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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
追章 メタ編2 ~あるいは陽だまりで微睡む平和な世界~

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第498話 かいま見える新仕様

 ハルたちは、イベント参加のため談話スペースとして使っていた神界から、専用のマップへと転移する。

 そこは一見、神界の一角であるように見えて、神界とも地上の世界とも全く異なる空間だった。


 ここは妖精郷。神界を取り巻く魔力内に作られた神界ネット、その内部に仮想的に作られた、仮想空間であるのだった。

 転移は時間差タイムラグなく行われているが、その一瞬の間にキャラクターも専用のものと入れ替わっている。

 ここでは全てのユーザーの力が均一化され、本編のレベルや装備が発揮できなくなっていた。


「……相変わらず大した技術だね。こうして見ると、仕様が一から変わったとは思えない」

「体の動き、違和感ないよね! 私も、前に一度来てなかったら分からないかも!」

「ソフィーさんには分かるんだ、この微妙な差。流石だね」

「うん! ハルさん程ではないかも知れないけど、他の誰より本編のボデーに慣れてるもん!」

「……すごいですー。あ、でも、わたくしも分かりますよ! 前にやったニンス……、別のゲームとの比較は、分からないですけど!」


 ここで、通常のこのゲームの在り方とは明確に異なる光景が生まれていた。アイリの存在である。

 プレイヤーキャラクターを持つハルやソフィーが、こちらへログインしなおすのはまだ理解できる。いわゆるアバター、操作キャラが移るだけだからだ。

 しかし、アイリは別である。彼女はログインしてこの世界ゲームを遊んでいる訳ではなく、もともとこの異世界の住人だ。


 名目上NPCと呼称されてはいるが、肉体を持ったれっきとした人間。それがこの場に居ることは、本来あり得ないことだった。


《平気そうね、成功なの。ハル様、アイリちゃんの体は専用の空間で保護しているわ! 安心して欲しいの》


──何かと思えば、このテストをしたかったのか。新ゲームの目的が少し見えて来たよ。あと、アイリの体は天空城でカナリーやメイドさんに世話させること。


《了解したのよ! イベント空間から抜けたら、神界の元の位置に戻すわね?》


──ああ、くれぐれも慎重にね。


 ハルの考えを先読みして、この妖精郷の製作者であるマリーゴールドが通信を入れてくる。

 アイリ、いやNPCがこの世界に来れるのは、何らかのミスではなく正当な仕様であることが分かる。そして、その機能がテスト中であることも。


 要するに、例の新ゲームはNPCも、異世界の人々も参加させる計画でいることがうっすらと見えてきた。

 いったい、何を企んでいるというのか? ここにきて、少しばかり警戒を強めるハルだった。


「アイリちゃん、体の調子はどうかな!」

「体力は、本来のわたくしよりも高そうです! しかし、魔法が使えないので、思うように、自由には動けませんー……」

「へえー! 凄いんだね、魔法ネイティブって! 普段の生活から、魔法で補助してるんだ」

「まあ、アイリくらいだよ。ここまで無意識に魔法を発動し続けてるのは」

「詳しすぎだろ。NPC博士かぁハルぅ」

「やあ、カオス」


 ハルたちが体の動きを確認しながら話していると、その輪に加わって来る大きめの人影があった。

 人当たりの良さそうな大柄の男キャラ、『顔☆素』ことカオスである。本来の読みは『ケイオス』と呼んで欲しいらしいが、あまりそう呼んでくれる人は居ない。

 ハルも、分かっていながらそう呼ぶことはほとんど無い。いじめっ子であった。


「久しぶりじゃんかハル。何してたんだよ最近は?」

「スローライフ」

「……意味わかんねぇ。環境ソフトとしてこのゲーム使ってるってことかぁ? いや、そういう需要も多いみたいだがよ」

「違うよカオスさん! ハルさんは、アイリちゃんとの結婚生活をエンジョイしてるんだよ!」

「て、照れるのです……!」

「恋愛シミュレーションかハルゥ!!」

「やかましいなこいつ……」


 この空間、存在しているキャラクターはハルたちばかりではない。周年イベントとあって、多くのプレイヤーが参加していた。

 大抵はすぐに競技スペースへと移動しゲームを楽しむが、中にはハルたちのようにこのスタートの広場で談笑したり、人を待っていたりする者もそれなりに居る。


 つまりは、悪目立ちしてしまっているのだった。


「おっと悪い、悪い。しかし、お祭りイベントとはいえ、王女様が参加すんだな? 珍しいんじゃねーの?」

「だね。今までは、ここの運営は『イベントはプレイヤーだけで』、って方針だったし。ああ、戦艦イベントは別か」

「ありゃあ、NPCとの交流が目的っぽいしな」


 おちゃらけた言動が目立つカオスだが、ゲームには真剣で、仕様には敏感だ。

 交流機能である、掲示板を覗けばそこには大抵カオスが居ることからも、人一倍、情報収集に熱心なのが分かる。

 まあ、単に話すのが好きというのもあるのだろうが。


「今回もそういう交流目的なんかねぇ? さっきは、青の王子様も見かけたぜ? お前と因縁のあるあの人をよ」

「……なんだって? アベルがこのイベント参加してんの?」

「おお、シルフィーのお嬢とか、ファンクラブ総出でよ。いやー、何か探ろうと思ったが近づけなかったわ。威圧感ぱねーの、こええ……」

「話題になってたんだよハルさん! カオスさんの言うとおり、殺気立ってるから近づくなってね、あはは」

「そりゃ、推しキャラとの交流イベントだしなあ……」


 今までは、アベルの王子という身分もあって、なかなか直接接触する機会が持てなかったファンクラブだ。

 それが解禁されたとなれば、そうもなろう。触らぬ神に祟りなしである。


 しかし、意外な事実である。アイリのみに留まらず、アベル王子までこの異空間でのイベントに参加している。

 これは、新ゲームにも同じように、彼や、他のNPCも参加させようとしていると見て相違ないとハルは推測する。


「どう思う、ハル? たぶん他にも参加NPCはあるんじゃないかと見てるぜ」

「きっとそうだろう。最近は、いわゆる有名NPCも増えてきた。とうぜん他にも来るんだろうね」

「へー! 楽しそうだね!」

「また国の重鎮なのでしょうか? 国際問題に、発展しないと良いのですが……」

「その時は、神様に責任を取らせよう。主催者なんだ」

「何様の目線だハルぅ!」


 管理者様である。いたずらに世相を乱したなら、彼らに事態の収拾に当たらせる責務がハルにはある。

 当然、ハル自身も収束のため奔走するつもりだ。


「まあ、現地の政治が大きく動くようなことにはならないと思うよ。例えば、王族同士が重要な決定をかけてゲームで争ったりね」

「国民として判断に困るだろそんな漫画じみた話!」

「それじゃあ、ハルさんはどんな意図があると思うのかな? 二年目のこのゲームは、NPCが更に身近になるってこと?」

「それはあるかもね。でも、一番可能性が高いのは例の新ゲームだと思うよ」

「んでそこで新作が出てくんだハル?」

「コラボって言ってたろ?」


 そのハルの言葉で、合点がてんがいったと目を見開くことで示すカオス。こう見えて、様々なゲームで好成績を残してきたカオスだ。ゲームについての察しは良い。


 コラボ。異なるゲーム間での、コラボレーション企画。ゲームの世界では日常的に行われていることである。

 その際に一般的によく見られる規格の内容は、“コラボ相手のキャラクターが、もう一方のゲームに登場する”、というものであった。


「じゃあ、アイリちゃんやアベル王子さんが、例のゲームに出張するのかも!」


 この出張も、コラボキャラクターに対する俗称となる。


「わたくし、外遊に出るのでしょうか!」

「何らかの要請はあるかもね。僕が許さないけど」

「お前は何の権限を持ってるんってんだハルぅ!」


 もちろん、管理者権限である。参加はするだろうが、その時はハルの望む形で参加したい。相手の思うようにアイリを動かすなど言語道断ごんごどうだんだ。


「しかし、参ったな……、人気集めゲーだと予想されてんだろ? 人気NPCとファン勢力が参加したら、それだけ厳しくなっちまう……」

「ああ、カオスも参加すんの?」

「おお。金が無いって言ったろ前に」

「このゲームのやり過ぎでね」

「廃人だねカオスさん!」

「君らに言われたくないんですけどぉ! まあ事実だな。そんで、いい大会は無いかと探してたところに、振って沸いたのが例の新作よ」


 なるほど、カオスらしい。もともと新作ゲームには目が無いカオスだ。今のこのゲームを始めたのも、面白い新作を渡り歩いての結果である。

 カナリーたちの世界を楽しんでくれたのはハルにとっても嬉しいことだが、新作が出れば人が移るのは世の常だ。諸行無常。

 そこから、どうにかしてユーザーを引き込んで来れるかというのもコラボの目的である。


「カオスさんも、私と一緒にハルさんにプロデュースされる? ハルさんが支援してくれれば、きっと大儲けだよ!」

「うげぇ! お前そういう参戦の仕方すんのぉ!? いよいよライバル多すぎじゃんか……」

「悪いね。まあ、ソフィーさんは優勝賞金が目的じゃないっぽいし、バッティングしないようには調整できるよ」

「いや、いい。談合みたいでかっこ悪いしな。プロデュースも遠慮する。やっぱ、一人の力でやりたいしな!」

「そう言うと思った」


 お調子者ではあるが、ゲームに対しては求道的ストイックな面があるカオスだ。

 人当たりもよく、見る者を楽しませる気概も持っている。このおちゃらけた性質も、半分は演じているものだとハルには伝わっている。

 空気を読み、和ます力は非常に強い。


 その力を活用し、ある程度の人気は得られるだろう。人気が高まれば、副次的な収入も出ると聞く。

 カオスの当面の財政事情は、一応は解決するだろう。

 優勝できるかどうかは、またそれは別の話。


「……ハルは参加すんのかぁ? お前が出るとなると、それこそ人気から攻略から何から何まで、全部持ってかれそうなんだが」

「出ることは出るよ。色々と興味もあるしね」

「げぇ……」

「あはは、カオスさん嫌そうな顔ー!」

「ただ、攻略に真剣にはならないかな。ゲームシステムそのものに、興味あるというか」

「そう願いたいねぇ……」


 NPCまで参加させることを計画してるとなれば、何を考えているかいよいよ警戒に値する。

 神々を管理する身として、気合をいれてハルも新ゲームに臨まなければならないかも知れないのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/19)

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