第524話 第一回公式放送
「《こーんにてゃー。みんな大好きフラワリング速報でーすよー。え? 大好きじゃない? しょーがねーよな第一回なんですもん。この番組は、当ゲームの公式情報発信地であるます!》」
「なんか始まった」
「……こんにてあ?」
ハルたちが各自のんびりとスキルを育てていると、そんな中でこのゲームの公式放送が開始された。
いいタイミングだったかも知れない。公式の情報は誰もが気になるところ、そんな中ではハルたちが配信していても人が流れて中途半端になりがちだ。
いい機会なので、ハルたちものんびりとしつつ、皆でその放送を眺めることにした。
「《ありがてーことに大好評のうちにスタートを切らせてもらった我らがゲーム! 参加プレイヤーはそりゃもう膨大。全てを見切れる人間はおりゃんでしょう。そんな皆様のためにっ、わりゃわりゃ運営陣が選りすぐったハイライトをお届けしちゃうよん》」
《ぱちぱちぱちぱち》
《助かる》
《こういうの待ってた》
《見切れないもんね》
《司会者、噛んでる噛んでる!》
《ばか、こういうのは舌っ足らずって言うんだ》
「ずいぶんと軽い感じの司会ね? これも、きっと神様なんでしょうね?」
「うわー、ルナさんからの視線を感じますー。我々がどう思われているかが分かりますー。悲しいですねー」
「大丈夫よカナリー。神様はみんな可愛い、って言っているわ? 少々、うさんくさいと思う所はあるけどね?」
「やっぱりー。そう思われても仕方ないですよねー。でも、可愛いって言ってもらえたので喜んじゃいましょうかねー」
「カナリー、何したんすか? 神の評価下げないでくださいよ」
「あーなーたーもー、同罪ですよー?」
陽気で早口な、しかし少々活舌は悪く、軽快なテンポで司会が進行する。これもきっと神様なのだろう。
彼女は、六つの国の名前の元となった六柱の神様の一人なのだろうか? それとも、全く他の神様なのか。
今のところ、それを読み取る情報は無かった。
「《んでは! さっそくいってみよう! まずは誰もが気になっているであろー個人の人気ランキングから!》」
《うおおおお!》
《気になる!》
《でも一位は知ってる(笑)》
《むしろあの人が一位じゃなかったらやばいわ》
《ローズお姉様ー!》
「《んおー? 既に大盛り上がりぃ。こりゃもはや発表するまでもないんだわさ。じゃあ一位からいってみよぉ! 課金に躊躇なし、課金が出来る世界は私の世界! リアルお嬢様はこっちでも貴族、<男爵>の、ローズちゃんどゎ!》」
《知ってたーー!!》
《ローズ様最強! ローズ様お金持ち!》
《金使いの荒い天使》
《困ったことはお金で解決》
《貴族とかいう金持ち専用ロール》
《でも、この人の他に貴族ルート誰も居ないぞ》
「《ちなみになー、課金煽りになるから、課金額ランキングは発表しないぞ、念のため今から言っとくー》」
《かしこい》
《でも課金煽り気にするの今さら》
《少し遅かった》
《まー商売だし》
《こんだけの規模となるとね》
《ちなみに有志調べだとローズ様はトップじゃない》
《むしろ課金額トップ10にも入ってない》
>>《まじか! トップだとばかり……》
>>《上の方はえぐいよ。目につくアイテム全部買ったり》
>>《まじで課金するだけの放送》
《お金使うにも効率的にやらんと無意味なんだな》
《流石はローズ様、その点もお上手》
これに関してはハルも少し申し訳ないと思っている。
なまじ、ハルが荒い課金芸にて目立ってしまったため、お金を使いさえすれば上位に立てるという風潮が生まれてしまった。
その結果、お金を派手に使っても、思うように視聴者が付いて来ないというプレイヤーが生まれてしまった。
課金は強力だが、地盤となるロールプレイがあって初めて効果を発揮するということだろう。
「《ちなみにこのローズちゃんは、最も高レベル最も高付与ポイント、そして最も発生イベントが多いという贅沢ぶりだなー。んなー、この快進撃がどこまで続くか今後もちゅーもっく》」
《もう勝負付いてるから》
《いやいや、まだ始まったばっか》
《息切れあるし、もっと凄い人が出てくるかも》
《……出てくるの? これ以上》
《考えたくねぇ……》
《ハルとか何やってる?》
>>《誰それ? 有名人?》
>>《超高レベルゲーマー》
>>《知ってる! ニンスパの動画で見た!》
《ハルは出ないよ。他プレイヤーのマネージャー》
>>《本人はこれの姉妹ゲーでスローライフ》
>>《アクション要素薄いから興味ないのかも》
「《うるせぇー! 別ゲーの話すんなあ! んでは続いて二位の発表いっちゃおうぞ、んー、でも二位はまだほとんど活動なし。元が有名人なんだね。役職は堂々の<平民>! ヴィル!》」
《活動なしで二位って何だよ……》
《ある意味ローズ様よりバケモン》
《仕方ない。芸能人ゆえ》
《むしろそれに勝ってるローズ様がおかしい》
《よかったな運営、活動なしが一位じゃなくて(笑)》
《元の知名度パワーって凄いなぁ》
《リアルチートすぎぃ》
《こーれ本格的に動いたら大変です》
ゲーム外で元々ファンを持っている人間は、その数字をこちらへ直接もってくる事が出来る。
もちろん、全員が見てくれるとは限らないが、初速の違いと言うものは如実に出る。培ってきた歴史の違いだ。
当たり前といえば当たり前なのだが、順当にそんなプレイヤーが勝っても楽しくないと思うのがゲーマーだ。
そんな層に人気となっているのが、次点の三位へとつけてきていた。
「《はい続いて三位ー! 疲れ知らずのバーサーカー、開始から今まで休みなし! RPGプレイヤーの理想を体現したそいつの名はー、ソフィーだぁっ! 役職<D級冒険者>っ!》」
《ソフィーちゃん! ソフィーちゃーん!》
《がんばれー! 全員ぶったおせー!》
《うおおおお、ソフィー! ソフィー!》
《うわすっごい熱量》
《ファン層が暑苦しい(笑)》
「《この子はすんごいねえ、プレイ時間こそ正義を体現しとるわー。ローズちゃんがイベントの人だとすれば、ソフィーちゃんは戦闘の人。モンスター倒してレベル上げれば、RPGはクリア出来んじゃね? って感じ》」
《間違いない》
《実際できる》
《惜しいよなぁ、タコが居なければ》
《ソフィーちゃんがレベル一位だった》
《いうてローズ様も素の経験値やばくね?》
>>《暇さえあれば生産してるね》
>>《まったくそう感じさせないけどな》
>>《優雅な裏では地道な努力が……》
《初の冒険者レベル昇段者》
《そら上がる。モンスター絶滅するぞあの狩り方(笑)》
《目指せS級冒険者!》
《でもこの子もプロなんでしょ?》
>>《いや、付いてんのはスポンサーじゃない》
>>《さっき出たハルって人がマネに付いてる》
>>《どっちみち金持ちじゃん》
>>《スタミナ薬さえ集めれば真似できるぞ》
>>《金出せばお前は出来るのかと》
「《あんまプレイヤー批判すんなーおらぁー! 悔しかったら自分でプレイするか自分の好きPを伸ばせー! ん、そゆわけで今のトップスリーでした。四位からはスクロールで表示するよん》」
《情緒どうなってるん?》
《はげしい》
《四位以下も面白そうなのが多いな》
《そりゃ、こんだけのユーザー数で上位だからな》
《どれ見てもハズレ無しよ》
《活動してればね》
《あとは、ローズ様のご友人も除いた方が良いか》
《おい何勝手に除外してんじゃ!》
《こちとらサクラちゃん推しじゃい!》
《皆様どなたも華やかだよね》
《今後ソロで動かれたりするのだろうか》
まだまだゲームは始まったばかり。今はスタートダッシュに慣れたプレイヤーが上位につけてきているが、今後は大きく変わってくるだろう。
そんななかで、ランキングの下部に滑り込んできている『魔王ケイオス』の名前に、ハルはそっと心の中でエールを送るのだった。
◇
「《はーい、ってなわけで諸君! これまでのハイライトだ! どだったー? まだ始まったばっかだけど、サービス開始直後のどたばたはやっぱり盛り上がるにぇー》」
《初々しい出会いは見ていてほっこりする》
《若い男女が出会って冒険の旅へ》
《うーん主人公》
《この世界では誰もが主人公》
《これぞロールをプレイするゲーム》
《そして生まれる恋》
《そして二人はリアルでも》
《そして発覚する互いの性別》
《おいやめろ》
「《やめろやめろー、リアルのことなんか気にすんのはー。さて、続いては運営調べのデータ発表なんかいっちゃおー》」
ゲームスタートからここまでの見どころが、運営のAIならではの優れた収集体制により漏れなくピックアップされる。
それはソロで始めたプレイヤー同士の出会いと冒険への門出だったり、初めてのボスに勢い勇んで突っ込んであえなく敗北する様子だったり、魔王を名乗ってしまったために引くに引けなくなった女性が、意地で敵の大群を撃退してのける場面であったりした。
「エメは何かお勧めの見どころってあった?」
「いやー、どですかねえ……、わたし、データ採取は出来ても、そうした盛り上がりの感性の比較はどーも自信が……」
「あら意外。人間だったこともあるでしょう、あなた? そういう所もお手の物ではないのかしら?」
「ルナ様にも分かると思うんですが、全体と個人って違うんすよ」
「そうね。確かにそれは良くわかるわ? そこはハルの得意分野ね?」
「そう考えると、僕とエメの両方の特性を併せ持つと言える運営陣は結構優秀なのかもね」
ハイライトはとても見やすく編集されており、流石の仕事の早さを思わせた。
そんな公式放送では、これまたAIお得意であろう、全体データの統計が発表されているところだった。
「《まずはっ、国別プレイヤー所属ランキング! いえええいぅおぅ! 第一位もちろんアイリス。当然の一位。初心者にめっちゃんこオススメー。んで第二位リコリスな。戦闘狂多いぞ大丈夫かー?》」
《大丈夫じゃない。超怖い》
《あいつらもう戦争の話してる》
《司会の情緒も大丈夫か?》
《国別対抗戦とかあるのかな?》
《状況によってはありそう》
《やっぱゲームは戦闘してなんぼよ》
「《第三位はミント、森で癒されてるだけじゃ進めないぞー。第四位カゲツだけどここの配信者少なすぎぃ! 噂だと配信しながら歩いてると文句つけられるらしい。こえええ! あ、ちなみにこのゲームは配信してる人が一番偉いんで、人の配信に文句つけんなよー?》」
《秘密主義なんやね》
《価格操作狙ってそう》
《でも今のとこ価格操作に成功したのお姉さまだけ》
>>《あ、あそこも一応商業の国だから……》
《将来的には商人プレイヤー要注意》
>>《確実になにかしら引き起こすね》
>>《どんなゲームでもありがちだからな》
《森の国の人らは大人しいね》
《見てると癒される。のんびりプレイ》
「《はい第五位、ガザニア。生産職も今のとこはアイリスに吸われてる感あるからにゃー、組合作ってがんば。んで六位はコスモス。これが、ちょい意外。みんな魔法が好きなもんじゃねーの?》」
《魔法特化となるとまた話は別なんかな》
《剣と魔法の世界だからな》
《それもアイリスに吸われてね?》
《ずるいぞアイリス》
《でも後半になれば特化が強そう》
《国移動イベントとか無いの?》
《少なくとも他国へ渡れるルート開拓は必須か》
「《続いて初期選択スキル! じゃじゃん! 一位は<剣術>だね、これはやっぱりかって感じ。やっぱりみんな剣持って、自分で前衛張りたいもんな、わかるぜー?》」
《まあ順当》
《パーティ組むにもまず欲しい》
《というか今は全員これでもいける》
《その辺も魔法の不人気あるのかねー》
《やっぱり勇敢に剣振ってる姿は目立つからな》
《ソフィーちゃんが完全にそれ》
《いや常人があれ目指しちゃいけない》
「《どんどんいくずぇー、第二位は<攻撃魔法>! なーんだやっぱ人気じゃん。取得者のほとんどアイリスなんだけどね。んでんで三位は<召喚魔法>なー、こっちはほとんど森の人。使いにくいってのことで人気がちぃっと低迷ぎみかな》」
《消費が激しいんだよな》
《HPMP少ない今は一発撃ったらなんもできん》
《でも、だからのんびりペット派には合ってそう》
《森でペットとたわむれる放送人気だぞ》
《大事に育てればそのうち強くなりそう》
《めっちゃ強いパートナーになりそう》
《大器晩成だね》
「《次点には<錬金>がつけてるにゃー。これは、某ローズちゃんの影響がデカそう。だが貴様らー! 忠告しとくぞー! <錬金>取ればあの子みたいに自分も成れると思ったら大間違いだー!》」
《それはそう》
《課金だけじゃないんよ》
《あの方の機を見る力は天才のそれなんよ》
《というか課金が最低限の必須ライン》
《才能だけでも、課金だけでも足りない》
《やはりローズお姉さまが最強》
「《はいそんな感じで、次は<役割>ランキングいこうかな? あ、言うまでも無く<貴族>関係は最下位です》」
そうした感じで、初の公式放送は楽し気に続いていった。
常に誰かが生放送しているという都合上、このゲームでは情報交換もこうしたリアルタイムのものが主流となるのかも知れない。
プレイヤーよりも、視聴者の方が多いというのも関係しているだろうか。
そんな放送を皆で楽しみながら、ハルたちはのんびりとスキルアップにいそしむのだった。
※誤字修正を行いました。(2023/5/20)




