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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部2章 ミント編

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第619話 燃え尽きる太陽

「もしかしたらと思ってはいたけれど、よもや本当にスキルが生えてくるとは」


《まじすかお姉さま!?》

《新スキル来た!》

《どんなのだろう》

《わくわく》

《やっぱローズ様持ってるわ》

《アベル君の言う通りになったな》

《おおおお俺だって信じてたし!》

《張り合うな張り合うな》

《どんなスキルなの!》


 新たなハルのスキル、<支配者>。スキルというより特性のような名前だが、これは恐らく多種多様な強化効果をその身に受けることで発生したスキルだ。

 派生元は<統制者>。これを得るのがそもそも非常に厳しいので、もう一つの要素である<精霊魔法>は不要であると思いたい。そちらも必須であったら、いよいよハルにしか取れなくなる。


「<支配者>のスキル効果、『味方のステータスの一部を自身に上乗せすることができる』。……え、正気で言ってる? ヤバくない?」


 効果説明文を読んで、思わず目を疑ったハルだ。良いのだろうか? これはもうゲームクリアではなかろうか。ハルは自分でクリアする気は無いのだが。

 まあ、力だけでクリア出来るゲームとも限らない。しかし、力があれば出来ることが増えるのも確かだ。


「あのあのっ! どのあたりが、ヤバいのでしょうか!」

「それはねアイリ(サクラ)。スキルの対象となる人数に、制限が無いってことさ。<精霊魔法>と同じだね」

「!! それは、ヤバいですね!」

「仲間が居ればいるほど、際限なくステータスを上昇させられるスキルということね? ……もう勝ちでは?」

「だよね」


 アイリとルナも、その内容を聞き納得する。もう勝ちだ、ハルもそう思う。このヘリオスとの戦いに限った話ではなく、ゲーム全体に。


《支配した相手から力を奪い取るスキルかー》

《奪い取る言うな》

《仲間というより部下?》

《我に力を集めよ!》

《ローズ様仲間いっぱい居るもんね》

《というか、どこからが『仲間』なんだ?》

《パーティ? クラン?》

《場合によっては名前負けスキルになりかねないけど》


「それをこれから試そう。では刮目かつもくせよ。<支配者>の初お目見えだ」


 少しだけ気分を入れて、ハルは<支配者>のスキルを発動した。

 これで、大したことのない効果であったら恥ずかしいにも程がある。その時は、支配者らしい堂々とした話題転換で乗り切ろう。駄目か。


 その説明文にあった、『仲間』という曖昧な対象はどうやら自動で判定されるようではなく、<精霊魔法>と同様にハルが自ら対象指定するようだ。

 この段階だとまだ良く分からない。いくらでも好きなだけ仲間扱い出来るのではないか、とも思うが、指定しただけではまだ『仲間』ではないようだ。

 ここからは、どうすれば仲間となるのだろうか?


「お姉さまお姉さま! 見てください! 『プレイヤー・ローズから協力要請が来ています、受諾しますか?』、です!」

「なるほどね。仲間かどうかは、相手に判断してもらうってことか。これは、人望が問われるね」

「スキルを承諾するか否かで、支配者としてのカリスマを問うのね? なるほどといったスキル内容ね」

「もちろん『はい』だよ! やっちゃえハル(ローズ)ちゃん!」

「ま、待て……! 戦闘しながら、パネルの操作がっ!」


 その内容をろくに確認しないまま、今も戦闘中のユキが即断で<支配者>を受け入れる。

 それは全幅の信頼の表れか、それとも乗ってきた気分に水を差す確認ウィンドウが邪魔だったのか。

 同じく戦闘中のアベルは、まだこうしたゲーム的な趣の強い操作は苦手なようだ。視界の端に開いたウィンドウパネルと敵に、視線が行ったり来たりしている。


「いくつか警告がありますね。これは、私たちもノーリスクではないという事のようですね」

「シルフィードさん。確認作業は後にして、迅速にハル(ローズ)様のお力になられますよう」

「あっ、はっ、すみませんアルベルトさん……、つい、判断と決定は冷静にと……」

「あはは、リーダー、今はリーダーじゃないってことを自覚しないと」

「真リーダーの、更に上に超リーダーが居るもんね」

「つまり下請けの、更に下請けリーダー?」

「孫リーダー?」

「バイトリーダー?」

「貴女たちも、私をからかっていないで早く承認してください」

「はーい、リーダー」

「すぐやりまーす」


 ただ、シルフィードが今確認していた通り、この便利な力さすがにノーリスクとはいかないようだ。


 リスクを受け入れるか否かを、支配される側が選択する。

 そのリスクはスキル効果中のHPMPの減少。更に、任意で被支配者の体力ゲージをコストに出来るというもの。

 つまり、己の生殺与奪せいさつよだつの権限をハルに渡すことを許した者のみが、スキルの協力者となるのだった。


「……仲間のライン厳しくない? これ了承しても良いってのは、よほどの信頼感だと思うんだけど」

「つまりこれは『法』ということですね! 王の敷く法律を受け入れ庇護下に入るか否か、『国民』となるかを問われているのです!」

「なるほどね? ハル(ローズ)という法を破れば、最悪、死刑。そしてハル(ローズ)という国に所属する為には、HPMPの税金が必要。何か、参加の得点はあるのかしら?」

「強いハル(ローズ)ちゃんが守ってくれる! それだけで十分だよ!」


 まあ、ユキの言うように国家の庇護ひごの下、安寧あんねい享受きょうじゅするのがメリットといえばその通りなのだろうが、それだけで参加するものは少なかろう。

 お互いゲームクリアを目指すライバルでもあるのだ。ライバルを強くして自分はコストを支払う。何の得もない。

 そこは、追い追い支配されるとお得な得点ギフトを考えていかねばならないだろう。


「ひとまず、今日のところはそのコストがどれだけであろうと、全て僕が負担すると約束しよう。安心してほしい」


 ただ、今この場ではそう言うしかない。幸い、これまでの戦闘中のスキルコストは全てハルが負担し回復を掛けてきた。今更そこを疑うものは居なかったようだ。


「うおおおお! 姉貴ぃ!」

「今更疑う訳ありませんよぉ!」

「どこまでもお供しますぜぇ!!」

「ちょっと男子! ノリが暑苦しい!」

「お姉さまには、もっと優雅にお仕えするの!」

「あたしたちも優雅かなぁー?」

「受け取れー! ローズちゃん!」

「……なんで手ぇそんなあげてんの?」

「パワーを送るポーズ?」

「俺もやる!」

「あ、私もー。なんかそれっぽい」


 ありがたくも快諾してくれた参加者から、ハルに向けて続々とパワーが集まってくる。ちなみに、ポーズを取る必要はない。

 だが盛り上がりは十分。この場に集った参加者の全てが、ハルに力を貸すことを承認してくれた。

 想いは一つ、『ヘリオスの撃破』、そのために全員が一つの方向を向いている。


《熱い展開!》

《クライマックス!》

《やっちゃえローズ様ぁー!》

《パワーをローズに!》

《みんなの力を今ひとつに!》

《究極生命体ローズの誕生だー!》

《なんか色々おかしい!》

《視聴者のテンションもバグってきましたなぁ》


 ハルからは黄金の、『支配者のオーラ』、とでも言うべきものが立ち上り、この場の精鋭たちのパワーが全て集められた。

 その効果は絶大。元から圧倒的強者であったハルのステータスは、ゆうにスキル使用前の二倍以上となっている。

 もはや、ハルを止められる者など何処にも居ない。そんな、まさに支配する者の圧力がその身からにじみ出る。


「ふおおおお! すごいですー! ハル(ローズ)お姉さま、格好いいですー!」

「無敵のハル(ローズ)ちゃん爆誕だね! それに、その力の上昇を受けて<精霊魔法>が更に強化されてる!」


 ハルの力が上昇したことで、そのあたいを基準とする<精霊魔法>の強化効果もまた上昇する。

 ハルに力を貸すことで、間接的に自身の強化にも繋がった形だ。これは、恐ろしいコンボだった。無敵の個人どころか、無敵の軍隊の誕生だ。


「力がみなぎる!」

「やばい! これ元のローズ様くらいあるんじゃね!?」

「んなわけあるか!」

「ローズ様なめんな!」

「待って、ここで俺らが強化されたら……」

「その力を受け取ってローズ様が更に……!?」

「それが無限に繰り返される無限ループ!」

「……とはならないようだね」

「ならんかー!」

「さすがにね!」

「だけどこれなら!」

「ああ! プロミネンスにも対抗できる!」


 敵の行動パターンが変わり、もはやこれまでかと諦めかけていた仲間たちの目にも光が戻る。

 そう、これはハル一人の戦いではなく、皆で挑んだ戦い。ハルの身を通じて、その決意は真に一丸となった。


「……そうだね。では最終局面だ、行こうか諸君!」


 支配者たる堂々の気迫をもって、ハルはその仲間たちに号令を掛ける。





「イージス、皆を守れ。もはや僕にはそよ風だ」


 支配者のオーラをなびかせながら、ハルはヘリオスに向け歩を進める。

 天帝の紅炎ですらその歩みを妨げるは適わず、その身を焦がすには至らなかった。


ハル(ローズ)? 平気なのかしら? やせ我慢は良くないわよ?」

ルナ(ボタン)……、今カッコつけてるんだから……」

「いいから、きちんと報告なさいな?」

ルナ(ボタン)お母さんなのです!」

ルナ(ボタン)ちゃ過保護ー」


《ママーっ!》

《ローズ様ってボタンさんに割と弱いよね》

《とても気安い仲を感じる》

《非常に尊みあふれる》

《で、大丈夫なん?》

《ダメージ自体はあるみたいだけど、すぐ回復してる》

《つまり、やせ我慢ってこと!?》

《まじかよ可愛い》

《いや、自動で回復してるみたいだ》


 ハルのステータスを観察していた視聴者の読みは当たりだ。支配者のオーラは、ここにきてついにハルに自動回復の効果を付与するに至った。

 ハルがこのゲームにおいて求めて止まなかった物である。少し、条件が厳しすぎるが。


 これは他人から体力コストを吸い取っているからだろうか。逆巻く太陽からの炎風は、その回復速度を上回ることはなかった。

 オーラにより防御効果もあるのだろう。ご丁寧にハルの得意な光属性から火属性に変更されているが、<支配者>はそれを容易たやすく防ぎきる。


「攻撃が、通っている!」

「俺達もやれる!」

「おい、油断すんなっ! 攻撃に集中しすぎたら!」

「まずっ、かわせなっ……」

「おお! イージスが!」

「あっぶな……、ありがとうローズ様……!」

「間一髪!」


 自分たちの攻撃が有効打を与えられるようになった喜びから、ついつい攻撃に傾倒けいとうしすぎてしまう前衛たち。

 あわや紅炎の直撃、というところで、ハルの操る飛翔盾、『イージス』により難を逃れた。

 ……今更だが、名前はこれで良かったのだろうか。本人(本指輪)の希望など聞かずに適当に呼び名を決めてしまったが。


「まあいいや。さて君たち、危ないから少し下がっていたまえ。いや、ヘリオスの攻撃がじゃなくてね。僕の攻撃が危ない」


《おお! 来るのか、支配者の本気が!》

《支配者の本気って?》

《……命令が、凄い!》

《それじゃいつも通りじゃーん!》

《ローズ様近づいてってるから、近接技か!》

《お味方を引かせるほどの近接技?》

《地面が、爆発する……》

《女帝拳!!》


「いや、別にそんな超強いパンチを撃つ訳じゃないけど……」


 近づいているのとは、また別件だ。<支配者>のスキルコマンドの中には、他者から力を集める者以外にも実行可能なスキルがある。

 その一つが、『魔法支配』。これは自身の所持する魔法スキルを、魔力的に支配し強制的に別物へと変換する効果を持っているようだ。


「『魔法支配』発動。支配するのは、当然<神聖魔法>だ。さてどうなるか」


 上位のコマンドにより支配され、そのタガが外れたように次々と溢れ出す<神聖魔法>の光弾。“あちら”で言えば、強制的に魔法の式を書き換えてリミッターを外したような状態だろうか。

 無数に宙へと輝くそれはヘリオスへと向かうことなく、ハルの目の前に集まり合成され始める。

 敵の太陽の輝きにも負けじと激しく発光し始めた圧縮光弾は、すぐにでも破裂し爆発する寸前に見えた。


「発射」


 その誘爆一歩手前で、ハルは光弾を解き放つ。開放された光は指向性を全て前方へ向け、極大のレーザーとなってヘリオスへと突き刺さったのだった。


「ははははは! 意趣返しだな! 散々好き放題にレーザーを撃ってくれたヘリオス君。その身でレーザーを受ける味はどうかな?」


《ローズ様のりのりだー》

《女王様!》

《踏んで!》

《蒸発するぞ!》

《踏まれて蒸発?》

《もはやカオスすぎて意味不明》

《太陽のかかと》

《すっげぇ、太陽の一角が吹き飛んだ……》

《でもまだ生きてんのか!?》

《コアをえぐらなきゃ!》

《修復してる!?》


 極大の光の柱により吹き飛ばされたその身を、ヘリオスは急速に修復し始めた。

 どうやらMPを消費して、HPと半身の回復に充てる特殊行動のようだ。


「ああっ、せっかく削ったHPが回復しちゃう!」

「ボスに回復スキル付けるなってあれほど言ったじゃないですかー!」

「ここまでの苦労がー!」

「いや待て、ローズ様はまだ余裕だ!」


 そう、MPを使ってくれるならむしろ好都合。これまでもレーザーと紅炎の乱射で、大量に消費していたヘリオスのMPが更に少なくなる。


 そして、その太陽の輝きの至近へとハルはついに辿り着いた。


「回復は悪手だったね。最適解は僕から逃げることだ。『傲慢を許さぬ者』の傲慢プライドが邪魔したかな?」


 回復中で攻撃の止んだその燃え盛る身に、ハルはそっと手を触れた。

 そして、トドメのスキルを発動する。


「『魔力掌握(しょうあく)』、発動。さて、君もMPマイナスの反動を楽しみなよ」


 その手から急速にヘリオスのMPはハルへと支配され流れていく。

 そしてゼロを通り越しマイナスとなり、その反動によってヘリオスのHPは急速に減り、ゼロとなったのであった。

※一部スキル名を修正しました。

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