第506話 お金で解決できないこと
土地の購入が済まされると、上物である家もつつがなく建造された。それこそ一瞬で。
早いのはいいことだが、家のデザインなどは選べないようだ。周囲の景観と合わせた建物が生成される。
その辺りを自由にするのは、それこそ特別な許可が必要らしい。
「金の力の限界を見たね。どうやらここは、金を積んでもどうにも出来ないようだ」
「まあ、立派な家だし良いのではなくて? この先は、周囲の貴族どもを黙らせる権力が必要なのでしょう」
「どゆことルナちゃ?」
「それはねユキ、景観を壊すような奇抜な家を作る可能性は、成り上がり者には許可できないということよ」
「なーる」
神界にあるギルドホームのような、個別に隔離された空間であれば各自が好き放題やっても問題ないのだが、ここは一応全てのユーザーがアクセス可能な通りの一角だ。
自由すぎる建物を作られては、せっかくの街並みが台無しとなる。
「しかし、お金を積むだけで誰でも通してしまって平気なのでしょうか? 悪事に利用可能なようにも思えるのですが」
《流石お嬢様だ。セキュリティに敏感》
《サクラちゃんがしっかりしてて安心》
《しっかり者の妹いいぞー》
《実際、今の放送見て貴族街襲撃計画とか言ってる奴いる》
《は? そんなん許されんの?》
《アウトロープレイもまたロールの一環だから》
《放送に乗せてる奴は馬鹿だけどな》
「まあ、大抵のものは平気そうだけどね。アラインメントのチェックとかもありそうだし」
「わたしたちの服装チェックしてたアレですねえ。恐らくハル様の予想通り、内部ステータスのチェックも入ってますよ。そこでアラインメントが秩序寄りでなければ、弾かれるはずです。わたしたちは、開始直後のニュートラルな状態だからスルーだったのかと!」
「ニュートラルというよりもー、課金額が大量だったことによるプラス判定が効いてたんじゃないですかねー?」
なるほどと頷く一行。ハルも今のカナリーの意見には賛成である。
このゲームはステータス欄に、今までの課金額が堂々と表示されている。普通じゃない。
それによって、NPCからの評価項目となったり、属性傾向の変動にも関わったりするのだろう。
「“あらいんめんと”、というのはどんな物なのですか?」
「んー、なんと言いましょうかー。その人の善悪などの特性を数値化したもの、って感じですかねー?」
「なるほど! 悪人にはマイナス<称号>が付く、といった感じですね!」
「だねーアイリ。ただ、どんな悪人でも思ってるだけならセーフだね。実際に悪事を働いたらマイナスだ」
《マイナス値でしか就けないロールとかありそうだな》
《生放送するのが前提な以上、悪人プレイには逆風だな》
《いいんじゃね? 迷惑プレイなんか》
《分かってないな。VRPGにはヒール居てなんぼよ》
《でもそんなのがローズお姉さまに絡んできたら?》
《そら死刑よ》
現実では出来ない悪役プレイ、するのも見るのもゲームならではの楽しみだ。
特にこのゲームでは、“ゲーム内の”悪事は競争要素の一部として推奨されている。
しかし、悪事の一部始終を放送していてはすぐに捕まってしまうため、放送による稼ぎと取捨選択になるだろう。
「むむむ、今わたくしがどのくらい“良い人”なのか、見えればいいのですが……」
「そうだねアイリ。たぶん、一定値を超えると実績として表示されるんだろう」
数値を明記していては、行動の調整が楽になってしまう。そうした効率化は、ロールプレイを妨げるとして、詳細は伏せられているようだ。
まあ、ハルたちにはあまり関係のないことだろう。キャラクター性の都合上、常に公明正大なプレイをしていくこととなるのだ。
ともかく、拠点は手に入った。
この貴族街を起点として、次々と活動を広げて行くとしよう。
◇
ハルたちが貴族屋敷にて次の行動について模索していると、屋敷内にチャイムが響き渡った。
これは、来客を告げる屋敷の呼び鈴というだけではない。イベントの開始を告げるハルたちのメニューから響くシステム音声でもあった。
「……なるほど、親切だ。どう動くか迷わずに済ませてくれるらしい」
「親切ですかねー? 自由に動けないように、強制されてるとも言えますけどー」
《ユニークイベントだ!》
《盛り上がってきた!》
《家を買ったからかな?》
《まとめが捗る。さっそく書き込んでくる》
《落ち着けよ。内容見てからだ》
イベント通知メッセージには、『強制イベント』の文字があるが、その一方でイベントを受けるか断るかはハルが選択できるらしい。
断れば恐らくデメリットはあるのだろうが、それもまたプレイヤーの選択ということなのだろう。
きっと断った時にしか、発生しないイベントもありそうだ。
「まあ、見てみないことには判断も出来ないよね。みんな、家の中に入れてもいい?」
「はい!」
「ハルの好きになさいな」
全員が肯定の意を示すのを確認し、ハルは眼前に浮かぶパネルウィンドウに手を伸ばし、イベント受諾の選択肢を指で押し込む。
するとすぐに、玄関を介さずにこの場に役人風のNPCが登場した。このあたりはゲーム的だ。
「お初にお目にかかりますローズ殿。私は、この貴族街の徴税官を取り仕切る、税務長のアズラムと申す者」
「やあ、よろしく」
《どんな立場?》
《たぶん大物。どんな国でも税金担当は大物》
《きっと貴族だね。ぶっちゃけ目上にあたる》
《一歩も引かないけどローズ様だいじょうぶか(笑)》
《税金絶対払わすマン!》
《家を買ったらいきなり税の話とか生々しすぎだろ》
視聴者の読み通り、この役人NPCの立場は<伯爵>とある。貴族階級については、日本で一般的に知られている階級制度を採用しているようだ。
「さて、部下から話を聞くところによれば、ローズ殿は貴族の位にあるとか」
「いかにも」
「……失礼ながら、それを証明する品はお持ちかな?」
「いいや? 高貴なるこの身が証だね」
「…………ふふっ」
ハルの本名である光輝とかけたダジャレと思われたのか、ルナのツボに入ってしまった。目立たないように笑顔を浮かべている。
それはさておき、このイベントの趣旨は読めてきた。
ハルが番兵に向けて、己が貴族であると発言したことから、それを証明してみせろと本物の貴族が追及に来たというわけだ。
細かい所までよく出来たゲームだ。ハッタリ一つにも気を遣わなければならない。
「左様ですか。しかし、それで『はいそうですか』と納得する訳にはまいりません。飛びぬけた財力をお持ちであることは、理解しておりますがね」
「金で貴族位が買える国ではないということか。しっかりしてるね」
「ふふ。お褒めに預かり光栄ですな。中には、そういった野蛮な国もたしかにありますが、我が国は違いますぞ?」
《おっ、これヒントじゃね?》
《アイリス以外の国では、金で貴族になれる国があると》
《ローズ様、引っ越す?》
《バカ言え、ここまで投資したアイリスを捨てるか普通》
《ローズお姉さまは普通じゃないからなー》
《ローズ様、いかないでいかないでー》
なるほど、こういった他者の放送で得たヒントを使って、プレイを有利に進めて行くのもこのゲームの攻略法ということか。
開始地点となる複数の国には、商業の国、戦士の国といった特色があるものも存在する。
それらの国では、資金力や武力に秀でたプレイヤーであれば、貴族やそれに類する立場へと至ることが適うのだろう。
「しかし、困ったね。僕らには身の証を立てられるアイテムなどはあろうはずもない。どうしたら信用してもらえるかな?」
「そうですな。私からお勧めできるのはまずひとつ、『貴族であるという主張を取り下げられること』」
「『いいえ』、だね」
新たに出現したイベント選択肢を、ハルは条件反射のごとく速攻でキャンセルする。
ここで受け入れておけば、シナリオは何事もなく無難に進むのだろうが、そんなものはハルの趣味ではない。プライドが許さない、とも言える。
「そうですか……、いたしかたありません。それならば、ローズ殿が『貴族の器であると証明する』しか道はございません」
「証明ねえ。貴族位に空きはあるのかい?」
「もちろん。枠が無いからと、優秀な人材を登用しない狭量な国ではありませぬぞ」
《これ、ローズ様、空きが無いって言われたら……》
《絶対手ごろな貴族を葬ってその席に座るつもりだったろ(笑)》
《でも優秀なら貴族にしちゃう国も、それはそれでどうなん?》
《言うな。そこはゲームだ》
「……さて、ローズ殿は、上に立つ人間として求められる能力は何だと思われますかな?」
「統率力」
「素晴らしい。悩むことなく即答されるとは。日頃から自らの進むべき道をよく見据えておいでですな」
なんだか好感触だったようだ。演技が重要なゲームらしく、会話の受け答えもイベント進行に響いてくるらしい。
この辺りは、貴族としての思想というより、管理者としての出自から来るものだ。
配下のAIを統率し、迅速に意思決定をする。その最上位ユニットとしての活動指針は“ハル自身の”アラインメントを形作る柱となっていることは動かしようがない事実だろう。
「民を導く力、カリスマとも言い換えられましょう。貴族たるもの、それが必須となりまする」
「……要は、それを証明しろと。また、なんともあやふやな条件なことで」
「ご安心めされよ、求める条件はハッキリと形のあるものです。では、期限は三日後。くれぐれも、遅れることのなきように」
言うだけ言うと、税務長はどこぞへ消え去るように帰っていった。このあたりが、本物の人間がNPCを兼ねているあのゲームとは異なる部分だ。
あちらだったら、その担当者を口八丁で言いくるめて楽に突破できたものだが。この世界では、イベント条件に関しては徹底的にゲーム的なようだ。
「まあ、でも自由度は相当高いよね。出まかせの貴族宣言が、こんな形で発展するとは」
「ですねー。元から用意されていたというよりも、リアルタイムで生えてきたイベントって感じがしますー」
「そうなのカナリー? そんなことが、可能なのかしら?」
「できますよー? 一般的なシステムやAIだと不可能ですけどー。このゲームの規模ならー」
《まじですげー》
《それが分かるルピナスちゃんもすげー》
《そっちの分野のひと?》
《社会人?》
《お姉さまより年上?》
「失礼なコメ欄ですねー。BANしますよー?」
《ひいぃ!?》
《おゆるしおー!》
年齢で言うとカナリーはハルよりも年下だ。まあそのあたりはどうでもいい。
今考えるべきは、貴族になるために必要とされる何か、それを期限内に探し当てることであった。
◇
「期限を過ぎたら、どうなるのでしょう!?」
「それはまあ、どう考えてもなんかペナルティあるよねアイリ」
「ユキの言う通りだろうね。まあ、貴族を僭称したとして良くて罰金、悪ければ犯罪者だ」
「なんと! ……三日の意味が、わからないですが!」
「まあ、ゲームだからね」
意味がわからないと言えば、何かを用意すれば貴族になれるというのも意味が分からない。まあ、それもゲームだからである。
「しかし、いきなり難問突き付けられたね。分かることといえば、それが何らかのアイテムらしいってことくらいか」
「形はありそうっすねハル様。それに、貴族に必要なものがカリスマだってあたりも重要そうですよ。恐らくカリスマを何かトリガーとして、発生するアイテムを見つけるんすよ。例えば街のNPCを尋ねて回って、一人ひとり承認を取るとか!」
「その行為にカリスマを感じないぞエメ……」
人によって定義は変わりそうだが、今の例で言うとこちらからわざわざ尋ねていかずとも、向こうから承認してくれるのがカリスマだとハルは思う。
そのあやふやな概念であるカリスマを、システム的に測る何かがあるはずなのだ。
そしてシステム的に言えば、カリスマに当たるものは何なのか?
「……視聴者数、だったりするかな?」
《ん?》
《俺ら?》
《確かに、人を引き付ける力、なのか》
《でもそれなら、もう証明されてない?》
《だね。視聴者数が一定以上だとかなら》
《あの場で却下もされてないから違うかも》
《ポイント数とか!》
「うん、ありそうだ、ポイント数は」
このゲームは、他人からポイントを与えてもらわねば、基礎能力が成長できない。
であるならば、ポイントこそが人々に認められた証、人を引き付ける力なのではないか?
「とりあえず、その辺の検証もかねて、システム周りも触っていこうか。待たせたねユキ」
「待ってました! 楽しみだね!」
「確かに今さらね? これだけ周囲を騒がせて、まだ初期レベルよ、私たち?」
イベントである以上、不可能なことは要求してこないはずだ。ならば、既存のシステムを検証すれば必ずたどり着ける。
ハルたちは、演技以外で出来ること。このゲームのスキルやステータスを見ていくのだった。
※誤字修正を行いました。「効率化ロールプレイを」→「効率化は、ロールプレイを」
効率化ロールプレイだと意味が通らないですね。なんでしょうか、本当は効率化したくないのに、効率的に振る舞っているのでしょうか?




