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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部1章 アイリス編

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第507話 商才

 なんだか既に、かなり攻略が進んだ感のしているハルたちのプレイだが、このゲームにおいて一般的なゲームプレイはまだ一切行っていない。

 それゆえハルたちの放送は人気を博している部分はあるのだが、このままずっとこの調子、という訳にもいかないだろう。


「おさらいしてみよう。このゲームはステータスの基本骨子として、<体力><魔力><幸運>の三本柱が存在する」

「私とルナ(ボタン)ちゃが<体力>、カナリー(ルピにゃす)エメ(イチゴ)っちが<魔力>、ハル(ローズ)ちゃんとアイリ(サクらん)が<幸運>軸だね!」

「はい! 役割分担、なのです!」


 もちろん一般的なHPとMPも存在し、その上に大枠としてキャラクターレベルがある。

 そして、各種<スキル>とそのスキルレベル。これらもまた、三大ステータスと綿密に結びついているようだ。


「特化軸を定めたとはいっても、他の二つを無視する訳にはいかなさそうだね、これは」

「そうなの、ハル(ローズ)? たとえばあなたが<幸運>で全て解決したり、ユキ(ユリ)が<体力>に任せて万難を排したりというのは」

「難しそうだねルナ(ボタン)ちゃ。<幸運>はHPMPへの補正が低いらしいし、<体力>だけだときっとスキルに限界がくるよ」


《今のとこ<幸運>不人気みたいだな》

《やっぱHPMPは重要》

《でもそれなら、隠しステータスに影響してそう》

《ユリ様の言うスキルへの影響は絶対ある!》

《ま、あるわな。定番》

《<体力>の最上位スキルにある程度の<幸運>必要とか》


「君たち、慣れてる人多いね? 自分でプレイはしないのかい?」


《とんでもねぇローズ様。自分でやったら貴女様を推せない》

《それに正直めんど、げふんげふん!》

《見る専が長くなっちゃうとどうもねー》

《でも一緒にプレイできるなら……?》

《お力が必要そうなら》

《馳せ参じ……られるかなぁ……》

《既プレイゲーなら喜んで行くんだけどな》


「まあ、そのときは頼りにしているよ」


 大人数が必要な場面、というのもこの先出てくるかもしれない。

 その時には六人だけでは詰む可能性もある。魔法の応用で何でも出来てしまう“あちら側”とは勝手が違うのだ。

 普通は、レイドボスを強引に単騎で撃破したり出来るものではない。


 さて、そんなこのゲームのステータス。特筆すべき点がいくつかある。

 まず一つ目は、定番のモンスターを倒すといった行動以外でも、スキルを使用すれば経験値が入手されて、レベルアップすること。

 放送中ゆえハルの口からは出さないが、これは“あちら”と同じである。システムを流用している影響だろう。


「面白いのは、HPとMP、両方ともがゼロになるまでゲームオーバーじゃないところだね」

「確かにですねー。設定的に言うとー、HPゼロでも魔力が強引に体を生かし、MPゼロだと体力を削って必死に魔力を生み出すらしいですー」

「肉体と魔力は、切っても切り離せない関係な訳だ」

「ですねー?」


 これも、身体が魔力で構成されている影響だろう。


 システム的に見るならば、スキルのコストにHPMPを両方使用するから、という事があげられる。

 HPがゼロになると死んでしまうならば、自然、HPをコストとしたスキル行動は控えてしまう。あちらでは戦闘時のコストはMPに比重をおくことで解決していたが、こちらはHPもガンガン求められるということだ。


「そして、キャラレベルはあくまで目安。重要なのはむしろスキルレベルということらしい」

「みたいですねハル(ローズ)様! どうやら、レベルアップで得られるのは、わずかなHPMPだけみたいです! これはレベルというより『名声値』みたいに考えた方がいいかもですねえ。攻撃力等の実力に影響するのは、スキルのレベルアップなんだとか!」

「解説ありがとう、エメ(イチゴ)

「にひひひ、問題ないっす!」


《その辺も『ロールプレイング』っぽさあるな》

《ああ、レベル上がると『スキルポイント』だけが得られそう》

《実際そうらしいぞ》

《どゆこと?》

《個人作成のフリーシナリオっぽいってこと》

《わかんね》

《詳しくは自分で調べろ。ここでお嬢様がた以外の話するな》


 世に広く知られるゲームは、レベルアップすると全てのステータスが自動で上がるものが多くを占めている。

 だが、そうした分かり易いものではなく、多数のステータスとスキルが綿密に絡み合う複雑なシステムも存在する。

 そうしたものを好む層も居るといった話だ。ここでは割愛かつあいする。


 このゲームも見た目はステータス三つと単純化しつつも、演じることを第一に持ってきている以上、『何も考えずレベルだけ上げればいい』といった仕様は廃し、ある程度複雑にしているようだった。


「さて、そのスキルだけど、初期の手持ちはゼロ」

「いっこだけ、無料で選べるようですねハル(ローズ)お姉さま!」

「そのようだね。アイリ(サクラ)は何にしたい?」

「うーん……、悩みますね!」


 その最初のスキルの選択から、強制的にロールプレイを始めさせる気まんまんらしい。

 ハルたちは最初のその基本スキルを何にするか、リストと睨めっこしつつ慎重に選ぶのだった。





「ねーねーハル(ローズ)ちゃん。貴族の証明だけどさ、アイテムじゃなくて、スキルの所持って線はない?」

「無いとは言えない。例えば<カリスマ>なんてスキルがあったとして、その所持が条件という可能性もある」


《おいおいおい雲行き怪しくなってきてね?》

《やべーな。スキル情報なんも出回ってない》

《開始直後だもんなぁ……》

《なんでも金に任せたツケが出たな、快進撃もこれまで(笑)》

《は? お前なに言ってくれちゃってるわけ?》

《触んな無視しろ。同罪だぞ?》


「安心しなよ。スキルもお金に任せて突破するから」

「ですがハル(ローズ)お姉さま? スキルは、お金で買うことはできないようです!」

「そのようだねアイリ(サクラ)。他の課金プレイヤーも、それを不自由に感じているようだ」


 進行の障害を現金によって解決できるならそうしたいと考えるプレイヤーはそれなりに多い。

 特に、ハルたちの成功もあって派手に投資する者も徐々に増えているようだ。こういった対抗意識は恐ろしい。運営の思うつぼである。

 是非、自身のお財布の中身には気を付けてほしい。くれぐれも、ほんとうに。


 ……話を戻すが、何でもかんでも課金で解決出来そうなこのゲームだが、キャラクターの成長においてのみは、それを完全に封じているようだ。

 スキルは課金で買うことはさせず、そこに強制的に縛りを設けさせることでロールプレイの一環とするらしい。


 つまりは、課金で万能超人になられては多様性が無くつまらないということだ。


「しかしそこにも、課金の入り込む余地はある」

「あはは、自信満々に言ってる内容がひどいねハル(ローズ)ちゃん……」

「コストとスタミナだ」

「すごいわハル(ローズ)? 今日はそのノリのまま振り切るのね?」


 自分でも頭の悪い発言をしている自覚はあるハルだ。そこはスルーしていただきたい所。このゲームにおいては浪費に一切抵抗の無いお嬢様で通すのだ。

 どうせお金の出所は奥様の財布で、課金の行きつく先も奥様の財布なのである。


 ハルはスキルリストの中から<錬金>を選び習得すると、ショップから素材を課金で購入し、器具も課金で揃える。

 そうして次々とアイテムを生み出すと、コストとして消費したHPMPとスタミナを課金で回復して作り続けるのだった。


「……なんだか懐かしいね、この感じ」

「……そうね?」


 一年前を思い出すハルとルナだ。初期の頃は、こうしてスキルを連打してレベルを上げたものである。

 その焼き直しを目にして、ふたり通じ合う。ただ放送中ゆえ、それも一瞬のこと。


「また新しいステータスが出てきました! “すたみな”とは、何なのでしょうかハル(ローズ)お姉さま!」

「“行動力”、といったところだよアイリ(サクラ)。何をするにもこれを消費させることで、進行をコントロールすることができる」

「HPMPでは、ダメなのでしょうか!」

「そっちは戦闘で激しく上下する値だからね。別枠にしておいたほうが、制御しやすい」

「なるほど!」


《制御するためというより課金させるためかなぁ》

《待ちたくなかったら課金してって感じ》

《通貨にもなる》

《結構手に入るらしいからな》

《モンスタードロップもあるらしい》

《普通に冒険する分には、プラス収支だとか》

《なーる。それで通貨か》


 もし余ったスタミナ回復アイテムがあれば、不足しているプレイヤーへの交渉材料になるということだ。

 今のハルの例を見れば分かるとおり、生産専門のプレイヤーという遊び方も有りらしい。

 そうしたタイプは、戦闘が無いためスタミナ回復が不足しがち。故に生産品とトレード、という使い道が生まれる。相場の見極めは慎重に。


「今はタイミング的に、HPMP回復薬が圧倒的に品薄だろうね。だから、最高レートで売りつけよう。世界中に」

「素晴らしい商機です、ハル(ローズ)お姉さま!」

「いいわハル(ローズ)。どんどん稼ぎなさい?」

「二人とも目つきが変わりましたねー? こわいですねー?」


 サービス開始直後。多くの者は冒険へと出て、モンスターとの戦いに傷ついている。

 手持ちの回復薬は底を尽き、追加で購入するしかない。結果、売れる。出せば出すだけ、飛ぶように。


「フィーバータイムだ。まだ今は、<錬金>で行くと決めたプレイヤーも少ないだろうからね」

「その通りっすねハル(ローズ)様! 加えて、材料からスタミナから、全部課金で済ます人まで含めれば独占に等しいっす! しばらく、この勢いは続きますよお? よっし、行けるとこまで行きましょう! このまま、メイドインハル(ローズ)を世界に轟かすんです!」

「やかましいエメ(イチゴ)。実況はいいから君もスキル決めるんだね」

「はーいっす!」


《やばすぎるん》

《これが先行者利益……》

《ただ、すぐに真似する人出てくるだろうな》

《ローズ様、放送切らなくて平気だったの?》


「別にいいよ。公開すればそれだけ僕のファンも増える。それに、チャンスを見つけて即座に乗れるのも立派な才能だ」

「うんうん。アンテナは常に広くだ。ところでハル(ローズ)ちゃん、うちらも同じようにやって儲けた方が良い?」

「いや? ユキ(ユリ)ユキ(ユリ)の好きなスキル取りなよ。どうせすぐに回復薬市場は飽和する」

「らーじゃ!」


 生産系プレイヤーがハルの放送を知り、世界中で真似されれば、一気に需給の差は逆転するだろう。

 そうなればこのボーナス期間はそこまで。同じ方法では稼げず、スキルは無駄になる。

 ならば、そのためだけにロールプレイの方向性を決める必要はない。ユキたちの才覚があれば、その程度いくらでも巻き返せる。


 ただ、ハルだけは三日以内に可能な限りの加速ブーストが必要だ。

 そうして一時いっときも手を休めることなく、ハルは回復薬を作り続けるのだった。





「……よし、こんなものか。市場に溢れた回復薬は消費しきれなくなったみたいだよ」


《お疲れ様でございました、お嬢様!》

《デッドヒートに手に汗握った!》

《薬作ってるだけなのに(笑)》

《作業が正確すぎと休みなしすぎる》

《なんであんなに集中できるの……》


「それと、途中<商才>ってスキルが手に入った。これが真の先行者利益だね。売り上げはオマケだ」


 どうやら、己の行動の結果によって新たにスキルを習得するようだ。

 あちらのシステムを、万人向けにマイルドにした仕様、といった調整だろう。


 いくつか習得したスキルの中ではレア度の高い<商才>。これはなかなか有効そうなスキルで、アイテム売買の際の価格が強制的にハルに有利に働くといったもの。

 このゲームもやはり不正防止のため価格を自由には決められず、アイテムの価値とその時々の相場にて決定される。

 だが<商才>は、そこに更に補正をかけて計算されるようだった。


《すげぇ!》

《それはまだ報告上がってないですよローズ様!》

《お姉さま、条件はどんなものなんですか?》

《短時間で超大量に取引するとか?》

《材料を超大量に課金で仕入れるとか?》


「いや、恐らく大量に“最高レートで”取引することかな? 市場の機を読む才能を求められているんだろう」


 必要とされている物ほど値段が上がる。そこを見極め、適切な商品を扱う。

 その結果得られたご褒美という訳だ。恐らくは、このスキルの所持が前提となった上級スキル、といった存在もあるに違いない。


「今後の<商才>は、取得が苦労するだろうね。……後は、<薬物知識>や<鉱物知識><魔法知識>といった知識系スキルだね。これも前提系かな?」

「それはパッシブなんですかーハル(ローズ)さんー?」

「うん、だろうねカナリー(ルピナス)。<鉱物知識>なら、鉱物に関係したスキルを使うと、連動して経験値が入るみたい」

「持ち得ですねー?」


 こうしたスキルはあればあるほど、キャラクターレベルの上昇が加速しそうだ。戦闘の出来ない生産系のお助け要素となる。


「特に<商才>がやばい。アイテム売買するだけで経験値溜まる。もうどんどん無駄に作って、どんどん無駄に売ろう」

ハル(ローズ)お姉さまが楽しそうで何よりなのです!」


 数字が増えていくというのは本当に楽しいものだ。

 さりとて、目的は見失わないようにしなければならない。今の目的は、貴族を証明するためのアイテム、ないしスキル。


 アイテムならば、それを生み出すために最も近いのは<錬金>と思い取得したが、スキルならまるで的外れの可能性がある。

 その検討の時間を考えると、三日は決して十分ではない。

 いかにハルとて物理的に不可能な事象は、魔法を使わなければ解決できない。ここでは、スキル外の魔法は使えないのだ。


「……本来なら、イベント色々とこなして条件を探っていくんだろうけど」


《そうだった! 目的は貴族位だった!》

《お金儲けして忘れてた!》

《忘れてたのお前らだけだ》

《ローズ様は忘れてない》

《でもローズお姉さまって会話が突飛だよな》

《たまに》


 会話が飛ぶのは、並列で思考するハルに特有のものだ。許して欲しい。

 それはさておき、初日いっぱいくらいは使ってアイテムから攻めてもいいだろう。アイテム生成により、まだスキルも派生があるだろう。それを見てからが堅い。


 ハルは薬フィーバーにより手に入れた資金と、持ち前の課金芸により、これ以降も次々とアイテムを量産する構えに入るのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

 ルビの振りミスを修正しました。この形式でやっているとまた見逃してしまうことがあるかも知れませんが、その場合も新しいゲーム内の名前で呼んでいると思って大丈夫です。

 ふとした瞬間に身バレする、といった展開の伏線ということはございません。


 見逃していたのは「メイドインハル」なのですが、響きがいいですよね、なんとなく。だから見逃したに違いないです。

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