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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部2章 ミント編

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第615話 太陽

 上空へと飛ばしていた使い魔の視点画面が途絶えた。それの意味するところと、映像が切れる直前に見えた一瞬の衝撃画像、そこから導かれる答えを察し、この場の一同に緊張が走る。


「……そうだね。お察しの通り、カナリアは撃墜された」


《ぎゃあ!》

《やっぱり!》

《なーんか見えたんだよなー》

《太陽に目があった》

《ちょっと不気味》

《あれモンスターなの?》

《もしかして前の魚と同じ?》

《きょだいぎょ!》


「可能性は十分あるね」


 視聴者もざわついている。以前にハルが戦った、巨大な魚型モンスターを思い出しているようだ。ハルも、あれと同類である可能性はそれなりに大きいと思う。

 ちなみにあの魚は、『魚類ちゃん一号』という適当極まる名前であった。ならば今回は『太陽ちゃん一号』、だろうか?


 ……などと、ハルが馬鹿なことを考えている間にも、その太陽に変化が起きていた。

 近づいての観測手段を失ったハルたちだが、その変化の観測はもはや近づくまでもない、この地表からでもすぐに分かる。

 その太陽が、どんどんと空から降りてきたのだ。


「戦闘になる、ってことだよねこれは」


「《レイドバトルか!》」

「《なにげに初めてかも!》」

「《そのための人数だったのか!》」

「《ログアウトした人早まったなぁ》」

「《いや、無事に帰れて良かったのかも……》」

「《怖いこと言うなよ……》」

「《正体暴かれて怒った?》」

「《謎解きむずすぎん?》」

「《クラマス気を付けて! クラマスのとこに落ちます!》」

「《クラ“マス”に、落ち“ます”?》」

「《頼むから今黙ってろ!》」


「……皆、僕に通信繋いだまま一斉に喋らないの」


 その皆が騒ぎ立てる通り、太陽は己の真下に向かって、すなわちそこに立つハルへと向かって急降下してくる。このまま戦闘になるのは間違いない。


 ハルたち以外の、転移に巻き込まれたプレイヤーは幸か不幸かそこから遠く離れ、円陣で大きく包囲する形だ。

 彼らが到着するまでは、ハルたちだけで相手をすることになるだろう。


「まあ、良かったのかも知れない。得体の知れない相手だ。僕がまず様子を見よう」

「ひゅう♪ ハル(ローズ)ちゃん勇ましいー」

「満を持して、ハル(ローズ)お姉さまのご出陣ですね!」

「気を付けなさい? 前のように、倒せない相手かも知れないわ?」


 ハルも、その可能性は大いにあると考えていた。以前アイリスが使役していた巨大な魚は、HPをはじめとしたステータスが何も存在しなかった。

 プレイヤーに倒されるための存在ではなく、ただただこの空間からプレイヤーを排除するための存在。

 ある意味ハリボテのこの世界の裏側を、白日の下に晒してしまった、いや白日ごと晒してしまった罪への懲罰だ。そういった可能性も十分に考えられる。


 事実、急速に接近してくるその太陽に目を凝らすと(ゲームシステムによりある一定以上の光量はカットされ、目が焼けることはない)、その頭上のAR表示はやはり意味を成していないバグのような文字化け表記であった。


「やはり、となるとプレイヤーの通常攻撃は……」


 今もいちキロ先から『レイドバトル』に参戦しようと、この場に駆け寄ってくる仲間たちだが、もし到達したとして、彼らの攻撃が通ることはない。

 開催されるのはレイドバトルではなく、ボスによる一方的なプレイヤー抹殺イベントだ。


 強敵の予感に沸く彼らをどう収めようかとハルが思案していると、唐突に右手にはめた指輪が輝きを放った。


「これは、敵のステータスが……」


 見れば急接近してくる太陽の、バグじみたステータス表記を上書きするように、更にバグのような視覚効果エフェクトで塗りつぶされる。

 このエフェクトは、もうお馴染みとなった空間に開く穴のエフェクト。黒いノイズのような世界の異分子。

 その異分子が、プレイヤーにとって圧倒的な上位存在を手の届く範囲におとしめてゆく。


「……君の目的は、一体なんなのかな?」


 平和な世界に穴を開け、そこをかき乱すことか。それとも世界を裏で操る存在を許せず、それを崩壊させることか。

 いまいち、ハルにはこの指輪の行うところが理解しきれない。


 最初、この場所は指輪によって導かれた、指輪それ自体が作り上げた世界だと思っていた。

 何かしらの条件を満たした者をここに招待することで、ミントのように目的を果たそうとしている。

 しかし、今この状況を見るに、この空間を作り上げたのは指輪ではない第三者、ハルのまだ知らぬ神の誰かだ。その誰かの計画をくじくために、世界を改変している。


 これで全て計画通りだとしたら、とんだ知恵者だ。

 最小の労力でハルの行動を操り、ハルを使って自分の目的を果たしている。

 読み切れぬ展開の連続に、ハルは自分が指輪の思惑を読んでいるのか、それともそう思っているだけでただ指輪に誘導されているのか、不安が鎌首かまくびをもたげてきた。


「……まあいい。今はとりあえず乗ってあげよう。だが、今後は本気で君の思惑を暴きに行くので覚悟するように」


 元、最上位者としての矜持きょうじからか、そんな負け惜しみの言葉が出てしまうハルだった。

 だが、今この時ばかりは、そのことはひとまず置いて目の前の敵に集中しよう。





 太陽の“着弾”予想地点から少し距離を取り、それを待ち構えるハル。後ろには、庇うように女の子たちが三人固まる。

 ユキは前に出ようとしたが、どんな攻撃が放たれるのか不明だ。なにせ相手は元無敵モンスター。通常攻撃が全て即死でもおかしくない。


「敵の名前は、『傲慢の羽を許さぬ者』、です! なんだかその在り方自体が、傲慢なのです!」

「イカロスの翼ことね? ハル(ローズ)の翼は、実際に焼き尽くされてしまったわね」

「怒りっぽいんだね」

「シャイなのかもよハル(ローズ)ちゃん? 近づくだけで、顔真っ赤にするくらいだし」


 このネーミングは名前を改変した指輪によるものだろうか? 先ほど、ろうの翼で太陽を目指したイカロスの話を出したハルたちだ。


「《なんだっけ? アポロン?》」

「《ヘリオスじゃなかったっけ?》」

「《それっぽい》」

「《監視太陽ヘリオス》」

「《改めて名前つけるな》」

「《夜になっちゃった》」

「《そりゃ、日が落ちたもんな》」

「《物理的に落ちなくても》」


 光源が消えた空は宇宙のごとき深い暗さを取り戻し、地に落ちた太陽は煌煌こうこうと巨大すぎる焚き火となってこの場を照らしている。

 大きさも降ってくる間に、全長十メートルほどの常識的な大きさに収縮しており、なんとか人間が戦えるサイズだろう。


 その中心には巨大な一つ目が見開き、太陽に挑んだ傲慢なハルたちを睨みつけていた。


「……お天道様が見てる。物理的に」


《ローズ様頑張って!》

《ローズ様気を付けて! また攻撃されちゃう!》

《さっきは何やられたのかな?》

《画面全体が光ったと思ったら、そこで切れた》

《太陽の炎攻撃?》

《光攻撃かも》

《……どう違うの、それ?》

《属性が違います》


 このゲームには大きく分けて六属性、それを更に二分割した十二の属性相性が存在する。

 基本的には六種類だけ覚えていれば済むようになっており、『地水火風』と『光闇』で六つを構成している。


「僕的には、光だとやりやすいかな。それ希望」

「叶うといいですね、お姉さま!」


 もう地上に降りた時点で、戦闘は開始しているだろう。ハルは先ほどのような攻撃に備え、<神聖魔法>による光の壁を形成して防御した。

 この壁は防御する属性を特に問わないものだが、同系統の光属性の攻撃であればより高い防御効果を発揮する。


 そんな防御壁に向け、警告なしに太陽からの攻撃が発射される。ハルも便宜的に『ヘリオス』と呼ぶことにしたその敵からの攻撃は、半ば予想通りレーザーのような光攻撃だった。

 その極太の光線は防御の光壁とぶつかり、その防御力を破壊しつくした上でハルのHPにダメージを与えてきた。


「……大丈夫、生きてる。幸い、回避不能、防御不能のインチキ攻撃じゃあなさそうだ」

「十分インチキよ? あなたがなんとか防御できるレベルの攻撃なんて、他の人間には防御不能と変わらないわ?」

「だいじょびルナ(ボタン)ちゃ! 防御できないなら、全部回避しちゃえばいい!」


 そう言ってユキは、ハルの後ろで敵の攻撃を真剣な瞳で観察し始める。防御はハルに完全に任せ、全神経を集中させている様子だ。

 そうして敵の攻撃パターンを読み切り、その全てを回避しつつ近接攻撃を仕掛ける気だろう。


 幸い、敵のレーザーは光速とはいかず、なんとか目で追える速度にて発射されている。ここはゲームのお約束通りだった。

 ただ、目に見えるからといって体が追い付くかはまた別の話。避けるためには、パターンの先読みによる先行回避が必須であった。


「……ねぇハル(ローズ)ちゃん? その防御ポーズなんなん? 気になって集中できないんだけど」

「ああ、これ? しゃくだから、この指輪に責任を取らせようと思って。防具効果は残念ながら無いようだけどね」


 ユキから、右手の甲を前に出したハルの妙な防御姿勢にツッコミが入ってしまった。

 言った通り指輪に防御効果は一切ないのだが、せめてもの腹いせとして、レーザーの直撃を一身に受けていただきたい。


 そんなハルの思いが通じたか、それともただ無防備に敵の射撃にさらされる状況を良しとしなかったのか。指輪は再び変形を始めた。

 かつては巨大な剣の形へと変化を遂げ、アイリスの巨大魚を一刀両断したその指輪は、今回はその形を輝く光の盾へと変えた。


 その盾は宙に浮遊し、ハルの意思に従って動く。

 そしてその数は一枚や二枚ではなく、複数に、やろうと思えば何百枚にでも分割できるようだった。


「……なるほど、今回は防御してくれるんだ。さしずめイージスの盾ってとこかね? また剣でよかったんだけど」

「贅沢いわないハル(ローズ)ちゃん! 剣には、私がなるよ! さぁ行こう!」

ユキ(ユリ)が楽しそうで何よりだよ」


 どうにも、指輪に状況を良いようにコントロールされている感はある。

 だが、せっかくの大人数での盛り上がり、確かに一撃で終わらせてしまってはつまらない。

 ここはハルも、その思惑に乗ることにしよう。

※誤字修正を行いました。(2023/5/22)

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