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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
追章 メタ編2 ~あるいは陽だまりで微睡む平和な世界~

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第496話 胡蝶は妖精の夢を見るか

 メタの工場による環境改善。さすがにそれは今すぐにという訳にもいかない。

 必要量を用意するのに時間が必要となるし、ハルの側においてもまた準備が必要だ。


 その日はそのまま、<転移>で天空城に戻り長めのお散歩は終了となった。

 実際の仕事は、全てメタの分身にお任せとなる。リアル工場運営ゲームを楽しもうにも、メタの工場は完璧すぎるまでに完璧に整っており、そこからハルたちが手を加えられる部分が存在しない。


「それで、箱庭作成ゲームを始めるんですねー。どんなお庭にしましょうかねー」

「随分と、スケールの大きな庭だこと? カナリーは、何か作りたいイメージがあるのかしら?」

「そーですねー? ルナさんのおうちのお庭みたいなの、綺麗ですよねー」

「……あれ、異常に手間がかかるわよ? 都市一個ぶんをああするのは、気が遠くなりそうね?」

「じゃあちょっとでいいですー」


 その話を聞いて、かなり乗り気そうなカナリーとルナだ。不毛の荒野をどんな風に再生していこうかと想像を膨らませている。

 ちなみに、ルナの実家の庭というのは、豪邸に特有の季節感を無視した豪勢なものである。

 植生がまるで異なるものが普通に隣接しているため、ルナの語るとおり異常に手間がかかる。わざと手間のかかるように仕上げるのが金持ちの醍醐味だいごみ


「地球のお花を、たくさん見たいわ! ハル様、本家本元の素敵なお花を、たっくさん持ってきてくださいな!」

「日本のお花は、本当にすごいんですよ! わたくしも、頑張って選びますねマリー様!」

「お願いするの! 頼んだわ、アイリちゃん!」

「お任せください!」


 二人でずっとお屋敷の周りの花畑予定地を整えていたアイリとマリーゴールドも、更に広大な花畑を開ける土地に興味津々だ。

 多くの花を咲かせられるように、豊かな土壌に育てねばなるまい。


「それでー、メタちゃんはどーやってあのズタボロの土地を改善してくれるんですかー?」

「にゃにゃん!」

「あの土地に元々ある土を使う。大きいパイプラインを二本通して、メタちゃんの工場まで運搬する予定だ」

「なるほどー。一本に削った地面をどんどん乗せてってー、工場で柔らかくして戻して来るんですねー」


 その通りだ。荒れて乾いた大地をいったん工場へとどんどん運び入れ、そちらで栄養素を多く含んだ土へと生まれ変わらせる。

 その為の行きと帰りの直通経路パイプラインを作るだけで、他には何もせずに環境改善が可能である。


「でもー、ちょーーっと、直線距離が長くないですかー?」

「えっ、ダメかな? ロマンじゃない? 馬鹿みたいに長いパイプライン」

「にゃおん!」

「もー、これだから男の子はー。無駄遣いはシャルトに怒られますよー」

「シャルトも男の子だけどね?」


 極まったプレイヤーの移動速度によって忘れがちだが、重力異常の地のクレーターから、メタのプラントまでは普通に国をまたぐ程の距離がある。

 その間に大規模な輸送ラインを通すのは、壮観ではあるがそれだけコストもかかってしまうだろう。


 それを考えると、現地にもう一つの工場を建設した方が、現実的な対応とするカナリーの考えは妥当であろう。


「みゃー……」

「そうだねメタちゃん。ここは、コスト度外視でロマン優先したいよね」

「にゃおんっ♪」

「まったくもー、しょうがないハルさんなんですからー」

「カナリー、家計を考える奥さんみたいね?」


 ほっぺたを、ぷくーっ、と膨らませるカナリーをルナが揶揄やゆする。ルナこそ、そうした堅実な奥様スタイルが似合いそうではあるが、こう見えてルナは浪費に寛大だ。

 お金は使ってなんぼである、という意識が強いのだろう。


 そんなカナリーのほっぺたをいつものようにつっつきながら、彼女の言ったことをハルも考える。


「まあ、確かにカナリーの言うように、現地で出来ることは現地でやった方がいいんだろうね」

「そうですよー? とはいえ、ハルさんもメタちゃんも処理能力が無限ではないので、自動化出来る部分は自動化すべきですかねー」

「あら、デレるのが早いわねカナリー?」

「忠告はするけど、最終的に判断は委ねるんですよー。ルナさんのいつものパターンから学びましたー」

「……まったく、口が達者なのだから」


 一本取られた、といった感じで居つつも楽しそうなルナだ。こうして対等に言い合える女の子など、今まで居なかった。そこが嬉しいようである。


「それでー、どうしますー?」

「そうだね。せっかく僕らが支配して新たな試みを行うんだから、もう一つ実験的な行いをしてもいいかも知れない」

「なーご?」

「エーテルネットだよメタちゃん」

「ふみゃう!」

「そう。メタちゃんと僕で協力して、あの地に実験的にエーテルネットを設置する。ちょうど、エメとの戦いでバラ撒いたところだしね」


 あの戦いにおいて、あの地に散布した二種のエーテル、魔力とナノマシン。せっかくだから、ではないが、それも追加で利用して、メタと共に環境を構築してゆこう。

 ハルがソフト面で運用を維持し、メタがハード面の材料エサを用意する。

 そうして、あの地には常時エーテルの大気を充満させて、エーテル技術による微細処理によって、更に詳細に環境を整えていくのだ。


「素敵な考えね、ハル様! どうかお花のための肥料も、たっぷりと用意してほしいの」

「そこは、抜かりないよマリーちゃん。土壌の調整はエーテル技術の得意とする所だし」

「とっても楽しみなの」


 そしてそれならば、エーテルネットで繋がっているならば、ハルは管理者としてその地に分身がらずとも作業が適う。

 半ば、自動化の要件も同時に満たせる良策である。


 そんなこんなで、思ったよりも大がかりになりそうな改造計画テラフォーミングは、徐々に協力者を増しての進行を始めていくのだった。





「ところでハル様? お庭の土づくりもいいのだけれど、一周年イベントはもう参加なさらないの? 力作なのよ」

「ああ、確かにね。みんなの家を作り始めてから、忘れがちになっちゃってたね」

「スポーツイベントも自信作なのよ? ぜひそっちも、参加してほしいの」


 確かに、メタとお散歩などしてのんびりしていたが、今は記念のイベントが開催中だ。この世界で一年過ごした節目として、参加してみるのも良いかも知れない。


「また何か企んでるんだろうけど、乗ってやるのもいいか」

「……た、企んではいないのよ? ただ少し、データを取らせてもらっている、だけで」

「まあ、いいけどね。マリーちゃんのナチュラル黒幕は今に始まったことじゃないし」

「もう、もう! ハル様のいじわる! 今さら、貴方に害をなすようなことなんてしないのよ?」


 それは分かっている。ただ、それはそれとして少しイジメたくなってしまうハルだった。


 まあ、今回の件に関しては、新たに始まる外の神によるゲームのデータ採取であろう。

 この異世界における第二のゲームは、実際にあるこの惑星上を使った今のゲームとは違い、魔力内に作られた疑似空間内で行われる。


 要は、エーテルネットの電脳空間内で行われるゲームと似たようなものだ。

 ただその三つとも、ログインするユーザーにとっては主観的に区別が付かないだろう。胡蝶こちょうの夢において、夢とうつつの区別を付けられないように。

 強いて言うなら、カナリーたちのゲームはリアルさが頭一つ抜けている、といった点が違和感となるくらいだろうか。


「あの妖精郷と、同じ感じなのかな?」

「ええ、ええ。あそこを使っているの。ハル様も、不完全燃焼ぎみだったでしょう?」

「まあ、きちんとクリアしてない感じは確かに気になってたけど。誰のせいだと……」

「あら、叱られてしまいそうだわ! では、これいじょう引き留めては悪いし、私は仕事に戻るの!」


 そういって可愛らしくとぼけるように、舌をちろりと出しつつマリーゴールドは去っていった。

 といっても、新しい自身の家の庭に戻っただけなので、本気で逃げる気は無いらしい。


「まあ、いいけどねこっちとしても」

「今は仲間、ですものね!」


 アイリの言うとおりなので、深くは追及しない。イベントの方にも、確かに行ってみたい気はあるのがハルの本音だ。

 ここのところ、かつて妖精郷を共に攻略したような、他のプレイヤーの仲間たちとは少しばかり疎遠ぎみだ。


 ハルはアイリたちを伴って、神界で開催中の一周年イベントに戻って行った。





「あ、ハルさん! やっと来たんだ!」

「ソフィーさん、こんにちは。悪いね、お待たせしちゃったようで」

「こんにちは!」

「アイリちゃん、お久しぶり!」


 元気に挨拶を交わす、活発な少女二人。アイリと手を取り合って共に満面の笑顔を浮かべているのは、剣術少女のソフィーである。

 ハルとは日本の方でここのところ良く顔を合わせているが、あちらには居ないことになっているアイリとは少し久々だった。


「ハルさんもこっちじゃ暫くぶりだよね。一周年にも参加しないのかと思って、はらはらしちゃった!」

「ああ、ログイン自体はしてたんだけど。最近遊び方が変わったというか」

「スローライフになっちゃったんだ!」

「そうだね」


 攻略の第一線を進み続けるソフィーとは、ゲーム本編から身を引いたハルは接点が薄くなる。

 だがこの元気な彼女とは、今はそれ以外の、ゲームから外れた部分での接点をもっていた。


「体調は平気? 例の新ゲームに、もしかしたら時期が被っちゃうかも知れないけど」

「問題ないよ、どうせプレイするもん! つまり身体はずっと寝かせておくだけ! 手間いらずだよね!」

「これはまた、廃人的なポジティブさだことで……」

「すごいですー……」


 これが何の話かといえば、彼女の手術の予定日のこととなる。

 いや、手術と言ってもソフィーは病気ではない。彼女は、手足を人間以上の力を発揮するための機械化をしている、いわゆるサイボーグの体である。


 その体を、元の肉体に再生する施術を、ハルが買って出た。その時の話の続きなのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございます。(2022/7/25)

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