第499話 大魔法合戦
競技場では、様々なスポーツが行われており皆が思い思いに競い合っていた。
今回のイベントは、以前の対抗戦のようなチーム分けは存在せず、また時間制限も存在しない。
もちろん、一周年のお祭り期間が終了すれば参加は不可能になるが、それまでは自由に出入りが可能だった。
参加競技を決めたら、同じスポーツを選んだプレイヤーで集まり試合組し、短時間の間で決着がつく。
イベントの周期はそれだけで完結しており、参加するだけならそこで完了だ。
勝敗や試合のスコアによって専用ポイントが手に入り、それをゲーム本編に役立つ好きなものと交換できる。
以前、『フレイヤちゃん』でハルとユキがプレイした世界樹のお花見と、基本的な仕様は同じと言えよう。
多くのアイテムが欲しければ、何試合も何試合も、周回してポイントを稼ぐのだ。
「ソフィーさんは、今日は目的というか、目標ポイントみたいのはあるの?」
「んーん? 今日はハルさんたちと遊びたかっただけ! 記念アイテムまでなら、簡単に届きそうだし!」
「神々の紋章を象ったアクセサリーなのです! 欲しいです!」
「じゃあ、アイリちゃんにプレゼントするためにも頑張ろっか!」
「おうよ。って、俺も出ていいのかーい?」
「いいよ。頭数必要なゲームもあるだろうし。ルナは留守番するみたいだし、ユキは……、もう既に何かに参加してるしね」
対戦好きなユキのことだ、既にマッチング開始しているのだろう。気付いたら姿が見えなかった。
スポーツは一人用からチームを組んでの参加まで、色々と種類があり楽しそうだ。スポーツ、とは言うものの、現実のそれとは違い、とうぜん魔法要素が含まれたものとなる。
だが、初心者とレベル差が出ないように、今は皆同じステータスの専用ボディだ。本編のレベルは持ち込めない。
「ん? 待てよ? ここでなら、ワンチャン俺もハルに勝てる、」
「と思うかいカオス?」
「……無理ですなぁ。条件が同じならハルのが強えに決まってる」
鍛えた本編の成果を発揮できないことを不満に思う者も居るだろう。だが、この場はお祭り。初心者が一方的に狩られることを避ける方を、運営は選んだ。
試合内容はセレステの闘技場のように、大型モニターに投影されているようだ。
こうして生中継により観戦させるのも、新ゲームの予行演習であろうか?
「賭け事までやってるよ。カオス、こういうの好きじゃない?」
「好きっちゃ好きだが、俺は稼ぎは堅実にやるぜぃ? 余剰は突っ込むがな!」
「じゃあぜんぶ僕に掛けなよカオス。簡単に増やせるよ?」
「ハルさん、すぐに倍率1.0倍になりそうだね!」
「わたくし、知ってます! 胴元の一人勝ちなのです!」
さすがに掛け金等倍はもはや賭けが成立していない。その辺は優秀なAIによる神様たちの調整に期待しよう。
そんな会場内を見て回っているだけでも、お祭りの屋台を巡るような楽しさがある。
無理に試合を荒らさずとも、今日は十分に楽しめそうだ。それにハルがやらずとも、ユキが存分に賭相場を荒らしてくれるだろう。
「じゃあ、稼ぎが目当てじゃないなら楽しそうなのやろうか。これなら、四人で参加できそうだ」
「いいね! サバゲーだね!」
「バトロワだな。全員、ぶっ倒せば勝ちぃ!」
「ち、血なまぐさいのです!」
「生き残れば勝ち、だよ。このバーサーカーどもの言葉をアイリは鵜呑みにしないように……」
サバイバルゲーム。略称サバゲー。殺傷力の低い銃器で撃ち合う競技であり、リアル、ヴァーチャル共にこの時代での人気は高い。リアル側は専用のレーザー銃もまた人気。
要は弾に当たったら負けの、物騒なドッヂボールだ、とハルはアイリに単純化して説明する。
遮蔽物の多く配置された、複雑な地形で行うことにより戦略性が増す。
「へえ、変わってるね。銃は一切なし、全部魔法でやるんだ」
「専用の杖を拾って強力な魔法を発動しよう! です! ……杖が無いと、魔法が使えないのですか?」
「今の僕らの身体だとそうなるね。このままだと一切の魔法が使えない」
「他のスポーツもそうみたいだぞハル。形式が杖かは、ものによるっぽいけどなー」
自分の体を睨みつけるように、むむむむ、と魔法の使えないその身を訝しむアイリがかわいらしかった。
拾う魔法が毎回ランダムになるのも、単純なスポーツとの差別化を図っているのだろう。
そんな試合に参加すべく、ハルたち四人は揃ってサバイバルゲームに参加申請するのだった。
*
「到着なのです!」
「ハル、オーダー」
「ん? じゃあ各自好きに暴れてよし。ただし僕から十メートル以上離れないように」
「らーじゃ! だよハルさん! つまりハルさんに付いて行けばいいんだね!」
「暴れられなくて嫌かも知れないけど、人数勝負だからね」
プロ並みのベテランであるカオスと、一騎当千の才覚を持つソフィー。しかしながら、今の身体能力はさほど高くない。
魔法の使い方こそが非常に重視されるらしいこの試合では、個人で突出するのは厳禁だ。
単純な話、二人で一人を相手どるように立ち回れば、それで大抵勝てる。
「つまり本質は僕ら自身を駒にした将棋であって、個人の能力はさほど、」
「関係あるよね!」
「関係あるだろ」
「わたくし、分かりました! そう思えるのはハルさんだけ問題、なのです!」
確かに、敵と対峙した場合に、いかに的確に魔法を当てられるか、または躱せるかの身体能力も重要か。
その点においては、ソフィーとカオスは満点だろう。アイリも、魔法に関しての判断は場数を踏んでいる。
「うん。やっぱり戦略さえしっかりしてれば必勝だね」
「頼もしいねぇ、俺らのリーダーは。敵じゃなくてよかったー!」
「どうするのかなハルさん! まずは温存して、チームが減るのを待つ?」
「隠密なのです!」
「いや、戦闘狂が二人いるんだ。がんがん攻めて有利取っていこう」
「攻勢なのです!」
こういったゲームは、膠着を防ぐために、攻撃優位に作られている。
このイベントも例に漏れず、そうした設定になっているとハルは見抜いた。生中継している関係上、放送映えするように、との思惑もあるのだろう。
ニンスパと同じように、隠れてばかりではなかなか勝てない。
具体的には、敵を倒せば倒すほど魔力が進化するようだった。
「グダ防止はどうなってるのかなハルさん! マップ縮小?」
「いや、マップ縮小は無いね。チームが減るごとに全体の魔法威力も強化するみたいだよ」
「好きだぜぇ、そういうの!」
「なるほど、マップ全域に届くような、大きな魔法の撃ち合いになるのですね」
ゲームはまだまだ不慣れだが、実際の兵法に明るいアイリもすぐ理解したようだ。
そう、広いマップの何処に隠れても関係ない規模の戦いに、最終的にはなるのだろう。派手でいい。
「たあ!」
そんなアイリが、さっそく鉢合わせた敵プレイヤーに杖を向ける。
放たれた火球の遅さに少し眉をしかめるが、すぐに切り替えて偏差で連続弾をアイリは発射する。
「今なのです!」
「了解だよアイリちゃん! 食らえ!」
「うわ、えっぐ! そういうゲームじゃないだろこれぇ!」
「まあ、可能になってるならそういうゲームだよね」
初期状態でまだ弾速が遅い火球をかろうじて避けたかと思った敵プレイヤーだが、その回避行動で移動方向が絞られたところに、接近したソフィーが止めを刺した。
その方法はなんと、杖を刀代わりに振りぬいての近接攻撃。
この試合が遠距離魔法の撃ち合いだという前提を頭から無視した一撃である。
「こういう発想の自由さがソフィーさんの良いとこだよね」
「おいおいおーい。騙されてるぞぉハルP。ソフィーちゃんは基本的に、接近戦しか出来ないだけだぞぉ」
「黙れカオス、良い話にしてるんだ。いいからお前もそっちの陰に隠れてる敵を叩くんだよ。あとハルぴー止めろ」
「カオスさんとお話してるハルさんは、なんだか新鮮な感じでいいですね!」
「だねアイリちゃん! 悪友って感じがする!」
悪友、とはなんとも微妙な言われようだ。喜んでいいのだろうか?
まあカオスはユキと共に、かなり長期間にわたって一緒に数多のゲームを荒らしてきた仲だ。気の置けない間柄、と言って差支えはないだろう。
そんなカオスとタッグを組むようにして、基本、二人で一人を狙い撃つことを徹底する。
そうして序盤の遭遇戦は、基本のチームワークを完璧にすることの繰り返しで、危なげなくハルたちは勝ち進んでいくのだった。
*
「ハルさん! これは探知の杖、だそうです!」
「よし、使おう。アイリ、やっちゃって」
「はい!」
「すぐ使っちゃって大丈夫かな? こういうのは、タイミングを見計らって的確に、がセオリーだけど」
「ハルだからなぁ。こいつの場合だけは、情報取得が早ければ早いほど有利に立ち回れるからさ、ソフィーちゃんもすぐに分かるぜ」
「ほえー、すごいんだね!」
「はい! すごいですー!」
「……アイリはもともと知ってるでしょ?」
女の子二人から手放しで褒められて、少々居心地のふわふわしてしまうハルだった。ニヤケ顔のカオスが憎い。
そのカオスの解説通り、ハルの場合は周囲の情報の取得が早ければ早いほど、その後の動きが的確になる。
現在敵が居る位置、または居ない位置から未来を読むことで、先手先手で王手をかけていくのだ。
「今は中盤戦ってとこか? 探知範囲もかなり広がったな」
「これって、最後には全域になる、ってことだよね!」
「便利なのです!」
チームが減れば、それだけ敵には遭遇しづらくなる。そうした試合の退屈を防止するため、探知魔法の杖は多く配置されているようだ。
これは情報に重きを置くハルに非常に有利に働く。チームの減少に伴って魔法の効果も上がり、かなりの数の敵が探知に引っかかった。
「よし、全部狩るよ。複雑なルートできびきび移動するから、しっかり付いてくるように」
「お任せください!」
「スパルタだねハルさん! がんばるね!」
「おいぃ! 結局お前の方がバーサーカーじゃねぇかハルぅ! とんだ戦闘狂夫婦だよこいつら!」
倒せば倒すだけ魔力が上がっていくのだ、仕方がないだろう。
杖の魔法に、その類稀なる魔法センスでいち早く慣れたアイリも、ハルに続き意気揚々と敵を射殺していた。このあたりアイリは容赦がない。
刀代わりに杖を振るソフィーの剣術も、魔法の威力が上がるたびにその刀身が長く鋭くなってゆく。
もはや接近しなくても、水であったり風の刀身が中距離から放たれて、その速度により敵の虚をついた。銃器のように弾が一瞬で到達はしないこの試合、まさか剣によってその猶予を刈り取られるとは思っていなかっただろう。
「足が止まりましたね! これでさらば、なのです!」
「しまっ……!」
そのソフィーの遠隔斬撃をぎりぎりで躱した敵も、相棒を組んだアイリの魔法によって詰みに陥る。
ゲームも中盤となり、アイリの魔力も、魔法自体の威力も底上げされてきた。
その飛翔速度も、着弾後の被害範囲も、順調に拡大している。ソフィーの剣により足をもつれさせた時点で、相手の運命は決まっていた。
着弾後には大規模な爆発を起こし、敵は二人纏めて始末されていく。
「ハル! こっちも誘導するぜぇ?」
「言うな言うな、宣言するな。僕が誘導するからお前が狩れカオス」
「ハルこそ言うなっての! お前に撃破ボーナス集めた方が効率的だろうが!」
「弱いお前を強化した方が効率的だ」
「弱いって言うなってのぉ!」
「な、仲間割れか? チャンス……」
「が、あるわけないんだよなぁ?」
「無いんだよね」
ハルの方もカオスと互いに役目を押し付け合うふりをして、まんまと敵をおびき出す。
実際は、二人とも言葉とは裏腹に、きっちりと自分の役目をこなしていた。いまさら役の割り振りでモメるハルたちではない。
元来のサポート能力の高さを生かし、カオスが騒いだ裏で罠のように魔法を設置していた。
それによりハルの周辺で複数の魔法爆発が起こり、それを回避しようと敵の移動経路が制限される。
そこに、差し込んだ。
カオスの撒いた魔法は即興による適当なものだが、ハルの読みの前には造作もない。
そのようにして次々と、ハルたちの快進撃が続いていくのであった。




