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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
追章 メタ編2 ~あるいは陽だまりで微睡む平和な世界~

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第490話 憩いの地と遊び場と秘密基地

 エメを含めて、全ての神々が天空城を舞台に一堂に会する。周年イベントのさ中ではあるものの、彼らの処理能力をもってすれば雑談くらいならばさして負担にならないようだ。

 とはいえ、仕事中には変わりない。そこに苦言を呈する者も当然存在するのであった。


「皆さん、ちょっとばかり本業をおろそかにし過ぎじゃありません? 各所への魔力の分配、自分だけに任せないでもらいたいんだけど」

「あー、ごめんごめん。そこの作業はシャルトが優秀だから、ついさぁ」

「……評価してくれてるところ悪いのですが。お前が一番接続率が下がってるんだよマゼンタ」

「おさぼりですねー、マゼンタは相変わらずー」

「引退したカナリーこそ口出さないでくれるかな!?」


 節制を司る新しい黄色の神、シャルトは今日も苦労人だ。

 適切で無駄ロスの少ない魔力の移動に適正があるため、プレイヤー各員に必要なだけ魔力を分け与える作業を一手に担っていた。

 それはさすがに大変だろう。ハルも、その辺りの作業には数々の戦いを経てかなり慣れた。彼ら神々を束ねるものとして、手を貸すことにした。


「申し訳ありません、ハルさん。流石ですね、魔力の掌握と移動に関しては自分たち以上ですよ。……ほら、マゼンタもさっさと働くんだよ」

「分かったって! シャルト荒れすぎ、生意気を通り越して乱暴になってる言葉づかいが!」


 根が真面目なシャルトは、仕事を背負いこんでしまいがちだ。特に近頃は、外部への魔力の受け渡し作業も多く行われており、ひっきりなしに働いていた。


「ともかく、山場は越えたと言えるでしょう。家を決めるのでしたね? 自分は、景色の良い外周付近がいいかなぁ」

「んー? シャルトくん、下の王都を見下ろせる位置が良い、みたいに思ってないかな? ワーカーホリックだぞ♪」

「いえ、別にそんな。ただ、有事の際にはすぐ降りられる位置に越したことはないよね」

「<転移>して降りるんだから大差はないぞ♪ もっと家ではのんびりしよう♪」

「そういうマリンちゃんは希望はあるの?」

「私はねぇ~? お庭にプールとー、秘密のロケット発射口♪」

「それはのんびりする気があるんですか……?」


 何を発射するつもりなのだろうか?

 ハンドルを握ると暴走気味の彼女だ。休日の趣味として小型艇を乗り回したりされては、王都の住民からも目撃されてしまい、またシャルトの心労がかさみそうだ。

 ドライブは許可制にして、きちんと隠密性を確保させることをハルは誓った。


「じゃあ、ぼくが、その発射口の地下基地を作ろう、かな。そしてぼくの家も、そこに作るん、だ」

「かっこよくて速い船を作ってね、モノちゃん♪」

「まかせて、ね? ハルも、心配しないで? ぼくが、完璧なステルス機を作る、から」

「期待してる」


 円盤状の戦艦に己の本体を置き、そこが自分の家ともいえるモノ。白と黒のコントラストが陽光によく映える彼女も、この天空城に居を構えてくれるようだった。

 ただし、あいかわらず日の当たらない閉鎖空間が好みなことには変わらないようであるが。


「お屋敷の地下とも、繋げちゃおう、かな? 緊急の、避難経路、だね」

「ふおお! それは、秘密基地みたいでわくわくするのです! 緊急じゃなくても、遊びに行ってもいいでしょうか!?」

「にゃうにゃう!」

「もちろん、だよ? いつでも来てね、アイリ。メタちゃんも、ね」


 ただ、そんな彼女もその実とても社交的というか寂しがりやであり、最近もお屋敷に遊びにきている時間が多い。

 陽気なマリンブルーも勿論その傾向は強く、二人の家(というより秘密基地)はお屋敷の傍に作るのが良さそうだ。


「そうだな。どうせプール作るなら、お屋敷のみんなも使えるようにこっちの庭先に接した位置でいい?」

「もちろん♪ 一緒に泳いで遊ぼうね♪ その後は、みんなで空中散歩だぁ♪」

「いや、散歩じゃ済まない速度にアイリたちを同行はさせられないよ。それはNG」


 神ですらビビる暴走癖のあるマリンブルーに、人間である皆を任せることなど恐ろしくてハルには出来ない。

 その際は、ストッパーとしてモノの同乗を徹底させよう。


「シャルトは崖際だと、僕らとは離れた位置になっちゃうけど、構わない?」

「ええ、静かな方が好みですからね。とても騒がしくなりそうですし。それこそ、<転移>で来れば多少の距離なんて関係ないしさ」

「楽しいのに♪」


 シャルトは最初の宣言通り、この天空城の浮島の端、地面の切れ目が崖になっている土地に家を建てるようだ。

 デザインは、外からも見える位置であることから、景観を崩さないようにと世界感に合わせた石造りのもの。


 一方、お屋敷の隣に住むマリンブルーは、近代的な日本よりの建物。

 プールの似合う高級感のある佇まいを醸し出しつつ、地下に秘密基地を構えるハイテクさを併せ持っていた。


 その地下にはモノの住居を地下室として構え、そちらは完全に近未来的。

 あの戦艦の通路を思わせる、ぼんやりと薄暗い通路を抜けると、地下とは思えない白光に満たされた生活空間をいくつも構える。

 閉塞感を感じさせない、広々とした作りだった。


「セレステは? 君も近くが良いんだよね?」

「え、私かい? 私は君らのお屋敷の中でいいとも。特に個人宅は必要としていないよ」

「はいはい! わたしも、わたしもっす! お部屋いっこ貰えれば満足っす! いやー、物を多く必要としない慎ましい生活。わたしの新たな門出は、この小さな部屋から始まるんですねえ。なんだか気分もこの春の風のように、うきうきと爽やかですよ」

「やかましいと言っている。それにエメ、君はどうせ部屋をすぐ物で溢れさせるのは分かってる。あと小さいとか言うな。お屋敷の部屋は十分広いわ」

「おお! ハル様のツッコミが今日も五臓六腑ごぞうろっぷに染みるっすね!」

「……君の内臓はもう少しまともな栄養素を摂取した方がいいね。仮にも最近まで人間だったんだから」


 ひとまずお屋敷内に二人の部屋は用意してやるとして、個人宅の好みと位置も聞いておいた方がいいだろう。

 特にエメは性格上いろいろと物を溜め込みそうに思える。広いスペースが必要そうだ。


「えー? 要らないですのにー。まあ、でもあえて言うなら、魔女の家っぽいのにしますかねえ。怪しそうなの。ほら、わたし、魔女っ子風のキャラクターで売ってましたので。にしし」

「そういえば、人間としてのエメのキャラクターは引き継ぐの?」

「そっすねえ、あれも、というか“これも”ですか。わたしの一部には変わりませんので。何より、ハル様と出会ったのが“このわたし”ですからねえ。キャラクターは大事にしたいな、って。神のキャラ変は自由だからこそ、ですね」

「なるほど」


 そんなものなのだろう。その辺り、特に深掘りをするつもりは無いハルだ。彼女の気持ちは大切にしたい。

 その表面上の陽気さとは別に、泣き虫で寂しがりやな本質を抱えてることもまたハルは理解している。

 今は、皆の傍にいたいのだろう。しばらく屋敷で生活させて構わなそうだ。


「ただし、あまり騒がしかったらすぐに追い出しますよ、製作者」

「だめです空木うつぎ、家族は、みんな仲良くです。マスターの下、調和をもって生きていくです」

「大丈夫っすよ白銀ちゃん! 空木ちゃんのこれは、不器用な愛情だって最近分かってきましたから!」

「いや、実際にうるさかったら追い出すからねエメ?」

「です。追い出されたくなかったら、すみっこで大人しくしてるです」

「おねーちゃんの言うとおりですね」

「手のひら返しが早すぎる!?」


 小さな白銀と空木は、今日もマイペースだった。特に白銀が自由すぎである。

 ハルをマスターと仰ぎ、運営の一員の神としてではなく、個人的にサポートしてくれている彼女らも、もちろんこの家に共に住む。

 彼女たちは離れる気は一切ないようで、個人宅を所有する気もまた皆無のようであった。


「僕としては、独り立ちも考えて欲しいところなんだけどね」

「そこは長い目で見たまえハル。まだ彼女らは生まれて間もないのだよ。時が来れば、そのうち自然とそうなることもあろうさね」

「そういうものかね?」


 確かに、セレステの言うとおりかもしれない。実年齢(と言うべきだろうか?)はともかく、精神的には二人とも生まれたばかり。

 あまり突き放してしまうのも大人げないのだろう。


「そういうセレステはどうなの? お姉さんぶってるけど、自己の定義を主人に依存しているという点では変わらないのでは?」

「ははっ、私の精神はもう矯正不可能だとも! 何せ百年煮詰まっている。諦めたまえよ、我が主?」

「……本当にめんどくさいね君は」

「それとも、二人きりの愛の巣をご所望かな? それならば、別宅を用意するのもやぶさかではないのだが……」

「それでいいから、デザインと土地の希望はさっさと出しておくように」

「つれないねえ」


 この強い個性の面々を招き入れて、この先本当に大丈夫なのであろうか?

 少々ばかり、これについては不安に感じざるを得ないハルなのだった。





「私も、お屋敷の傍がいいわ? ここを、このくらーい、お花畑のお庭にして、そこを挟んで私のおうちも建てるの!」

「オーケー。マリーちゃんはそこね。お花畑も、アイリが欲しがってたから。ちょうどいいかもね」

「ええ、ええ、そうでしょう、そうでしょう? きっと、とても素敵な場所になるの!」

「君はその辺のことも得意そうだからね。頼りにしてるよ」

「がんばるわ!」


 続いてマリーゴールドの家もすんなりと決まった。彼女は神様たちの中では例外的に、家のデザインまでも自分で行った特殊な一人となる。

 神界に持つ自分のスペース、自然や動物と触れ合える広場。そして妖精郷のデザインであったりと、珍しくそうした作業になれた神様だ。

 その彼女の家もまた、そういった優しい雰囲気の木造の一戸建てになるようだ。


 詳細な図面まで用意されている。これならば材料を用意するのも楽でいい。

 ハルはフル稼働中の<物質化>を駆使し、マリーゴールドの家も指定の位置に作り上げていった。


「花畑は、さすがにすぐには無理だね。ちょっと待ってて」

「私もがんばるわ! 見ていてちょうだいハル様。あっという間に、お花で溢れさせて見せるのよ?」

「わたくしも、また沢山摘んでくるのです!」


 お花畑のスペースは、結構広めにとるようだ。ここが一面花で一杯になったら、お屋敷からの眺めもさぞ素敵なものになるだろう。


 そんなマリーゴールドの家が順調に決まり、迅速な進行にハルが満足していると、まだ家が決まっていない男性陣が目にとまった。

 特に、その中の一人、緑の髪のジェードはまだ希望の要件も一切聞いていなかったはずだ。

 今ジェードは神々の中でも忙しいだろう。あまり拘束しない方が良いかと、ハルは彼に声をかけるべくそちらに足を向けて行く。


「ジェード、決まったかい? 希望があるなら可能な限り考慮しよう。まあ、バッティングしたら全部聞けるとは限らないけどね」

「どうかお気になさらずに、ハル様。この地に住居を与えてくださるだけで、望外の光栄なのですから、その上の要求などありませんよ」

「水臭いね。思ったこと、好きに言えばいいのに」

「いやはや、そういった訳にも……」


 元々があまり我を出すところの強い人物ではないジェードではないが、ここまで歯切れの悪いタイプでもまた無いはずだ。

 常に論理的で、己の考えははっきりと主張する。ある意味でウィストと似通った部分のあるキャラクターをしているというのがハルの印象である。


 その彼が、今なにを考えているのか。ここは少し、詳しく聞いてみた方がいいかも知れなかった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/1/11)


 追加の修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/18)

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