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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部2章 ミント編

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第577話 錬金実験開始

「しかし、蘇生薬は出来ないね。賢者の石でも必要なんだろうか?」


《出た、お決まりの》

《大抵が踏み台にされる最終目標》

《所詮は賢者の石など手段よ》

《というか、それって<錬金>?》

《<調合>じゃなかったか》


「分からないけどね。ただ、僕が最初に選んだスキルは<錬金>で、つまり何を隠そう僕は錬金術師さ」

「なにをドヤ顔しているのかしら? <貴族>でしょうに」

「でもさ、錬金術師ってけっこう貴族なんじゃない? そういうの良く見るよ?」

「そうね? 確かにユキ(ユリ)の言うとおり、お金持ちじゃなければやっていられない職業かしら?」


 主に素材の調達や、実験器具の購入にお金が掛かりそうだ。


「このゲームでもー、<錬金>で大成したのはハル(ローズ)さんくらいですしー? そういう面は出てるかもですねー」

「まあ、僕は素材を容赦なく実弾購入しちゃってるからね」


 そうでなければ、アイテムを実地で採取してきて、それを加工し、売り、その収入で更なる素材や機材を揃える、といった地道な流れになるだろう。

 そういう少しずつ進歩していくゲームも好きだが、競争要素のあるこのゲームでは時間が掛かり過ぎる。


「それでー? その偉大なる錬金術師様が、ここからどうするんですー?」

「うん、鋭いねカナリー(ルピナス)。ここからは<調合>を少しお休みして、<錬金>に移っていこうと思う。少し手詰まり感があるからね」


 今は、下位の回復アイテムにレア素材を投入することで、強引に上位のアイテムを作成している状況だ。

 それはそれで偉業として評価してもらっているのだが、残念ながらこの偉業の道筋はここまでで終了のようだった。


 上位アイテムは『果月草はてつきぐさ』のような、まだ見ぬ素材をそのレシピに含み、正規の手段で<調合>することが出来ない。

 よって、そのアイテム、先ほど出来た再生薬などを基準にして更に上位のアイテムに至る道は開けないのだった。


《……つまり、どういうことだ?》

《二段飛ばしは出来ても三段はさすがに無理》

《そうだなぁ、レアとはいえただの薬草だし》

《伝説級アイテムの素材にはならないか》

《伝説の薬草なら、あるいは?》


「今のところそういうのにはお目にかかったことがないね」


 もしあったとしても、発生率は恐ろしく低いだろう。

 再現性が期待できないものは、生産ラインにも乗せられない。伝説の薬草に期待するのは意味が薄い。

 蘇生薬が用意できても、それ一本しか作れずじまいでは意味がないのだ。


「ただ、幸いなことに再生薬の方は知らない材料は一つだけ、『果月草』のみだ。それさえ用意できればいい」

「あれ? 拡散薬の方ならくだもの集めればいけるんじゃん?」

「そっちは後でねユキ(ユリ)。多分だけど、進化の方向性が違うから」

「そかそか。回復力も低いみたいだしね」

「うん。レシピは放送に乗せたから、他の薬師に作ってもらおう」


 ここで拡散する回復薬を力の限り量産して、最初の時のように最大需要で得られる高値をハルが思うままにむさぼっても良いのだが、それは止めておくことにした。

 既にその行動によって得られる<商才>スキルは持っているし、他に欲しい者に譲ろうと思う。


 ゴールド、つまりゲーム内通貨は替えが効く。それよりも、この段階に至っては無償で知識を公開してくれる者という人気の方が価値が高い。

 ハルのレシピを見るために、この放送の視聴者が更に増えてゆく。


「んじゃさ、なにするんハル(ローズ)ちゃん?」

「これから<錬金>をするのですよね? 何か関係があるのでしょうか? わたくしも、分かりません」

「んー、そうだねえ、少し説明が難しいけど。……じゃあ、まずここには、完成品の『再生薬』がある」

「はい! あります! ハル(ローズ)お姉さまががんばって、作りました!」

「そしてそのレシピには、『果月草』が必要だ」

「はい! 必要です! でも無いので、高品質な薬草で代用しました!」

「あー、私わかったかも……」

「流石だねユキ(ユリ)は。慣れてる」


 アイリはまだ、きょとん、としている。視聴者たちも良く分かっていないようだ。

 この辺りは、『ゲーム慣れ』と『ハル慣れ』の両方のセンスが必要とされた。アイリにはまだそこまでゲーム経験が蓄積されていなかった。


 このまま悩むかわいい姿を眺めてもいいが、相手がアイリではふとした瞬間に心を読まれてしまうだろう。

 もったいぶらずに、ネタばらしに入る。


「つまり逆に言えば、完成品の『再生薬』があるってことは、その中には『果月草』が入ってるってことになる」

「はい! ……おや? 薬草で代用したから、入っていないのでは?」

「入ってるんだよねぇ。使ってないけどさ」


《あーなるほど》

《えっ、何でそうなるん?》

《入ってないよね? 使ってないもん》

《何でかっていえば、『ゲームだから』》

《完成品は、レシピ通りに出来てるに決まってる》

《その由来なんかいちいち設定されない》


「まあこのゲームなら、そうした細かい情報も付随ふずいしてても良さそうだけど、そこも<解析>を掛けないと出てこない」

「そですね。それは確かかと思われます。<解析>したらゴミでしかないはずの薬草も、<解析>を掛けないままだと通常の効果を発揮するっす。これは、未鑑定のものは全て一定の、既製品としての効力を持つということですね」

「説明ありがとうエメ(イチゴ)


 そう、例えゴミであれ、それを『ゴミである』とプレイヤーが認識しないうちは、それはしっかりとした効力を出す商品だ。


 よくよく突っ込んで考えると面白い話だ。共通認識の話だろうか。

 金貨でもなんでもないただの紙切れが、お金としての価値を持つこととも似ているかも知れない。


「さて、つまりそういう事だね。この再生薬を、<錬金>によって分解する」

「あれっすね、ゴミを分解して基本エレメントにしてるいつもの奴っすよね。いやー、ようやくゴミ処理以外の活用法が出来たようで、感慨深いです。ハル(ローズ)様ならそれ使って、何か悪さしてくれるはずだと信じてました!」

「うん、ゴミって言いたいだけだねエメ(イチゴ)? 一応君もお嬢様連合の一員なんだから、あまりゴミゴミ連呼しないように」

「えー! 嫌っすよぉ! 庶民的な言葉いっぱい使いたいっすー!」


《ゴミを庶民的な言葉って言わないで(笑)》

《それは語弊があるな(笑)》

《イチゴ『庶民はゴミ』》

《偏向報道の完成だ》

《マテリアル化のこと?》

《だろうね。食品には、それを構成するマテリアルが含まれる》


 今の時代、ナノマシン(エーテル)技術により、そうした要素の分解と再構築は日常的に行われている。その理解により視聴者も納得したようだ。

 食品に含まれる栄養素などを『素材』として保存しやすい形で蓄え、食べる時には完成品を『プリント』する。


 若者の自炊離れだなんだと言われている原因の大半を担っているが、実際便利なので仕方ない。

 そうでなくとも、現状、日本では自然由来の食品のみに頼って全人口の食料自給を賄うのは難しい。

 保存と流通が容易である、そうしたマテリアルペーストが、今の時代を支えているのは間違いなかった。


 余談であった。ゲームの話に戻ろう。


「さて、それじゃあこの薬を<錬金>で分解にかけよう」


《ああっ!》

《売ってくれー!》

《なんと無慈悲な!》


「焦らないの君たち。今は実験が優先。すぐに売りに出すからさ」

「そうですよー? 実験によって、さらに高品質なアイテムが出来るかも知れないんですよー?」

「期待して待つのです!」


 なお、そうして生まれたアイテムが庶民冒険者の手の届く額となるかは保証できない。

 今の再生薬も、ショップに出したら流通価格はしばらく高止まりを続けるだろう。おいそれと手が出せないはずだ。


「さて、と、分解完了だね。うん、やっぱりあった、『果月草』のエッセンスが抽出できている」

「一本も使われてないのにねぇー」

「不思議だねユキ(ユリ)

「だねー」

「ただ、さすがに薬一本から、一本分まるまるのエッセンスは抜き出せないようだ。損失が大きい」

「しゃーないね」


 これで等価交換などとなれば、それこそゲームであるために悪用し放題である。

 無限ループからの、無限アイテム生成が可能なルートが必ずあるはずだ。使った素材よりも増えている、永久機関もびっくりである。


 現実でも同じだ。形を変えれば、損失は免れない。


「ただ、このエッセンスを集めればレシピ指定の際に代用が可能だ。つまり、正規の手段で生成が可能になる」

「他のアイテムはなに使うん?」

「天魔溶液、水の上位魔石、魔獣血清、アイリスだけ

「花なのかキノコなのか……」

「うちの国のキノコ、だね。それなりに高級」


 どれも、ハルの持っているか作り出せるアイテムだ。今のところ産地不明なのは一つだけ。恐らくは、プレイヤーがまだ未到達なダンジョンで採取されるものだろう。


 ちなみにアイリス茸はアイリスと名がついてはいるが、この国の特産という訳ではない。普通にどこの国でも購入できる。

 そういった花の名前、ひいては神様の名前が記された素材はそれなりに多く、他の神様のものも存在する。

 それぞれの好みなのかも知れない。アイリスは、キノコが好きなのだろうか? 後で話題を振ってみよう。


「さて、つまりこの中の物から選んで、それらを高級品と差し替えればいい訳だ」

「でも魔獣血清が数ないよねハル(ローズ)ちゃん」

「使わないしね。まあ、それ以外のものは持ってるか作れるから、と、おや?」


《あのー、俺ら提供しますよクラマス》

《クランの共有倉庫に入れますんで、使ってください》

《その代わりといってはなんですが……》

《へへ、良いアイテム出来たら、融通してくれれば》


「ふむ。考えておこう。……この辺はクランの強みだね、数は力だ」

「あ、これ考えておくだけで約束してないアレっすね。考えるとは言ったが融通するとは言ってない的な。考えた結果、やっぱりボツになっちゃうんですよねえ。善意の提供者の皆様、ごしゅーしょーさまでした!」

「……成果物が保証できないから約束できないだけだよ。偏向報道するんじゃあない」

「にしし!」


 ハルのクランで、普段から狩りに出ているメンバーが魔獣血清を都合してくれた。約束は出来ないとはいえ、何かしらの返礼はしようと思うハルである。

 そのアイテムも含めて<解析>に掛けて高品質のものをふるいにかけると、それらを使って再び<調合>を行っていった。


 果たして、どんな物が出来上がるのであろうか?

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