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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部2章 ミント編

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第574話 死に放題の世界

 少々夏バテぎみのため、少し短めの話が続いてしまっています。

 ご容赦くださいー。

「とはいえ、仮説が立ったからといって何かやることが変わった訳じゃない。情報収集しながらじっくりいこう」


 その後、ハルはアイリと共に話し合った内容を仲間たちと共有した。

 彼女ら、特に神様たちもそのハルの意見には肯定的で、『そういうことを考える神が居てもおかしくない』、ということだった。


「まあ、わたしは無理ですけど。なにせ経験値稼ぎのために<召喚魔法>でモンスターを呼び出しまくってはー、」

「その場で斬り殺しちゃってるからね!」


 徹底的な効率重視のエメとユキの<召喚魔法>を使った模擬戦コンビだった。

 確かに、召喚獣たちを実際のペットのように大事に育てているコマチのような条件は、彼女たちには訪れないだろう。


「これから大事にするっすか?」

「いや、今更でしょ。というか出来るの?」

「無理っす! せめてNPC並みに思考ルーチンの整った召喚獣が呼べれば、自律狩りが出来るから大事にしてやるんですが。あ、でも、それだとわたしが手をかけて育てたりはしないんで、やっぱり条件には当てはまらないっすね!」

「それにうちらの訓練相手が居なくなっちゃうよー」

「そうですよー、マトが無いと調子が出ないんですよー?」

「マトとか言っちゃってるっすよこのカナリーは。ハル様! なんか言ってやって欲しいっす!」

「これからもマトの準備がんばってくれ」


 生産や支援スキルの薄い直接戦闘組は、模擬戦を繰り返さないと現状レベルアップがやり難い。

 そういった地道な強化を苦にしないユキ、カナリー、エメの三人だが、ここももう少し何とかしてやりたいところだ。


「街に毎日襲撃があったら、毎日ユキの出番があるんだけどね」

「あはは。そりゃ私はいいかも知れないけど、平和な街とはほど遠いねぇ」

「でもー、案外いいかも知れませんねー? なんだかこの街の人たち、日に日に血の気が多くなってますしー」

「なんなんだろうね、あれ……」


 神のために、そして領主のハルのためにじゅんじる覚悟が出来過ぎている。ハルも正直、少し引き気味だ。


 ハルは彼らの命を失わせないように全力なのに、彼らはハルのために命を投げ出すことをいとわない。

 今のところ行動はかみ合っているが、向いている方向は致命的にかみ合わなかった。


「まあ、僕の命令はきちんと聞いてくれるから良いんだけど」

「きちんと手綱を握っておかないとですねー。『良かれと思って』何をしでかすものやらー」

「カナリーちゃんも、やっぱりその辺苦労したんだ?」

「わ、わたくしどもが、お手数をおかけしまして……!」

「アイリちゃんのせいじゃありませんよー。ただどうしても、言葉を伝える機会が薄いと、こちらの考えを理解させるのは難しいですからねー」

「全部理解されても困るしね」

「ですよー?」


 こちらにはこちらの目的がある。そこを明け透けにしても良いことはなかった。

 今のハルもまた、自身の経験値を増やすために住民達を利用している。

 もちろん、彼らの訓練になるのは嘘ではないし必要なことだが、そこが一番の目的だ。それを正直に言っても仕方ないだろう。


「正直に言ったらどうなるかしら? 暴動が起こる、ことはなさそうね……?」

「そだねールナちー。なんかそんな程度で揺らぐ信仰心じゃない感じ」

「むしろ、自分の身を省みずもっとハルのために経験値を稼ごうとしそうだわ?」

「なんか、いつかそれで人死にが出そうー」


 勘弁していただきたい。表立っての統治というのは経験したことがないが、支持が高すぎるというのも厄介だとは知らなかったハルだ。

 民が勝手をして何か問題が起こるならば特に何も気にならないハルだが、それが自分の為となると責任を感じずにいられないだろう。


「カナリーちゃんも、こんな気分だった?」

「いいえー? 私はもっと適当でしたー。私のためにー、ってなんかしてくれる人は沢山いましたけどー、はいそうですかー、って」

「あらら、報われないね」

「むむむー? じゃあハルさんは、私がハルさんじゃなくてその人たちの方を向いてた方が良かったんですかー?」

「それは嫌だね」

「でしょー」


 独占欲の強いハルだった。それが自分のためだと言われると、何も言えなくなる。

 ハルもまたカナリーのように何か別の柱をもって、あまりのめり込みすぎないようにした方が良いのだろうか?


「僕の最優先といえばみんなの事だけど。幸いなことに今はずっと一緒で、同じ方向を向いているし」

「平和で素晴らしいですね!」

「そうね? むしろ、発想を逆に持ったらどうかしら? 死んでもいいと、気楽に考えるの。ハル、蘇生薬は結局作れそうなのかしら?」

「ああそっか。ハル君が蘇生薬を作れたら、死に放題じゃん」

「死に放題、ではない。言い方が完全にゲーマーだよねユキ……」

「実際、ゲーマーでこれはゲームだからね!」


 確かにその通りだ、いつの間にか、そこがハル自身あやふやになっていたのかも知れない。

 誰よりも電脳世界に適応し、そこを誰よりも大切にしているユキであるからこそ、逆にそれが虚構であると誰よりも認めているというのは、少し興味深いことだった。


 ただ、今はその彼女の心境に思いを馳せるよりも、話に出た蘇生薬について考えることにしよう。


「死ぬ死なないはともかく、蘇生薬っていうのは良い方向だと思う」

「およ? それは何でっすか? 絶対死なないなら、むしろ必要ないものですよね。いえ、絶対なんて無いのは分かってますけど、そもそも『保険』を用意してしまう行いが、死ぬことを想定していることになるんじゃないかなあ、ってわたしは思うんす」

「かも知れない。そこは裏目る可能性はある。でも、その話、死者蘇生について話していた時が、この指輪が反応したタイミングなんだ」


 だからこそ、そこから攻めていく価値はあるとハルは考える。

 何が切っ掛けになったかいまいちデータ不足な今、可能性のあるものは片っ端から試していきたいところだった。


「ただ、問題があってね」

「どしたん? 反応するってことは、それがヒントになってるもんなんじゃない?」

「どういうことなのですか、ユキさん?」

「ゲームは現実じゃないんだから、ノーヒントだったらクソゲーだ。だから、『ここに何かありますよー! ぴかー!』、って、あからさまにヒント示してくれる」

「なるほど! 床に落ちている、アイテムのようにですね!」

「そうそれ」


 さりげなく現実をクソゲーと断じるユキに苦笑しつつ、ハルもまた彼女の言いたい事には同意する。

 しかしながら、今回の問題点はヒントであるか否かという部分ではない。

 そのヒントが、いったい何処を指しているかであった。


「正解がどっちか微妙なんだよね。蘇生薬を用意することを指しているのか、それともエメの言ったように、『保険』を用意しない覚悟を指しているのか」

「あー、いじわるですもんねー、このゲームはー」

「……カナリーがそれを言うかしら?」

「私のゲームは、とーっても素直でしたよールナさんー」


 それはない。それはないが、今はその話をしている時ではないとルナも思ったのだろう。いつものジト目を更に細めて、カナリーのほっぺたを、ぐいぐい、と引っ張るだけで済ませることにしたようだ。


「……それについてだけれどね、ハル? 私は薬を用意しても良いと思うの」

「へえ。それはルナ、いったいどうして?」

「召喚獣用の蘇生薬の件があるからよ?」

「ああ、なるほど」


 蘇生薬の善悪、とまではいかないが、目的に際しての可否を測る判断材料が、既にこの世界には存在した。

 それが召喚獣のための蘇生薬であり、既にそれは量産体制に入っている。


 では、なぜそれが問題ないことの指標となるかといえば、例のバグに遭遇したプレイヤー、コマチもその薬をハルから購入しているからである。

 もし保険を用意する行為自体がNGであるならば、コマチもまたあの謎の空間に招かれることはなかったはずだからだった。


「確かにそうだ。ナイスだねルナ、思いつかなかったよ」

「何で思いつかないのかしら……、あなたの方がずっと頭が回るでしょうに……」

「僕だってそんなに万能じゃないよ」

「それはきっとですねー。蘇生薬の使い方に問題があるからですねー」

「にしし、そっすね! ハル様の蘇生薬を使った作戦って、召喚獣を捨て駒にして、何度も蘇生させまくって壁にする、鬼畜作戦でしたもんね! まさにブラック労働! 社畜まったなし! 労基と愛護団体も真っ青っす!」

「やかましい」

「しゃちく、なのです!」

「ほら、アイリが変な言葉を気に入っちゃった」


 その辺りがハルの考え方の困ったところだ。

 そういう物があると、『生き返れるなら、死んでもいいよね』、と思ってしまうところがある。


 もし、限りある命の尊さ大切さを説く相手であったら、この考え方は裏目だろう。

 しかし、何か明確な目的に向かって動くというのは分かりやすくていい。ハルは蘇生薬の作成に向けて、皆と作戦を練るのであった。

※表現の修正を行いました。「逆に発想を持ったら」→「発想を逆に持ったら」。

 違和感を与えてしまったようで申し訳ありません。その他、大筋に変更はありません。


 誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/21)

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