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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部2章 ミント編

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第569話 侯爵への道

 少しづつではあるが、着実にハルのクランの人数は増加していった。

 最初の加入者であるアベルが<騎士>となったのがハルの放送にて確認されて以降、凄まじい早さでユーザー間の情報のやり取りが成されていった。

 それにより面会の方法はマニュアル化され、条件を満たしている者なら誰でも申し込みが可能な状態となっていた。


 加入する明確なメリットも活動方針も、例えば『クランでこのダンジョンを攻略する』、といった目標もないクランだが、参加したいという者は多い。

 そのことよりも、活動にノルマが無いことを利点と考える者が好んで参加しているようだ。


「まあ、どうしてもこのゲームは自分自身が有利となるように設定しがちだ。無意識に、オーナーが最も得をする構造にしてしまいかねない」

「しかし、義務が何も無しはやり過ぎではありませぬか、あるじ様。適切に目標を課すことで、全体は更に成長しましょう」

「……やっぱやり難いなその喋り。慣れるしかないか」


 一の騎士として、忠実な部下を演じるアベル。ゲーム内ではその演技は徹底しており、本来の姿とのギャップに未だ慣れないハルだ。

 まあ、アベルはアベルで、ハルが女性の姿をしているのに慣れないと言われれば返す言葉はないのだが。


「意見はもっともだアベル。だが、この世界では参加者は皆、勝手に努力し先に進む。自分の為にね」

「この世界を救った者に、恩賞が出るとか」

「そう、それ欲しさにね。その進行に際する熱量が勝手に僕の力になるのさ」


 このクリスタの街はスタート地点である首都から非常に遠く位置している。

 そのためクランへの加入に来れた時点でやる気のある人員だと保証されるのは前述の通りだ。


 そして、メンバー全員が強者であると保証されているのであれば、その中でのやりとりもまた高度なものが保証される。

 攻略を求める者は、クラン内でメンバーを募って出掛ければ目標達成には事欠かない。


「加えて、僕の方でも目標の設定は出来る。依頼としてね」

詰所つめしょのロビーに、張り出されていた命令書ですね」

「別に命令はしてないよ。達成すれば記載してある報酬が貰えるから、欲しければやるといい」

「そう回りくどいことをなさらずとも、ご命令いただければ何なりと」


 がしゃり、と豪華な鎧を鳴らして、騎士アベルが忠義を示す姿勢を取る。やりづらい。

 完全に役に成りきっている彼にとって、報酬に釣られて働くのは無意味ナンセンスなのだろう。


「……この感じ、どうしてもアルベルトを思い出すな」

「お呼びでしょうか、ハル(ローズ)様?」

「出たよ」


 ついに、この世界においても呼べば現れるようになってしまったアルベルトだ。

 今は彼もハルにならって女性体のキャラクターとなっており、その身をぴっちりとスーツに包んだ姿をしている。世界観などまるで無視していた。


 ハルと違う所は、普段から数多あまたの女性体を演じているために、その態度には一部の恥じらいも存在しないというところだ。

 少しは、男性として定義したやったハルとアイリの選択を尊重して欲しいところである。

 ……スーツのSP姿をあえて演じているのが、その尊重なのだろうか。


「レベル上げはどうしたの? 呼んだからって毎回一瞬で来なくても。というか名前つぶやいただけだし」

「なにをおっしゃる。この遊撃騎士アルベルト、主君が求めれば即参上するのが職務でありまする」

「うん。だから求めてはいないんだけど。むしろ君に求めてるのはレベル上げの継続なんだけど」

「それは失礼。しかしせっかく参上いたしましたので、何かご命令を」

「訂正しよう。アルベルトに比べればアベルはまだマシだ」

「……お手柔らかに頼みますぜ?」


 少し素が出てしまったアベルであった。彼もアルベルトの事は察している。自分の世界の神であると。

 騎士の演技は続けたいが、神への敬意を欠いてもいいのだろうか、そういった葛藤かっとうが目に見えるようだ。


 スーツ姿で騎士を名乗り、この目の前でひざまずく彼女(彼)は、現在遅れを取り戻すために外部でレベル上げの最中。

 能動的に行動できるようにと、お嬢様ではなく向こうと同様に従者を選んだ。

 天空城の仕事が一段落したということで、アベルたちと同時期あたりにスタートしている。役割に迷っていたようだが、<騎士>が確認されて、このたび天職を得たようである。


「命令か。じゃあ、面会の間の事務仕事を片付けておいて」

「お任せを」

「オレも、周辺の魔物討伐に行ってきます……」


 逃げるようにアベルが退室し、ハルもまた新たなクラン加入希望者の面会に移る。

 ゲーム攻略は新体制へと移行し、ハル自身もまた新たな段階フェイズの目標を考えなければならない時が来ているのだった。





《アルベルトさんって普段なにしてるの?》

《ローズお姉さまとどんな関係?》

《おうちの人?》

《ちょっと距離置いてるよね》


「アルベルト、答えていいよ」

「はっ。私は現世においても、ハル(ローズ)様の護衛を務めさせていただいております」

「護衛とかほぼ必要ないから、雑用係みたいなものだけどね」


《リアルSP!?》

《いよいよお嬢様感増して来た》

《俺もローズ様の護衛してぇ……》

《お前じゃ勤まらん》

《たわけたこと抜かすな》

《でもよ、ログイン中のローズ様をお守りするんだぜ?》

《……確かに、最高の仕事だ》


「その間一緒にプレイは出来ないけどね」


《確かに!》

《迷う……》

《どっちにすればいいんだ……》

《いやお前らはどっちも無理だから》


 ちなみに、ハルもアルベルトも互いに多重の思考を得意としているので、二人とも今もログインしながら身体は普通に起きている。

 残念ながら寝顔は見られないだろう。


「しかし、護衛としては今のところ力不足と言わざるを得ませんね。<格闘>を伸ばしていますが、素手での戦闘ですら主君の方が上とあっては」

「だからここに居ないでレベル上げをしてこいと。まあ、気にするなよ。ゲームだから、リアルでの戦闘力は加味されないのは仕方ない」

「おたわむれを」


 現実での戦闘能力もハルの方が高いだろう、とツッコミを入れたそうなアルベルトだった。

 前衛の戦闘力が不足しているハル一行の穴を埋めるべく、<体力>重視の構成に特化しているアルベルト。

 本人の希望により、平均化を施しているハルたちの中においてはステータスの偏りが突出した方である。そのため、近接戦闘能力においてはレベルで勝る他の女の子たちよりも強いくらいだった。


 だが、その特化型のアルベルトでも今のハルにはまるで及ばない。

 仲間からの全てのポイントを受け取り、多数の視聴者の支持を受け、そして圧倒的にレベルが高い。


 単純なステータスの暴力だけで、今ハルはあらゆるプレイヤーを直接打倒することが可能だろう。しかも素手で。


「そろそろ、本格的に経験値を稼がないと、みんなとの差がひどくなってきた。それに、どれだけ力を得ても生かす場所がないのがね」

「<精霊魔法>の件はいかがされましたか?」

「まだ。テレサも慎重になってるんだろう」

「なにかしら、他の方面での打開策が必要ですね」


 やはり貴族として、気軽に戦闘が出来ないことが響いている。

 この力を得ることが出来たのは今の貴族プレイのおかげだが、今度は逆にそのプレイスタイルによって縛られることとなっていた。


 このゲームも基本的なRPGの例に漏れず、最も経験値を得られる行動はモンスターとの戦闘だ。

 特に後半になるにつれ、レベルに見合った強敵との戦闘をこなさねばレベルの上昇は鈍化どんかして行く。


《もうロールプレイ無視して冒険に出ちゃえば?》

《確かに。ここまで力を得たら、後は拘らなくても》

《別にロールを捨てるペナルティとか無いんでしょ?》

《明言はされてないけど、お仕置きイベントはある》

《いくつか確認されてるね》

《なにそれ気になる》

《ロールを捨てると大体発生してるらしい》


 己の行動が一貫していないと。例えば善人で通ってきたプレイヤーが悪事を見逃したりすると、それを咎めるようなイベントが発生するそうだ。

 これが、例えば<盗賊>などであればそんな事は起こらない。普段から人助けをよくしているプレイヤーに特有のようだった。


 それは自身のロールプレイから外れれば外れるだけ不利益は重く、先の例で言えば聖人を演じていればいるほどダメージが大きくなるようだ。

 自分の選んだ道であるなら、最後まで貫き通してみせろという運営からのメッセージのように感じられる。


 そのため、ハルも今のロールプレイを捨てることは出来ない。ハルほど特化していれば、どんな災害が襲ってくるか分かったものではなかった。


「まあ、それがなくとも今の立場を捨てはしないけどね。デメリットが怖いというより、メリットを最大化していきたい」

「つまり、このまま<役割>を伸ばしてゆくのですね?」

「うん。順当に、次は<侯爵>を目指そう」


 ただその為には次なるイベントの選定と、やはり何らかの戦闘方法を模索したい。

 ミントの国のテレサからアイテムが届くのを待つのもいいが、その間の時間が無駄だ。それに頼らない、何かしらの方法を模索したい。


「カナリアタイプ以外の召喚獣は出せないのですか? 例えば、エメ(イチゴ)の使っているような」

「何でか出ないんだよね。神獣と契約した場合の制限なのか知らないけど」

「良い面ばかりではないのですね」

「それに、エメ(イチゴ)のようなモンスターが呼び出せたとしても、解決にはならないんだよね」

「それは何故?」

「遠くまで行けないから」


 現状、<召喚魔法>によって呼び出したモンスターは召喚者からあまり離れられない。正確には、命令が届かなくなる。

 人間相手のような複雑な指示は出すことが出来ないため、遠隔操作は視点を共有できるカナリア型の使い魔の特権となっている。


 それ以外にも何か<召喚魔法>によって出来ることは増えないか、ハルは色々と設定を変えながら<召喚魔法>を試していった。

 しかし、出てくるのはやはりカナリアのみ。何かしら、発想の転換が必要なようであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/21)

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