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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部1章 アイリス編

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第549話 誰が為の光の道

 突然この謎の空間に放り込まれた形になるハルだが、何が起こったかは明白だ。慌てずに状況を整理していく。


 空間の乱れによって開いたバグの扉に飛び込ませたのは、ハルと『存在同調』した小鳥の使い魔。

 それが内部へと侵入した瞬間、ハルの本体がこちらに放り込まれた。

 これは、『存在同調』しているが故にハル自身が入ったのと同じ、と判定されたのだろう。


「……ズルはいけない、ってことか。遠隔操作で安全に探索することは、この空間そのものが許さない」


 なんとなしにそう呟くと、それに同意するかのように空間全体が波打った気がする。

 もちろん、そんなことは無く、この終わりの見えない世界に広がる無数のエネルギーラインが胎動しただけだろう。


 以前に来た時と変わらず、絶えず変化する光の紋章や粒子、ラインが複雑に重なり合い、空間全体に謎のアートを描き出している。

 それが何を意味するのか、白銀たちと共に解析中であるが、未だ意味のある解読結果は得られていないハルたちだった。


「しかしながら、明らかに前回と違う所が……、っと、アイリ(サクラ)?」

「《わたくしです! ハル(ローズ)お姉さま! ご無事でしょうか!?》」

「うん、全く問題ないよ。どうやらここには本体でしか来れないみたいだ」

「《待っていてくださいね! わたくしたちも、すぐに向かいます!》」


 ここは、止める場面かと思ったハルだが、アイリたちの気持ちを無下にすることもないだろう。

 幸い、使い魔は変わらず外に残っている。戦闘の事後処理はそれを使い、騎士たちに任せればいい。高い士気のもと、喜んでやってくれるようだ。


《ここが例の空間か!》

《ホントにあったんだ》

《お姉さまが嘘つくはずない》

《でもバグって感じしないよね》

《そうだね、整ってる》

《隠しダンジョンって感じ?》

《わくわくしてきた》


「……いや、前回はもっと閑散かんさんとしていたんだ。まず、足場が無かった」


 そう、今回驚いたことは、地に足が付くということだ。

 前回は何もない空間に放り出され、ただ空中に漂うだけだった。それが、今はしっかりと地面と重力が存在する。

 これは、いったいどういった状況の変化だろう。


 アイリスからのヒントを期待するも、彼女は沈黙を保ったままだ。課金しなければ喋らないつもりだろうか?


「とりあえず、アイリ(サクラ)たちを待つか……、と思ったけど、入口が持つか微妙だね……」

「《あー! まって下さい! とりさん、わたくしたちも運んで欲しいのです!》」

「残念だけど、『存在同調』できるのは僕だけなんだ」

「《……これは、速度的に間に合わなそうね?》」

「《無理なもんはしゃーない。切り替えてこう。幸い、この使い魔ちゃんにスキル掛ければハル(ローズ)ちゃんも強化されるんっしょ? それで手伝おう》」

「《!! そうですね! さっそく頑張ります!》」


 アイリがトランペットを取り出し元気よく、ぷぷーっ、と吹き鳴らす。

 同行したカナリアの使い魔に掛けられた<音楽>の強化バフは同調してハルへと通じ、ステータスが上昇していくのが感覚で分かった。


 合流したユキや、その後ろに控えるメイドさんたちも支援スキルを掛けてくれる。

 どこまでこの空間で有効かは不明であるが、最大限の肉体性能パフォーマンスをもって挑むことが出来るだろう。


「といっても、場所が謎過ぎる。出来れば敵に出会わず探索したいけど……」


《敵とか出るのかな?》

《バグみたいな敵が出るとか?》

《普通のは出なそうだよね》

《隠しダンジョンだし、強そう》


 これはハルたちしか知らないことだが、この空間には神の呼び出す仕様外モンスターが出現することが分かっている。

 レベルもステータスも存在せず、HPMPも存在しないためダメージが発生せず倒しようがない。

 一応、『神罰』が有効なのは実証済みだが、ここでまた課金に頼りたくはないハルである。


「とりあえず、前回と違うのはこの通路だ。歩けるようになったんだから、道なりに進んでみよう」


 足元にうっすらと流れる光の粒子の地面の上に、一回り濃くなった光の粒が敷き詰められている。

 その濃い光にだけは足を付くことが可能になっており、それはまるで通路を形成するように空間の奥へと続いて行っていた。


 ハルは己のキャラクター、『ローズ』の着るドレスのスカートを優雅にひるがえしながら、その輝く光のカーペットを進む。

 その輝かしい登壇の行進を見守る群衆はおらず、しん、と静まるこの世界にはハルただ一人。

 しかしモニターの向こう側では、数多くの視聴者がハルの一挙手一投足に注目している。


「そう考えると、無様なウォーキングは見せられないんだけど」

「《言ってる場合かハル(ローズ)ちゃん! そんな優雅なお散歩じゃ、何時間たっても探索しきれないぞー!》」

「そうだね、それに、どうやらのんびりもさせてくれないみたいだ」


 そう言いながらハルは、放送のモニターに映る範囲を切り替える。

 ユキたちや視聴者にも確認できるように配置しなおされたカメラに映るのは、以前もここで出会った、全身を金色に輝かせる魚のようなシルエットのモンスターなのだった。





《うわ! なんだあれ!》

《ステータスがバグってる!》

《HPが無い!》

《ダメージも出てない!》

《どうやって倒すんだこれ》

《見た目だけは神々しい》

《それが逆に不気味だー》


 以前と同様に現れた輝くモンスター。ただ今回は放送中であるためか、アイリスの姿は現れなかった。意外と内気シャイなお子様だ。


 ハルは無駄と分かりつつも、その魚類のような巨体に向けて<神聖魔法>を連打する。

 これは放送用の実演だ。前回に同じく、敵の体に魔法が着弾してもダメージエフェクトも、ダメージ表記も発生せずに吸い込まれていくだけだった。


 ハルは先の戦いで使い切らず余った剣を取り出すと、ドレスをなびかせながら華麗な剣舞を舞う。

 当然、それも何の効果も表さない。それどころか、敵の体内に切り込んだ刀身は、削り取ったかのように綺麗な切り口を見せて消失しているのだった。


「やはり無敵か。しかも、触られたら終わりとか危なすぎるね」

「《ハル(ローズ)お姉さま、逃げてください! 危険な相手です!》」


《それがいいね。倒せなそう》

《イベント演出だろうね》

《だが待って欲しい。もしこれが普通だったら》

《この世界の標準ってこと?》

《それはやばい》

《対処法を持ってなければ詰み?》


 前回から時は進むも、未だハルはこの輝くモンスターに対抗するスキルを何も得ていない。あの時と、変わらず、『神罰』以外は何の効果も発揮しない手持ちばかりだ。

 いざという時は、その『神罰』を使えばいいという安心感があるのは、心の余裕には寄与きよしている。ただ、今回はさすがにそれに頼りたくはないハルだった。


「とはいえ足場もそう広くはない。これを崩されでもしたら一巻いっかんの……、いや、足場は崩れていない……?」


 ここに来て、以前との違いが表れていることにハルは気付く。床が、消失していない。


 前回の床は、アイリスがハルたちのために用意してくれたものだった。

 そのため、その存在は完全にハルたちの有利には働かず、この魚のようなモンスターの突進によって徐々に崩壊してその範囲を減らしていった。


 もしその制限まで含めてこの世界のルールなのだとすれば、今ハルの足元にある通路は、そのアイリスの定めたルールの外にあるということなのだろうか?


「……良く分からないが、丈夫な通路で助かった」

「《ですがお姉さま、回り込まれたら逃げ場がありません! 今のうちに逃げましょう!》」

「そうだねアイリ(サクラ)。だが、逃げるんじゃないよ」

「《前進ですね!》」


《負けず嫌いすぎる(笑)》

《走る姿も素敵》

《あっ、もう少しでめくれそう……》

《不埒者が出たぞ! 捕らえろ!》

《囲め!》


 スカートを派手にたなびかせ、ハルは輝く魚類を振り切るように走る。

 アイリたちから受けた強化スキルの効果で、移動速度もまた上昇している。魚類も追ってくるがハルの方が少しだけ速く、彼我ひがの距離は少しずつ開いていった。


「《この道は、何処へ続いているのでしょうか?》」

「分からない。分からないけど、道がある以上その先には何かがあると思いたい」


 前回アイリスが用意した地面は、言わばバトルフィールドだった。そこに『先の世界』は無い。

 しかし、今ハルの前に続くのは通路、道である。それは、何処かへと通じていることを示唆しさしていた。


 何故この道が現れたのか。何故アイリスのモンスターと噛み合わない仕様となっているのか。そして、何故アイリスは姿を現さないのか。

 その答えも、この道を進まねば見えてこない話であろう。


「《お姉さま! お魚さんが、良くない動きをしているのです!》」

「《ハル(ローズ)ちゃん! 前方に何かあるよ!》」

「《あなたたち、一緒に喋るのはおやめなさいな……》」


 ここにきて状況の変化に、アイリとユキが興奮した様子で現状報告オペレートしてくれる。無論ハルも、前後の状況は把握していた。


 後方では距離を離された巨大な魚類が、その大きな口を開いて何やら攻撃の予兆をあらわにしている。

 対してハルの進行方向には、今までの一本道からうって変わり、階段のように登りの通路が展開され始めた。


「……口の中が弱点かも、ってのも検証してみたいところではあるけど」


 攻撃のために口を開けた瞬間が、プレイヤー側も攻撃のチャンス、という弱点設定は良くあることだ。試す価値はある。

 だがハルは今回、ひたすら通路を先に進む選択をした。

 魚の大口に向かう道筋は一本道であり、もしその検証がハズレとなれば詰みかねない。自らその口の中に納まりに行くようなものだ。


 また口からレーザーでも出すのだろうか? そう考えていると、結果はその真逆。魚は口の内部に向かって、周囲の物を吸い込むようにして突進し始めた。

 その速度はハルを凌ぎ、道そのものを飲み込むようにして急速に距離を詰めてくる。

 ハルは飛び込むようにして、階段を上へと駆け上った。


「……間一髪だったね。危ない」

「《足元を、お魚さんが通り抜けていったのです! ひやひやしました!》」


 通路と階段を構成していた光の粒は、さすがに魚に吸い尽くされるようにして散って乱れ、その構造を解除されていた。

 少しずつ元の形に戻ってはいるが、向かっていればまた足場を失っていただろう。


 魚は勢いのままにハルより更に前方へと遠ざかってしまい、多少の余裕ができた。

 その間に、ハルはこの目の前の長く続く階段を、駆け上がって行くのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/20)

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