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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
追章 メタ編2 ~あるいは陽だまりで微睡む平和な世界~

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第483話 彼らの過ごした一年間

 一周年。このゲームが、カナリーたち神々の作り上げた世界が日本と繋がってから、一年目の記念日が訪れた。

 その間にハルの身に起こった出来事は非常に濃密であり、思い返せばもう何年も経っているかの如く様々な出来事がハルの脳裏に想起される。


 様々な神々と出会い、また戦い、そしてかけがえのない仲間となった。

 己の出自とも密接に関わる彼らとの物語は、ハルの人生そのものに大きく影響を与えることになったと言っても過言ではないだろう。


 そんなハルの感慨とは別に、このゲーム全体もまた一年の記念日に沸いていた。

 様々なイベントが催され、その数々を仲間と共に戦ってきたのは、ハルに限らず一般のプレイヤーも同じであった。皆、その思い出に浸っている。


「まあ、ハルさんのように本当の意味で一年まるまるこのゲームと共に過ごした人は少ないんですけどねー」

「仕方ないよカナリーちゃん。完全新作を初日からやる人なんて、たかが知れてる」

「そだねー。私も、正確にはハル君に誘われてからだから初日組じゃないし」

「ユキはうっきうきで参加したものね? 思い返すとかわいいわ?」

「ルーナーちー! やめてー……」

「皆様との出会いも、一周年なのです!」


 そういうことになるだろう。初日からカナリーと出会い、アイリと出会っているハルたちにとっては、その絆も一周年。

 それこそ、一年とは思えない深い絆で互いに結ばれた。まるでもう十年来の仲であるようだ。


 まあ、カナリーとは十年来どころか、百年以上前からの仲であったのだが。


「……そう考えると、わたくしだけ一周年なのでしょうか! まだまだ今後も、精進しないといけませんね!」

「大丈夫ですよー、アイリちゃん。私も、実際の付き合いはこちらにハルさんが来てからですからー、殆どはー」

「でもその出会いのためにカナちゃんはずっと頑張ってたんだもんね」

「情熱的よね?」

「すてきですー……」


 女の子たちも、各々この一年を振り返っている。

 彼女たちも、ゲームが始まってからはずっとこのメンバーで共に過ごした仲だ。互いにほぼ初対面の者たち同士であり、それぞれの出会いも一周年と言えるだろう。


 そんな一年を振り返っているのはハルたちだけではない。

 このゲームのプレイヤーたちも、いやこのゲーム全体が、一年を振り返る空気に満たされていた。

 特に、今ハルたちが向かっている場所はその傾向が強く出ている。


「お、凄い凄い。大迫力じゃん」

「ゲームならではね? 物理的にこの大きさのミュージアムを用意しようとすると、結構なお金と時間が掛かるわ」

「まあ、これも物理的なのは同じなんですけどねー。魔力こねこねは、楽なのは確かですー」

ねて作っているの……?」


 魔力をこねこねして作り出された、特設会場。一周年のイベントに際して神界に用意されたそこには、この一年の出来事を詰め込んだジオラマで満たされていた。

 時系列純に並べられたその通路を進むと、実際の三次元記録と共に様々な出来事が再生される。


 そこにはハルが関わったもの、関わっていないもの、様々な出来事が記録されていた。


「お、いきなりハル君じゃん」

「まあ、スタート当初はどうしても他は動かないから、そうなるよね」

「こうして見ると、まだこの頃は弱かったわね、ハルも。いえ、やってることは人外に変わりないのだけれど」

「ですねー。まだ人間がぎりぎり相手になるレベルでしたー」

「この時から、ハルさんはとっても、とーっても素敵でした!」


 華々しいゲームのスタートを知らせる、神々による使徒の召喚。その光舞う演舞のアーチを潜り抜け、時系列順の通路を進むハルたち。

 その前に、最初に現れたイベントブースが、ハルとアベル王子の決闘であった。

 まだ他のプレイヤーがゲームの様々な機能を手探りで試している時期に、いち早く起こった大きな世界の動きである。


 アイリの屋敷、いやカナリーの神域の土地を求めて、謀略を張り巡らしていたアベル王子、そしてその背後にいた神セレステ。

 その陰謀からアイリを守るために、ゲームを開始したばかりでレベルの低いハルが、その天賦てんぶの才をもって聖剣を駆るアベルに打ち勝つ様が、派手な演出と共に描き出されていた。


「……出演許可とった? 僕に」

「ハルさんはもう運営のようなものですからー、出演は強制ですー。諦めましょうー」

「まあ、いいけどさ。こうして見ると、恥ずかしいものだね、どうも」

「かっこいいです!」


 ハルのことなら何でも褒めてくれるアイリに気を良くしつつも、やはり面映おもはゆい思いは拭えないハルだ。

 通路のすぐ近く、目と鼻の先の空間には、立体的に記録されたあの時の光景がくっきりと再現されていた。


 ハルやアベルの表情も、すぐ近くにてはっきりと観察できる。

 剣と剣のぶつかり合いによる大迫力に、多くの人は目を奪われて気には留めないのかも知れないが、本人としてはどうしても気になってしまうものだ。


「さて、もう先に進まない?」

「いや~、もうちっと見ていこうぜ、ハル君。私としても、ハル君のお手本のような綺麗な動き、参考にしたいし」

「っ……、ふふっ、そうね? 私も、この演出方法、今後の事業の参考にしたいわ?」

「わたくしもカッコいいハルさんをもっと見たいのです!」

「それを見たハルさんが照れてる姿ももっと見たいですねー?」

「まったくね?」

「君らね……」


 女の子たちのおもちゃになるのも、またハルの務めなのだろう。

 ハルは諦めて覚悟を決めると、彼女らが満足するまで、その遊びに付き合うのであった。





 その後も、様々なゲーム内の出来事が通路に沿って連なってゆく。


 ハルの知るもの、知らないもの。他のプレイヤーが知るもの、知らないもの。

 特に、セレステと、<降臨>したカナリーの戦いはこの博覧会ミュージアムが初のお披露目になる。

 カナリーの『神剣カナリア』の大迫力の剣光は、非常に見ごたえのある出し物となり、人気を博することだろう。

 この戦いの詳細を知りたかったプレイヤーも多いことだ。そういう意味でも、いい機会であった。


「わたくしも、カナリー様の雄姿をこうして見られて嬉しいのです!」

「そういえば、この試合はアイリちゃんたちには見せてませんでしたっけー」

「神剣については、ハルが使っていたり、それこそ自分自身でも使うことになったけれど、やっぱり改めて見ると凄いわね?」

「だねー。カナちゃんのオリジナル強すぎー。やばいって」

「今はハルさんの方が上手く使えるんじゃないですかー? 私のは当たりませんしー」

「威力ならカナリーちゃんなんじゃない? 僕のは技巧に寄り過ぎてパンチに欠ける」

「まあ、『次元断裂砲』が最強ってことでー」

「はは、違いないね」


 神としての身を捨てたカナリーには、もうかつての力は使えない。神剣勝負しんけんしょうぶは、かつてのお祭りの一度きり。

 その時の試合も、この先に展示されているのだろうか? そこで再び足が止まることを思うと、先が思いやられる気のするハルであった。


「わたくしたちと、アルベルトの戦いは無いですね!」

「ないしょですよー? この先は、私たちの軌跡はここに載せられないことも増えてきますねー」

「それでも、ハルは驚異の登場率だけれどね?」

「ハル君抜きにはこのゲーム語れないもんねー」


 ハルとアイリによる、アルベルト軍団との戦い。その辺りから、ハルにとってこの世界は“ゲーム”ではなくなり、もう一つの“現実”となった。

 その後は神々の、そしてカナリーの事情へと深く関わっていくこととなり、一般のプレイヤーとはかけ離れた展開も増えてくる。


 そしてその物語は、ゲームのイベントのように終わることなく、今も、これからも続いていくのだ。


「……この辺りからは、対抗戦がメインになってくるのかな?」

「ですねー。どの神が魔力的な覇権を握るか、その熾烈しれつな争いですー。ハルさん擁する私の一人勝ちなんですけどー」

「うわー。カナちゃん嫌味だー」

「今考えると、始まる前から勝っていたのよね? ずっとハルを待っていたのだもの、あなたは」

「百年の恋なのです! 素敵です、ロマンスです!」


 確かに、自惚れを抜きにしても、この世界がゲームである以上ハルを招いたカナリーの勝ちは動かなかったように自分でも思うハルだ。

 そこまで考えて最初から用意していたとすれば、大した戦略家だ。


 そうして神々はハルの下に束ねられ、カナリーは神の座を卒業した。

 その戦いとその後の儀式もこの場に華々しく展示され、そしてそれ以降、ハルとカナリーは第一線から退き、展示もまた急激に数を減らしていった。


「……この先は、ようやく僕らが純粋に楽しめる展示かな。ゲーム内では、こんなことが起こってたんだね」

「他の皆さんも、いろいろ企画して頑張ってますねー。盛り上がってますねー」

「ある意味、ハル一強で押さえつけられていた枷が外れたようなものですものね?」

「とはいえまだまだ、ハル君の影響は強いけどねー」

「ありがたいことだね」


 その後のハルたちは、どんどん神々の事情の深いところに、この世界の真実とも言えるところへと深入りしていく。

 それはこの展示にはもう記されない事実。言うなれば歴史に記されない真実。

 ハルと神々だけが知る、世界の裏側だ。


「ちーっとばっかし、残念だねぇ。こっからが、派手でおもろくなんのに」

「ですねー。戦略級の攻撃が飛び交う宇宙規模の戦い。絵になりますねー」

「おやめなさいな……」

「だね。ゲームバランスと世界感が大変だ」

「ぶっこわれ、なのです!」


 そして今後も、他のプレイヤーに知られることなく、ハルたちの活動は続いていくだろう。

 それこそ二周年、三周年と、そして仮にこのゲームが終了しても。


 そんな新たなる一年の訪れを思い、ハルたちはミュージアムを後にする。

 ここ以外にも一周年はイベントが目白押しだ。過去を振り返る時間は終わり、ハルたちは未来に目を向けて、歩みを進めて行くのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2025/4/30)

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