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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部1章 アイリス編

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第501話 華の夢

 本日より新たなゲーム、少し大きな展開のスタートです。ファンディスクにも山場は必要。


 これは以前の対抗戦のとき、「何か別の形でやりたいな」、と思いつつ当時はさらっと流した回からの派生だったりします。

 最初は外伝として全く別のお話で投稿することを考えていたのですが、折角ですのでこのままハルたちの物語として始めたくなってしまいました。お楽しみください!

 惜しまれつつも無事に一周年のイベントは終わり、少しの時が流れた。

 妖精郷を利用したスポーツはなかなかの好評を博し、周年イベント終了後も、ミニゲームとして残ることが決まったようだ。


 これも、カジノのように本編そっちのけで入り浸るプレイヤーが出ることだろう。

 まあ、熱中してくれるのは、それだけ魔力を生んでくれるので良いことである。


 さて、ハルたちはというと、ついに発表された新ゲーム、『フラワリングドリーム』へと参加するため、いつものお屋敷にてその仕様を確認しているのだった。


「……もっと時期をずらせなかったのかしら? 来年は、周年が二連続になるということよ、これ?」

「まあ、ポジティブに考えよう。合同で周年やっちぇえば済むさ、と」

「ぽじてぃぶ!」

「あは。それはそれで周年期間が長くてルナちーが苦労しそーだ」


 既に来年のことを考えて憂鬱になっているルナを、皆でなぐさめる。

 今日はお茶会。甘いものをたっぷり食べて、美味しいお茶をみんなで飲んで、そんな未来のことは笑い飛ばしてしまおう。


 その楽天的な感性の体現者、カナリーが今日もお菓子を美味しそうにほおばっている。

 ゲームのことも、周年のことも、お菓子の前には二の次のようだ。


「来年までにー、体制を神々に移行しちゃえばいいんですよー完全にー。新しい連中も含めれば、処理能力はオーバースペックなはずですー」

「……その辺の権利関係が、まだ不明瞭なんだよね。ねえカナリー、何か分からないかな?」

「詳しくは分からんですねー。ただ、『絶対に不祥事は起こさせない』、って、ルナさんのお母さんが息まいてるから平気だとは思いますがー」

「なんでお母さまが保証するのかしらね……、私の会社なのに……」


 資本と権力には逆らえないのだ。そういうものなのだ。

 ルナの会社とはいえど、まだ学生である彼女のそれを保証しているのは、他でもない奥様、ルナの母だ。

 その奥様が進めているプロジェクトであるならば、ルナの会社でありながら、ルナの意思を飛び越えた決定もまかり通ってしまう。


 まあ、それでも仕様自体が公開されないのは、いささかやり過ぎだとはハルも思うが。


「それも、ルナさんを守るためだと思います! もしルナさんが一般参加していることが知れれば、非難の対象になってしまいます!」

「スタートラインはー、他と一緒ってことですかねー」

「だから現状は、正式な編入にはなってないんだっけ? 入社試験みたいなもんかな?」

「ユキは面白いことを言うね」


 どこの世界に、正式サービスでもって入社テストするゲーム会社があるというのか。あるのだから仕方ない。

 ユキの言うとおり、形式上は現在、『フラワリングドリーム』はルナが掘り起こした新規の外部開発デベロッパーによる委託運営ということになっている。


「まあ、これはバレた時の為というより、問題が起きた時に切り離せるためだろう。いくら奥様が警戒したとして、神様のやることだ。読み切れはしないさ」

「でもさでもさ? 今は外の神様も全部、ハル君とは協力関係なんでしょ?」

「はい! 悪意を持って接触してくることは無いのです! そう約束があります!」

「ですねーアイリちゃん。そして、神々は必ず約束を守るのですよー?」

「はい!」


 アイリは揺るがぬ信仰でカナリーを、そしてその背後にある『神』という概念に敬愛の眼差しを向ける。

 程度の差はあれ、これはこの異世界に住まう者達の総意と言えよう。

 この信仰が妄信かといえばそうではなく、神々はその性質上、元AIであるが故に、契約は決して破らない。それは保証されている。


「ただ、人類にとっての問題って、必ずしも悪意から起こる訳じゃないからね」


 そんな話をしている所に丁度良く、いや運悪くと言った方がいいか、エメが新しく焼きあがったお菓子を持って、メイドさんと共にやってきた。

 つまみ食いを口に咥えながら、ばつの悪そうな顔をしている。


「……あのー、それってもしかしなくても、しなくてもお、わたしのことですよねえ? いえ、わたし、次元の狭間よりも深くふかーく反省はしているので、お叱りは謹んでお受けする次第だったりするんですがあ、お茶の席ではちょーっと、ご勘弁願えると嬉しいかなあーって」

「君のことじゃないよエメ。安心してお座り」

「えへは。よ、よかったー……」


 かつて“善意”によって騒動を引き起こしたエーテル神あらため、エメ。

 そんな彼女に代表されるように、神様のやることは壮大だ。まったく悪意が無かったとしても、時に大きな騒ぎが引き起こされる。


 そんな神々が主催する新ゲーム、油断なく、楽しんでいくとしよう。





「仕様と共に告知は行きわたったのを確認したっす! ルナママによるやりすぎレベルの広告効果で、もう日本中で噂がもちきりですよ」

「だね。参加者と経済効果はかなり見込めそうだ。流石は奥様だね」


 人の心はお金で買えないとは言うが、人の興味はお金で買える。

 そのことを良く知るルナの母と、商業の神ジェードにより、告知はこれでもかとバラ撒かれた。

 それにより集まった人は魔力を生み、その分け前はこちらの国にとってもプラスとなるだろう。


「でも、その分ハル様はキツくなりますねえ。でも、もちろん! 何万人が相手でもハル様ならば相手になりませんけどね! ハル様の伝説がまたいちページ増えるの、わたし今から、胸の高鳴る想いです!」

「……いや僕も別に無敵じゃないから。それに、今回の目的は優勝じゃないしね」

「えー! なんで、でっすかあ! ハル様のかっこいいところ、みーたーいーでーすー!」

「やかましい」

「むぐっ……!」


 そのエメのよく回る口を、ハルはお菓子を詰め込んで塞いでおく。

 ……なぜかカナリーが羨ましそうに見つめて来たので、彼女の口にもまたお菓子を詰め込んであげる。顔が幸せそうに、ほころんだ。


「さすがに、賞金をかっさらうマッチポンプはできないよ」

「そうだねぇ。そういう意味では、苦労すんのはカオスの奴だよねハル君。ご愁傷しゅーしょー様」

「だね。せいぜい倍率を見て頭抱えるといい」

「ソフィーさんの“ぷろでゅーす”は、どうするのです? カオスさんと、競争ですか?」

「それはねアイリちゃん? 名前が売れさえすれば成功よ? 必ずしも、優勝する必要はないわ」


 むしろ、場合によっては優勝を捨てても知名度アップのために別のルートを採る必要がある。

 人気獲得には、時に効率化はかせになる事もあるのだ。


 よってソフィーも、直接の賞金は目的としない。

 まあ、本人がお小遣いを欲しがっているようであれば、手助けはしようとハルは思っている。年頃の女の子だ、欲しいものもあるだろう。


「カオスの奴も、別に賞金を目指す必要はないんだよねぇ。なんなら、優勝を諦めた方が堅実に稼げるって事まである」

「それは確かにユキの言うとおりなんだけど、あいつは無理にでも優勝目指すね。間違いない」

「そーゆータイプなんですねー」

「ロマン! なのです!」


 フラワリングドリームは、一つの開催期間サイクルの終了前でも、成功すれば金銭の発生がある。

 自らのプレイングにより、生放送でファンを集められれば、それによる広告効果で報酬が得られるのだ。

 稼ぐ、という点だけ見るのであれば、これも優勝は捨てた方が無難であろう。なぜならば、ここにゲームの罠とも言うべき要素があるからだ。


「このゲーム、これでもか、というくらい課金要素が入っているものね? 優勝を目指すならば、投資は必須だわ?」

「アイリちゃん分かる? 課金」

「はい! こちらでも商売で先んじたいならば、投資は必須なのです!」

「あ、そーゆー理解するんだ。先入観が無いゆえかなぁ?」


 ゲームを有利に進めるため、いわゆる『ゴールド』のようなゲーム内資金とは別に、現実リアル資金、要するに日本円が必要になるゲームも多い。

 ゲームによるその是非はきっぱりと分かれているが、それでも露骨すぎないように制限が掛けられているものがほとんどだ。

 カナリーたちの『エーテルの夢』でも、時間を掛ければ課金なしで全てのスキルが揃うように作られている。


 だが、『フラワリングドリーム』は違った。課金で解決出来る要素に制限がなく、また容赦もない。


「えぐいねぇコレ。『スタミナ制』は当たり前で、『武器防具』、『スキル』、『アイテム販売』、『移動の時短』、『おしゃれ装備』。考えつくもん全部ぶちこみましたって感じ!」

「それだけじゃないっすよユキ様! ここが最も重要なとこです。なんと自分の放送を、課金で広告できるんです! いやー、ここは課金センスが問われますよ。上手くやれば、小銭を元手に人が人を呼び、下手をうったら、ただただ金をドブに捨てる! お金に対する嗅覚は必須スキルっすね」

「リアルスキルだねエメっちょ。それは、ハル君に任せよう!」

「僕もお金周りは苦手だよ。それとエメ、今の日本にはドブって存在しないよ」

「にゃんですって!? まことでござるかハル様!?」


 まことにござるのだ。エメも思わず時代がかってしまう世代間格差ジェネレーションギャップ

 エーテル技術による浄化能力が死角なく張り巡らされた現代日本では、側溝の腐敗は根絶されたのだ。


 それはさておき。露骨な課金により、露骨すぎる進行格差が出来るゲームということだ。普通のゲームは絶対にこうはしない。

 何故なら、何でも現金で解決してしまうと、ゲーム内で完結させたい層の不満が大きくなりすぎるため。

 課金層だけ残ればいいという問題ではない。人数による広告効果というものも、値千金あたいせんきんだ。話題、というのも立派な資産。


「でもこのゲームは、お金が稼げる。それを免罪符にやりたい放題だね。いや面白い」

「『課金センス』とはよく言ったものねエメ? 確かに、優勝はしたけど賞金以上の課金をしてしまった、なんてこともあり得るわ?」

「にししし、お褒めに与り光栄ですルナ様」

「頑張って目立って、放送ほーそーでお金を稼いで、そのお金を使って有利に進んで……、いえ、まずお金を使って目立って……」

「最終的に賞金を目指すか、ある程度稼いでゴールにするか、だねアイリちゃん!」

「難しいですね、ユキさん!」


 女の子たちは、きゃいきゃい、と楽しそうだが、プロには頭の痛い問題だろう。参加して勝てばいい、という単純なものではない。

 場合によっては、スポンサーに融資を頼み込まないとならなくなる。スポンサーもスポンサーで、放送による広告効果を読むセンスが問われてしまうのだ。


 それらをひっくるめてゲームの“攻略”と考えれば、それも結構、歯ごたえのある難問として楽しめそうなハルたちだった。





「んでさ、うちらはどーするん? 他人のことはともかく、そこ決めちゃおうよ」

「そうだね、ユキの言う通りかもね」

「まず、みんな一緒にやるん? 『メンバー数は一人から百人以上まで思いのまま!』、らしいけど」

「わたくしは、一緒が良いです!」

「そうね? 私も異論はないわ?」

「私もですよー。ユキさんは、一人で突撃しますかー?」

「おっと、やめてよねカナりん。仲間外れはヤダぜい? 私も一緒にいく!」


 一人きりのカリスマとして売り出すか、仲間同士の掛け合いで魅せるか、はたまた超大所帯の派手さを演出するか。その戦略も、千差万別。


 しかしハルたちならやはり、何時もの皆で仲良く攻略が合っているのだろう。それは、自然と決まっていった。


「……しかし、これバレるんだよな。このメンツで行くと」

「確かにそうね? 多少姿を変えたところで、こちらでよく見た『ハルハーレム』だ、と気付かれかねないわね」

「ルナさん、それは、だめなのですか? 姿も、変えるのです?」

「申し訳ないけれど、ハルと私。いえ、特に私がNGね? 知られないに越したことはないわ?」

「それにー、コレは本来のRPG、役を演じて楽しむ、更に言えば見る者を楽しませるゲームですからー」

「どうせなら違う自分になった方が楽しいって訳だ!」

「そうですよー? ユキさんなれますー?」

「うぐ、自信ない……」


 ちなみにハルも自信はなかった。キャラを変えるのは自分では楽しいのだが、周りから見るとあまり上手く出来ているとは言えない。

 無意識から生じるある種の忌避きひ感からの、ハルの苦手分野であった。


「まあ、ハル君はともかく、うちらはどーいうキャラで行くん? なんか、良い設定あるんルナちー?」

「そうね? 自然なのは、“仲の良いお嬢様集団”かしら? 高額課金も自然になるわ」

「課金はもう前提なんねー。でも、私は浮いちゃうんじゃないー?」

「平気です! ユキさんの物怖じせず堂々とした態度は、ある種、貴族の余裕を感じるのです!」

「ですねー。自信満々さも、大物感の演出には必要ですからねー」

「あはは、カナちゃんの大物っぷりも、世間知らずのお嬢さまっぽいか」

「……むー、私ほど世間を知ってる人は居ないのですがー」


 それはデータとしてである。カナリーはどこからどう見ても世間知らずだ。ハルが保証する。


 しかし、確かに彼女たちだけなら、タイプの違う良家の令嬢が、お嬢様学校で出会って意気投合したと言われても納得できる。

 ただそこにハルが入ってしまうと、それは途端にいつもの『ハルハーレム』になってしまうのだ。完全に、異物であった。


「ふむふむ! つまりは、最も変える必要があるのはハル君な訳だ!」

「ええ、ようやくユキも気付いたようね?」

「なるほど?? なのです!」

「完全に理解しましたー」

「……いやカナリー分かってないでしょ。そして、もの凄く嫌な予感するんだけど」


 ここで、言い出したのがアイリなどであれば、大変ではあろうが可愛らしい案だ。ハルも可能な限り努力しようと思う。

 しかし、発案者がこの目を爛々(らんらん)といやらしく輝かせたルナだということが、非常にハルの不安を煽るのだった。どうせロクなことにならない。


 果たしてルナの口から飛び出たその提案は、予想通りに、ハルを絶望させるに十分な内容であった。


「ハル、女装をしましょう」

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