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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部1章 アイリス編

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第525話 神聖魔法

 初の公式放送も終わり、ゲーム内はさらに活気づいていく様子が伝わってきた。

 しかしゲームの展開はまだまだこれから。世界全体のイベント進行といったものは、まだまだ動きがないということも分かったのだった。


「僕らの起こしたイベント、あれは特にワールドイベントのような物じゃなかったみたいだね。それで相対的に、僕らの評価は下がっちゃったけど」

「でも、誰も手を出せない個別の展開、というのもそれはそれで大きいわ? ワールドイベントなら、積極的に動けない私たちは不利だもの」


 ルナの言うことも一理ある。ハルたちは貴族として、優雅に、そしてどっしりと後ろで構えているプレイスタイルを取らざるを得ない。

 その枷は大きく、ある意味では敗走を許されない『魔王』ロールプレイと同じような制約を負っているとも言える。


「魔王は攻め続けることを強要され、僕らは攻めに出れない制限を負っている、と」

「なに? あの人はそんなに極端なプレイスタイルでやっているの?」

「そうだね。『逆らう者には容赦しない』として、降りかかる火の粉は全て払う構えだよ」

「茨の道ねぇ……、まあ、それだけ、実入りは良いのでしょうけれど?」


 売られた喧嘩は全て買う。そんな気持ちの良いプレイ方針は、見ている者の心を分かりやすく沸き立たせる。

 ただ、その人気を得るための道は綱渡りの一本道。

 どうか最後まで、『魔王ケイオス』が渡りきれるよう祈るのみだ。


「まあ、人の心配より自分の心配だよね。僕らは僕らで、逆に人に喧嘩を売れないという制限がある」

「あら? 貴族だって喧嘩は売れるわ? しかも上から目線で堂々と」

「それは完全に悪役だよルナ……」


 しかも小悪党である。物語の序盤で討伐されるのがお似合いだ。

 そう、そうした『お似合い』、というのは案外バカにできない。こうした部類のキャラクターは、多くの場合こうした末路を迎える、といった共通認識。

 それは大勢の人間が“流れ”を形成する本ゲームにおいて、決して無視してはならない。


 目指すべきは英雄か、はたまた大悪党。もしくは彼らに味方する勢力。

 そうした、物語の流れ上、大成しやすい役割ロールをしっかりと選ぶことが、人気を得る肝となるだろう。


「そういう意味では、人気ロール第一位の<冒険者>はみんな無意識で良く分かってるよね。分かりやすい立身出世だ」

「ただ競争率も高いわね? ローリスク、ローリターンだわ?」


 主人公、英雄ルートがここだ。ハルやケイオスの選んだハイリスクハイリターンとは真逆の道。

 休みなしで戦い続けられるソフィーという、普通のプレイヤーにとっての上位互換となる存在が最初から目立ってしまっているのが逆風か。


 ただ、ソフィーは幸いなことに戦闘狂が過ぎるので、主人公枠は奪わないだろう。

 是非とも焦らず、王道プレイで頑張っていって欲しいところである。


「それで、どうするのかしら? アイリスに戻って、何か戦えるイベントを探す? それともこの神国の土地で、モンスターでも見つけようかしら?」

「そうだね。やっぱり僕らに求められてることは、特別なイベントだろうし、地元でイベント探しが良さそうかな」


 あまり余裕ぶって、人の心配ばかりしてもいられない。こちらもこちらで、走り続けなければならないハルたちだ。

 幸い<男爵>のランクも上がったことだし、国元へ帰還すれば何かしら新しく条件フラグの立っているイベントもあるだろう。それをこなすことで、新たな放送の見せ場は作れる。


 しかしその前に、できればイベントが開始する前の今のうちに、やっておきたい準備があった。


「どうしても僕らのパーティ構成は戦闘が弱い。それを、なんとかしたいね」

「そうね? 私も、今のところ生産職しかできていないし」

「破裂する武器を打って投げつけるのは思い切りが良すぎて笑ったけどね。ウケもよかった」

「そうなのだけど、コストがね? あなたの『神罰』同様に」


 さすがに、戦闘のたびに爆発する武器を使い捨てたり、大金を払って『神罰』を落としてもらっていては割に合わない。

 無尽蔵に資金を使えるといっても、ただただ赤字になるのは許容できないハルだ。

 どうにか、将来的には人気によって黒字になるパーティへと転換していきたい。そのためには、ユキとカナリー以外に直接的な攻撃手段を持った人員を増やすことは必須であった。


「私は、どうにか<剣術>への派生を目指してみるわ? 剣を集中して打っていればいけそうな気がするし。あなたも、何か考えがあるのでしょう?」

「ん、そうだね。メイドさんに『祝福』を使った時に出たスキル、あれを、どうにか目指してみようと思う。この神国に居るうちにね」


 彼女たちは<眷属技能>を覚えるため、初期スキルとしては選ばなかったが、その他にも二つのスキルが発生していた。

 それが<神聖魔法>と<暗黒武技>だ。それらを取得することで、ハルも直接戦闘へ関わることの出来るスキル構成を目指すことが出来る。そう考えているのであった。





「それで、あなたはどうするの? 私はひたすら、剣を打ってはあなたに渡すわ? <商才>スキルで売りさばいてちょうだいな?」

「そうだね。今は剣なら、何でも売れる時期だし丁度いいだろう」


 明確に<剣術>に狙いを定めたルナは、ひたすら剣装備の量産に乗り出してゆく。

 このゲームでは関連する行動を取り続ければ、そのスキルへ派生する経験も溜まり、いずれそのスキルが開花することが分かっている。

 ならば“剣”という明確な基準があるルナの選択は、ほぼ確定で<剣術>を派生させるだろう。それこそ、『幻覚薬』から<宗教知識>を派生させたハルよりずっと確実に。


「……僕は、例の<宗教知識>から攻めようかな。あまり、いい思い出の無いスキルだけど」

「あら? また幻覚薬を飲むのかしら? いいわよ、今は私しか見ていないもの、よくあなたの痴態を見せてちょうだいな?」

「嫌だよ! そして痴態言うな!」


 断じてお断りである。何が悲しくて、女の子の姿になって、しかも好きな女の子に狂った姿を晒さねばならぬのか。

 まあ、ルナはそれが楽しいのかも知れないが、ハルとしては勘弁願いたいところだった。まだその域には達していない。


「ごめんなさいね? でもどうするのかしら? アイリちゃんはこの地で歌うことで『神歌』を得たみたいだけど、狙って出来るもの?」

「いや、さすがに狙ってやるには情報不足かな。でも、この地が神国だってことは最大限活用すべきだと思う」


 そう語りながらハルたちはエレベータを下り、貴族エリアから、一般の誰もが立ち入り可能な下部へと戻ってきた。

 六花の塔の花びら部分を構成するこの下部は、内部がドーム状になっており、その中には街がありNPCが住んでいる。


 ここはこの世界に広がる宗教の総本山であり、アイリスの城で見たような宗教施設もより巨大なものが存在した。

 ハルとルナは、教会のようなその建物に連れだって入っていく。

 内部には、この塔へと来る際に護衛と案内をしてくれた神官たちが数多く存在していた。


「なるほどね? どうやって覚えるのかと思ったけれど、正攻法で行くということかしら?」

「そういうこと。使えるだろう人達に、教えてもらえばそれが一番だ」


 神官として修行を積んだであろう彼らは、<神聖魔法>や<暗黒武技>をおさめている可能性は高い。

 その彼らに教えを請えば、直接それを習得できるのではないか、そうハルは考えている。


 ハルたちは多くのNPCが祈りを捧げる礼拝堂を通り抜け、施設の奥へと進んで行く。

 これがゲームだからか、ハルが貴族だからか、とくに咎められることなく、神官たちの暮らし修行をしているであろうエリアへと侵入できた。


 その中において、まさに修練場、といったフロアをハルは見つけ出すと、その中で修業をしているNPCへと話しかける。


「修行中、失礼します。お聞きしたいことがあるのですが、よろしいか?」

「はい、なんなりと、貴族の方。このような場所までよくぞお越しくださいました。いかようなご用件でしょうか?」

「ええ、実は<神聖魔法>や<暗黒武技>といったスキルを会得えとくしたいと思っておりまして、先達の助言などいただけないかと……」

「なるほど! 流石はアイリス様に見出されしお方だ。素晴らしいお心がけです。しかし、一つ問題がございます……」


 そこで神官は顔を曇らせる。何かミスがあっただろうか?

 反応から、スキルを教えてもらうのはここで間違いないようだが、今のハルでは前提条件が足りなかったのかも知れない。


「課金で解決できればいいけれど、レベル不足とかだと少し厄介だね」

「……課金で解決して済ませようというのが第一にくるのも、少し染まり過ぎてきているかも知れないわ、ハル?」


 確かに、アイリの教育に悪いかも知れない。あまり影響を与えてしまわないうちに何か考えた方がいいのだろうか。


 ハルとルナのそんな悩みなど知らぬ顔で、修行中の神官は話を続ける。

 レベル不足、前提スキル不足などであったなら、それらを稼いでくる時間が必要となり面倒だと思っていたハルだが、その懸念は杞憂きゆうと終わった。

 どうやら、問題はそいうった部分ではなかったらしい。


「……ローズ殿のご所望のスキルのうちひとつ、<神聖魔法>は確かにここでの伝授が可能です。しかし、<暗黒武技>はここで教えることは適いません」

「ふむ? それは、教義の問題?」

「いかにも。アイリス様は光の神、対極に位置する闇のスキルは、カゲツを始めとする闇属性の影響の強い神殿をお尋ねください」

「なるほど。まあ、僕はアイリスの貴族だ。それは止めておこうかね」

「賢明です」


 神官はあくまで、『お勧めしない』程度に留めているので不可能ではないのだろうが、あまりプレイスタイルをブレさせる必要も無いだろう。

 ここは、大人しく<神聖魔法>を覚えておくことにするハルだ。


 自らの肉体を使って戦うことを好むハルには<暗黒武技>の方が合っていそうな気もするが、魔法を使うことも好きなハルである。

 今回は、前衛はユキたちに任せて、ハルが魔法使いをやらせてもらっても構わないだろう。


「じゃあ、ここで<神聖魔法>を習得したいのですが。構いませんか? あ、これ料金です」


 神聖なる地においてそぐわない、なまぐさ全開の課金芸に対しても、神官はにこにこ顔だ。正解だったらしい。


「もちろんでございます。習得にはこの地で三日間かかりますが、よろしいですか?」

「三日か……」


 それは、少し問題だ。いや、現実的に考えて三日で修行が済むというのは非常に早い。冷静に聞けばギャグに等しいと言ってもいい。

 しかしこれはゲーム、神官も大真面目だ。一つのスキルの習得に三日間というのは、長期運営のオンラインゲームらしい“重さ”である。

 ましてや開始直後の大事なこの時期、三日も拘束されるというのは非常に痛い。


 ハルが悩んでいると、それを察したのか、神官NPCが助け舟を出してきた。こうした咄嗟の対応も、流石である。


「お忙しい貴族殿ともなると、この地に留まるのも難しいのですね、分かります」

「ええ、少し悩みどころですね」

「それでしたら、この教典をお持ちいただくのはいかがですか! これならばご領地においても、ご自身のペースで修行が可能となりましょう!」


 ……助け舟ではなく、商材の押し売りだった。生臭な話である。

 だが、ハルとしては助かることには変わりない。当然のようにその場で(課金により)購入し、目的を遂げたハルは大神殿を後にするのだった。





「どうかしら? 読めるものだった?」

「いや、実際の読み物ではないね。ページを開くと、習得モードに入る。出てるゲージが溜まりきれば、スキル習得完了だ」

「ふーん? スキルブック、といったところかしら」

「ありがちだね」


 神殿を後にしたハルは道すがら、購入したアイテムを開いてみる。

 それはルナの言うようにスキルブックといった感じのアイテムで、開いているだけで習得が進むようだ。


 確かにどこでも隙間時間に使えて便利なのだが、これは更に時間が掛かりそうだった。


「地道な作業は好きだけど、これはさすがに長すぎるね」

「いいじゃない? 常に本を開いているお嬢様、絵になるわ?」

「うーん、微妙……」


 詩集を読んでいるイメージには、本が巨大すぎた。魔導書を抱えたお嬢様も、ありだろうか?

 ただ、イメージ以外にも常にリソースを食われるのもいただけない。なんとかならないかと考えた末に、ハルは一つの案を思いついた。


「<解析>が使えないかな、これ」

「本に? なるほど、古文書の解析をするイメージね?」


 先のイベントで習得した<解析>を、ハルは本に向かって使用してみる。すると効果は覿面てきめんであり、ゲージの進行は目に見えて進んだ。

 これならば、現実的な時間でスキルを習得できるだろう。


 そうして、用事を済ませたハルたちは改めて神国の地を後にする。

 来た時と同様に、海から出発する飛空艇の、のどかな旅だ。


 今回は特に敵襲などもなく、道中の読書によって、帰り着くころにはハルは<神聖魔法>の習得を完了させたのだった。

※誤字修正を行いました。

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