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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部2章 ミント編

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第593話 偏向報道

「それで、結局どういうことになったのかしら?」

「向こうも準備があるらしくてね。もともと僕の指定日は越えるそうだ。詳細な予定表を送ってきたよ」

「戦争というより決闘ですねー。資金援助までしちゃってー、利敵行為ですよー?」

「そこは、互いの放送を盛り上げるためだね。ただ、何にそんなにゴールド使うんだろう。傭兵でも雇うのかな?」

「そこは、あいつの放送で今やってますよハル様! どうやら貴族連中を手なずけるための、餌のようです」

「なるほど?」


 再びゲーム内で集合したハルたちは、ひとまず放送はつけずに侵略者への対策を話し合う。

 紳士的であろうと、互いに予定のすり合わせを行おうと、侵略者は侵略者。そこは相手も本気で取りに来るだろう。

 こちらも気を抜かず、準備を進めないとならなかった。


 既に領主コマンドで街に非常事態の警戒を知らせ、外敵への防備を固めさせている。

 ミナミの語り口から、軍勢を率いてくるらしいことは分かったので、対軍に備えた防壁等の準備を急がせる。


「まるで要塞ですね!」

「だねー。がっちがちだ。完全に防御重視っぽい見た目だけど、見張り塔みたいのは無くっていいの?」

「見張りは僕がやる」

「監視カメラ代わりのカナリアちゃんですねー。便利ですねー」


 ログイン二十四時間、監視範囲360°、ハルの見張りに死角は無い。

 圧倒的、力技。完全目視によって成される領主直々の監視網は、見張りに割く兵力を不要とした。

 それにより、より安全に、より効率的に防備を固めることが出来る。


 あんなに開放的だった牧歌的ぼっかてきな僻地の街は、いまや巨大な要塞都市へと変貌へんぼうしようとしていた。


「これはもう、都市を私物化していると言われても言い逃れ出来ないね」

「あ、まさにそこっすよハル様。今あいつの放送で、その辺を突いているみたいっす!」

「どれどれ?」


 相変わらず、全ての放送を常時チェックしているというハル以上の監視網を誇るエメから、此度の敵となるミナミの計略が知らされる。

 宣戦布告が済み、潜伏するのは止めたのか。いやむしろ大手を振って、自身の『エンタメ』を始めたのか、堂々と放送に乗せて侵略計画をスタートさせたようだった。


 ハルはエメの助言のとおり、彼の放送を開いて仲間たちとチェックすることにした。


「《つまりは、閣下の懸念されていた通りに、かのローズ<伯爵>は領地を私物化し、私腹を肥やしております。これは、間違いのない事実ですねぇ……》」

「《ほうほう! やはりかやはりか。だが、ちと弱いな。私腹を肥やしているなど、どの貴族も同じ。ワシも、お前もだろう?》」

「《お戯れを、閣下》」

「《しかも奴の王からの評価はすこぶる高い。腹立たしいことにな。相当な賄賂わいろを積んでいると見える。何が『<侯爵>もすぐであろうな』、だ!》」

「《へぇ……、素直にすげぇ》」


 いきり立つ黒幕風の貴族には、ミナミのぼやきは耳に入らない。

 ミナミは薄暗い部屋にて、謎の貴族と向き合って大げさに演説を打っていた。わざとらしすぎる演技も、また彼のキャラクターに良く似合って映えている。

 完全に視聴者に見せるためのお芝居、自分を登場人物としたシナリオの一コマとして、彼は役を演じ切っていた。


「《つまりそこから崩せはしないと?》」

「《そうとも。無理とは言わんが、奴の賄賂を超える額をこちらも積まねばならんぞ? それは少し、出費が痛くてなぁ?》」


「賄賂じゃなくて普通に税金払ってるだけなんだけどね」


 現地の言葉で、国に払う正当な税金は『賄賂』と言うらしい。勉強になったハルである。


 冗談はさておき、そこから来るハルへの多大な国の評価により、難癖を付けて失脚させるのは難しようだ。国は常に金払いの良い領主の味方。


「こいつあれかな? 前にこの街に居た領主の奴と通じてたワルモノかな?」

「だろうねユキ。ミナミくんは、<貴族>になってそういった勢力と接触することに成功したようだ」

「というより、そういう勢力と接触して、<貴族>になったようっすよ! 何でもお金で解決してきたハル様に対して、何でも口先で切り抜けてきたミナミって感じですね。そうしているうちに、なんだか話術系のスキルも身に着けたとか」

「ふむ? そう聞くと、彼の方が真っ当にゲームしている気がする」


 ピンチを口先ひとつで潜り抜けて、大物貴族に見出される。自身も貴族として登用され、その才覚を十分に生かして栄光の道を切り開くのだ。

 そのように表せば、なんだか、成り上がりのストーリーとして王道の道を進んでいる気がしてきた。


「組んでる相手は、真っ黒ですけどね?」

「ですねー。きっといずれはアイツも蹴り落として、ニヒルな黒い笑みを浮かべる予定なんですよー」

「まあ、そうだろうけどね?」


 確かに王道というよりも、ダークヒーロー路線だろうか? 彼の元々のキャラクター性からも、そうした路線が似合いそうだ。


「《ええい忌々しい。何か奴を糾弾する、良い証拠は無いものか!》」

「《そう仰ると思い、用意して参りました》」


 ミナミは懐から(のように見せかけて普通にアイテム欄から)、何かのマジックアイテムを取り出した。これはハルも知らないものだ。

 いくつか種類があるようで、なにやら映像を映し出す水晶のようだ。


 そこにはハルの放送が記録されており、ハルが前領主から賄賂を受け取るところ、ハルが住民たちから英雄がごとく崇拝されるところ、ハルが大通りをぶち抜いて巨大な屋敷を建設するところ、同様に巨大な神殿を建立こんりゅうするところ、などが記録されているようだった。


「《これらの記録から分かるように、奴の悪事は明らかなんですよぉ閣下! 奴は自分を神の化身とうそぶき、民衆を扇動しております!》」

「《おお、これは使える、使えるぞ君! 特に、国の許可なく神殿を建てるのは明らかな越権行為だ! 思い上がったな伯爵!》」

「《え、そっち……? ええ! そうですとも! いったい誰の許可を受けて、あんなことをしているのですかねぇ!》」


「そうだね、神の許可じゃないの?」

「ウケる。ハル君、こっちも放送しとくべきだったね。ツッコミ放送、シュールで面白いよきっと」


 ミナミの提示した『証拠』には、様々なハルの『悪事』が記録されていた。

 いずれもかなりの偏向報道ではあるが、実際にハルが起こした行動には違いない。ハル自身も、個々の事象についてはやりすぎだったとその場で反省している。


 そんな、偏向報道をすることが、もとい、他者の放送を証拠としてNPCに通じるようにアイテム化することが、ミナミの能力、彼に固有のスキルなのだろう。

 なかなか良いスキルだ。大抵のプレイヤーは、清廉潔白せいれんけっぱくな部分だけを放送してはいられない。必ずボロが出る。

 特に長時間の放送においては、ゲーマーとしての地が出てしまうものだ。効率化は、時に人道にもとるもの。


「ユニークスキルか。あるとは思ったけど、ついに出てきたね。流石に有名人だ、“持ってる”」

「んー? 言うてハル君のスキルも半ばユニーク化しとらん? <信仰>も、<召喚魔法>も」

「どちらも基本スキルのはずですが、内容がなにも基本的ではありませんよね!」

「まあそれでもー、向こうで言う<神眼>や<物質化>ほどのぶっ壊れではないですよねー。まだシステムに準拠している方ですー」


 そうした証拠の数々に小躍りする黒幕貴族氏。見て分かる通り、どうやら彼がハルとその領地を攻めると言い出した張本人のようだ。

 かつてのこのクリスタの街の領主による、反乱計画。ハルが潰したそれだが、中央のもっと上の貴族が関わっているとハルも読んでいた。彼一人で成し得ることではない。

 そうなると、その計画を潰したハルへ向けて、いずれその魔の手が迫ることも予想される。それに対する対抗の準備も、街の発展により進めてきたハルなのだが。


「どうやら、ミナミくんに利用されちゃったみたいだね、その陰謀を」

「そうなりますね。彼は自分が利用している側に見えて、その実利用されてしまっているのです! これで、ミナミさんは自分の手を汚さず、ハルさんを攻めることが出来ます!」

「攻め込んでくるのはミナミくんの手勢ではなく、あの黒幕氏の手勢って訳か、考えたものだ。これなら大義名分もなにも関係ない」

「大義はこの男がでっち上げてくれましたねー」


 さて、少し厄介になってきた。正直、勝ち負けの面で言えばどうあってもハルに負けの目は見えない。

 いかにハルがNPCの殺傷を嫌っているとはいえ、だからといって無抵抗でやられる訳もない。

 純粋な戦闘力では、どうかき集めようが現状のハルを上回ることは難しく思えた。


 そこをどう対処するのかと思っていたが、政治的に来るようである。これは少し厳しい。

 この“切り抜きによる偏向報道”がどこまで正当性を有するのかは分からないが、上位の貴族が黒と言えば黒になってしまう可能性は、まあ無くもない。

 そうなれば、いかに武力を備えていても、<貴族>であるハルはその屋台骨を揺るがされてしまうということだ。


「参ったね。宮仕えの辛い所だ。<貴族>である以上、どうしても法には逆らえない。やはり<賢者>になっておくべきだったというのか……」

「失敗しましたねー、ルートミスりましたねーハルさんー。ここは、もう独立して国をおこしてしまいましょー」

「そうですねカナリー様! ハルさんが<王>になれば、もはや誰の命令も聞く必要はないのです!」

「……その前に、<貴族>でなければ法には従う必要がない訳ではなくてよ? ハルが例外すぎるのよ」

「あはは、確かにどっちの世界でも、ハル君に法律通用してないもんね」


 別にそこまであからさまに法律違反する気はない。だが公に出来ないことが多すぎるのだ。

 まあ、多少やりたい放題なのは、認めざるを得ない。


「《ふーむ、だが、ちと兵力を集めるための資金が心許ないな?》」

「《ならば、こちらをお使いください。悪を討つために、ご用意させていただきましたよぉ?》」

「《ふっふっふ、そうかそうか、ならばその正義は、代わりにワシがしっかり成さねばなぁ》」


「あ、ハル君の金だ」

「悪の金ですねー?」


 何に資金を使うのかと思ったら、こちらも賄賂であった。

 そんな落ちでもって、ハル討伐計画は着々と進行していくのであった。

※前書きを削除しました。

 臨時のお休みをいただく旨を削除しました。この度はご迷惑をおかけしました。


 表現の修正を行いました。大筋に影響はありません。(2023/5/22)

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