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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部3章 ガザニア編

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第622話 神様同窓会の始まり

 メタの発見したデータの乱れがある地点、本人によれば、『重い感じがする』らしい場所へと皆で向かう。

 重いというのは、データの量が多いという意味だろう。ハルも最近は、アイテムのデータ量の多さについて少しずつ分かってきた。

 とはいえ、<目利き>に頼ってしまうところがまだ大きいので偉そうなことは言えないのだが。


「そうだ、ここで<目利き>を使えば、そこに何が潜んでいるか分かるんじゃないかな」

「いやいやいや、ハル君本気で言ってる? 仕様外の空間なんだから、そりゃー無理っしょ」

「うん。まあ、もちろん冗談なんだけどね」

「そうなのですね! わたくし、素晴らしい案なのではないかと思ってしまいました!」

「さすがに、そう上手くはいかないわアイリちゃん。こうしたゲーム用のスキルよりも、運営が使うコマンドの方が上位なものよ?」

「勉強になります!」


 そう、当然このスキルが通用するはずがない。スキルなどというものは運営から、神から与えられた力であり、その力は神に対しては通用しないのが道理だ。

 アイリスの操る魚類にハルの攻撃が一切ダメージを与えられなかったように、この<目利き>だってアイテムの隠しレア度を判定する以上の用途は持っていない。


「…………おや?」

「どったのハル君。まさかとは思うんだけどさー」

「……うん。<目利き>が利いてる。この空間、『レア度☆☆☆☆☆(ほしご)』」

「うわぁ……」

「……それは少し、手抜きが過ぎないかしら?」

「そう、なのですか?」

「そうなのです。説明が難しいけどね」


 プログラム的な知識の薄いアイリのために、ハルはなんとか分かりやすい例を考える。

 似た要素を持つ、魔法に例えてもいいのだが(むしろこのゲームは魔法で作られている)、似ているだけに今度は要らぬ勘違いを生みかねない。

 さて、どう例えたらいいのだろうか?


「そだねー。アイリちゃんが適当に罪人を捕まえて、見世物の戦いをさせたとする」

「悪趣味なのです!」

「アイリの国に剣闘士文化は無いよユキ。まあ、言いたいことは分かったから続けるのを許可する」

「らーじゃっ。んでさ、当然その戦いは、完璧に管理した体制で行わないといけない訳だ」

「選手は罪人なのですものね。武器を手に反抗されたら、面倒なのです!」


 このあたりは流石は王族、想定される状況への理解が早い。

 つまりユキの言っているのは、罪人がすなわちプレイヤーで、それを戦わせる闘技場コロシアムの責任者が運営だ。

 自分たちを罪人に例えるのはいかがな物かと思いはするが、一部の隙も無い管理体制が必要という点では確かに同じだ。


「今の状況は、自分も罪人と同じ舞台に立っちゃってるみたいな感じかな。危ないでしょ?」

「それは、危ないですね! ……その管理者さんは、もしかしたらもの凄くお強いのでしょうか?」

「そうね? いかに同じ土俵に上がったとはいえ、持っている権限は天と地、この例で言えば王国最強の剣士だわ?」

「すごいですー!」


 そう、例えダメージが通るからといって、平気で『レベル一億』とか言い出すことも可能な相手に勝てるはずはない。

 ただ、そんな万が一、億が一の可能性すら生じさせないのが管理者の責務だ。

 そこはアイリスがしたように、存在の次元が違う立場でなければならない。


「そんなミスを神様がするはずはない。これはあの太陽と同じく、僕らの次元まで引き下げる改変を食らってしまったか。もしくは、」

「《そっすね! もしくは、製作ツール、製作エンジンが開発者にすらブラックボックスで、泣く泣くこんな仕様にせざるを得なかったか、ですねえ。いやしかし、なんだか神のゲームってそうした隙がありがちな気がしませんハル様? カナリーたちのゲームしかり。にししっ》」

「《やかましいですよー。私のは、実際の異世界をベースにしてたので仕方ないんですー》」

「やあ、二人とも、外の対応お疲れ様」

「《はいー。とりあえず、NPCどもは片っ端から収容しときましたよー》」


 ここで、ハルたちがヘリオスと戦っている間に街の方の雑務を任せていたカナリーとエメが通信を入れてきた。

 どうやら、元敵であったNPC兵士たちのひとまずの仮宿が設定できたようだ。

 彼らは後日、クリスタの街の正式な住民としてあの街に住居を構えるのだろう。また、街の拡大が必要になりそうだ。


「お疲れ様でございます! カナリー様! ……ところで、今のお話は?」

「《そうですねー。私のゲームはともかく、このゲームの欠陥については明らかですー。それは、根幹にエメ(こいつ)のシステムを使ってるからでしょうねー》」

「《ハル様が『神界ネット』と呼ぶこれは、ぶちゃけわたししか分からないだろう部分が多いっす。それに加えて、スキルの判定なんかはまた別に外部の奴が関わった部分です。そりゃもう、しっちゃかめっちゃかで、正しくシステムを掌握しょうあくしきれてないんでしょうね》」


 つまるところ、自分をプレイヤーよりも上位に置く方法がついぞ分からなかった、という訳だ。

 もちろんそれでも簡単にボロを出すような設定はしていないだろうが、判定が複雑化するとこうしたことも起こりうる。


 これは“あちら”で、魔法を極めると運営と同じ土俵に立ててしまうという致命的な欠陥と確かに似ている。

 ……カナリーはまあ、自分たちのゲームの方が優れていると主張して譲らないようだが。


「少し、今後はそういった穴を突いていくことを真剣に考えようか。もう、純粋にゲームを楽しむとか、バランスがどうとか、言ってられなくなった感があるし」

「確かに、多くの人間を巻き込む方向へとシフトしすぎよね? この段階で、速やかに解決すべきだと私も思うわ?」


 コスモス、ミント、そして今回の大規模転移。神様たちの目論みは、その多くが不特定多数の人間を巻き込む可能性が高まってきた。

 その実害が目に見えるにせよ見えないにせよ、事が起こる前に処理してしまうのがベストであろう。


「《まって、ちょーっち待ってー! あたしは、そんなに多くの人間を巻き込まないよ? 資質のあるごく少数だけ。だから安心、安全っ》」

「《なにを言っちゃってんだーこの悪ガキがー! おめーはその前の選定の段階で、多くの人間を試験にかけることが確定してんだろー!》」

「《おっ、『まだ目的が秘密のままのアイリス』ちゃん、おっはー♪ ついでに、『守護神なのに契約を抜け駆けされたアイリス』ちゃんおっはー♪》」

「《うっきーーー!!》」


 そこに、幼くかしましい声が二つ混じってくる。

 ハルと、契約という名の直通ラインを構築しいつでも通信をしてくるようになったミント。そして、ここの所は話しかけて来なかったが、やはりまだハルへの接続は切っていなかったアイリスの声だった。


「やあアイリス。最近は出てこなかったよね、どうしたの?」

「《うぇー、だってよぅ。このミントがしゃしゃり出て来るし、そのせいでお兄ちゃんは私らに疑いを強めるしぃ》」

「いや、君単体の時点で十分怪しかったんだけど」

「《まじか! んなことうなよなぁ? 私はごくごく健全だぜい?》」

「健全にお金儲け?」

「《ああっ! そだ! お兄ちゃん、今回は何で『神罰』使わなかったん? あれに大金つぎ込めば、太陽ちゃんだって楽勝にぶっ殺せたろーに》」

「さすがに一つ覚えが過ぎるし、皆で戦ってる時にそれやったら盛り下がるしね」


 確かに、『何でも金で解決する』、ことを一種のコンテンツとして成り立たせているハルではあるが、何時でも何処でもそれをやれば盛り上がるとは限らない。

 仲間と共に強大な敵に挑んでいる中でそれをやれば、ただ空気の読めていない成金の烙印らくいんを押されかねない。いや押されるのは必至。


「《ねっ、アイリスちゃん分かってないよねーハル様。常に押すだけが商売じゃないのにね》」

「そうだね。……ミントの口からそんなマトモな言葉が出ると、少し不安だけど」

「《あはっ、ひどーい♪ あたしだって経済の基本くらい分かってるってのー。『生かさず殺さずが鉄則』、でしょ?》」

「うん。やっぱり不安を抱いておいて正解だった」


 もしやこのミントのサイコパス芸とも言える倒錯とうさく表現はわざとやっているのだろうか? 神様として、そうした『キャラ付け』という線もありえる。

 あまりその極端さに引いてばかりいないで、その裏にある感情をしっかり読まないとならないのかも知れない。


「《でもっ、なんだかあたしたちも大勢集まってきて、同窓会みたいになってきたねっ!》」

「《通信越しでしか会う気概がないひとがー、なーに言ってるんですかー》」

「《まあまあカナリー、わたしは嬉しいっすよ。とくにわたしなんか、どのつら下げて、って感じですんで。こうして拒絶されずに受け入れてもらえるだけで涙が出るっすね。あ、今はもう涙機能は付いてないんした!》」

「《受け入れる受け入れる。だから仕様書見せてー》」

「《にしし、だーめっす》」

「《ちぇー》」


 エメのことを避けていた節のあるこちらの神様たちも、ハルを通して少しずつ彼女と打ち解けていってるようである。それは素直に喜ばしい。

 そんな、通信越しだからこそ想いを伝えられる、なんて生身の人間のような部分があるのもまた彼女たちらしく微笑ましい。


 さてこの調子で、他の運営の神様とも集まって、同窓会よろしく暴露ばくろ会など開けてしまえば有り難いのだが。

 この場を作り上げたであろうまだ見ぬ第四の神との邂逅かいこうを目指して、ハルたちは探索を続けるのだった。

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