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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部1章 アイリス編

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第516話 六つの国の個性ある人々

 このゲームにおいて最初に選べる所属国は、全部で六ケ所ある。


 まずはハルたちが揃って所属している、伝統と騎士の国、『アイリス』。

 美しい街並みと、優雅な貴族制度が特徴の安定した国。特別尖った部分がなく、どんなプレイヤーでも合わないということがない。初心者が迷ったらここを勧めればいいだろう。


「さて、そろそろ会談をスタートさせてもいいかしら?」


 次に、最初にハルに話しかけてきた美しい女性の所属国、精霊と森の国、『ミント』。

 国土の多くを森林に囲われた自然豊かな国で、神秘的な雰囲気が好きなプレイヤーが選ぶ国である。<召喚魔法>が上級者向けなので、少々最初の人気が失速気味。

 代表もなんとなくエルフっぽいのは、きっと狙っているのだろう。


「おー、やったれやったれ。どうせ今の時期は話すこと無いんだ。新入りの歓迎会にしちまおうぜ」


 ハルに突っかかってきた筋肉の主張が激しい兄貴分の国は戦士の国、『リコリス』。

 暑い気候、熱い住人の気風と、活気に溢れる国である。近接戦闘が好きで、<体力>を突出して伸ばしたいプレイヤーにお勧めだ。

 強い者が偉い者らしいので、分かりやすい成り上がりプレイもやりやすいだろう。


「……勝手に仕切るな、カス。……新参は、こいつの適当発言に同調なんてしないよーに」


 リコリスの代表に更に突っかかっていた小柄な少女が所属するのは、魔法の国、『コスモス』。

 こちらは名前の通り、魔法使いを目指すプレイヤーが所属すると良いだろう。<魔力>を選んだプレイヤー向けである。

 一部森の国と被る感じはあるが、こちらはより実践的な雰囲気。<攻撃魔法>向けか。


「やれやれ。夫婦めおと漫才は他所よそでやって欲しいんじゃがのう?」


 年寄り口調に似合わず、この席で最年少の見た目な少女の所属するのは商業の国、『カゲツ』。

 アイリスも交易は盛んだが、この国はそれに留まらず、貪欲に世界中のあらゆる商売のチャンスに目を光らせている。アイリスが需要を満たす側だとすれば、ここは需要を作り出す側。

 アイテム売買によるゲーム内通貨を増やすこと、それを生きがいにするようなタイプのプレイヤーにお勧めの国だ。金さえあればあらゆる物が手に入る。らしい。


「男性の割合が不利ですね。ぼくが頑張らないと……」


 最後、気弱そうな青年の所属は、鉱山と職人の国、『ガザニア』。

 こちらは生産系の構成ビルドのプレイヤーが選ぶと有利に立ち回れそうだ。多くの資源と、生産に有利な施設が揃っている。

 国民にも当然多くの職人NPCが所属しており、彼らと触れ合うことで、新たなスキルの開花の助けになったりするのかも知れない。


 以上、六か国から選出された有力者NPCが、今回の席で会談を行う。

 ハルの印象としては、聞いていたような外圧をかけてくる偉そうなNPCは居なさそうであると感じている。

 もっと、よくある嫌味な貴族が出てくるのかと思ったが、癖は強いが話の分かりそうな顔ぶれだ。


 そんな面子で、一体何を話し合うのか? まるで情報を持たないハルは、ただその場の成り行きを見守るばかりなのであった。





「いよっしゃ! んじゃさっさと始めて、サクッと終わらせようぜ? どーせ、話すことなんざねーんだろ?」

「……そこは、同感。……『異常なし』を報告するためだけに、集まる必要なんて本来ない」

「ま、まあまあ。他国の方と話し合うことで、新たに得られる知見も多いですし……」

「それこそ、終わった後で交流を持てばよかろ。無駄じゃこんな席。無駄無駄」


 どうやら、皆の反応を見るにこの会談とやらは形骸化けいがいかしているようだ。

 だが、よく観察してみると、商業の国の代表、いわゆる『ロリババア』と呼ばれそうな老人口調の少女の目は、慎重に参加者の様子を探っているようだった。

 無駄だと言いつつも、少しでも他国の情報を得ようと目を光らせている。


 まあ、当然か。ことは国同士の話になる。少しでも自国の有利になるように立ち回り、有益な報告を国に持ち帰らないとならない。


「ゲーム的に捉えれば、ここでこちらから特定の情報を持ち帰らせれば、それに沿って相手の国を動かせるって話だね」


 ハルはそうした他国の有力者とこの席についているゲームとしての価値を、声を潜めて視聴者向けに説明する。

 もちろん、好みのキャラクターが居たならば、その相手を個人的に『攻略』するために働きかけるのも楽しいだろう。


《なるほど、難しそうだ》

《うむ、わからん》

《さっきみたいにプレゼント爆撃すればいいんじゃね》

《それで好感度アップ?》

《好みが知りたいね》

《でかい男の人にはお菓子が刺さったらしい》

《じゃあお菓子を連打すればいいのかな?》


 そうとも限らない。確かにアイテム譲渡コマンドによって、何らかのポイントが上昇したような感触はあった。

 だがそれに味をしめて、無限に連打すれば簡単に攻略完了となるかといえば、また話は別だ。


 このゲームは神様たちが作ったもの、そうした判定も、しっかりと作り込んであると考えて良い。

 贈りすぎれば逆に、『鬱陶うっとうしい』というマイナス感情も加算されそうだ。


《ローズお姉さまは誰狙い?》

《俺は毒舌少女ちゃん!》

《俺はロリババアの人!》

《アイリスの担当はどんな人だったんだろう?》

《職人の人の口ぶりからすれば元は男の人?》

《エルフっぽいお姉様とローズお姉様の絡み見たい》


「気になったキャラが居たら、自分で出世するといい。僕は今回、個人に絞って攻略はしないからね」


 今回、ハルが目指すべき会談の目的は、<貴族>の役職のランクアップのための評価稼ぎだ。その為には、各キャラクター個人との交流よりも、この会談自体を成功させなければならない。

 だが、この席にこれといった目的は存在しないようであり、上手く立ち回らなければ何も成果を出せずに終了してしまいそうだ。


 そうさせないためにも、ハルは視聴者との会話を切り上げ、声のトーンを張って会議へと参加していった。


「……普段は、どんなことが話し合われているのかな? ここは調停の席とのことだけど」

「そうねぇ。どこかの国で問題があった時なんかは、それについて話し合ったりすることもあるけれど。平時の今は雑談で終わったりもするわ」


 まとめ役なのか、森の国『ミント』のエルフっぽいお姉さんが解説してくれる。


 他の参加者を見渡しても同意見のようで、これといった緊張感はない。

 つまりは、このままハルがアクションを起こさなければ、今回も雑談で終わる可能性が高いということだ。

 それでも彼ら有力NPCの顔見せにはなるのでハルの放送的には問題ないのだが、やはりパラメータ的にも何かプラスを持って帰りたい。


「たまに、俺んとこに犯罪者が逃げ込んだから引き渡せーとか、そういうのもあるけどな。勘弁しろっての」

「……勘弁して欲しいのはこっち。……お前の国が脳筋だから、付け込まれる。……あと死体で送りつけるな。……生きたまま捕らえろカス」

「んだよ! 俺んとこだって迷惑してんだ! 生きたままなんて面倒なこと出来るかカス!」

「仲がいいんだね」

「……よくない」「いい訳あるか!」


 お決まりの反応が引き出せて嬉しくなるハルだった。


「ボクやご老は、商売の話が多いですね。材料費の上下には、どうしても敏感になりますし」

「そうじゃの。じゃがわしの国は性質上、やれ『何が高い』だ『何を下げろ』と口うるさく言われることが多くてかなわん。ま、そうした生の声を聞ける場として助かってもいる」

「なるほど」


 貿易摩擦の解消の場としても機能しているということだ。

 文句が多いというが逆に言えば、今は何が売れるのか、どこまでなら値段を上げても文句が出ないのか、そのあたりの空気感を測れる場でもあるのだろう。


「なるほどではないわ。おぬしの国も他人事ではないのだぞ? その辺りは、語れるんかのう」

「……んー、今の薬草類の需要増は一時的なものだね。商機と見すぎれば痛い目を見るかも。逆に今後は織物が伸びるかな。ウチの国から出せるものとしては、魔鉱石類が増える予定」

「ほうほうほう。中々話せるな小娘。おぬしの前任者は、そのあたりてんでダメな堅物でのぉ……」

「あ、魔鉱石はぼくの国でお引き受けしたいです、えっと、よければでいいので、ご一考を」

「そうじゃな、ウチを通してもらえば更にいいんじゃが、贅沢は言わん。代わりに、」

「後にしようぜシルヴァのバアさん!? 絶対長くなるだろその話!」

「……終わったら、個人的にやれ。……あと宝石系は、こっちに回せ」


 プレイヤーとして得られた神の視点からの情報は、商人の国としては非常に有益だろう。高評価を得た感触があった。

 ついでに言うと、この魔鉱石の増産については完全にハルの都合である。

 ハルの<錬金>スキルの成果物として、魔石や魔鉱石が生成できる。その量産を、勝手に国策にしてしまおうという私情100%の情報だった。


 上手くすれば、世界情勢に間接的に介入できるかも知れない。この神国会談は、そうした実験の場にもなりそうなのであった。





「では改めて、それぞれの国で不穏な動きなど無いか聞いていきたいのだけれど、いいかしら」

「おーう、いいぜ。つっても俺んとこは、いつもバチバチにやりあって常に不穏だがな」

「……そいつの通常営業は、気にする価値なし。……我が国も、特に無し」


 各国の情勢について、『異常なし』の報告が続いてゆく。

 実際は完全に異常の無い国家運営などありえないのだが、そこはゲームだ。そして、もし何かあったとしても、それを易々と他国へ知られるのは自国の弱みを晒すことに他ならない。

 他国との関係に摩擦を生むこと以外は、口をつぐむのが当然。


 一通りハル以外の報告が終わると、魔法の国の代表である少女からハルに水が向けられた。


「……お前のとこからは何かあるか、新入り。……何か事件があれば、隠さず話せ」

「そうだね。エメ(イチゴ)、何か有益な情報は出てる?」


 ハルは後ろで黙って控えていたエメに、国内の情報について確認をする。

 まだゲームが始まって間もない今、ハルも特に国の問題などは知るよしもない。だが、アイリスで活動する者の情報を全て総合すれば、何かしら見えてくるかも知れない。エメには、それが可能だ。


「今のところ、特にこれといった情報は出てないっすね。平和そのものって感じです。なんかあったところで、冒険者たちがすぐ解決しちゃうでしょうしねえ」

「確かにね」


 こまごまとした問題、例えばモンスターであったり盗賊の襲撃などは、冒険者ギルドにクエストとして登録されてすぐに処理される。

 人気国であるアイリスの国では、それらの対応には事欠かない。


 プレイヤーがNPCから聞ける噂話にも、特別、不安を煽るような内容のものは含まれていないようだった。


「僕らの国にも、大きな問題はなさそうだ」

「ふむ、そうかそうか。ならばこの席はさっさとお開きにして、おぬし、この後少し付き合わんか? さっきの話、もう少し詳しく聞きたいのう」

「……バアさんそっちに気が行き過ぎだろ。なあアンタ、そのバアさんは気にせず、気がかりがあればゆっくり考えていいんだぜ?」

「……力になれることがあれば言って。……もちろん、対価は取る」

「そうだねえ……」


 手元に表示されたウィンドウパネルを見れば、なんとここで、選択肢が表示されている。

 どうやら商業の国の少女からの誘いは、口先だけのものではなく、実際にイベント展開があるようだ。誘いに乗るかの選択が出ている。


 いわゆる、ルート分岐という奴だ。この会談自体の収穫は無しになるが、特定の国と太い交流パイプが作れる。

 商業的な仕掛け手が得意なハルとしても、悪くない選択だろう。


「……そういえば、一つ気がかりがあったっけ」

「ふむ? なんじゃ? 言ってみぃ」


 だが、ハルはそのルート分岐をキャンセルした。


 この誘いを蹴ることは、関係に悪影響を及ぼさない。大きなプラスが無いというだけだ。

 そして元々ハルの狙いは、<貴族>ランクの上昇。更には特定NPCの攻略ではなく、神々への接触。そこはブレることなく行く。


「正確には僕の国の話という訳じゃないんだけどね。ここに来る道中、変なモンスターに襲われてさ」

「ほぉ。興味あんな」

「……脳筋。……すぐ食いつく」


 ハルがアイテム欄から『輝く紫水晶(大)』を取り出して卓上に置くと、参加者の目の色が変わった。“当たり”のようだ。

 イベントが、また別方向へ動いた空気を感じる。


「……ローズ。……これ、どこに居た?」

「海だね。巨大な海魔類だった。消え方が奇妙だったよ」

「見覚えがありますわね。大きさは比べるべくも無いですが、こちらも妙な消え方をするモンスターに遭遇しました」

「ボクも……、いえ、ボクが直接じゃないんですけど、その水晶と似たようなものが工房に入荷しています……」

「なんじゃ、全員なにかしらの心当たりアリかの?」


《おっ、これってもしかしてワールドイベ?》

《レイドボスのふいんき?》

《悪の! 秘密結社が!》

《まだ誰も何も言ってない(笑)》

《でも定番。闇のモンスター製造》

《世界中にバラまいてる》

《紫水晶あつめイベだ!》


「プレイヤーって本当に血の気多いなぁ……」


 ぼそりと、ハルはひとりごちる。だが彼らの予想にはハルもおおむね賛成だ。

 これが世界規模の異変として各国に共有され、世界情勢が一段階変化する。これを機に各地に奇妙なモンスターが現れる展開もあるかも知れない。


 これは個別ルートに対しての、正規ルートといったところか。

 この分岐の方が、動く人間の数も多く、結果ハルの目指す役職クラス評価も高そうだ。己の選択の正しさに、ハルは確かな手ごたえを感じていた。


「……ローズ、一つ、提案がある」

「うん。何だろう。とはいえ僕の権限で出来ることは少ないけど」

「……問題ない。……その水晶、私に、いや我が国に、譲ってくれないか?」

「……なんですと?」


 なんだか、個別ルートから外れたら、また別の個別ルートに入ってはいないだろうか?

 己の読みの雲行きの怪しさに、少々自信を失ってきてしまうハルなのだった。

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