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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部1章 アイリス編

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第510話 貴族の休息

 ログアウトし、お屋敷へと戻ってきたハルたち。最初の大きなイベントである貴族への叙爵じょしゃくを終えて、ハルの放送は非常に大きく盛り上がった。

 資金力の面でも、ゲーム理解度の面でも、ハルたちほど条件の揃っているユーザーはそうそうおらず、今のところは全てのプレイヤーの中でもトップの成績となっている。


 いわゆる下馬評げばひょうでは、ゲームクリアし賞金を獲得する最有力候補とみなされていた。


「まあ、当の僕にはその気は無いから、他の人には頑張ってもらいたいところだね」

「批判も多いみたいですけどねー。『結局、金持ち有利なのかー』、ってー」

「それはそうでしょう? 今さらではなくって?」

「まあ、理屈で納得できるもんじゃないのさルナちー。ただ、賞金ありだからね。すぐに批判は下火になると思うよ?」


 賞金がかかっているのだ。誰もが使える手は使うに決まっている。

 それに、稼ぎ以上に浪費していては本末転倒。無課金で優勝できれば、それこそが最高効率だ。


「かなり派手に使っていたようだけれど、限度額とかは平気なのかしら?」

「そですね! ハル様ご自身だけでなく、わたしやアイリちゃんなんかの、自分のお金なしなしグループもハル様に払っていただいてますし! これ下手したら、最終的には優勝賞金を課金額が上回るんじゃないですか?」


 日本人として世界を超えて活動を始めたばかりのアイリやカナリー。当然ながら日本に口座すら持っていないエメ。それらの支払いも、ハルが肩代わりしている。

 そこをエメに遠慮されるが、それに関しては特に気にする必要はないのだった。


「資金の出所については、奥様からの“お小遣い”だから、遠慮する必要はないよ。要するにスポンサーが付いてる」

「お母さまは本当にハルには甘いのだから……」

「でもそれがなくてもさ、ハル君そもそもお金持ちじゃん?」

「まあ、一切のブレーキを考えなくていいという安心感があるよ」


 ローズとしての活動が人気となれば、その分の配当が発生し、それをまた活動費にあてられる。 

 しかしそれが実を結ぶのは、それなりに後になってのことだ。最初の滑り出しの時点で収支バランスを度外視できるのはやはり大きい。


 加えて、ハルにはもう一つ行っている活動があった。それが、ソフィーの支援、プロデュース活動だ。


 ハルは自身がプレイ中も、思考領域の一つを常にソフィーの放送に張り付かせている。

 彼女の放送の管理人として、ソフィー本人がのびのびとプレイに集中できるよう補佐を行っている。

 それは目立つことではないが、不適切なメッセージの削除や、必要なアイテムの支給など多岐にわたる。


「そういえばソフィーさんの方の課金もハルさんが担当してましたねー? どうなんですー、あっちの様子はー」

「僕らほどは使ってないよ。あの子の気質的にも。ただ恐ろしく精力的だからね。完全無課金という訳にもさすがにいかない」

「ソフィーちゃん。サ開から今まで、ずっと休まず戦い続けてるもんねー」

「ユキも、ソロでプレイしてたらあんな感じだったかな?」

「かもねー」


 持ち前の体力と集中力で、まだ一度もログアウトすることなくソフィーは攻略を続けている。

 もしこれが普通のゲームであれば、最も進行度の進んでいたのは彼女であろう。


 いわゆる正統派のプレイが行きつくところまで行った形。当然、消費するスタミナ値は回復量を上回り、ソフィーがそこを気にすることなくプレイできるよう、ハルは常に回復薬を購入し補充していた。

 放送が目立つ位置に来るように、彼女の配信それ自体にも提供スポンサードを出している。


 そんな真っすぐなプレイは見る者の好感を得て、ソフィーがどこまで行くのか見守りたいファンも多く付いた。元気いっぱいで人当たりも良い人柄も好印象だ。


「もともと有名なプロ団体とか、芸能人とかには負けてるけど、いい位置につけてるねソフィーちゃん」

「……その芸能人に関しては、私たちは感謝されてる面もあるわね?」

「どゆことルナちー?」

「リアルの有名人が、順当に優勝するのは萎える、って意見よ」

「あ、そかそか。うちらって、お金持ちだけど引き継ぎ一切なしだから」

「ええ。元々の知名度がなくても、トップは取れるという証明でもあるわ?」


 発表当時にまことしやかに囁かれていたことだ。人気が力となるのなら、現実で元から人気を持っている者、それこそ芸能関係者が参入すればただの出来レースになりかねないと。

 実際は、ゲームへの習熟やプレイ時間がものを言うので、本業がある彼らは失速するのだが、初動で無双するとどうしても印象は悪くなる。


 思うに、ルナの母がハルへと“お小遣い”を融通してくれたのも、彼らを抑えてトップを取らせる為であったのかも知れない。

 実際のところ、芸能人がプレイしているのはルナの母の差し金だろう。大事な広告塔に、批判が行ってしまうのは困るのだ。


「脅威度で言うなら、元からそういった配信関係を専門にしている人の参入かな。大手ほど慎重になるから、今は様子見だろうけど」

「あのマツバさんのような方、ですね!」

「そうだねアイリ。彼らは非常に相性がいいよ。最初に会った、アルバの強い版って思えばいい」

「そういった方が、たくさんいるのですね!」

「僕はあまり詳しくないけどね」


 元から人気があり、キャラを演じることも上手く、長時間のプレイも苦にしない。本気で優勝を取りにきたら、かなり相性の良い存在である。

 今は、目立つことで反感を買わないかの、見極めの時期なのだろう。


 そういった者達が、今後どんどん参入してくるのだろう。

 ハルたちも最初に作ったリードに慢心せず、今後も人気を積み重ねていこう。





「それで、今後はどうするのかしら? 今ハルは人気一位になったのだけれど、それが目的ではないのでしょう?」

「……うん。そうだった。トップを取ると、手放す気がどうしても無くなるから忘れるとこだった」

「あなたね……」

「まあ、ハル君らしくていいんじゃん? 人気トップが、そのまま優勝って訳じゃないんだしさー」


 元来の負けず嫌いのせいで、無意識に今の順位を手放す気がゼロになってしまっていたハルだ。ルナに呆れられてしまう。


 とはいえ本来の目的、外の神様たちの目的を探るにも、ゲーム内の能力は高い方が良い。

 人気による力は、維持しても良さそうだとは思うし、今の方針は継続しても構わないだろうと、冷静な思考のハルとしても思うところだ。

 決して、惜しくて順位を手放したくない訳ではない。冷静な意見である。


「そうするにしても、明確な目的ってのが無いですよね今って。ハル様がこの世界に来た当初は、例の王子をぶっ飛ばすことが明確な最初の目標になってたとこありますよねえ。あ、そういえば今回も王子が参戦するんでしたね。どうします? またぶっ飛ばしましょう、にしし」

「あはは、それ、絡まれたアベルはいい迷惑にも程があるね今回は」


 エメの語る通り、この異世界へと来た時には、アイリとの出会いが引き金となって次々と解決すべき問題が目の前に現れていた。

 それは大変なことではあったにせよ、進むべき道が明確だったのもまた確かだろう。


 今回は、そうした指針が今のところ無い。自らのキャラクターをどう演じて行くか、自分で方針を定めなければならなかった。


「……カナリーたちに翻弄され続けた後遺症かな? 自由にしていいって言われると、少し困る」

「むー! それはハルさん自身の性質ですー。百年間も『現状維持』をし続けたものぐさハルさんなんですからー」

「まったくもって仰る通りで……」


 返す言葉もない。元来、自分から何かを決めるということを苦手とするハルだ。

 ついでに言うなら、演技という行為も苦手である。


「ですが! 貴族になったというのは、分かりやすい指針なのではないでしょうか!」

「そだねー。なんか、貴族ぽいことやれば良いんじゃない? ハル君なら出来るっしょ」

「貴族っぽいことねえ」


 確かに指針としては十分なのだが、ここで問題になるのが、『配信映え』しなくてはならないということだ。

 ゲームの華というのはやはり冒険。未知の世界を探索し、凶悪なモンスターを討伐する。貴族は、そこが相性が悪かった。自身は冒険者たちにそれを依頼する側だ。


 現状は普通から大きく逸脱したプレイで話題を呼んだが、その勢いも長くは続かない。

 的に動きのない展開シーンは飽きやすく、プレイ的には安定を取りたいのだが、放送的には安定は許されないという二律背反ジレンマが発生してしまう。


 ここで通常プレイなら、冒険してさえいれば誤魔化しがきくという逃げ道もあるのだが。


「まあ、常に挑戦しつづけなければ上位への道は無いのはどの<役割>であっても同じか」

「そうですよハル様! 誰もが選びたがる安定した道なんて、逆に人多すぎで埋もれるだけ! ここは特化した独自性で、かつ高い能力を持ったハル様のようなお方の見せ場なんすよねえ。これぞスペシャリストってものを、見せつけてやりまっしょう!」

「まあ、最終的に最も伸びるのは、王道を進む群衆の中を駆け上った、王道の中の王道なんだけどね」

「わたしの必死のフォローが!!」


 ただ、エメの言うことは至極まっとうだ。あえて人の少ない道へ、挑戦し続ける者こそ輝いて見える。


「まーそのうちー、対抗戦のようなイベントなんかもあるでしょー」

「そうだね。国がまた色々分かれてることだし、特色を生かした事件なんか起きると楽しそうだね」

「どの国が、一番の人気なのですか?」

「今のところ僕らの居るアイリスかな? それこそ王道ファンタジーの、親しみやすい国だし」


 美しく平和な街並み、活発な交易、騎士団を有し文武に優れる。そうした安定性から、スタート国家をハルたちの居るアイリスに設定したプレイヤーは多い。

 他の国は闘争に特化した戦士の国であったり、アイリスよりも商業の盛んな国であったり、国土の多くを深い森に包まれた国であったりと、尖った特徴をもった所が多かった。


 それらに合致した明確な方針があるプレイヤーはそうした国を選ぶのだが、特に目的の決まっていない者は『とりあえず』で無難なアイリスを選びがちだ。


「となると、国家間戦争イベントみたいな、数の差が出がちなイベントは無さげかな?」

「分かりませんよーユキさんー。“同じ会社のゲーム”に“所属一人なのに無双した”チーム対抗イベントもあるくらいですからー」

「……いったい誰が作ったゲームなんだろうね、そんなバランスの悪いの」

「誰でしょうねー?」


 まあ、今は世界観に慣れ、始まったばかりの世界を楽しんでもらうための期間だ。そうした大規模なイベントはまだ先のことだろう。

 今のうちに地盤固めをしっかりして、例え大きな戦いになったとしても対応できるように備えようということで皆の方針は一致する。


 せっかくの貴族ということで、<子爵>、<伯爵>と出世を目指すのも面白いかもしれない。

 ハルたちは、しばし演技に疲れた体を本物の貴族のような優雅なお茶会で安らげるのだった。

※誤字修正を行いました。(2023/5/17)

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