の毛は濃く茶色に染まっており、それが属性の『地』を思わせる。


 彼女が、きっと六柱の一人であるガザニアなのであろう。


「うわ! いつの間にか出て来てた!」


 ユキの驚くように、その出現は唐突。皆が家屋から視線を外した一瞬を狙って、そこに現れたのだろう。

 神様らしいといえばらしいが、ホラーではないので普通に出てきてほしいところだ。


「驚かせてしまい、申し訳ございません。私は、鉱山と職人の国、『ガザニア』を守護する、ガザニアと申します」

「うわ! 幼女じゃない! 大人の女だ!」

「……ユキ、あなた驚くポイントはそこでいいの?」

「え? だってさ、今までの神様、全員幼女じゃん」

「まあ、確かにね。アイリス、ミント、コスモスと、幼女の流れが続いたし僕もそうなのかと思ってた」


 なんなら、そこに深い意味が存在しているのか、とすら考察していたハルだ。何か少女性が重要な要素を含むのかと。

 特に、そんなことはないようであった。


「《えっ! あたしも幼女に含まれてんのそれって!》」

「《幼女だろぉどー見ても。もっと自覚と誇りを持とうぜぇ、幼女にさぁ?》」

「《アンタだって誇りは持ってないっしょ! んー、しかしなぁー。中学生以上じゃない? あたしは》」

「そうなんだ。背伸びした小学生かと思ってた」

「《がーーーん!!》」


 どうやら、ミント本人の年齢設定は見た目よりもっと高かったようである。

 このあたりの感覚も、常識の欠如している彼女らしいという所なのだろうか。


「それよりもユキ? あなたピンチなのではなくて?」

「ん? どしたのルナちー急に。私は別に、幼女扱いも大歓迎だけど。実際今はちっこいし」

「そうではなくて、あなたの本体よ。茶髪で長い髪、おっぱいもでかい。明らかに、ぶつけにきているわ?」

「ふぇっ!? そ、そっち? でででででかいとか言うなしルナちー。別に、問題ないっしょ、キャラ被ってても……」

「そうかしら? 見た感じ、あなたよりでかそうよ? 上位互換というやつね?」

「だからでかい連呼しないでよぅ。大丈夫だよ、その、ハル君は胸の大きさで判断したりしない……」

「《だよねぇ。お兄ちゃんは、貧乳ひんにゅーが好みだもんねぇー。私や、アイリちゃんの勝利だ!》」

「《いいえー、ハルさんはお尻が好きなのですよー?》」

「……勘弁して?」


 ……本当に勘弁してほしい。初対面の神相手に何のコントを繰り広げているのだろうか。

 ただ、そんな明らかに置いてきぼりにしたこちらのペースでの進行を繰り広げても、ガザニアはにこにことした優し気な表情を崩さない。大人の余裕、という奴だろうか。


 そんな、まだ本質の見えない新たな神様との対面。ここから彼女に、色々と聞き出さなければいけないことのあるハルであった。

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