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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部1章 アイリス編

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第529話 姿を現す水晶の影

 伯爵の号令によって部屋に兵士がなだれ込んで来る。

 その数は部屋を埋めつくすようで、周到に準備されていたことを窺わせる。


 これだけの数が居たというのに、何の気配も物音もしなかったのは、まあゲームだからと納得するしかないだろう。


「なるほど。反乱のきざしというのは、民の反乱ではなく、君の国家に対する反乱準備だったということか」

「バレてしまっては仕方ない! そうだ! 私はこの地を自らの城として、自らの国を打ち立てるのだ! その野望の為、貴様には消えてもらおう、小娘!」

「あ、追い込まれるとぺらぺらと自分の計画喋っちゃうタイプの悪役だ」


《人はなぜ自ら悪事を解説してしまうのか》

《深い……》

《深くない深くない》

《ゲーム演出の都合やろなぁ》

《誰かに聞いて欲しかったのかも》

《本質的に秘密をバラしたいという欲求がある》

《寂しいってことかな?》


 人間心理の追及は置いておくとして、彼はこのイベントの真意を説明してくれていた。

 開始前にハルが説明されたのは、『クリスタの街で反乱の兆しがある』ということのみ。その反乱というのは、直感的には民によるものと思われた。


 実際、領主である目の前の彼の横暴により、そいうった不満の芽もあったようである。

 恐らくは、それを鎮圧することでもイベントクリアにはなったのだろう。貴族として反乱を鎮める、特におかしいことはない。

 だが同じ反乱という言葉の中にもう一つイベントが隠されていた。それが、この領主自身による国への反逆だ。


「港から運ばれてくる大量の品の上前をハネることで、その資金を確保したという訳だ」

「その通り!」

「だが、言っては悪いけれどその程度だね。そのくらいの資金力で国そのものに歯向かうと?」

「言っておけい! そこまで教えてやる義理はないわぁ!」

「あ、そこは喋ってくれないのか」


 聞き方が悪かったかも知れない。次はもっと気分よくおだてて口を割らせようと心に決めたハルだった。


「あの、ハル(ローズ)お姉さま? この兵士達は、始末してもよろしいのでしょうか?」

「んー、悩みどころだね。殺してしまうと、カルマ値みたいなのが変動することも考えられるし。でも、やむを得ない場合は仕方ないね」

「はい! 了解しました、お姉さま!」


《サクラちゃん優しい》

《いやむしろ冷酷に始末って言うの怖い(笑)》

《ここで出る兵士は仕方ないだろ》

《明確にモブエネミーじゃね?》

《ただ、同じ王国の兵士だしな》


 それに加え、ハルが殺人を禁忌きんきとしているのを知っているためだ。

 基本的に、ハルはゲーム中はそのあたりは気にしない。むしろ、割と残虐性が出るタイプでもある。効率を重視していてはそこを気にしていられないのだ。


 ただ、このゲームは少々事情が異なる。効率重視で進みすぎれば、悪役ロールまっしぐらだ。


「……そうだね、どうせロールプレイするなら、それを戦術に組み込むか。アイリ(サクラ)、手伝ってね」

「はい! 二人とも、分かりますね?」

「お任せください、お嬢様」


 アイリと、後ろの控える二人のメイドさんがハルにスキルで支援をしてくれる。

 人数的に完全ではないが、<音楽>と<眷属技能>で強化されたハルの言葉は、まるで演劇の一場面かのように部屋中に響きわたった。

 ハルはそこに、自らも<カリスマ>を発動し更に威厳を演出する。


「聞け、誇り高き王国の兵士たちよ。君たちがここで後ろに居る反逆者を捕らえるのならば、国家に弓引いた罪には問うまい。しかし、ここではした金欲しさに僕に剣を向けるのならば、相応の末路が訪れると知るがいい」


 駄目押しとして例の祝福された家紋を取り出し、見せつけるように目の前に掲げる。

 それが、神々しく輝いて見えたのは幻覚ではあるまい。ゲームの演出が空気を読んでエフェクトを追加してくれているのが、自分の放送画面でも理解できた。


《出た! ローズお姉さまの『家紋』だ!》

《それはもういいいって(笑)》

《兵士恐縮して跪いてる》

《すげー威力》

《こーれ世直しです》

《ローズ様分かっててやってるよね?》

《リクエストに応える配信者の鑑》


 スキルの<カリスマ>もあってか、部屋に詰めかけた兵士の大半がその場に平伏した。国家の後ろ盾、恐るべし。


 だが、中にはその威光に抗う兵士もおり、そういった者はもう完全に国への忠を失っているのだろう。

 もしくは、兵士の格好をしているが、実際は金で雇われた傭兵か。


「な、何をしているか貴様ら! ええい、いいからそいつらを殺せ! 首を取った者には三倍の給料を払ってやる」

「おお、これまたお決まりの小物セリフ」


 ただ、定番であるが故に効果があるのも確かなのだろう。ひざまづかなかった者が剣を構え直し、ハルたちに狙いを定める。

 そんな、部屋の中が二種類の人の壁で分断されたこの状況の隙に、セイレー伯爵はすかさず部屋の外へと逃亡を図った。抜け目ないことである。


「まあ、ある意味これで動きやすくなった。とはいえ、逃がすつもりもないけどね」


 ハルは室内に残った傭兵たちに対して、最大限に威力を絞った<神聖魔法>を放つ。

 視聴者からの大幅な強化ポイントによって、元々の魔力が非常に高くなっているため、これでも一撃で殺してしまわないか心配だったが、そこは問題なく絞れるらしい。

 傭兵は多少のダメージを受けていたが、<神聖魔法>の光弾は軽い打撲程度の障害にしか思わなかったようだ。


 ハルたちの攻撃力が低いと悟ったのか、兜の奥でにやりと口角を歪めたかと思うと、こちらに詰め寄ろうと体に力を入れる。

 だが、彼らが一歩を踏み出すことは起こり得なかった。

 例え多少の打撲程度のダメージとはいえ、一切の休みなく次々と殴り掛かられれば話は別だ。ハルの<神聖魔法>は彼らが倒れるまで、一発たりとも狙いを外すことなく飛翔して行くのだった。


「拘束しておいて。それと、この屋敷には他にも兵士が?」

「い、いえ。ですが男爵閣下、屋敷の倉庫には、何やら怪しげな物資が日々運び込まれていました。恐らく、セイレー伯爵はそこかと」

「よろしい。見張りを残して付いてくるように」

「は、はいっ!」


 反逆を企てていたというなら、それ相応の戦力が必要だ。そのための準備が人間の軍隊でないというなら、この後の展開もなんとなく読める。

 ハルは兵士を案内とし、屋敷の奥へと向かうのだった。





 別室で待機していたユキたち他のメンバーとも合流し、万全の状態でハルたちは進む。

 倉庫とやらは一度屋外へと出た、庭の一角に増築された物であるようだった。


「おお、いかにも怪しいじゃん。綺麗なお庭が台無しだ」

「そうねユキ(ユリ)? 景観を維持するより、敷地内にどうしても隠しておきたいという意思を感じるわね?」


 ユキとルナの語る通り、もとは一つ続きだったであろう豪華な庭園の情景を突然ぶち抜いて、急場しのぎで増設された倉庫が景観から浮いている。

 その中に、何かしらの反逆への備えがあることは明確だった。


ハル(ローズ)ちゃんは何があると思う?」

「モンスターの卵」

「あー、やっぱそうなるよねー」

「現実的に考えると、孵化したてのモンスターなんか戦力になるはずないんだけどね」


 とはいえこれはゲーム。生まれたらすぐに巨大化し、すぐに戦えて、飼い主に忠実。

 そんな都合の良いインスタントモンスターを保管してあるというのが、最も狭い倉庫に戦力を押し込んである設定としては簡単に思いつく。

 これがファンタジーでなければ機械式の兵器が妥当なのだろうが、どうやらこの世界にはそうしたメカやロボットといった存在は今のところ見当たらない。


「それに、少し思い当たる節も……、って今ごろきたね」


《お? なんだ、アラーム?》

《ローズ様からだ》

《なんかアイテム取り出してる》

《あ、例の検知器だ》

《シャールちゃんから貰ったやつ》

《有効範囲せっまー!》

《ここまで近寄らないとダメかー》

《つまり、紫水晶か》


「……と、いうことだね」


 魔法の国コスモスの毒舌少女、シャールから受け取った紫水晶の探知機が警報アラートをアイテム欄の中で鳴らしていた。

 これは、あの倉庫の中に確実に紫水晶が存在する。

 モンスターの卵、という予測も、この紫水晶の存在から来ていたところがある。検知器が中々反応しないから、これではないのかと思っていたところだ。


 その倉庫の中から、自信と余裕を取り戻したセイレー伯爵が水晶を手に登場した。


「馬鹿め! まんまとおびき出されて来おったわ! 見えるか、この水晶の輝きが!」

「ああ、うん。モンスター化するんでしょそれ。知ってる」

「な、何故知っているぅ! い、いや、知っていたところでもう遅いわ! 騎士団との戦争の為揃えていたこの紫水晶の力で、貴様らを闇に葬ってくれる!」

「おお、立ち直りが早い」


《なに感心してんすか(笑)》

《ローズ様、この敵好きだよね》

《なにかツボだったらしい》

《わからんでもない》

《こってこてのテンプレ悪人だもんね》


 あちらでは、こうした分かりやすく『倒していい敵』が居なかったこともある。

 この伯爵のような悪役はある意味で安心する思いのするハルだった。


「出でよ、我が軍勢たちよ!」


 伯爵が水晶を両手で天に掲げると、その中央部から輝きが広がる。

 それは徐々に光を増しながら空へと昇ってゆき、少しずつ大きさを増していった。


ハル(ローズ)、今のうちに攻撃は?」

「しない」

「しないのだルナちー(ボタンちゃ)。悪役だろうと変身は待つ」

「……良く、分からないわ?」


 少年の心をもったハルとユキの趣味である。それに、堂々と敵の全力を迎え撃った方が貴族の余裕を見せつけられていいだろう。たぶん。


 だが、その“変身”は、伯爵が両手に持った水晶だけでは終わらなかった。

 連鎖的に背後の倉庫内へも輝きが波及はきゅうするように、次々と倉庫内の暗闇にも光がともる。

 それは倉庫内で膨張し、そしてすぐに壁や天井を突き破るようにして、翼を持った中型の竜の群れとしてこの空間に姿を現すのだった。


「待て! 止まれ! 止まるのだ! 全て使うとは言っていない! ああ、私の大事な備えが、戦力が!」

「んー、そのドジっ子アピールは特に評価しないかなあ」

「これやるなら美少女じゃないと駄目ですねー?」


 カナリーの言う通りである。いや、小物としては満点の評価を与えてもいい失策だが、現状でこれをやられると正直面倒くさい。


「仕方ない。護衛ミッションだ。この飛竜が街に飛んで出る前に、僕らで全部撃破するよ」

「あいさー! 待ってました、腕が鳴るね、ハル(ローズ)ちゃん!」

「まあ、ユキ(ユリ)が楽しそうで何よりかな」


 急遽始まってしまったモンスターの大群との戦い。ハルたちはこの街の真ん中で、周囲に被害を出さずにそれを撃滅する戦闘を強いられるのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/20)

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