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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部2章 ミント編

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第576話 調合実験開始

 新たなスキル<目利き>を得たハルの<解析>作業は、飛躍的に効率を向上させていった。

 やはり手作業よりも自動化に限る。


 ただ、このスキルに頼ってばかりでいると、例の『データ量』とやらの判断がいつまで経ってもつかないままでいってしまうのは否めない。

 そこは、答えを知っている者の特権として、解からの逆算でなんとかしたい。


「よし、かなりの量が揃ったね。これがあれば手持ちの素材も全て<解析>の対象にできるから、予定以上の量が確保できた」

「手持ちって、店売りのものよね? 結構中には混じっているものね、高品質の“当たり”が」

「そうですね。ただ、これはハル(ローズ)様の業者買いの購入量あってのことっすから、基本的な封入率はめっちゃ低いはずですよ。他に目的がなければ、単品買いがベターっすね。箱買いは素人にはオススメしないっす!」

「ふうにゅーりつ……?」

エメ(イチゴ)はまた変な言葉ばっかり使うから、アイリ(サクラ)が困っちゃってる」


《大人買い通り越して業者買いは笑う》

《まず素人には<解析>が無いんよ》

《持ってるのローズ様だけ》

《そうだ! ローズ様それを商売にしては》

《それって<解析>?》

《ああ、いいかもね》

《独占事業だし、いけるかも》


「高品質素材の販売だね。需要はあると僕も思うけど、問題があってね。現状、<解析>した当たり素材は僕が全て使い切れてしまう」

「そうね? 加工までした方が利益は高いのは語るまでもないでしょうし、『鑑定屋』を営む余裕はなさそうよね?」

「それこそ世界中のアイテムをー、ハル(ローズ)さんが一手に引き受けるような超大規模な経営でもなければ、難しそうですねー」

「それもう世界を支配してないかな?」


 確実に流通の過半数を牛耳ぎゅうじっている。

 そこまではいかずとも、現状の体制よりも更にアイテムを集めなければレアアイテムの販売にまでは手を伸ばせない。

 それだけ、レアの『封入率』は低いのだ。


「しばらくは、クランの中で少し回すに留めようかな。うちにも生産職は所属してるし。早速クエストに張り出しておこう」

「クエストを素材採取に設定すれば、効率的かも知れないわね?」

「かもね。じゃあ、ルナ(ボタン)の案でまずはやってみようか」


 ハルが<解析>に掛けた高品質な薬草を、この土地の薬草と(引換)トレードする依頼をクランの本部である騎士の詰所に設定すると、すぐさまその依頼は受領された。この放送を見ていたメンバーだろう。


「おお、需要あるね」


《感謝しますマスター。使わせてもらいます》

《はやっ》

《使い道あるのか。流石ローズ様のクラン》

《レベルが高いな》

《俺なんか手に入れても持て余すわ》

《レシピの発展が行き詰っていたので》


 真面目に自分の攻略を進めている生産職のメンバーであった。ハルの放送を見ていたのも、何かヒントを得ようとしていたようである。

 ハルとしても、暴走気味の自分のファンのようなクランメンバーばかりではないと証明できたようで一安心だ。


「さて、僕も負けずに進めないとね。ああ、しばらくはこうして内々で流通させるつもりだから、興味があったら加入を待ってるよ」


《露骨な宣伝!》

《宣伝は基本》

《入りたくても辿り着けない……》

《騎士団のクランじゃなかったっけ?》


「<騎士>に成りたい人が多いのは確かだけど、騎士専門のとこって訳じゃないね。誰でも歓迎だよ。人数も空いてるしね」


 これを機会に、生産系のプレイヤーも集まってくれれば面白そうだ。ハルも元々は生産系であると言っていい。

 不足を補ってくれる騎士も有り難いが、同好の士で組むのも悪くない。


「さて、それじゃあ新たな生産仲間を獲得すべく、お手本を見せないとね」

「果たしてハル(ローズ)を見て、ここで一緒にやろうと思う者が来るかしらね? ハル(ローズ)には勝てないと実感して、足が遠のくのではなくて?」

「……ありそうだから、そういうこと言わないのルナ(ボタン)。きっと楽しいよ、集まればさ」


 もちろん生産系のギルドもそれ専門のものがあれど、現状はあまり上手く回っていないと言わざるを得ない。

 やはりネックとなるのは素材調達であり、そこをどうしても外部の、例えば<冒険者>などに頼ることとなる。

 纏まった量の調達はやはり難しく、どうしても自ら採取に赴かないといけなくなる。

 しかし、自身の専門は生産なので、あまり戦闘は得意ではないという悪循環があるのだ。


「ここなら、素材の調達は僕が纏めて行えるしね。今後は特に、“外れ”の未鑑定品は安くおろせるだろうし」


 手に持った“当たり”を<調合>スキルのウィンドウに放り込みながら、ハルはその副産物で出た普通の素材、“外れ”をクラン向けに安価で放出していく。

 希少なレア素材の確保のために出た、その何倍ものノーマル素材は、いかにハルとて使い切れないだろう。

 それを店売りよりも格安で報酬にすれば、両者にとって得となる。


「元々、薬屋の仕事を奪ったのも僕だしね、何かフォローしないと……、っと、出来たね」


 片手間にそんな話をしながら高品質レア素材を使って<調合>を続けていると、予想通りに今まで見たことのないアイテムが誕生した。

 それは新たにレシピとしてスキル欄に登録され、今後はそれを直接生成することが可能となった。


「へえ、これ本来はレシピが違うんだ。『果月草はてつきぐさ』って素材を実際は使うらしくて、高品質薬草はその代用品らしいね」

「アイテムの効果は、どんなものなのです!?」

「それはね、通常の回復に加えて、その後も持続的に回復するんだってさアイリ(サクラ)

「おお! “おーとひーる”、なのです! “りばーす”、です!」


 ゲームによって呼び方は様々だが、アイテムを使った瞬間だけでなく、その後も一定時間回復し続けてくれる再生効果だ。

 これは特に長期戦に有効なアイテムであり、ダメージを受けつつも、それをある程度気にせず戦い続けることが出来る。

 先に話に出た、『戦闘中にアイテムを使うと隙が出る』、ことの問題を緩和してくれるアイテムと言えよう。


「実際に飲んでみよう。HPを減らして、と」

「……躊躇なくHPをゼロにするのは心臓に悪いわね?」

「ごめん。このゲーム片方がゼロになっても死なないから、つい」


 スキルのコストにすることで自由にHPの量を調整できるのも、生産系の強みだろう。まあ、そこを強みと思っているのはハルくらいかも知れないが。


「結構回復量強いね。僕のHPを賄えるってのは、中々のものだよ」

ハル(ローズ)お姉さまは、ちょう高レベルですものね!」


《うわ、欲しいなそれ》

《リジェネ効果強い》

《それ飲んでおけば、食らいながら強引にいけそう》

《<回復魔法>でよくね?》

《その術師が高騰してるって話やろがい》

《しかしこの薬も高そうだなー》

《でも使わなかったら持ち越せるし》

《ヒーラーは持ち越せない》


 どうやら、図らずも<回復魔法>の使い手が希少すぎる現状を打開する一手となってしまったようだ。

 恐らく量産体制が整うまではそれなりの高級品となるだろうが、それでも視聴者の盛り上がりはかなり熱量ボルテージが高い。


 地味かと思われた新商品の開発放送も、攻略が絡むとかなりの需要があるようだ。

 そちらの収入も、良い感じに伸びていて素晴らしい。


「さて、じゃあ次は効果の違う薬草を使ってこのレシピを……、なに? その前にこの再生薬を<大量生産>にかけろと? 落ち着きなよ君たち。あとで作るからさ」


 はやる気持ちは分かるが、量産ラインに乗せるにはそれなりの準備が必要だ。現状でも可能だが、手元にあるだけのレア素材分しか作れないし、それの用途は実験のためだ。


「拡散効果のある薬とか欲しくない? うん、欲しいでしょ。よろしい」


 独り言のように熱くなるコメント欄と会話しつつ、流れるように作業を繰り返すハル。

 レアな薬草といっても付与されたその効果内容は様々だ。それらの組み合わせを考え、<調合>に投入していく。


 基本的に付いている、『高価』や『高品質』といった効果ファクターに加え、個体によって『重い』だったり『高滋養』だったり、『甘い』だったり『繁殖性が高い』だったり多種多様に様々。

 その内容から結果を想像し、組み合わせて混ぜ合わせるハルだ。


「繁殖性が高いってことは飛散するってことかな。これで行け……、はしなかったね。はい、次」


 その作業は、予想の通りにいくときばかりではない。むしろ失敗ばかりである。

 全て高品質ではあるので、生まれるアイテムも品質の高いものばかりだが、狙った効果を持つアイテムが生み出せることは殆ど無い。


 なんだか、この作業をしていると“あちら”で魔道具の開発をしていた時を思い出してくるハルだった。

 意味不明な式を手探りで組み合わせ、複雑な効果を持つマジックアイテムを作り出す。あの感覚だ。

 どちらが難しいかと聞かれれば、あちらが断然難しいと答える者が大半だろうが、ハルは法則性が分かりやすい分、魔道具の方が肌に合っていた。


「こっちは、答えが存在するとは限らないからね、っと、おや、出来たみたいだね。まさか、『甘い』が有効に働くとは」


 そんな風に物思いにふけりながら、様々な組み合わせを検討していると、ついに『範囲回復をする薬』が生成できた。

 これは、正しいレシピでは複数の果実素材を投入して作るらしかった。

 半ば遊びで組み合わせた甘さ特化が、そんな方向で一致したようである。


 レシピを放送画面に乗せてやると、今日一番でコメント欄は加速して高速で流れていく。

 その様子は微笑ましいし、放送の人気が上がるのも良いことだが、目当ての蘇生薬は、今のところ影も踏ませてもらえていないハルなのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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